幸せを呼ぶ坤澤は皇帝陛下に寵愛される

舞々

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五、皇帝陛下の怒り

皇帝陛下の怒り①

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「陛下の寝台に貴人ごときが横になられるなんて!」
 仔空を玉風の寝台に寝かしたのを見て、宦官の一人が悲鳴をあげる。
「ごとき……?」
「ヒッ!」
「殺されたくないなら黙っていろ」
「は、は、は、はい。申し訳ございませんでした」
  青ざめた宦官が、勢いよく床にひれ伏した。


「で、貴人の容態はどうなんだ?」
「はい。仔空貴人の体には無数の紫斑があるので、恐らく鴆毒ちんどくに侵されたものだと……」
「鴆毒だと?」
「はい。毒鳥である鴆の羽毛に含まれている毒で、飲むと舌先がピリピリするのが特徴です。鴆毒は遅効性で、解毒薬である『チャ』という木の実を煎じて飲めば命に別状はないとされています。しかし何もせず放置すれば、時には命を奪うこともあるのです」
「原因がわかったのなら、早く解毒剤を持ってこい!」
「しかし、今『チャ』の実を摂取したところで手遅れかと……」
「黙れ! 持ってこいというのが聞こえなかったのか?」
「はい、只今!」
 王宮内で一番の名医と名高い侍医が、顔を真っ青にしながら薬庫に向かって走り出す。


「貴人を殺したら、お前達も生きていられると思うなよ」
 床にひれ伏している侍医達に向かい、玉風は睨みを利かせる。
「は、はい! 承知致しました!」


◇◆◇◆


 侍医が煎薬せんじぐすりを持ってきた頃には、玉風の堪忍袋の緒が切れる寸前であった。玉風は「遅い!」と、侍医から煎薬を奪い取ると横になっていた仔空の体を抱き起こす。


「貴人、さぁ、飲め。解毒薬だぞ」
 器を口元に運んでも仔空はそれを飲み込むことができず、タラタラと口の端から垂れてしまった。
「貴人、これを飲まなければ其方は死んでしまう。俺を置いて死なないでくれ」
 低く唸り声を上げた後、玉風は煎薬を自分の口に含む。
「へ、陛下? 一体何を?」
 侍医達の慌てた声など全く気にする様子もなく、玉風は自分の唇を仔空の唇に押し当てる。そのままそっと口移しで煎薬を注ぎ込んだ。
 コクンと仔空の喉が動くのを確認した玉風は、安堵の表情を浮かべる。


「よし、いい子だ」
 それから何度も煎薬を口に含み、仔空に与え続けた。
「頼む、目を開けてくれ」
 玉風が大切そうに仔空を抱き締める。
「貴人、生きていてくれ」
 悲痛な囁きが閨に響き渡る。
「また煎薬を飲ませにくるから、少し待っていろ。お前の仇は、この俺がとる」
 仔空の唇に再度口付けをしてから、玉風は静かに立ち上がった。
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