「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber

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偽聖女の失落

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 アレンがレージュの捜索をしている。

 イゼルマが最悪の知らせを聞いたのは、聖女としてのお勤めが終わった後であった。

 アレンには誘惑の魔法を定期的にかけているはずなのに、どうして?

 まさか魔法が解けた?

 そんな馬鹿な。

 なにはともあれ皇太子の心がレージュに戻らないようにしないと。聖女という地位も、皇太子妃という身分も、苦労の末手に入れたのだから失うわけにはいかないのだ。

 疑問が拭えぬまま、イゼルマは議会へ向かうアレンを見つけ話しかけた。

「アレン様がレージュの行方を探していらっしゃると使用人から伺いました。本当でしょうか?」

「事実だ」

 アレンは足を止めず、歩きながら話し続けた。

「しかし、これは君のためでもある。現在、君一人に国中のザクロ病を収束させなければならないという重荷を背負わせてしまっている。代わりに負担する人間が必要だ」

「だからって追放した人間を呼び戻すつもりですか? アレン様の信用に傷がつきますよ」

「民には気づかれぬよう秘密裏に行うつもりだ」

「代わりに負担させるならレージュである必要はないでしょう?」

「悪いが、ここまで深刻な状況を確実に収束できる存在はレージュのほかに居ない。現に君一人の力では対処できないだろう?」

 イゼルマは足を止め、立ち去るアレンを見送ることしかできなかった。その通りだ。イゼルマの力ではどうにもできない。

 ザクロ病が蔓延し始めてから、イゼルマは毎日お祈りを欠かさなかったし、治療のために上級ポーションを配ったりもした。

 それでも病は収まらない。

 悔しさのあまり涙が流れそうだった。

 イゼルマは聖女の住まいである王城の端にある塔へ向かった。

 嫌よ。いまさら、あの女に負けるだなんて。生まれつき恵まれている天才なんかに。

 遠いむかし。子爵家の一人娘であったイゼルマは両親から深い愛情を受けて育った。だが、父が他界し、母が再婚してからは生活が一変。

 義父と母はイゼルマより優秀なレージュの教育に心血を注ぐようになったのだ。
 二人ともイゼルマに期待なんてしていなかったし、見向きもしなかった。

 だからレージュが聖女として居なくなったときは、嬉しくて仕方がなかった。
 きっと両親はこれから私のことだけ愛してくれると信じていたのに。
 それなのに……義父と母は「イゼルマも姉を見習って当家の令嬢にふさわしい立場を手に入れなさい」と説教をしてくるようになったのだ。

 嫌い、嫌い。みんな大嫌い。
 お母様。お義父様。お兄様。レージュ。
 皇太子だって大嫌いよ。
 こっちは王妃になるために、好きでもない男に抱きついたり、キスしたりしているのに。あの男すら私の思い通りには動かない。

 いいわ。そんなに望んでいるなら手に入れてあげる。ふさわしい立場とやらを。
 どんな手を使ってでもね。

 自室に戻ったイゼルマは廊下で誰も聞き耳を立てていないことを確認してから、一冊の真っ黒な魔導書を取り出して呪文を唱えた。

「私を助けなさい。リリア」

 魔導書から紫色の光が吹き出し、やがて女性の姿になる。紫色のフワフワとした髪を床まで垂らした女性。頭からヤギの角が生え、スリットが入った黒いドレスをまとっている。魔族だ。

 瞳孔が細長く切り開かれている琥珀色の瞳はキラキラと怪しげな光を放っていた。
 窓から黄金色の蝶が入ってきて、リリアと呼ばれた魔族の肩に乗る。

「生意気なあの女を……レージュを探し出して死ぬよりも酷い目にあわせてやるのよ」

「あら、あたしの契約者はずいぶんとせっかちさんだこと」

 リリアは嘲笑うかのようにクスクスと笑った。

***

 イゼルマがリリアと出会ったのは聖女用の書庫で怪しげな本を見つけたときであった。

 本を開くと中からモクモクと紫色の煙が湧いてきて、リリアが姿を現したのだ。

 リリアは周囲を見渡しながら、背伸びと欠伸をした。

「ふむ、久々の外は眩しいわねぇ」

「あ、アンタは魔族?」

「あら?」

 驚きのあまり腰を抜かして地べたに尻もちをついたイゼルマをリリアは見下ろした。

「まぁ、美味しそうな魂を持つ人間じゃないの」

「私を食べるつもり?」

「今すぐ食べるつもりはないし、タダで貴方から魂を貰おうだなんて思わないから安心してね」

「なにがなんだか分からないけど、魔族がなんでこんなところにいるの?」

「困ったわね。どうやら一から説明しないといけないみたい」

 リリアは近くにあったテーブルの上に座り、足を組んだ。

「あたしはリリア。わけあって今は魔導書に囚われている魔女よ。困っている人を助けるのが趣味なの」
 
 色っぽく頬に手を当てて、イゼルマを見るリリア。本棚の近くにある鳥かごからは、本能的に身の危険を感じたらしい小鳥たちの抗議する鳴き声が響き渡った。

「貴方、今悩みを持っているわね。いつも優遇されている気に入らないやつがいて、自分は惨めなままだって」

 図星だった。イゼルマは目を見開きながら「そうよ」と答える。

「どうして世界はこんなに不平等なのかしらね。あたしは許せないわ。貴方みたいな惨めな子が世界に、一杯いることが」

「勝手に哀れまないでよ」

「べつにからかっているわけではないから、怒らないでね。あたしは、ただ、貴方みたいに可哀想な子を見ていると助けたくなるの」

「私を……助けてくれるの?」

「えぇ、貴方の気に入らない子を不幸のどん底に突き落として、代わりに貴方を幸せにしてあげるわ」

 イゼルマの中で喜びの花が咲き乱れた。

 あぁ、やっとだ。やっと私を幸せにしてくれる存在に出会えた。

 レージュのやつ。どこでなにをしているのかは知らないけど、絶対に不幸のどん底に落としてやるんだから!
 




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