「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber

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これまた大惨事

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『五、四、三、二、一……しゅうりょーう!』

 司会者によるカウントダウンが終わり、レージュとヴィオラは作業の手を止めた。

 両者、完成したポーションをテーブルの上に並べる。

 一、二、三、四、五、六、七……。
 数は……残念ながらヴィオラの方が多い。

 私ったら、また期待に応えられなかったの?

 レージュの中で焦る感情が湧いたが、深呼吸をして抑える。

 焦ってはダメですよ。まだ結果は分かりませんから。

 こうなれば質で勝負するしかない。

 二人の前に二つの花瓶が置かれ、それぞれには芽を出したばかりの苗木が植えられていた。

 まずはヴィオラが全てのポーションを苗木にかける。

 土の中からひょっこりと顔を出していた苗木は、みるみるうちに成長して、ガラスのスズラン、虹色の鬼灯に、氷の低木に成長する。

 よくよく見れば全ての瓶が、それぞれ違うポーションなのである。

 あの短時間で七種類も違うポーションを作れるだなんて、信じられない。

 次はレージュの番だ。
 おそるおそる瓶のフタを開けて、植木鉢にかける。ドロドロとした液体が苗木の表面が赤色に染まり、ぷるぷると震え始める。震えるばかりでなかなか成長しない。

 まさか失敗?

 焦っていると、隣から「あともう少し様子を見てみましょう」とヴィオラの声が響いた。

 なんて良い子なのだろう。
 敵同士であるにも関わらず思いやりを忘れない精神。昔から負けず嫌いのイゼルマにも見習って欲しいものだ。

 苗の震えがだんだん強くなる。
 震えが強くなるにつれ、禍々しい赤色の光を放ち始めた。

 嫌な予感がしてきた。

 レージュは急いでヴィオラの片手を掴み「今すぐ逃げましょう」と呼びかけ、ステージの上から去る。

 状況を全く理解していない観客たちがざわめいていると、苗の背丈がだんだん伸び、太くなり、幹は濃い茶色に代わり、花瓶にヒビが入った。
 今まで小さな体をユラユラ揺らしていた苗木はすっかり一本の木に成り果てた。全長は人間二人分ぐらいである。

 しばらく待っていると枝の先からガラス製の小瓶がいくつも生えてくる。

 そう、小瓶が直に木の枝から生えているのだ。

「ポーションの効果には、造り手の願望やイメージが現れると聞いたことがありますが……」

 明らかに困惑した表情のヴィオラ。

 そういえば、最近お店が繁盛しているせいで小瓶が足りなくなっていたのだ。

 きっと自身の願望がポーションの効果に反映されたのだと、レージュは確信した。

***

 基本的に大会の審査は三分ぐらいの時間がかかるが、決勝戦では十分ほどの時間を要した。

 ステージの周りにはヴィオラの宝石がなる木や、雲の花といった神秘的な植物。レージュが作り出したガラスのなる木、広場を覆いそうなほど巨大な寒風を放つ木、常に稲妻を放っている花などの物騒すぎる植物が並んでいた。

 調合を始めたばかりのごろはまだ手加減をする余裕があったのに……きっと、ヴィオラさんの調合するペースが早すぎて焦ってしまったのですね。

「会場の皆様。長らくお待たせいたしました」

 ステージの上から女性の声が響く。
 声がした方に視線を移す。
 その刹那――レージュは言葉を失ってしまった。

 ステージに立っていたのは紫色のレースと薔薇の造花で彩られたドレスをまとったヴィオラであった。

 隣には今まで領主だと思っていたエメラルド色のドレスをまとった女性がいた。しかも、その女性というのがレージュにとっては見覚えがある人物であったのだ。

 ザクロ病にかかった少女を連れてきた領主館の使用人だ。ということは――。

「エリアド子爵の娘であり、フランドレアを含めた我が領を管理している、わたくしヴィオラ・エリアドが、これより今大会の結果発表をいたします」

 エリアドという単語を聞いて、会場にいた全員が固まった。なぜならばエリアドとはフランドレアを管理しているエリアド子爵のことを指すことばだからである。

「ヴィオラって……エリアド卿のご令嬢だったのですね」

 さすがのダーレンもここまでの事態は想定していなかったようであり、絶句していた。

「今大会の優勝者は『猫のしっぽ魔法薬店』のレージュ様です」

 レージュは大会の運営スタッフをしていた商人ギルドのメンバーに連れられて、ステージの上に立たされる。
 観客席からは盛大な拍手が飛んでいた。

「彼女には賞金として六百万リコが届けられます。さぁ、記者の皆様は彼女の功績を世に知らしめてください」

 どうすれば良いのか分からなくなったレージュはやむを得えず苦笑いをすることにした。

 

 

 
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