「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber

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お迎えに上がりました

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「私たちは国境を跨いで旅をする楽団ですが、仲間の一人がザクロ病に」

「新薬を開発してくださったと聞きました。どうか母を……」

「息子がザクロ病になって……この子は来月、宮廷魔術師の登用試験を受けるんです」

「お助けください、聖女様!」

 お店を開く度にザクロ病に苦しむ患者はに増えていった。最近はヴァルニア帝国を飛び出して隣国にまで感染が広がっている。

 そのぶん、保管庫にあるポーションのストックを増やし続けなればならず、さらにほかの症状に苦しんでいる患者のためにザクロ病以外のポーションも作らねばならない。

 レージュの魔力はもともと無尽蔵なうえに、新薬開発によって大量生産を実現したことによって体力的な負担は少ないが、精神的にはどんどん疲労が蓄積していった。

 最近はレージュのことをテレーズ王国の聖女と呼ぶ人々も現れるようになった。

 聖女だなんて重い肩書き。もうレージュには背負う資格はないというのに。

 午前中の閉店時間が近づきラストオーダーを終えると、レージュは入口の看板を「OPEN」から「CLOSE」に変えて一息つくことにした。

 リフレッシュのためにハーブティーでもいただきましょうか。

 ローズマリーが良いかな?
 ハイビスカスやマテ茶も良いかも。

 ぼんやりとハーブティについて考えながら販売スペースから出ようとすると、入口の方から女性の声が響いてきた。

「ごきげんよう。聖女様」

 くるりと入口の方を見ると、艶やかなブロンドを靡かせた女性が立っていた。

「こんにちは。あの、お店はもう閉めちゃ……」

「あらまぁ、噂には聞いていたけど凄い魔力量ね。この距離からでも強い魔力が感じられるわ。しかも、追放身分からまた聖女として名を轟かせる実力。ふふっ、バフォメットのやつが気に入るわけね」

 レージュのことを無視して喋り続ける獣人。全く話を聞いてくれない。

「えっと……耳が聞こえないのでしょうか?」

「耳なら聞こえているわよ。使い捨ての聖女様」

 鋭い目つきでニヤニヤと笑う女性。瞳の奥には怪しげな光が渦巻いている。

「どなたか分かりませんが、ちゃんとお話ができない方には強硬手段を使いますよ」

 手を構えて呪文を唱えようとすると、獣人の背後から黒い霧のようなものが現れた。深い霧はどんどん広がり、レージュの方へ手を伸ばす。

 主人の危機を察知したらしいマシュが獣人に襲いかかったが、時は既に遅くレージュの全身は黒い霧に包まれてしまった。

 なによこれ。全身の感覚がどんどん奪われていく。

 部屋の中に充満した熱気が感じられなくなって、だんだん手足に力が入らなくなる。指先が震えて、視界も真っ暗に。

「お願い……助けて……」

「すぐに人を信じるのはやめさないね。誰に対しても常に警戒しておかないと」

「あなたは……?」

「私はリリア。貴方の義妹に頼まれて、お迎えにあがったわ」

 この女がリリア?

 か細い助けを求める声は誰にも届かず、レージュは意識を手放した。

***

 カチッ、カチッ、カチッ。

 等間隔で秒針が刻まれる音が響く。
 レージュが目を開けるとフワフワとした白色の天蓋が広がっていた。
 体を起こす。

 パチパチと真希が弾ける音がする暖炉、白色の猫足ソファー。壁にはバラの絵。金色のドレッサーには、同じく金色に輝く燭台と、化粧箱が置かれている。

 知らない場所だ。
 置かれている家具から部屋の主が相当金持ちであることが伺える。

 ここはどこであろう?
 目覚める前になにが起こったのか、記憶を掘り起こそうとしたが、頭がぼんやりして上手く思い出せない。

 ひとまず家に帰ろう。
 背伸びをしてベッドから降りると、体が痛かった。どうやら、ずっと眠っていたらしい。

 なんだか、いつもより歩きにくいな。
 足元を見下ろせば、見覚えのない黒色のスカートがユラユラと揺れていた。
 ドレッサーで自身の姿を見て驚愕する。見るからに高そうな、ゴシックドレスに着替えさせられているではないか。

 金色のドアノブに触れようとすると、ガチャリとひとりでに扉が開いた。

 扉の向こう側から現れたのは黒色の外套をまとった金髪の男性だ。

 長い黄金色の髪をひとまとまりにしていて、肌は血色がないほどの白色。背丈はかなり高く、見上げなければ顔が見えなかった。男はサファイア色の瞳を細めて、ニヤリと笑った。

「こんにちは、レージュ嬢」

「どちらさまでしょうか?」

「私の名はバフォメット。魔王の座につく者です」

「まぁ、ダーレン様のお兄様ですね」

 ダーレンの名を聞い瞬間、バフォメットは不快そうに眉間にシワを寄せた。

「そうですね。貴方のツガイであるダーレンの兄です」

「はじめまして、バフォメットさん。ここがどこなのか存じませんが、飼い猫のマシュちゃんに餌をあげないと、いけないので帰ってもよろしいでしょうか?」

「……どうして貴方は、そんなに落ち着いているのでしょうか?」

「え、敵さんに囲まれているわけでもないのに慌てる必要がありますか?」

「誘拐されているんですよ……」
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