幸せを呼ぶ坤澤は皇帝陛下に寵愛される

舞々

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八、捕らわれた妃

捕らわれた妃⑦

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「私は幼い頃から王宮に仕え、ずっと陛下のお世話をしてきた。そしていつの頃からか陛下に恋情を抱くようになったが、私は男であり乾元でもある。陛下と結ばれるはずなどない。年頃になった陛下が皇妃を迎える覚悟はできていた。所詮男の俺が女に敵うはずなどないと、諦めてもいた。しかし……」
 ギラついた目で睨み付けられ、喉がヒュッと鳴ると同時に心臓がバクバクと拍動を打った。


「陛下が寵愛したのは、まさか売春宿にいた薄汚い坤澤だなんて……許せない……」
 端正な香霧の顔が歪み、切れ長の美しい瞳に涙が溜まっていく。


「子を孕むことができない私は、一生陛下の寵愛を受けることはできない。貴方に違う番ができれば……と思って夏雲陛下をそそのかしたものの、それも失敗に終わった」
「夏雲陛下も香霧さんが……」
「その通りだ。貴方を強制的に発情させ夏雲陛下の番にし、この王宮から追い出そうとしたのだ」
「そんな……」
「こうなったら、最早手段を選んでる暇はない……私が貴方を番にし、ここから追い出してやる」
「……え……?」
「陛下が貴方と番になることに執着しているのは明らかだ。別の番ができた貴方には、何の価値もない」


 発情した乾元が見せる独特の視線に、仔空は強い恐怖を感じた。逃げることなんてできるはずもない。香霧の瞳に、怯えた坤澤が映し出された。


「こんなもの、目障りだ」
 薄く笑う香霧が、仔空の首輪を勢いよく引きちぎり床に投げ捨てる。


 「私の番にしてさしあげよう。身を委ねなさい。今後のことも悪いようにはしないから」
 「い、嫌だッ!」


 無遠慮に着物の中に侵入してきた香霧の手に、仔空は無意識に体を強張らせる。口では香霧を拒絶していても、坤澤としての本能がこの優秀な乾元を求めて止まないのだ。
 歯を食い縛り堪えるも信香は留まることなく溢れ出して、室内は甘ったるい匂いで噎せ返りそうだ。


「嫌だ……やめて……」
 強引に床に押しつけられてしまえば、太刀打ちできる術などなかった。絶体絶命という言葉が仔空の頭を過る。
 せめて項を守らなければ……。最後の力を振り絞って、仔空は体をバタつかせる。とにかくこの乾元から逃れたい。もう一度、玉風に会いたい。


「暴れるな。いい加減諦めるのだ」
「嫌だ、離して……離して!」
「暴れるな!」
 香霧の大声に、仔空の体が硬直する。まるで全身が凍り付いたかのように、動かなくなってしまった。


 ――やっぱり乾元は怖い……。


 逆らえるはずなどない。こんな坤澤が。
 頬をボロボロと涙が伝うのに、体は熱く火照って桃色に色付く。胸の飾りは痛いくらいに尖り、後孔からはトロトロと甘い蜜が溢れ出し下着を湿らせていく。呼吸は早く浅くなり、口角からはだらしなく涎が溢れ出した。
 香霧に首筋を撫でられるだけで、体が飛び跳ねるほどに反応する。いくら口では拒絶していても体は香霧を求めてしまっていることなど、隠しきれるはずがなかった。


「仔空妃殿下。いや、仔空。抱いてくださいっておねだりできますか?」
「…………?」
「美しく哀れな坤澤よ。ほら、抱いて欲しいと私を求めてごらん?」
「はぁはぁ、嫌だ、嫌だ……」
「大丈夫だよ。素直に本能に従ってごらん? 体は乾元を求めているはずだ」
「はぁ……ッ。嫌だ、嫌だぁ……!」


 しかし仔空自身も気付いていた。体は香霧を求めていることを。頭がボーッとしてきて、抵抗する気力さえ消えていってしまう。あの、夏雲に襲われた時のように。自分の理性だけではどうにもすることができなかった。


 ――仕方ない。これが坤澤の運命なのだ。父様、母様。幸せになれなくてごめんなさい……。


 ――ごめんなさい、陛下。


 僕は、所詮浅ましい坤澤です。


「抱いて……ください……」
「仔空」
「僕は、香霧さんに抱かれたい……」
「いい子ですね」
 香霧が満足そうに微笑む。
「ん、あっ……はぁ……あ、はぁ……」
「仔空、仔空……」


 うなされたような表情で、何度も何度も名前を呼ばれ口付けられる。
 両親が幼い頃に話してくれたように、いつか運命の番と出会って幸せになりたい。ずっとそう思って生きてきた。夢物語とは思いながらも、これを信じていたからあの売春宿でも生きてこられた。
 しかしそんな彼の夢は、圧倒的な乾元の力の前に一瞬で砕け散って行く。
 逞しい体に覆い被さられ、満足に呼吸もできない。体は自分でもどうにもならない程に疼き、自分でも制御できない。


 「あ、あっあぁ……!」
 香霧の荒々しく動く指が、熱く火照った体をなぞっていく。待ちわびた感覚に、喉の奥から悲鳴が漏れた。香霧の唇が、仔空の首筋に寄せられる。


 「お願い! お願いだから……噛まないで……ッ!」
 体を強ばらせ最後の抵抗を試みるも、無力だった。痛い程尖った胸の突起をキュッと摘ままれ、堪えきれずに甘い嬌声が溢れ出す。体がビクンビクンと跳ね上がり、嬉々としてその快感を受け止めた。


「……あッ、んんっ……やめ……て……あ、はぁ……」
「嘘をつけ。大分良さそうではないか」
「嫌だ、嫌だ……陛下!」
「その名前を私の前で呼ぶな! お前は私の番となるのだ」
 言い聞かせるかのように囁かれ、香霧の舌が仔空の全身を這い回る。


「貴方と陛下が一緒にいるのを目にするたび、この身が焼き尽くされる思いだった。ようやく今日、それも終わる……」
「はぁ……あッ……」
「わかるか? 私の気持ちが……。お前が陛下に抱かれていると思うだけで、胸が焼けるようだった……。全てはお前のせいだ……。お前さえいなければ……!」
 香霧の声は聞こえてくるのに、頭の芯が痺れてボーっとしてくる。


 この乾元の子を身籠りたい。
 もっと深く、奥深くまで受け入れたい。


「ごめ、ごめんなさい……陛下……。所詮、僕は坤澤なんだ」


 仔空にできることは香霧に体を預ける以外になかった。
 ただ襲いかかる快感の坩堝に飲み込まれないよう、必死に耐える。発情などという、一時の感情に流されたくなどなかった。それが今の仔空にできる、精一杯の玉風への罪滅ぼしだったから。


「ひッ……!」


 首筋に、熱く鋭い痛みを感じて目を見開く。


「ごめんなさい、陛下……ごめんなさい」


 首筋から温かい血が流れる感覚に身震いをする。 


 仔空はもう戻れない。 
 あの美しい桜が咲き乱れた桜の宮にも。
 キラキラと輝く黄龍殿にも。
 玉風と愛し合った閨にも。


 たった今、仔空には番ができた。

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