幸せを呼ぶ坤澤は皇帝陛下に寵愛される

舞々

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六、結ばれた二人

結ばれた二人②

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 玉風が治める『魁帝国』の北西には、『慶帝国けいていこく』いう国がある。
 慶帝国は、魁帝国に比べれば小さな国ではあるが、豊かな水源に恵まれていた。水に恵まれているということは、農作物がよく育つということだ。結果、国が潤う。
 慶帝国の皇帝陛下の名は『魁夏雲カイシァユン』。玉風の実弟だった。


「この前陛下が出陣された時も、夏雲陛下が同行されていたのですよ」
「へぇ、そうだったんですね」
「はい。その夏雲陛下が、ここ魁帝国においでになるとのことです」
「夏雲陛下が?」
「はい。夏雲陛下は政治の他に女性にもひどく熱心な方なので、仔空妃殿下の噂を聞きつけたのでしょうね」
 夏雲は玉風に似て器量が良く、政治においてもその賢さを遺憾無く発揮している。しかし、女好きということでも有名だった。
「え? 僕ですか? それだけで?」 
 一国の主ともあろう人物がわざわざ自分を見る為だけにやってくるなんて、信じ難いことだった。


「ふふっ。ご安心ください。何も仔空妃殿下にお会いにいらっしゃるだけではありません。陛下と夏雲陛下の関係は良好とは言えませんが、時々情報交換のためお会いになることがあるのです」
「そうですか……」
「はい。陛下からしてみたら、世界にたった一人しかいない弟君ですから」
 そう言いながら香霧がニッコリ微笑む。
「しかしながら、警戒はしておいてくださいね。あの方は、気に入った妃には見境なく手を出しますから」
「見境なく、ですか? それはなんと言いますか……」
 仔空は密かに、気に入った者になら誰でもいくらでも金を払って抱こうとする、花屋の客人たちのことを思い出した。一国の主に失礼と思いつつも。
「えぇ。例えそれが、自分の父親の妃でも……」


 香霧は話しながら仔空の為に煎じ薬を準備してくれている。毒は完全に抜けたはずなのに、仔空の熱っぽさは消えなかった。それを心配した玉風が、薬を飲めと口うるさいくらいに騒ぎたてるのだ。
「仔空妃殿下は女性のような体付きではありませんが、お美しいので十分お気を付けください」
「……はい……」
「なにせ、陛下は仔空妃殿下に夢中なのですから」 
 仔空は、火照る頬を両手で押さえて俯いた。


「今晩も陛下は桜の宮に参ります。念入りにご準備をなさってお待ちください」 
 香霧とは別の宦官が仔空の元を訪れ、そう告げる。玲玲が大きな瞳を輝かせた。
「まぁ! それでは急いで準備をしないと!」
 まるで自分のことのように喜んでくれる玲玲を見ているだけで、仔空まで幸せな気持ちになってくる。


「毎日陛下にお会いできるなんて嬉しいですね、仔空妃殿下……あ、そういえば、妃殿下は皇妃様達のはいの噂をお聞きになりましたか?」
「牌……ですか?」
「そうでございます。陛下はその日訪れる皇妃様を、牌でお決めになるのです。牌はお盆の上で裏返されていて、ひっくり返すまでその日に閨を共にする皇妃様がわからないようになっています」
「はぁ……そんなものが」
「それでですね……なんと、まさかの事が起きたのです!」
 玲玲が更に目を輝かせた。
「なんと陛下は、仔空妃殿下以外の牌を、行燈の炎の中に放り込んだらしいのです」
「え?」
「もう、仔空妃殿下以外の閨には行かないという、陛下のお気持ちの表れではないでしょうか」


 その話を聞いた仔空の頬が熱くなり、胸が甘く高鳴るのを感じた。
 ――陛下が、そんなことを……。
 仔空は素直に嬉しく感じる。それと同時に、あんなに忌々しく思っていた雨露期が来ないことを寂しく感じた。


「さぁ、早く湯殿に参りましょう!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください」
 満面の笑みを浮かべた玲玲に、苦手な風呂へと連れて行かれてしまったのだった。


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