そんなに妹がお好きなら結婚したらどうですか? ほか短編・中編ファンタジー系まとめてみたよ短編集

天田れおぽん

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【短編 三千文字ちょっとくらい】魔法の花は婚約破棄と共に新しく咲き乱れる

後編

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 夏の思わせる日差しと曇り空が日ごとに入れ代わり立ち代わりやってくる頃。

 アーシャのもとに残酷な知らせが嵐のようにやってきた。

 突然開かれた自室のドアと共に、婚約者が叫ぶようにして言う。

「オレは真実の愛に目覚めた! 婚約を破棄してくれ」

「なんですって? もうすぐ結婚式なのに?」

 アーシャは目を白黒させて言った。

 婚約者は、赤い髪に赤い瞳を持つ直情的な男性だ。

 長い付き合いのなかで彼の突飛な行動には慣れているつもりのアーシャであったが、今回のものはけた違いだった。

「ああ、そうだ。キミとは結婚しないっ」

「何を言っているの? もう結婚式の準備は進んでいるのよ? ウエディングドレスだって出来上がっているわ」

 式の日取りも決まり、準備は着々と進んでいる。

 恋の花は相変わらず茎と葉に妙な模様があったが、花は綺麗に咲いていた。

 だからアーシャは、このまま結婚するのだと思っていたのだが、婚約者の思いは違っていたようだ。

「分かってる。だから、キミの方から婚約を破棄してくれ。かかった費用はコチラで持つし、もちろん慰謝料も払う」

「そんなこと私には出来ないわ」

「分かった。では、キミの父上に相談するよ」

 突然アーシャの部屋に飛び込んできた婚約者は、来た時と同じように嵐のように去っていった。


 ♡♡♡

 アーシャの婚約は破棄された。

 先方の都合によるアーシャ側からの婚約破棄であり、彼女には何の非もない。

 だからといってアーシャの心が傷付かないはずもなく、彼女は荒れた。

 庭に咲き乱れていた恋の花は、みるみるうちに枯れていく。

 その見るも無残な状況は、彼女の心をよりかき乱した。

 今にも雨粒が落ちてきそうな曇天のもと、アーシャは泣きながら枯れた花を引きちぎるようにして抜いた。

 何本もある恋の花の中には、枯れていないものもあった。

 それがよりアーシャの悲しみを深くする。

「お手伝いしましょうか?」

 ルナルディはアーシャの側に寄り添うようにかがんだ。

 彼は知っていた。

 恋の花には相手の心変わりによって茎と葉に独特の紋様が表れることを。

 だから、いずれアーシャの恋は終わりを告げ、彼にチャンスがやってくると知っていた。

 しかし彼にとってのチャンスは、彼女の涙と共にやってきた。

 そのことが、思っていた以上にルナルディの心には痛かった。

 ルナルディは恋の花を根元から引っこ抜きながら、彼女が二度と悲しむことのないように、しっかりとアーシャの心を手に入れたいと願った。

 ♡♡♡

 曇天から雨の雫が滴り落ち始め、アーシャはルナルディの手によって家の中へと戻された。

 その際、家人とルナルディとの間に思惑ありげな視線がやりとりされたことなど、泣きぬれているアーシャは気付かなかった。

 気付けばアーシャは侍女たちの手により湯船に浸けられていた。

 泣いても、泣いても、涙は湧いては落ちてくる。

 ここは湯船の中なのだ。

 泣いたところで支障はない。

 アーシャは思い切り泣いた。

 泣いて泣いて、泣き疲れても涙は流れる。

 アーシャは泣きながら湯船から上がった。
 
 そして、ふと気づく。

 湯船に恋の花の小さな芽が浮かんでいることに。

 体に種が付いていて、温かな湯の中で芽を出したのだろうか。

 殻から芽をのばしているだけの小さな存在が、湯船の中で酷く目立つ。

 彼女はそれを湯からすくって潰して捨ててしまおうかと思った。

 しかし、実際にはそうしなかった。

 湯船に浮いた小さな芽をそっとすくい上げて、近くにあった桶のなかに入れたのだ。

 どうしてそうしたのか、彼女にも分からない。

 その様子を見ていた侍女は、それをそっと浴室から下げると庭に植えるよう庭師へ依頼した。

 
 ♡♡♡

 そして月日は流れ、十年の時が経った。

 婚約破棄騒ぎで実家を追われたアーシャの元婚約者は、魔力量が下がって戦闘中に負傷し、二度と戦えない体になり魔法騎士の地位も失った。

 職も失った彼の前から愛する女は去って真実の愛は散ったと伝え聞いたアーシャだったが、その後の婚約者がどうなったのかについては知らない。

 今となっては全ては過去のことだ。

 あの後、アーシャはルナルディと結婚した。

 アーシャが知らない間に婚約は整っていて、あれよあれよという間の結婚だった。

 彼女は戸惑ったものの、庭先に咲き乱れる恋の花を見てしまったら断る理由もなかった。

 アーシャはいつの間にかルナルディと恋に落ちていたのだ。

 宮廷魔法士であり伯爵でもあるルナルディは結婚相手として申し分のない相手だった。

 身分も釣り合いがとれていたし、収入も十分にあり、なにより見た目が良い。

 輝く銀髪の美丈夫の隣で赤く頬を染めるアーシャは幸せそうに見えた。

 やがてルナルディは宮廷魔術師の長となり、男の子と女の子、ふたりの子供の親にもなった。

 アーシャのお腹にはもうひとり子供がいる。

 二人の仲は良好で、子供たちは健康で、家族はみな仲が良い。

 申し分のない幸せな家庭を築いたアーシャとルナルディが住む屋敷の庭には、今日も赤青黄色と彩りも華やかに恋の花が咲き誇っていた。



 ~おわり~
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感想 5

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みんなの感想(5件)

k
2024.08.01 k

「魔法の花は」の感想
知る人ぞ知る、愛情が丸わかりな魔法の花。
面白い設定の話なので、この設定でもっと長い作品を読んでみたいです!

2024.08.02 天田れおぽん

気に入っていただけたようで嬉しいです。

感想ありがとうございます。m(_ _)m 

解除
k
2024.08.01 k

「私が死んだ後のざまぁ」の感想
エレノアはなかなか強かに、ちょっとずつ婚家の商会の衰退を狙ってたのが、面白かったです。

ざまぁ回から一挙にスッキリし出したけど、使用人へのざまぁ要素はちょっと足りないと思いました。
最終話の長セリフは怨みがこもってましたねー

段々長い物語になっていくにつれて、それに伴い段々重い話になっていきますね!

2024.08.02 天田れおぽん

感想ありがとうございます。m(_ _)m 

解除
k
2024.08.01 k

一万字もないけど、読み応えのある作品ばかりですね!
しっかり筋道も立っていて、読みやすいです。


2024.08.02 天田れおぽん

感想ありがとうございます。m(_ _)m 

解除

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