「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber

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無茶しないで

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 ドラゴンの姿に変貌したダーレンは、レージュを一瞥してから、鋭い爪でアンデットたちを蹴散らし始めた。

 彼の邪魔にならぬようレージュは、魔法で周囲にバリアを貼りながら引き下がった。

『あらまぁ、ドラゴンは獰猛で怖い。怖い』

 空から『うふふ』と怪しげな笑い声が響く、声がしたのは黄金色の蝶々からだ。

 レージュは反射的に破壊の呪文を唱えた。

 本能的に蝶々から危険なモノを感じとったからだ。手加減する余裕などなかったため、ゴシック建築である聖堂の天井は、ぽかりと丸い穴が空いた。

 ついでに、聖堂の周りに立っていた木々がバタバタと倒れていく音がする。

 爆発音と共に黄金色の蝶々は姿を消したので逃げられたかもしれない。

 動き回るアンデットを地道に処理するのが面倒になったのであろうか。ダーレンは口から青い炎を吐き出し、刺客たちを消し炭にしていく。

 炎が天井の穴から漏れ、森へと流れた。
 まずい。このままでは森が……。

「ダーレン様。もうやめてください!」

 レージュは危険を承知で、ダーレンに近づき、そっと抱きついた。すると、今まで暴れていたドラゴンの動きがピタリと止まる。

「もう敵は消し炭になりました。私のために無理をするのは、もうやめてください」

 ドラゴンは長い首を伸ばし、頭の側面でレージュの背中を優しく撫でた。


***


「少しひんやりするかもしれませんが、動かないでくださいね」

 我が家で一番広い寝室――つまりダーレンの部屋で、レージュは雪の結晶が描かれた丸い瓶の蓋を空けた。ベッドの上で寝転ぶドラゴンの傷跡に、粘り気がある銀色のポーションをかける。

 アンデットの強さというものは、作り出した術者の強さに左右される。

 ただでさえ物理的にも魔法的にも強いドラゴンの皮膚に傷をつけられるほどのアンデットを作り出せるとは。

 刺客を送ってきた者は一体……?

 ポーションをかけ、呪文を全て詠唱し終わったので瓶の蓋を閉めて部屋の外に出る。
 さて、空になった瓶をキッチンへ置きに行かないと。

 廊下に出ると満面の笑みを浮かべたリゼが立っていた。

「リゼさん……?」
「奥様、瓶は私が片付けておきますから、今夜は坊ちゃんとお休みください」
「いや、でも……リゼさんをこんな時間まで働かせる訳には……」

 日が暮れてからだいぶ時間が経っている。
 家々の窓に灯されていた光はすっかり消え失せ、とうに就寝するべき時間が過ぎていることが分かった。

「いいですから。お気になさらずに」

 リゼは使用人だとは思えないぐらい強引に瓶を回収してから、キッチンの方へ向かった。

 ガチャリとドアを開けて部屋に戻る。

 部屋に入ってきたのがレージュだと気づいたダーレンは目を見開いた。

「ダーレン様。今夜は一緒にお休みしてもよろしいでしょうか?」

 どうしよう拒否されてしまったら。
 今まで別々の部屋で眠っていたというのに、いきなり一緒に眠りたいだなんて。

 はしたない女だと思われたらどうしましょう?

 ダーレンはゆっくりと目を閉じて、小さく翼を広げた。

「ありがとうございます!」

 ぱぁっ、と笑顔を花開かせたレージュはダーレンの体を枕にするように、翼の内側にもぐりこむ。さりげなく部屋に入ってきたマシュもベッドの上に登ってきた。

 あら、ダーレン様の肌ってヒンヤリするんですね。

 目を閉じると翼がレージュの体を覆うように、元の位置へ戻った。まるで、最愛の人を守るように。

 今夜はきっと怖い夢なんて見ません!

 幸せそうな表情を浮かべながらレージュは夢の中へ意識を落とした。
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