「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber

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進軍

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 魔王城へ向かう道中。ダーレンは気が気ではなかった。

 兄上のやつ、レージュになにかしてないよな?
 脅迫したり、暴力を振ったり……口付けを落としていたらタダじゃおかないからな。

 バフォメットには平穏に生活できるよう追放処分にしてもらった恩がある。だが、レージュを泣かしたというのなら話は別だ。血を分けた兄だとしても容赦はしない。

 ジメジメとした洞窟を、お供であるリゼと酒場の荒くれ者たちを引き連れて歩いていると広いスペースに出た。

 高い天井の先にぽっかりと穴が空いて外光を取り込んでいる。光の先にはキラキラと光る巨大なクリスタルが輝いていた。

 あれは転移用クリスタルだ。魔王城の近くへ飛ぶことができる。

 クリスタルの前には黒い布で顔を隠しているシスターが立っていた。手袋と厚いブーツを履いているせいで、肌が一切見えない。

 現在の四天王で二番目の強さを誇るアンデッドだ。

「ダーレン殿下、追放者の身で堂々と魔界の地に足を踏み入れるとは愚かな」

 シスターの全身から魔法で作り出された鎖がジャラジャラと溢れ出す。

 ダーレンは半透明の券を素早く抜き、冷やかに告げた。

「悪いが俺には言葉を交わしているような時間はない」

 固いものがぶつかり合うような音と共に、半透明の剣が鞘から抜ける。月夜の聖堂にてアンデッドの集団に襲われた際、ダーレンが戦うのに使用した剣だ。

 背後で待機していた魔族たちは、各々の武器を取り出し、リゼは身長よりも大きな鎌を取り出した。

「その輝き……ずいぶんと高価そうな精霊石の剣ね」

 危険なモノを察知したらしいシスターは両手を震わせながら一歩後ずさった。

「これは母上の遺産だ。世界最強の魔術剣……通称『勇者のつるぎ』だ」

「ゆっ、ゆうしゃのつるぎ……え、うそ?」

「さぁ、投降するか戦闘を続けるかさっさと決めろ」

 クリスタルを守っていたアンデッドは、ふらふらと足を揺らしながら倒れ込んだ。

「うわぁぁ。失礼いたしました。命だけはお助けを!」


***


 これからどうしようかなぁ……?
 心配されている張本人、レージュはバルコニーで外の景色を眺めながら呑気に欠伸をした。

 レージュの力があれば魔王城から逃げ出すことなど、おちゃのこさいさいである。しかし、外に出たところで、どうやって人界に帰れば良いのか分からず困っているのである。

 食料や着替えを少々いただいて、街の人に道を聞きながら帰ろうかなぁ。でも人間が道を尋ねて回ったら、すぐに噂が広がってバフォメットの部下に見つかってしまう。

 少し魔王城を散策しようと廊下に出ると、後ろからメイドが二人ついてきた。

 この二人はレージュの世話係としてバフォメットが用意した従者だ。しかし、彼女たちに与えられた役割は世話ではなく監視だとレージュは知っている。

『緊急事態。緊急事態ッ!』

 突如、天井の方から男の声が響く。
 見上げてみると天井に飾られたガーゴイルが叫んでいた。

 なるほど、魔王城ではガーゴイルを使って情報伝達を行っているのか。

『魔王城に進軍してくる魔族の軍団が三十。人界から進行する兵が二万。人界と魔界を分け隔てている結界が破壊された』

 人界と魔界を分け隔てている強力な結界を破壊するなんて。

 そのようなことをできる魔法の使い手など、ほんのひと握りだろう。あの結界は初代聖女が作り出したものだ。壊せるのは聖女か同レベルの魔力を持つ者のみ。

 まさか……イゼルマが結界を破壊したのだろうか?



 
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