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キーワードは『ひなまつり』
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揺れるリンゴの実が美味しそうだったから、アーデルハイドは木に登った。
アーデルハイドは七歳。
金色の長い髪に青い瞳で整った顔をしている。
女性のような顔をしているし、実際に女性なのだが、着ているのは乗馬服だ。
その時点で変わっているのは察しがつくが、侯爵令嬢であるにも関わらず、サルのようにスルスルと木に登る姿が手慣れていすぎていてツッコミが追い付かない。
お付きの者の手をかいくぐって木に登ったアーデルハイドは得意気に鼻を膨らませ、意気揚々と赤い実へと手を伸ばす。
と、その時。
「何をしているのですかっ、アーデルハイドさま!」
侯爵令嬢であるアーデルハイド付きの教育係であるミス・ローハイドが甲高い声を上げた。
「お?」
アーデルハイドの体がグラリと揺れた。
「危ないっ! アーデルハイドさまっ!」
アーデルハイドはミス・ローハイドの声を聞きながら、アンタが叫んで驚かすから悪いのでは? と思いながら地面目指して落ちていった。
そして頭を強かに打ち付けて気を失った。
☆☆☆
『おー、キッチリ三月三日だね。やっほー、アーデルハイド。約束通り来たよー』
トリの降臨である。
「えっと……アンタ誰?」
アーデルハイドは目をすがめて聞いた。
『見ての通り、トリさんだよ。リクエスト通り、賢く見えるフクロウの姿を採用しました』
「……何のことか分からない」
アーデルハイドは戸惑った。
頭を打ったのは覚えている。
夢でも見ているのだろう、とアーデルハイドは思った。
だがトリはノンノンとでも言うように、差し出した翼を左右に振った。
『いやだなー、前世からの約束でしょ? 三月三日ひなまつりの日に会おうって』
「覚えがない。そもそも、ひなまつりってなんだ? 三月三日は普通の日で何もないはずだが……」
アーデルハイドは鼻の頭にシワを寄せてブスッとした表情を浮かべた。
『おかしいなぁ? ワシはアレだ、神だ』
「トリで、フクロウで、ワシで、アレで……神?」
アーデルハイドのシワが更に深くなる。
『あーなんか微妙―な再会。でもいいか。時間もないし。用件をチャッチャッと済ませるよ。死ぬ予定じゃなかったのに、死なせちゃったお詫びにスキルあげるね』
「お、急に不穏なワードが。でもスキルは欲しい」
『さすが七歳。欲望に忠実~』
トリはシャラランランと光を放ち、アーデルハイドへと振りかけた。
『コレでスキルが使えるはずだよ☆ じゃあねー』
「え? 何のスキルくれたの?」
アーデルハイドの問いかけに答えることなくトリは消えた。
☆☆☆
「……アーデルハイドさまっ! アーデルハイドさまっ!」
「ん……」
「ああ、よかった。目を覚ましましたね、アーデルハイドさま」
アーデルハイドが目を覚ますと、目の前いっぱいにミス・ローハイドの顔面が広がっていた。
怖い。
「わたくし、旦那さまを呼んでまいりますね。ああ、よかった」
ミス・ローハイドは出ていった。
辺りを見まわすと、どうやら自室のベッドにいるらしい。
「なんだったんだ、あのトリ」
意味の分からない夢を見ていたようだ。
「夢ならよかった。死ぬ予定じゃなかったのに、死んじゃった過去はなかったわけだから……」
アーデルハイドは右手に違和感を感じて手のひらを見た。
そこにはキラキラ輝く星が刻まれていて、その上に取りそびれたのとよく似たリンゴの実が浮かび上がっていた。
アーデルハイドは七歳。
金色の長い髪に青い瞳で整った顔をしている。
女性のような顔をしているし、実際に女性なのだが、着ているのは乗馬服だ。
その時点で変わっているのは察しがつくが、侯爵令嬢であるにも関わらず、サルのようにスルスルと木に登る姿が手慣れていすぎていてツッコミが追い付かない。
お付きの者の手をかいくぐって木に登ったアーデルハイドは得意気に鼻を膨らませ、意気揚々と赤い実へと手を伸ばす。
と、その時。
「何をしているのですかっ、アーデルハイドさま!」
侯爵令嬢であるアーデルハイド付きの教育係であるミス・ローハイドが甲高い声を上げた。
「お?」
アーデルハイドの体がグラリと揺れた。
「危ないっ! アーデルハイドさまっ!」
アーデルハイドはミス・ローハイドの声を聞きながら、アンタが叫んで驚かすから悪いのでは? と思いながら地面目指して落ちていった。
そして頭を強かに打ち付けて気を失った。
☆☆☆
『おー、キッチリ三月三日だね。やっほー、アーデルハイド。約束通り来たよー』
トリの降臨である。
「えっと……アンタ誰?」
アーデルハイドは目をすがめて聞いた。
『見ての通り、トリさんだよ。リクエスト通り、賢く見えるフクロウの姿を採用しました』
「……何のことか分からない」
アーデルハイドは戸惑った。
頭を打ったのは覚えている。
夢でも見ているのだろう、とアーデルハイドは思った。
だがトリはノンノンとでも言うように、差し出した翼を左右に振った。
『いやだなー、前世からの約束でしょ? 三月三日ひなまつりの日に会おうって』
「覚えがない。そもそも、ひなまつりってなんだ? 三月三日は普通の日で何もないはずだが……」
アーデルハイドは鼻の頭にシワを寄せてブスッとした表情を浮かべた。
『おかしいなぁ? ワシはアレだ、神だ』
「トリで、フクロウで、ワシで、アレで……神?」
アーデルハイドのシワが更に深くなる。
『あーなんか微妙―な再会。でもいいか。時間もないし。用件をチャッチャッと済ませるよ。死ぬ予定じゃなかったのに、死なせちゃったお詫びにスキルあげるね』
「お、急に不穏なワードが。でもスキルは欲しい」
『さすが七歳。欲望に忠実~』
トリはシャラランランと光を放ち、アーデルハイドへと振りかけた。
『コレでスキルが使えるはずだよ☆ じゃあねー』
「え? 何のスキルくれたの?」
アーデルハイドの問いかけに答えることなくトリは消えた。
☆☆☆
「……アーデルハイドさまっ! アーデルハイドさまっ!」
「ん……」
「ああ、よかった。目を覚ましましたね、アーデルハイドさま」
アーデルハイドが目を覚ますと、目の前いっぱいにミス・ローハイドの顔面が広がっていた。
怖い。
「わたくし、旦那さまを呼んでまいりますね。ああ、よかった」
ミス・ローハイドは出ていった。
辺りを見まわすと、どうやら自室のベッドにいるらしい。
「なんだったんだ、あのトリ」
意味の分からない夢を見ていたようだ。
「夢ならよかった。死ぬ予定じゃなかったのに、死んじゃった過去はなかったわけだから……」
アーデルハイドは右手に違和感を感じて手のひらを見た。
そこにはキラキラ輝く星が刻まれていて、その上に取りそびれたのとよく似たリンゴの実が浮かび上がっていた。
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