「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber

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サプライズ

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 結論から言うと風邪は丸一日で治った。あれだけ酷かった寒気も一晩眠ったら完治した。

 さっそく、放置していた店内の窓を拭いたり、ポーションのストックを増やすべく薬草貯蔵庫の残量を確認していると、リゼが話しかけてきた。

「奥様、少々お時間いただけないでしょうか?」

「はい……?」

 リゼは「ついてきてください」と言って、優しくレージュの手を引いた。店の調合室にある鏡の前に立ち、手をかざす。

 すると、細長い鏡の表面が、ゆらりと波打ち虹色の渦を巻き始めた。

「目的地と繋がりましたので、中に入りましょう」

「え、鏡の中に入るのでしょうか?」

「もちろん」

 驚くレージュをリゼは「大丈夫ですから」と声をかけて安心させようとする。
 覚悟を決めて、鏡の表面に手を触れると、吸い込まれるように全身が鏡の向こうへ溶け込んでいった。

 まるで蟻地獄みたい。

 ほんの少しだけ「怖い」と本能的に感じとったが、いざ鏡の向こう側を見てみると「怖い」だなんて気持ちは綺麗さっぱり無くなってしまった。

 鏡の向こう側に広がっていたのは、巨大なエントランスであった。キラキラとしたシャンデリアで赤いカーペットが敷かれた丸い階段。正面の扉をくぐった先には、ダンスホールがある。

「綺麗なお城ですね」

 大きな軍事国家であるヴァルニアの城と比べると、広さや華やかさは劣るが、壁に彩られた細かい装飾品の数々を見れば、この城が何世紀も大切に使われてきたことが分かる。

 少し前にダーレンが「城を買う」と宣言していたが、まさか有言実行するとは……。

「気に入ったか?」

 ダンスホールの方からこちらへ歩み寄ってきたのはダーレンであった。

 自慢げな笑みを浮かべたダーレンはレージュの手を引いて、二階へ登る階段へ向かう。

「とても気に入りました。ヴァルニア城の何倍も素敵です」

「さすがにヴァルニア城には広さで劣るだろう?」

「いえ、ダーレン様。住居において大切なのは広さだけではありませんよ。私は他国から奪った財で建てたヴァルニア城よりダーレン様が買ってくださったお城のほうが何百倍も大好きですから」

 廊下を歩きながら窓の外を見ると、山並みがどこまでも広がっていた。どうやら、この城は山の上にあるらしい。

 城を買った目的はアンデッドの軍団を送ってきた犯人から身を守るためだとダーレンが言っていたので、わざと人里離れた場所にある古城を選んだのかもしれない。

 二階にある扉を開くと、いったん城の外に出た。目の前には石橋が伸びていて、隣の建物へ繋がっている。
 石橋の先にあったのは小さな塔であった。ヴァルニア城にある聖女の塔は巨大で煌びやかな装飾品に溢れていたが、こちらは上品で落ち着いた雰囲気だ。

 扉を開き中に入る。
 すると――。

「まぁ、素敵!」

 医学書が詰まった本棚に、天秤やすり鉢が重なった机、見上げれば天井に向かってどこまでも薬草が詰まった瓶が並んでいた。
 奥にあった扉を開き、隣の部屋を確認する。
 扉の向こう側にあったのは、薬草農園であった。ガラス張りの天井から暖かい太陽の光が差し込んで薬草たちを照らしている。

「この城は知り合いの魔族から譲り受けたもので、前の持ち主は重度の薬草マニアだったらしい。それなりに広い調合室があったから、改装してレージュに研究室として使ってもらうことにしたんだ」

「ありがとうございます。これからは今までよりもポーション開発に集中できそうですね」

 これからもっとお店を大きくできる。
 もっと沢山の人を幸せにできると思うと、胸が高鳴った。 
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