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四、皇帝陛下を待ち侘びて
皇帝陛下を待ち侘びて⑥
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「陛下、お帰りなさいませ」
「陛下、よくぞご無事で!」
宦官達の大声援で、つい先程まで静まり返っていた黄龍殿が一気に活気づいた。大勢の軍人を引き連れ、玉風が入ってくる。その隣には、皇帝陛下直属の軍隊で隊長を務めている来儀の姿もある。
来儀は『皇帝陛下の片腕』とも言われる程玉風からの信頼も厚く、出兵の際には必ず同行していた。筋骨隆々なその姿は、まるで戦場を駆け回る勇ましい獅子のようだ。
「陛下、お帰りなさいませ。お待ちしておりました」
「お帰りなさいませ。ご無事で何よりでございます」
「陛下。寂しゅうございました」
美麗達が笑みを浮かべながら優雅に拱手礼をする。
「陛下のお留守を、私、美麗がしっかりとお守りしておりました。お腹の子供も元気に……」
「そんな事はどうでもいい、どけ」
「え?」
「お前達のことなどはどうでもいいのだ」
玉風は体を寄せてくる美麗を突き放す。
「どけと言っているのだ。俺は先帝の忘れ形見も、寄せ集めの妃にも興味などない」
「なんですって……」
皇妃達の顔色が一瞬で青ざめる。
「私が心配していたのは……」
玉風は仔空を見つけると優しい笑みを浮かべた。
「仔空貴人。お前だけだ」
「陛下……」
仔空に向かって歩いてくる玉風は、豪華な甲冑に身を包んだ軍人そのものだった。綺麗に整った顔には、戦で負ったであろう痛々しい傷がたくさんついている。
「陛下、ご無事で何よりです」
「あぁ。久しぶりだな、仔空貴人」
玉風は仔空の元へ駆け寄りそっと頬を撫でた。
「ん?」
愛おしそうに仔空の頬と髪を撫でていた玉風の手が、ピタッと止まる。
「其方、熱があるのか? 体がいやに熱い」
「……いえ、別に……」
「大丈夫か? 顔色が良くないぞ」
心配そうに自分を覗き込む玉風の手を、仔空はそっと握った。
「陛下が戻られた大切な時だというのに、大変申し訳ありません」
「そんな事はどうでもよい。後宮生活で辛いことでもあるのか? 何でも私に言うがいい」
「光栄でございます。私は大丈夫ですので……」
「嘘をつけ。顔が真っ青で冷や汗をかいているではないか」
「陛下……私は……」
仔空を抱き寄せる様子を見た他の皇妃達の顔が、一瞬で鬼のような形相になる。
「私は、大丈夫です……」
次の瞬間、仔空の目の前が真っ暗になりグラグラと世界が揺れ、立ってさえいられなくなった。それと同時に、仔空の胃の中から生暖かくてドロドロしたものが急激に込み上げてくるのを感じた。その不快な物体は口の中に貯留し、何とか嚥下しようとするもそれは叶わなかった。
「グハッ! ゴホッゴホッ! はぁはぁ……」
仔空が吐き出したものは、真っ赤な血だった。一度吐き出してしまうと、血はとめどなく次から次へと込み上げてくる。仔空は自分の胸を掻きむしった。目の前が真っ暗になり、呼吸さえままならない。
――僕は、このまま死ぬのだろうか……。
そんな死の予感が頭を過ぎった。
全身から力が抜け、ガクンと膝から地面に崩れ落ちる。
「陛下……」
最後にそう呼ぼうと口を開いたが、それは声にはならなかった。
「仔空貴人!」
――陛下、お会いできてよかった……。
仔空の頬を、一粒の涙が伝う。
「其方、毒を飲んだな」
うっすらと玉風の声を聞きながら、仔空は意識を手放したのだった。
「陛下、よくぞご無事で!」
宦官達の大声援で、つい先程まで静まり返っていた黄龍殿が一気に活気づいた。大勢の軍人を引き連れ、玉風が入ってくる。その隣には、皇帝陛下直属の軍隊で隊長を務めている来儀の姿もある。
来儀は『皇帝陛下の片腕』とも言われる程玉風からの信頼も厚く、出兵の際には必ず同行していた。筋骨隆々なその姿は、まるで戦場を駆け回る勇ましい獅子のようだ。
「陛下、お帰りなさいませ。お待ちしておりました」
「お帰りなさいませ。ご無事で何よりでございます」
「陛下。寂しゅうございました」
美麗達が笑みを浮かべながら優雅に拱手礼をする。
「陛下のお留守を、私、美麗がしっかりとお守りしておりました。お腹の子供も元気に……」
「そんな事はどうでもいい、どけ」
「え?」
「お前達のことなどはどうでもいいのだ」
玉風は体を寄せてくる美麗を突き放す。
「どけと言っているのだ。俺は先帝の忘れ形見も、寄せ集めの妃にも興味などない」
「なんですって……」
皇妃達の顔色が一瞬で青ざめる。
「私が心配していたのは……」
玉風は仔空を見つけると優しい笑みを浮かべた。
「仔空貴人。お前だけだ」
「陛下……」
仔空に向かって歩いてくる玉風は、豪華な甲冑に身を包んだ軍人そのものだった。綺麗に整った顔には、戦で負ったであろう痛々しい傷がたくさんついている。
「陛下、ご無事で何よりです」
「あぁ。久しぶりだな、仔空貴人」
玉風は仔空の元へ駆け寄りそっと頬を撫でた。
「ん?」
愛おしそうに仔空の頬と髪を撫でていた玉風の手が、ピタッと止まる。
「其方、熱があるのか? 体がいやに熱い」
「……いえ、別に……」
「大丈夫か? 顔色が良くないぞ」
心配そうに自分を覗き込む玉風の手を、仔空はそっと握った。
「陛下が戻られた大切な時だというのに、大変申し訳ありません」
「そんな事はどうでもよい。後宮生活で辛いことでもあるのか? 何でも私に言うがいい」
「光栄でございます。私は大丈夫ですので……」
「嘘をつけ。顔が真っ青で冷や汗をかいているではないか」
「陛下……私は……」
仔空を抱き寄せる様子を見た他の皇妃達の顔が、一瞬で鬼のような形相になる。
「私は、大丈夫です……」
次の瞬間、仔空の目の前が真っ暗になりグラグラと世界が揺れ、立ってさえいられなくなった。それと同時に、仔空の胃の中から生暖かくてドロドロしたものが急激に込み上げてくるのを感じた。その不快な物体は口の中に貯留し、何とか嚥下しようとするもそれは叶わなかった。
「グハッ! ゴホッゴホッ! はぁはぁ……」
仔空が吐き出したものは、真っ赤な血だった。一度吐き出してしまうと、血はとめどなく次から次へと込み上げてくる。仔空は自分の胸を掻きむしった。目の前が真っ暗になり、呼吸さえままならない。
――僕は、このまま死ぬのだろうか……。
そんな死の予感が頭を過ぎった。
全身から力が抜け、ガクンと膝から地面に崩れ落ちる。
「陛下……」
最後にそう呼ぼうと口を開いたが、それは声にはならなかった。
「仔空貴人!」
――陛下、お会いできてよかった……。
仔空の頬を、一粒の涙が伝う。
「其方、毒を飲んだな」
うっすらと玉風の声を聞きながら、仔空は意識を手放したのだった。
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