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嘘つき
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「進め、進めッ。聖女様を救い出した者には、皇太子様がから褒美として公爵の位と領地を与えられる。後世に語り継がれる英雄となろう」
将軍の掛け声と共に「おおぉ!」と兵士たちの雄叫びが魔界の大地に響いた。ヴァルニア帝国軍を中心とした人界の戦士たちは、わずか一週間で数多くの魔界にある町や村を焼き払い、命を奪った。
「もう既に我々は四天王の一人を仕留めている。魔王など敵ではない!」
指揮が最高潮に達した軍勢が洞窟に足を踏み入れ、転移クリスタルのある空間に侵入した。
クリスタルの前で待ち構えていたのはアンデッドの女――ではなく、堂々と立ちはだかるバフォメットと、ダーレン、魔族の兵士であった。
「誰だ。貴様は?」
「私は魔王であるバフォメットだ」
優雅に両腕を広げながら名乗るバフォメットに向かって、兵士たちは一斉に飛びかかる。しかし、彼らの刃がバフォメットの首に届くことはなかった。
半透明の魔法で作られた鎖が現れ、彼らを拘束したのだ。
「有象無象が襲いかかってきたところで結果は変わりせん。無駄に命を落とすだけですよ。皇太子と話をさせてください。さもなくば無駄な命が奪われることになりますよ」
軍隊の指揮をとっていた将軍は、槍の腹を強く握りしめ顔をしかめた。
「魔族風情が指図など忌々しい。だが、今回ぐらいは要求を飲んでやろう」
将軍は近くに居た兵士に「今すぐ殿下をお呼びしろ」と伝える。
予想すらしていなかった事態に困惑する兵士。バフォメットが「なにをモタモタしているのです?」問いかけると、兵士は顔を真っ青にして洞窟の外へ走り出した。
***
「アレン皇太子。このように『争い』ではなく『対話』という解決手段をとってくださりありがとうございます」
「ほう、血の気が多い魔族が『対話』を望むとは。笑わせてくれる」
「血の気が多いのは先代ですよ。私はなにごともできるだけ平和に収めたいと考えておりますから。そう、可能なかぎりはね……」
洞窟の中。やっと平和に事態を収める方法ができたというのに、空気はピリピリと張り詰めていた。バフォメットとアレンは向かい合いながら、厳しい表情を浮かべていた。
「人間の皆様がなぜいらっしゃたのか。目的は分かっています。レージュを連れ戻しに来たのでしょう?」
「その通りだ。分かっているのならば、さっさと聖女を渡してもらおうか」
「断ります。自ら捨てておいて、必要になればまた取り戻す。さては、またレージュを利用するだけ利用して、不要になれば捨てるつもりですよね?」
「そのようなことはしない。僕は今度こそ最後までレージュの味方でいるつもりだ。なにがあっても見捨てない。仮に彼女が国家の反逆者だとしても」
「レージュが裏切り者だと?」
アレンのひと言に激高したのはダーレンであった。
「ふざけるな。レージュはこれまでの人生をヴァルニアに捧げてきたんだぞ。どれだけ苦しかろうと、辛かろうと弱音を吐かず懸命に生きてきた」
「あぁ、知っているとも。しかし、レージュは罪を犯したのだ。わざと祈祷を怠ってザクロ病を広めた」
「お前、本当にレージュの元婚約者か?」
「なんだと?」
「レージュは決して裏切りなどしない。常に人の幸せを願って、誰かのために尽くして、我が身を一切、案じない。だからこそ人々は彼女を『聖女』だと崇める」
ダーレンは腰からゆっくりと剣を抜く。
ヴァルニア軍の兵士から「おぉ」とどこか感心したような、恐れるような声があがった?
「……それはなんだ?」
「勇者の剣だ。まさか、知らないとは言わないよな?」
「むろん知っている。なぜ魔族が勇者の剣を持っている? まさか聖女だけではなく英雄の剣も奪ったのか?」
「奪ったのではなく受け継いだものだ」
「なにをほざいている。勇者様が魔族ごときに剣を託すはずないだろう!」
「嘘をほざいているのは、そっちだろう?」
再びピリピリと空気が張りつめる中、魔族軍の中から白い布で顔を覆った女性がゆっくりとアレンの方へ近づいてきた。
魔族たちは彼女のためにます道を開ける。彼女の神秘的な雰囲気に多くの人々が息を飲んだ。
「もう結構です」
女王は布を外し。素顔を表す。
「レージュ!」
アレンはかつての婚約者が、魔族の中から現れたことに対して「信じられない……」と呟いてからレージュに近寄った。
レージュの片手を掴もうとしたが、手を振り払われてしまう。
「嘘つき……」
「違う。これは……」
「私は誰も裏切っていない!」
いつも朗らかに笑っているレージュであったが、今日ばかりは怒りと悲しみが隠せないようであった。
将軍の掛け声と共に「おおぉ!」と兵士たちの雄叫びが魔界の大地に響いた。ヴァルニア帝国軍を中心とした人界の戦士たちは、わずか一週間で数多くの魔界にある町や村を焼き払い、命を奪った。
「もう既に我々は四天王の一人を仕留めている。魔王など敵ではない!」
指揮が最高潮に達した軍勢が洞窟に足を踏み入れ、転移クリスタルのある空間に侵入した。
クリスタルの前で待ち構えていたのはアンデッドの女――ではなく、堂々と立ちはだかるバフォメットと、ダーレン、魔族の兵士であった。
「誰だ。貴様は?」
「私は魔王であるバフォメットだ」
優雅に両腕を広げながら名乗るバフォメットに向かって、兵士たちは一斉に飛びかかる。しかし、彼らの刃がバフォメットの首に届くことはなかった。
半透明の魔法で作られた鎖が現れ、彼らを拘束したのだ。
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軍隊の指揮をとっていた将軍は、槍の腹を強く握りしめ顔をしかめた。
「魔族風情が指図など忌々しい。だが、今回ぐらいは要求を飲んでやろう」
将軍は近くに居た兵士に「今すぐ殿下をお呼びしろ」と伝える。
予想すらしていなかった事態に困惑する兵士。バフォメットが「なにをモタモタしているのです?」問いかけると、兵士は顔を真っ青にして洞窟の外へ走り出した。
***
「アレン皇太子。このように『争い』ではなく『対話』という解決手段をとってくださりありがとうございます」
「ほう、血の気が多い魔族が『対話』を望むとは。笑わせてくれる」
「血の気が多いのは先代ですよ。私はなにごともできるだけ平和に収めたいと考えておりますから。そう、可能なかぎりはね……」
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「人間の皆様がなぜいらっしゃたのか。目的は分かっています。レージュを連れ戻しに来たのでしょう?」
「その通りだ。分かっているのならば、さっさと聖女を渡してもらおうか」
「断ります。自ら捨てておいて、必要になればまた取り戻す。さては、またレージュを利用するだけ利用して、不要になれば捨てるつもりですよね?」
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「レージュが裏切り者だと?」
アレンのひと言に激高したのはダーレンであった。
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ダーレンは腰からゆっくりと剣を抜く。
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「嘘をほざいているのは、そっちだろう?」
再びピリピリと空気が張りつめる中、魔族軍の中から白い布で顔を覆った女性がゆっくりとアレンの方へ近づいてきた。
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レージュの片手を掴もうとしたが、手を振り払われてしまう。
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