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戦う勇者さま
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「レイ、ついてきて!」
「あいっ」
元気に返事をするレイを引き連れて、オレは走る。
魔族どもは、矢や剣での攻撃を加えるだけでなく炎は放つし、氷柱をあっちこっちに突き刺すし、やりたい放題だ。
飛んできた矢を防護魔法で食い止めて落とし、剣をはじき返して進む。
すれ違う人々の上に防御のための魔法陣を細かく投げかけていくが、人数が多すぎて手が回らない。
それは誘導のために駆り出された神殿の人たちも同じようで、必死になって防護しているが次から次へとケガ人が出て避難もままならないようだ。
『ルドガーさま、どこを目指してらっしゃるのですか?』
なるべく神殿から離れた場所。
魔族たちの戦力を散らす作戦だ。
『囮になるのですね。分かりましたが……効果は薄いようです』
またAIに心を読まれたようだ。
しかも、効果が薄いことにも気付かれてしまった。
目立つよう派手に暴れながら移動しているが、こちらの作戦に気付いているのだろうか?
いや、違う。
あの女魔族はエネルギーを求めていた。
この国のエネルギーといえば魔力だ。
オレは魔力量が多いが、神殿に蓄えられている聖力のほうが遥かに多い。
聖女や神官を通すことで魔力は聖力となる。
聖力は個人の体にも蓄えられているが、主たる先は神殿だ。
神殿内のしかるべき場所に、多くの聖女や神官から集めた聖力を蓄えている。
それに気付かれたのか?
空を見上げれば、黒い点々は神殿に向かって飛んでいく。
ダメだ。
あの数が神殿に集まるのなら、オレが囮になったところで意味がない。
「行き先変更だ!」
「あいっ!」
オレは目的地を神殿に変えて駆け出した。
◇◇◇
神殿の周囲はすでに真っ黒だった。
無数に飛来する魔族たちのせいで辺りは暗い。
「あっ、レイちゃんっ」
見知った金色の頭がこちらに駆けてくる。
「そちらに行ってはダメですっ」
爺やさんが慌てているが、すばしっこい七歳児は人込みをすり抜けながらやってきた。
「カイル。あぶないよ?」
レイが話しかけると息を切らせながら王子は言う。
「か弱い君に戦わせて、私が隠れているなどありえないからね」
いや、大人しく隠れてくれていたほうがいいが?
そもそも、レイはか弱くない。
鉄アレイやバーベルをお手玉にしていたのを見ただろう?
恋する男の目は節穴だな。
「王子っ! 隠れてないとダメですよ!」
息を切らしながら追いついた爺やさんが、珍しくマジモードで怒っている。
そりゃそうだ。
未来の国王に何かあったら問題だ。
「レイちゃんが戦っているときに隠れているなど、そんな卑怯な真似は出来ないよ」
いや、そこ。キラキラ王子モードで言うとこじゃないから。
ココは勇者に任せて大人しく隠れていてよ、王子さま。
『ああ、防御シールドにヒビが入りかけています。危険です』
セツの言葉に振り返れば、青白く光る魔法陣のアチコチにヒビが入り始めていた。
これはヤバい。
「下がっていてください、王子!」
爺やさんが本気モードで王子をグイッと自分の後ろに隠した。
そして魔法陣を展開する。
随分と大きい魔法陣だ。
「先の戦いで使われたという伝説の戦闘用魔法陣です」
魔法陣の青白い光を受けた爺やさんのグレーの瞳が輝く。
細身ながらスラリと背の高い爺やさんはオレよりも身長が高い。
190センチほどあるだろうか。
全盛期の頃の強さを感じさせるキリリとした表情を浮かべた爺やさんの、ロマンスグレーの短髪が風になびく。
「いきますっ」
魔法陣を攻撃対象に向けて放つ瞬間。
ウッ、という呻きと共に爺やさんが倒れた。
「爺やっ!」
縋りつく王子。
「爺やさんっ! どうしたんですかっ!」
オレも思わず叫ぶ。
ウウッと呻きながら爺やさんが言う。
「腰が……腰が……いきました……」
大きな魔法陣を展開して、思いのほか負担がかかったのであろう。
爺やさんは無念のぎっくり腰リタイアとなった。
「大丈夫ですよ、爺やさん。後はオレに任せてください」
オレは爺やさんから魔法陣を引き継いだ。
後は魔力を注入するだけだ。
このくらい、オレならどうということはない。
オレは受け取った魔法陣に魔力を注入しつつ、防御シールドの外に向けた。
青白く光りながら細かくひび割れていく防御シールドの向こうには、にやにやと笑う魔族の顔が無数に並んでいる。
羽が生えたのもいれば、生えていないのもいるし、細いのもいれば筋肉を固めて作ったみたいなヤツもいた。
だからなんだってんだ。
防御シールドの隙間から伸びてくる無数の何かに向かって、オレは攻撃を放った。
「レイちゃんも、やるっ」
レイがオレの横でいきなり石を投げ始めた。
かなりのスピードで飛んでいくので、魔族たちのダメージもそれなりにデカい。
当たった魔族の方は、それが石だったとは思う間もなく飛び散っていく。
「ん、めんどう」
レイは踏ん張っているような表情になり、光出した。
どんどんデカくなっていって、マックスくらいのサイズになった。
九メートルくらいになれば、幼児体型でもそれなりに迫力がある。
「わるいこ。ぺいっ」
レイは飛来してくる魔族を叩き落し始めた。
九メートルもあれば、二メートルあるかないかの魔族なんて簡単に手のひらで叩き落せる。
幼児の丸めのお手々で叩き落される魔族の屈辱感はどれほどのものであろうか。
なんて察している間が勿体ないので、知ったことではない。
いいぞ、レイ。もっとやれ。
そう思っていたオレの目の前で、レイが近くにあった建物を地面から引っこ抜いて振り回し始めた。
ちょっとそれはどうかと思うなぁ、お兄さんは。
後で修復できるとはいえ、その建物の持ち主が見ていたら悲しむと思うぞ?
血まみれで落ちていく魔族はどうでもいいが、建物の持ち主がなぁ……。
「おいっ、レイ」
オレはレイに呼び掛けた。
「その建物は置いて、こっちを使え」
そう言いながらオレはレイに向かって炎の玉を放った。
「あいっ」
レイは建物を置くと、体に比べると小さい手で炎の玉をバシンと打った。
飛ばされた炎の玉は、魔族たちを襲う。
うわー、とか、ひょえー、とか何とか悲鳴上げてるが知らん。
最初に襲ってきた魔族が悪いと思いまーす。
でも火傷したら冷やさないとね、と思ったオレは氷の玉をレイに向かって打ち上げた。
「ぺいっ」
レイが気合を入れて叩いた氷の玉は砕けながら高速で魔族たちの上に降り注ぐ。
氷も刺さると痛いんだよねぇ、と目の前の魔族たちを見ながら呑気に思うオレ。
次は氷にするか、炎にするか。水でもいいけど威力が弱くなっちゃうかなぁ。
などと考えていたオレの耳に、アニカの声が聞こえた。
「防護シールドは任せて!」
叫ぶが早いか防護用の魔法陣が素早く立ちあがっていく。
さすがアニカ。やる事が早い。
「私も一緒に戦うっ」
「いや、アニカ。お前は皆を守ってくれ。戦うのはオレだ」
アニカを振り返ってカッコよく決めるオレ。
「レイちゃんもたたかうっ」
高い場所から声が降ってくる。
「そうだな」
オレは笑って答えた。
「でも……」
言いよどむアニカ。
不安げに揺れる瞳に映っているのは、シールドの外に押し寄せる魔族だ。
確かに危ないよな。
結果はどうなるか分からないけど、ここはオレにカッコつけさせてくれよ。
「大丈夫。オレは勇者なんだから」
少しでもアニカを安心させるために笑顔を作る。
働け表情筋。
今だけで構わないから。
「ルドは……いつもカッコいいね」
アニカの言葉に、オレの頬が緩む。
「オレたちが外に出たら、防御シールドを張りなおしてくれ」
「分かった。気を付けてね」
ありがとう。
その一言が百人力だ。
オレ、頑張るよぉ~。
「あいっ」
元気に返事をするレイを引き連れて、オレは走る。
魔族どもは、矢や剣での攻撃を加えるだけでなく炎は放つし、氷柱をあっちこっちに突き刺すし、やりたい放題だ。
飛んできた矢を防護魔法で食い止めて落とし、剣をはじき返して進む。
すれ違う人々の上に防御のための魔法陣を細かく投げかけていくが、人数が多すぎて手が回らない。
それは誘導のために駆り出された神殿の人たちも同じようで、必死になって防護しているが次から次へとケガ人が出て避難もままならないようだ。
『ルドガーさま、どこを目指してらっしゃるのですか?』
なるべく神殿から離れた場所。
魔族たちの戦力を散らす作戦だ。
『囮になるのですね。分かりましたが……効果は薄いようです』
またAIに心を読まれたようだ。
しかも、効果が薄いことにも気付かれてしまった。
目立つよう派手に暴れながら移動しているが、こちらの作戦に気付いているのだろうか?
いや、違う。
あの女魔族はエネルギーを求めていた。
この国のエネルギーといえば魔力だ。
オレは魔力量が多いが、神殿に蓄えられている聖力のほうが遥かに多い。
聖女や神官を通すことで魔力は聖力となる。
聖力は個人の体にも蓄えられているが、主たる先は神殿だ。
神殿内のしかるべき場所に、多くの聖女や神官から集めた聖力を蓄えている。
それに気付かれたのか?
空を見上げれば、黒い点々は神殿に向かって飛んでいく。
ダメだ。
あの数が神殿に集まるのなら、オレが囮になったところで意味がない。
「行き先変更だ!」
「あいっ!」
オレは目的地を神殿に変えて駆け出した。
◇◇◇
神殿の周囲はすでに真っ黒だった。
無数に飛来する魔族たちのせいで辺りは暗い。
「あっ、レイちゃんっ」
見知った金色の頭がこちらに駆けてくる。
「そちらに行ってはダメですっ」
爺やさんが慌てているが、すばしっこい七歳児は人込みをすり抜けながらやってきた。
「カイル。あぶないよ?」
レイが話しかけると息を切らせながら王子は言う。
「か弱い君に戦わせて、私が隠れているなどありえないからね」
いや、大人しく隠れてくれていたほうがいいが?
そもそも、レイはか弱くない。
鉄アレイやバーベルをお手玉にしていたのを見ただろう?
恋する男の目は節穴だな。
「王子っ! 隠れてないとダメですよ!」
息を切らしながら追いついた爺やさんが、珍しくマジモードで怒っている。
そりゃそうだ。
未来の国王に何かあったら問題だ。
「レイちゃんが戦っているときに隠れているなど、そんな卑怯な真似は出来ないよ」
いや、そこ。キラキラ王子モードで言うとこじゃないから。
ココは勇者に任せて大人しく隠れていてよ、王子さま。
『ああ、防御シールドにヒビが入りかけています。危険です』
セツの言葉に振り返れば、青白く光る魔法陣のアチコチにヒビが入り始めていた。
これはヤバい。
「下がっていてください、王子!」
爺やさんが本気モードで王子をグイッと自分の後ろに隠した。
そして魔法陣を展開する。
随分と大きい魔法陣だ。
「先の戦いで使われたという伝説の戦闘用魔法陣です」
魔法陣の青白い光を受けた爺やさんのグレーの瞳が輝く。
細身ながらスラリと背の高い爺やさんはオレよりも身長が高い。
190センチほどあるだろうか。
全盛期の頃の強さを感じさせるキリリとした表情を浮かべた爺やさんの、ロマンスグレーの短髪が風になびく。
「いきますっ」
魔法陣を攻撃対象に向けて放つ瞬間。
ウッ、という呻きと共に爺やさんが倒れた。
「爺やっ!」
縋りつく王子。
「爺やさんっ! どうしたんですかっ!」
オレも思わず叫ぶ。
ウウッと呻きながら爺やさんが言う。
「腰が……腰が……いきました……」
大きな魔法陣を展開して、思いのほか負担がかかったのであろう。
爺やさんは無念のぎっくり腰リタイアとなった。
「大丈夫ですよ、爺やさん。後はオレに任せてください」
オレは爺やさんから魔法陣を引き継いだ。
後は魔力を注入するだけだ。
このくらい、オレならどうということはない。
オレは受け取った魔法陣に魔力を注入しつつ、防御シールドの外に向けた。
青白く光りながら細かくひび割れていく防御シールドの向こうには、にやにやと笑う魔族の顔が無数に並んでいる。
羽が生えたのもいれば、生えていないのもいるし、細いのもいれば筋肉を固めて作ったみたいなヤツもいた。
だからなんだってんだ。
防御シールドの隙間から伸びてくる無数の何かに向かって、オレは攻撃を放った。
「レイちゃんも、やるっ」
レイがオレの横でいきなり石を投げ始めた。
かなりのスピードで飛んでいくので、魔族たちのダメージもそれなりにデカい。
当たった魔族の方は、それが石だったとは思う間もなく飛び散っていく。
「ん、めんどう」
レイは踏ん張っているような表情になり、光出した。
どんどんデカくなっていって、マックスくらいのサイズになった。
九メートルくらいになれば、幼児体型でもそれなりに迫力がある。
「わるいこ。ぺいっ」
レイは飛来してくる魔族を叩き落し始めた。
九メートルもあれば、二メートルあるかないかの魔族なんて簡単に手のひらで叩き落せる。
幼児の丸めのお手々で叩き落される魔族の屈辱感はどれほどのものであろうか。
なんて察している間が勿体ないので、知ったことではない。
いいぞ、レイ。もっとやれ。
そう思っていたオレの目の前で、レイが近くにあった建物を地面から引っこ抜いて振り回し始めた。
ちょっとそれはどうかと思うなぁ、お兄さんは。
後で修復できるとはいえ、その建物の持ち主が見ていたら悲しむと思うぞ?
血まみれで落ちていく魔族はどうでもいいが、建物の持ち主がなぁ……。
「おいっ、レイ」
オレはレイに呼び掛けた。
「その建物は置いて、こっちを使え」
そう言いながらオレはレイに向かって炎の玉を放った。
「あいっ」
レイは建物を置くと、体に比べると小さい手で炎の玉をバシンと打った。
飛ばされた炎の玉は、魔族たちを襲う。
うわー、とか、ひょえー、とか何とか悲鳴上げてるが知らん。
最初に襲ってきた魔族が悪いと思いまーす。
でも火傷したら冷やさないとね、と思ったオレは氷の玉をレイに向かって打ち上げた。
「ぺいっ」
レイが気合を入れて叩いた氷の玉は砕けながら高速で魔族たちの上に降り注ぐ。
氷も刺さると痛いんだよねぇ、と目の前の魔族たちを見ながら呑気に思うオレ。
次は氷にするか、炎にするか。水でもいいけど威力が弱くなっちゃうかなぁ。
などと考えていたオレの耳に、アニカの声が聞こえた。
「防護シールドは任せて!」
叫ぶが早いか防護用の魔法陣が素早く立ちあがっていく。
さすがアニカ。やる事が早い。
「私も一緒に戦うっ」
「いや、アニカ。お前は皆を守ってくれ。戦うのはオレだ」
アニカを振り返ってカッコよく決めるオレ。
「レイちゃんもたたかうっ」
高い場所から声が降ってくる。
「そうだな」
オレは笑って答えた。
「でも……」
言いよどむアニカ。
不安げに揺れる瞳に映っているのは、シールドの外に押し寄せる魔族だ。
確かに危ないよな。
結果はどうなるか分からないけど、ここはオレにカッコつけさせてくれよ。
「大丈夫。オレは勇者なんだから」
少しでもアニカを安心させるために笑顔を作る。
働け表情筋。
今だけで構わないから。
「ルドは……いつもカッコいいね」
アニカの言葉に、オレの頬が緩む。
「オレたちが外に出たら、防御シールドを張りなおしてくれ」
「分かった。気を付けてね」
ありがとう。
その一言が百人力だ。
オレ、頑張るよぉ~。
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