「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber

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お呼ばれ

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『私のお屋敷においで』

 ヴィオラから屋敷に招待する手紙が届いたのは、大会の翌日である。

 そういえば大会の後に二人でゆっくり話そうと約束していた。結果発表の後、数時間近く記者やギルドの人たちに、もみくちゃにされていたせいですっかり忘れていた。

 やはり貴族の屋敷に行くならば相応の服装で出向かなければならない。幸いドレスを買うための資金は潤沢にあった。

 リゼの紹介でフランドレアで一番、腕が立つという仕立て屋に向かった。

「やはり、コルセットはもっとしめた方が良さそうですね。ミューズはできるだけ通気性が良いものをご用意いたします」

 仕立て屋の更衣室にて、レージュはコルセットとミューズ、腰周りにクリノリンにが巻かれた状態で立っていた。いわゆる下着姿。これから華やかな布地を重ねていくわけだが――。

 久しぶりのドレス。動きづらいし苦しいわね……。追放されてからというものの、動きやすい服装を選んできたので、久方ぶりのドレスに苦しむはめになった。

 まだヴァルニア帝国にいたごろは、コルセットをしめやすくするために、日頃から食事の量を控えていたが、フランドレアで暮らし初めてからは好き勝手に食べるものを選んできたので若干太ってしまったかもしれない。

 クリノリンの上に何枚も小さな花飾りがついたブルーのスカートを重ねて、上半身は同じく花飾りがついた白色。腰周りのしめる位置を上げて、できるだけスタイルをよく見せる。

 髪を結ったあと仕立て屋のスタッフが、いくつかの髪飾りを持ってきて、「どれ気に入ったものはありますか?」と問いかけてきた。

 ヴィオラが頭に載せていた造花のバラを思い出して、表面にアクアマリンがはめ込まれた銀色の蝶を選ぶ。
 色はダーレンの髪と瞳にそっくり。

 よし、これにしよう!

 最後に銀色の蝶を乗せて、更衣室を出る。

「まぁ、奥様。素敵です。まるでおとぎ話に出てくる姫君か、妖精のようです!」

 更衣室から出るなり、ずくに拍手をしながら賞賛の声をあげたのはリゼであった。

「坊ちゃんも素敵だと思いますよね?」

 リゼが問いかけるとダーレンは頬を紅潮させながら答える。

「レージュはなにを着ても可愛いよ」

 コツコツとハイヒールの音を鳴らしながらレージュはダーレンに近づき、両手を握った。

「髪飾りはダーレン様の髪と瞳の色に合わせて選びました」

「やっぱり、その格好が一番可愛いぞ」

「分かりましたッ!」

 ダーレン手が頬がそっと頬に触れ、どくんと心臓が高鳴った。

「今夜連れていきたい場所がある。楽しみに待っておけ」
 

***

 唇に紅を刺し日傘も揃えて、いざ子爵邸へ。久しぶりとはいえ、未だに貴族としての振る舞いが体に染み付いているレージュは歩きづらいはずの高いヒールと、装飾品だらけのスカートなど気にせず、子爵邸の門をくぐった。

 首元にリボンのついたリゼが両手をへその辺りに合わせながら、レージュの後ろを歩いていた。

 着飾ったレージュとは違い、リゼは黒いワンピースを着ていて、絶対にレージュの前に出ないようにしていた。きっと『レージュの使用人』という役回りに徹しているのであろう。

 本当はダーレンにもついてきて欲しかったが「向こうは女同士仲良く談笑したいみたいだから、俺は邪魔だろ?」と言われ、断られてしまった。

「ごきげんよう、ミス・エリアド」

「えぇ、ごきげんよう。きっと私を気遣って、そのような肩苦しい振る舞いをなさっているのでしょうけど、気にしないで」

 子爵邸の玄関で待っていたヴィオラに挨拶をすると、傷一つない小さくて繊細な手が、レージュの片手を引き、客間までつれていった。

「同じ薬師の道を歩む者として、友人のように接して欲しいです」

「よろしいのですか……?」

「構いませんよ。むしろ私はレージュさんと友人になりたいです」

「では、これからはヴィオラとお呼びしても良いでしょうか?」

「でしたら、貴方のことをレージュと呼ぶことにいたします」

 大きな暖炉がある客間に入ると、レージュとヴィオラの前にアフタヌーンティーセットが置かれた。
 ティーカップの中から爽やかな香りが漂ってくる。

「レモングラスですね」

 消化促進や、美容効果が期待できるハーブだ。見た目は緑色の葉っぱだが、虫除け効果のあるレモンのような香りが特徴である。

「正解です。私が一番気に入っているハーブです」

 レモングラスティーをひと口飲んでからソーサーに戻した。さっぱりとした口当たりが、実に良い。

「そういえば、ずっと気になっていたのですが、レージュはフランドレアのご出身なのでしょうか?」

「いえ、私はヴァルニア帝国の出身です」

「ヴァルニアでレージュほどの魔力保持者でしたら、聖女にでも選ばれていなければ、おかしいと思いますが……」

「元聖女ですよ」

「え……?」

「私は追放された元聖女です」

 レージュの一言に、その場が凍りついた。
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