「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber

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ポーションショップは大繁盛です

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「いらっしゃいませ。本日はどのようなポーションをお求めですか?」

「これからカルタナティ高原へ狩りへ向かうから、毒止めポーションと回復ポーションが欲しい」

「承知いたしました。カルタナティ高原の魔物は麻痺系毒を持つ個体が多いので、月の雫を多めに調合したものをご用意いたします」

 猫のしっぽ魔法薬店がオープンしてから一週間が経過。小さな店の中に、老若男女、数え切れないほどの客で溢れかえっていた。

 ただでさえ、これから真夏の猛暑が始まろうとしている日に、狭い店内で人が密集してしまっているせいで、余計に熱さが乗算されている。

 あまりにも蒸し暑いせいで、朝はのんびりと接客してくれていたマシュも、昼にはビヨーンと体を広げて、床にへばりついてしまっている。

 本当に加熱して溶けたマシュマロのようになってしまった。

 いちおう室内には冷却魔法をかけてくれる神器を設置しているが、あまりにも暑すぎて効果を発揮していないようであった。

 レージュは回復薬を現す花柄のビンと、異常状態を解除する効果がある波紋が描かれたビンを商品棚から取り、客に渡した。

 冒険者だと思わしき男はビンを受け取ってから、代金をカウンターに並べ立ち去った。
 すぐさま、後ろで並んでいた次の客が来る。

「貴方がザクロ病を直したという薬師さん?」

「そうですよ。レージュと申します」

「あら、レージュさん。ウチの夫が農作業中に倒れてしまってね。めまい、頭痛、あと吐き気を訴えているのよ」

「脱水症状により熱倒れ症ですね。それでしたら、こちらのポーションを……」

 次々と客はやってくる。
 オープン前に定めておいた売上目標はとうに達成した。予定としてはオープン前に新聞で宣伝してもらうつもりであったが、意外なことに新聞記者の方からレージュの元へインタビューに来てくれたのだ。

 おかげで翌日の朝刊には、マシュを抱えたレージュの写真が大々的にかざられることになったのだ。

 長く働き続けて、やっと昼休憩がとれる弊店時間に近づいてきた。

 猫のしっぽ魔法薬店では、毎週月曜日が休業日で開店時間は午前九時から午後一時。それと、午後三時から夕方の五時半までだ。

 一時になる三十分前にラストオーダーを受けて、閉店する準備を始める。

 最後に来た客は冒険者だと思わしき女性の魔法使いだ。オープンしてからほぼ毎日、足を運んでくれる人だ。

「レージュさんのポーションにはいつも助けられているよ」
「こちらこそ、ご贔屓にしていただいて嬉しいです」
「だからこそ、ちょっと不満なことがあってさ」
「はい……なんでもお申し付けください」

 いずれクレーム対応をする日も来るであろうとは思っていたが、まさかここまで早いとは。
 さり気なく深呼吸をして、どのような言葉が来ても対応できるようにコンディションを整える。

「貴方のポーション。安すぎやしないかい?」

 安すぎ? 高いではなく?
 予想外の回答にレージュの目は点になってしまった。

「だって上級ポーションなんざ一日十本でも作れば大抵の人間は倒れちまうよ。それなのに貴方は一日に一体、何本の上級ポーションを作っているんだい?」

「ざっと、百本ぐらいでしょうか」

「はぁ?」

 女魔法使いは顔をしかめながら、一歩後ろへ引いた。

「だったら、なおさらもっと値段を上げな。二倍……いや、三倍は上げても問題ないよ」

「いえいえ、私としては皆様に手の届き安い値段でポーションを購入していただきたいので、このままで大丈夫です」

 レージュがニコリと笑いながら答えると、女魔法使いは呆れたようにため息をついた。

「貴方をもっと自分を大切にしな」

 どこかで聞いた台詞だ。
 たしかダーレンからも言われた気がする。

 生まれたときから常に誰かのために生きてきたレージュにとって、どうして周りから「自分を大切」にしろと言われるのか理解できなかった。
 だって、レージュにとっては誰かのために生きることが日常であったから。
 
 自由を手に入れた今は自分なりにやりたいことをやっているつもりだ。それでも「自分を大切」にするにはどうすればいいのか、さっぱり分からない。

 最後の客を見送り、店の入口に「CLOSE」と書かれた看板を取ってにかける。

「マシュ、お疲れ。お昼ご飯食べよう」

 お昼ご飯という単語を聞いた途端、今まで床に張り付いていたマシュが元気よく立ち上がり、レージュより先にキッチンへ向かった。

 カウンター脇にあるカレンダーを見る。
 一週間後には商人ギルドのメンバーから招待された調合の腕比べ大会が控えている。

 よし、大会で良い結果を収めてさらにお客様を集めましょう!

 
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