「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber

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最も尖なる邪悪

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「私の知っているアレン様はそんなこと言う人じゃない……」

「レージュ……」

 アレンが元婚約者に手を伸ばした瞬間――バシャンと水が飛び散った。

 水ではない。ポーションだ。

 レージュが隠し持っていた呪詛解除ポーションを、アレンに浴びせたのだ。

 そのまま呪文を唱えると、アレンの全身から弱い白色の光が放たれる。

「おい、皇太子様になにをした?」

 様子を見ていた兵士、数人に向かって呪文を唱え、両足を魔力で作り出した赤いツルで拘束する。

「私は皇太子様にかけられた誘惑の魔法を解除したまでです」

 いきなりポーションをかけられたアレンは一瞬「なにをする?」と叫び声をあげたが、すぐに黙り込んだ。

「……最悪だ」

 低い声で呟くアレン。

「あ、やっぱり急にポーションをかけるべきではなかったですよね。口にも入ったと思いますし。解呪薬はスライムみたいな食感だ」

 レージュは慌てて「今から魔法でお水を作りますね」と呪文を唱え始めると、アレンは制止した。

「僕が最悪だと言っているのは君を助けようとしたのに……ずっと味方でいると誓ったのに、結局、最後まで追い詰めてしまったことだよ」

「良いのです。アレン様は誘惑魔法にかかっていただけなのですから。本当に責めるべき人物はほかに居ます」

「君に対する魔族たちの態度からして、レージュは自ら望んで魔族の傍にいるのか?」

「その通りです。すぐには信じていただけないでしょうが、私は聖女としての身分を失ってから多くの魔族と関わってきました。その中で学んだのです。彼らも我々人間と大して違いはありません。どちらが良いなどではなく、どちらにも良さがあり、弱さもあるのです」

 レージュは上目遣いで「どうか分かってくださいませんか?」と問いかけた。

 アレンはヴァルニア兵の前に立ち、高らかに「お前たち、よく聞け」と宣言する。

「我々が本当に討ち滅ぼすべき邪悪が分かった。イゼルマだ。あの偽聖女が、本当に討たれるべき悪であったのだ。あの女に騙されて本物の聖女であるレージュが追放され、現在、我が国は危機に瀕して……」

 演説が中盤にさしかかったところでザクッと刃物で肉を切りつけるような音が響く。アレンの体がバタンと倒れ、キラキラと装飾が施された服から紅色の血が流れ出てきた。

「まぁ、私とのお約束は果たしてくださらないのね」

 背後からアレンを切りつけ、「あはは」と高笑いしながら血に染った剣を振るのはイゼルマだ。

 人間、魔族、共に兵士たちは困惑したように、目をパチパチと開閉させた。
 普段ほとんど冷静さを失わないダーレンとバフォメットすら、理解が追いついてないらしく空いた口が塞がっていなかった。

「レージュを助けるためにバフォメットを殺す。それが私との約束でしょう?」

「イゼルマ。なんということを――!」

 血が繋がっていない妹の愚行を見た瞬間、腹の底から熱が湧き出て、頭に血が上るような心地がした。

 今までの人生で経験したことがないほどの怒りに囚われる。

 気づけばイゼルマの前に立ち、小さな頬に平手打ちを決めようとしていた。

「待ちなさい、レージュ。その女はイゼルマではないよ」

 振り上げた片手を後ろから掴んだのはバフォメットだ。さらに後ろ側から「勝手にレージュへ触れるな」と抗議するダーレンの声が響く。

 バフォメットはイゼルマの前に立ち、巨大魔法の詠唱を始める。もし彼の魔法が発動すれば洞窟一帯が消し炭になるであろう。

「だれかがイゼルマになりすましているということでしょうか?」

「それも違うかな」

 イゼルマの姿をした『誰か』は高笑いをしながら地面へと倒れた。口から紫色の煙が立ち上り、煙は泥になって、やがて泥は人型になった。

 泥が女性の形に変わると色がつき、金髪の女性が姿を現す。

「初めまして。こんには、聖女様」


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