「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber

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やっと見つけた。恩返しの方法

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 ダーレンが住んでいる家は3階建てだ。
 2階と3階は居住スペースになっていて、1階はというと……。

「これは……すごいですねぇ……」

 レージュは息を漏らした。
 『感嘆』ではなく『呆れ』という意味で。

 一言で表すならば、ひどく荒れていた。

 机の上は使い終わった試験管が並べられていて、棚には乱雑に薬草類が保管されている。

 床には赤紫色の液体が飛び散っていて、カーテンに描かれた妖精たちは、飛び回りながらこっちに向かって文句を言ってきているようであった。

 もはや『片付けができていない』とか、そういうレベルではない。

 ポーションの調合室だと思われる場所の隣には、カウンターや商品棚が並んでいる部屋がある。

「もともと、この場所はポーションショップとして利用する予定だったのです」

「一体なにがあって、このような有様に?」

「そもそもポーションショップを開こうとしていた理由が、人間界での『身分』を作るためでして……しかしながら、坊ちゃんは追放された身分とはいえ、魔界の裏社会ではまだ権威のある立場。生活資金には困らないので、この場所は形だけのスペースになってしまいました……」

 荒れ果てた『ポーションショップになるはずだった場所』を眺めているレージュはある衝動に駆られた。

 まず全てを掃除したい。

 もともと綺麗好きで、牢屋で暮らしていたごろも毎朝早起きして掃除をしていたレージュにとって、散らかったスペースで過ごすことは、あまりにも苦痛だ。

 そして、ポーションを作りたい!


 聖女であったごろ薬草に関する知識を集める機会はいくらでもあったのに、いざ実践する暇がなかったのだ。

 今こそ、培ってきた知識を生かす時だ。

 なによりダーレンやリゼに助けてもらったお礼をしなくてば!

「リゼさん!」
「はっ、はい?」

 レージュがあまりにも力強く叫んだので、リゼは少したじろいた。

「この店を私にまかせてただけませんか?」

 リゼはニッコリと笑って即答する。

「はい、もちろん」


***


「私は棚の薬草を産地と用途ごとに分類して並べ直すので、リゼさんはシンク周りの試験管や乳鉢を洗って並べておいてください」

 ポーションショップ開店に向けて、まずは店内の片付けから始まる。

 散らばったものを、一つにまとめて棚や床、全ての場所にある汚れを落とすのだ。幸い魔法があるので、手作業よりは早く終わる……はずだったのだが……。

「リゼさん、申し訳ないけど床をモップがけする前に水魔法で全体を濡らしていただけないでしょうか?」

「任せてください!」

 自分自身で魔法を使うのは少々躊躇われる。

 だって、水魔法を使って部屋全体を海に変えてしまったら嫌だもの。

 幸いリゼはとくに疑問は抱いていないようで、レージュの代わりに魔法を使ってくれた。あるいは、疑問を口にしていないだけなのか。

 しばらく作業に集中していると、入口の扉がドンドンと乱雑にノックされた。

「はい、どなたでしょうか?」

 レージュが扉を開けると、屈強な男、数人に睨まれる。

 誰でしょう。この方たちは?
 まさか、祖国の刺客?

「俺たちは商人ギルドのモンだ」

 しょうにんぎるど?

 レージュにとって初めて聞く単語であったが、おそらくフランドレアの商人たちが作っている自治会のようなものであろうと予測する。

「ギルドの皆様がなんの御用でしょうか?」

「なぁ、お前さん。魔力非所持者がポーションショップを営むことは規約違反だって知ってるか?」

 知っているもなにもレージュは、フランドレアに来たばっかりなので商売周りの知識は皆無なのだが。

 とはいえ、魔力持ち以外がポーション製造をしてはいけない理由は、なんとなく分かる。

 そもそもポーションを作るには魔法が必要だ。なのにも関わらず、魔力を持たない人間が、ポーションと偽って違法薬物を販売することがしばしばある。

 こちらの会話を聞いていたリゼが、口を挟む。

「なにか誤解なさっているようですが、このショップで勤務しているスタッフは全員魔力持ちです」

「そのわりには、全然ショップを営業している気配がないが……ポーションと偽って違法薬物を売っているんじゃなかろうなぁ?」

「違いますよ。誤解です」

「あのなぁ、オレたちも元は貧乏人だ。気持ちは分かる。だが、決まりは守って貰わないとならねぇ」

 男の一人は、レージュをジロジロと見てから腕を掴んだ。

「代わりにもっと良い仕事を紹介してやるからついてきな」

「まっ、待ってくださいよー!」

 レージュは抵抗しようとしたが、男の腕が力強く逃げられそうにもない。慌ててリゼが魔法を唱えようとした途端――。

「おい、事実確認もせずに違法商売と決めつけて、女を怪しい仕事に連れていく。お前ら本当にギルドの人間か?」

 低く怒りに満ちた声。

 声がした頭上の方を見上げた男たちが、怯えた表情で尻もちをつく。

 声がした方を見ると――。

「俺のツガ……女に手を出した対価は重くつくぞ?」

 ニンマリと笑うダーレンが、空中で立っていた。もちろん、目は一切笑っていない。
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