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第7灯「新庄さん」
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新庄さんという人がいる。
いわゆる“見える人”で、心霊の類だけでなく、人の未来や過去も少しだけ見えるらしい。
そんな新庄さんが、始業の30分も前に出社してきた。
いつもギリギリ出勤が当たり前の彼にしては異常な早さだ。しかも、ひどく慌てた様子で同僚の平山を探していた。
「平山君どこ!? どこにいる!?」
ただならぬ様子に、周囲の社員も驚き、一斉に平山を探し始める。
普段は早く来ているはずの平山が、今日はまだ来ていなかった。
「俺、電話かけてみます」
後輩の高橋が連絡網を開き、平山に電話をかける。
みんなが注目する中、しかし電話は繋がらなかった。
「俺、休む! ごめん!」
そう言い残し、新庄さんは会社を飛び出していった。
「木山君、すまないが……新庄君について行ってくれ」
課長に言われ、俺は慌てて後を追う。
会社の前でタクシーを止めている新庄さんを見つけ、そのまま一緒に乗り込んだ。
「どちらまで?」
「ここ!」
新庄さんは社員名簿を開き、平山の住所を指さした。
「かしこまりました」
運転手が頷き、車は走り出す。
「それにしても、平山、どうしたんでしょうね……」
ふと声をかけると、新庄さんは眠っていた。
(あれだけ慌てていたのに……?)
少しして、タクシーは平山のアパートに到着した。
名簿には「202」と書かれていたので、その部屋に向かおうとすると、新庄さんは逆方向に走り出した。
向かったのは、駐車場だった。
202の駐車スペースには、車がなかった。
(もう会社に向かったってことか……? でも、まだ連絡はない……)
新庄さんはその場所に膝をつき、手のひらをアスファルトに押し当てた。
数秒後、ピンと立ち上がり、叫ぶ。
「ブレーキ!」
「えっ、ブレーキがどうしたんですか!?」
「公園!」
「えっ、公園? ここら辺にあるんですか?」
「夢で見た!」
タクシーに再び乗り込み、公園の位置を告げて急いでもらう。
数分後、見えてきたのは池のある小さな公園。そこにはすでに人だかりができていた。
「平山君!」
そう叫ぶや否や、新庄さんは池に飛び込む。
あまりに突然のことに、俺はしばし呆然と立ち尽くすしかなかった。
やがて、消防車と救急車のサイレンが聞こえてくる。
水音がして、振り向くと、びしょ濡れの平山を抱えて池から上がる新庄さんの姿があった。
後に聞いた話によると、平山はブレーキが壊れて車が止まらなくなったが、通行人を巻き込むわけにはいかないと、公園の池に自ら飛び込んだのだという。
新庄さんは、平山が苦しむ夢を朝に見たらしい。
だが、その夢は“過去”ではなく、“これから起きる出来事”だった。
しかも、平山はその日、たまたま体調が悪く、出発がいつもより遅れていた。
もし、いつも通りに出勤していたら——
もう、助かっていなかったかもしれない。
いわゆる“見える人”で、心霊の類だけでなく、人の未来や過去も少しだけ見えるらしい。
そんな新庄さんが、始業の30分も前に出社してきた。
いつもギリギリ出勤が当たり前の彼にしては異常な早さだ。しかも、ひどく慌てた様子で同僚の平山を探していた。
「平山君どこ!? どこにいる!?」
ただならぬ様子に、周囲の社員も驚き、一斉に平山を探し始める。
普段は早く来ているはずの平山が、今日はまだ来ていなかった。
「俺、電話かけてみます」
後輩の高橋が連絡網を開き、平山に電話をかける。
みんなが注目する中、しかし電話は繋がらなかった。
「俺、休む! ごめん!」
そう言い残し、新庄さんは会社を飛び出していった。
「木山君、すまないが……新庄君について行ってくれ」
課長に言われ、俺は慌てて後を追う。
会社の前でタクシーを止めている新庄さんを見つけ、そのまま一緒に乗り込んだ。
「どちらまで?」
「ここ!」
新庄さんは社員名簿を開き、平山の住所を指さした。
「かしこまりました」
運転手が頷き、車は走り出す。
「それにしても、平山、どうしたんでしょうね……」
ふと声をかけると、新庄さんは眠っていた。
(あれだけ慌てていたのに……?)
少しして、タクシーは平山のアパートに到着した。
名簿には「202」と書かれていたので、その部屋に向かおうとすると、新庄さんは逆方向に走り出した。
向かったのは、駐車場だった。
202の駐車スペースには、車がなかった。
(もう会社に向かったってことか……? でも、まだ連絡はない……)
新庄さんはその場所に膝をつき、手のひらをアスファルトに押し当てた。
数秒後、ピンと立ち上がり、叫ぶ。
「ブレーキ!」
「えっ、ブレーキがどうしたんですか!?」
「公園!」
「えっ、公園? ここら辺にあるんですか?」
「夢で見た!」
タクシーに再び乗り込み、公園の位置を告げて急いでもらう。
数分後、見えてきたのは池のある小さな公園。そこにはすでに人だかりができていた。
「平山君!」
そう叫ぶや否や、新庄さんは池に飛び込む。
あまりに突然のことに、俺はしばし呆然と立ち尽くすしかなかった。
やがて、消防車と救急車のサイレンが聞こえてくる。
水音がして、振り向くと、びしょ濡れの平山を抱えて池から上がる新庄さんの姿があった。
後に聞いた話によると、平山はブレーキが壊れて車が止まらなくなったが、通行人を巻き込むわけにはいかないと、公園の池に自ら飛び込んだのだという。
新庄さんは、平山が苦しむ夢を朝に見たらしい。
だが、その夢は“過去”ではなく、“これから起きる出来事”だった。
しかも、平山はその日、たまたま体調が悪く、出発がいつもより遅れていた。
もし、いつも通りに出勤していたら——
もう、助かっていなかったかもしれない。
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