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九、命に変えても
命に変えても②
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「陛下、恐れ多くも、私の話を聞いていただきたくて参りました」
「其方は……」
「はい。私は紅と申します。後宮に嫁いでから、陛下と関わる機会などございませんでした。しかし、どうしても私の話を聞いていただきたいのです」
「紅妃……。わかった、其方の話を聞こう。話してみよ」
「ありがとうございます」
紅と名乗った皇妃を、玉風は今日まで意識して見たことなどなかった。紅は他の皇妃達と違い、しゃしゃり出てくることもなかったし、仔空を陥れようとしたこともなかった。
いつも、静かに微笑んでいる……そんな目立たない皇妃。、仔空も、紅だけには警戒心を解いているように見えた。
「私は以前、美麗皇后と香霧が、仔空妃を陥れるための話をしているところを目撃してしまいました。それ以来、香霧のことをどうにも怪しく感じ、ずっと警戒していたのです」
「ほう……」
紅の言葉に、玉風が眉を寄せた。
「香霧が冷宮に向かった時、私は後を追いましたが、結局仔空妃を助けてあげることができませんでした。私がもっと早く、香霧のことを陛下にお話しすることができていたならば、仔空妃がこんな目に合わなかったかったかもしれません」
「紅……」
「私は、美麗皇后が恐ろしいあまり、保身に走ってしまったのです。陛下、本当に申し訳ございませんでした!」
床にひれ伏した紅が言葉を詰まらせる。そんな紅の傍へ静かに玉風が近付いた。
「陛下、仔空妃は陛下を裏切るような方ではありません。仔空妃はとても優しい方です。皇太子を殺害し、その罪を仔空妃殿下に擦り付けようした……。悪いのは全て香霧です!」
「わかった、紅妃。ありがとう」
玉風が紅の肩にそっと手を置き、大きく息を吐いた。
「ほんの一瞬でも、仔空妃を信じてやれなくなってしまったことが恥ずかしく思う。しかし、其方のおかげで、俺はまた仔空を信じることができた。紅よ、心から感謝するぞ」
「陛下……。どうぞ、私に罰を与えてください。私は仔空妃をお守りすることができませんででした」
「いや、其方を罰するつもりなどさらさらない。それより、なぜ自分が罪に問われることを覚悟してまで、真実を打ち明けてくれたのだ? このまま黙っていればよかっただろうに……」
玉風が紅の傍に片膝をついてしゃがみ込む。そんな玉風の顔を、紅は目にたくさんの涙を浮かべながら見上げた。
「恐れ多くも、実は……私は後宮に嫁ぎたくなどなかったのです。しかし、皇妃に選ばれたからには嫁ぐしかない……。私は夢描いていた将来を全て諦めて、後宮に参りました。しかし、いざ後宮に嫁いでみれば、皇妃達の実にくだらない意地の張り合いに、足の引っ張り合い……。そんな醜い世界に心の底から嫌気がさしていたのです」
はらりと紅の頬から涙が伝う。その涙を拭うことさえせず、紅はうっすらと笑みを浮かべた。
「そんな後宮の生活から逃げ出したいと思っていた時、仔空妃が後宮へと嫁いでこられたのです。仔空妃は他の皇妃達と比べるととても優しくて、素直で可愛らしい方でした。いつからか、仔空妃にお会いすることで、私の心は癒されるようになったのです」
「そうか……」
「だから、私は仔空妃には陛下と幸せになってほしい……そう願ってやみません」
紅がもう一度深く頭を下げる。そんな紅の背中を玉風が気遣うように擦った。
「わかった。紅妃よ。ありがとう。もう下がってよいぞ」
「はい、陛下。どうか、仔空妃がまた元気になられますように……」
そう言い残し、紅は黄龍殿を後にした。
「其方は……」
「はい。私は紅と申します。後宮に嫁いでから、陛下と関わる機会などございませんでした。しかし、どうしても私の話を聞いていただきたいのです」
「紅妃……。わかった、其方の話を聞こう。話してみよ」
「ありがとうございます」
紅と名乗った皇妃を、玉風は今日まで意識して見たことなどなかった。紅は他の皇妃達と違い、しゃしゃり出てくることもなかったし、仔空を陥れようとしたこともなかった。
いつも、静かに微笑んでいる……そんな目立たない皇妃。、仔空も、紅だけには警戒心を解いているように見えた。
「私は以前、美麗皇后と香霧が、仔空妃を陥れるための話をしているところを目撃してしまいました。それ以来、香霧のことをどうにも怪しく感じ、ずっと警戒していたのです」
「ほう……」
紅の言葉に、玉風が眉を寄せた。
「香霧が冷宮に向かった時、私は後を追いましたが、結局仔空妃を助けてあげることができませんでした。私がもっと早く、香霧のことを陛下にお話しすることができていたならば、仔空妃がこんな目に合わなかったかったかもしれません」
「紅……」
「私は、美麗皇后が恐ろしいあまり、保身に走ってしまったのです。陛下、本当に申し訳ございませんでした!」
床にひれ伏した紅が言葉を詰まらせる。そんな紅の傍へ静かに玉風が近付いた。
「陛下、仔空妃は陛下を裏切るような方ではありません。仔空妃はとても優しい方です。皇太子を殺害し、その罪を仔空妃殿下に擦り付けようした……。悪いのは全て香霧です!」
「わかった、紅妃。ありがとう」
玉風が紅の肩にそっと手を置き、大きく息を吐いた。
「ほんの一瞬でも、仔空妃を信じてやれなくなってしまったことが恥ずかしく思う。しかし、其方のおかげで、俺はまた仔空を信じることができた。紅よ、心から感謝するぞ」
「陛下……。どうぞ、私に罰を与えてください。私は仔空妃をお守りすることができませんででした」
「いや、其方を罰するつもりなどさらさらない。それより、なぜ自分が罪に問われることを覚悟してまで、真実を打ち明けてくれたのだ? このまま黙っていればよかっただろうに……」
玉風が紅の傍に片膝をついてしゃがみ込む。そんな玉風の顔を、紅は目にたくさんの涙を浮かべながら見上げた。
「恐れ多くも、実は……私は後宮に嫁ぎたくなどなかったのです。しかし、皇妃に選ばれたからには嫁ぐしかない……。私は夢描いていた将来を全て諦めて、後宮に参りました。しかし、いざ後宮に嫁いでみれば、皇妃達の実にくだらない意地の張り合いに、足の引っ張り合い……。そんな醜い世界に心の底から嫌気がさしていたのです」
はらりと紅の頬から涙が伝う。その涙を拭うことさえせず、紅はうっすらと笑みを浮かべた。
「そんな後宮の生活から逃げ出したいと思っていた時、仔空妃が後宮へと嫁いでこられたのです。仔空妃は他の皇妃達と比べるととても優しくて、素直で可愛らしい方でした。いつからか、仔空妃にお会いすることで、私の心は癒されるようになったのです」
「そうか……」
「だから、私は仔空妃には陛下と幸せになってほしい……そう願ってやみません」
紅がもう一度深く頭を下げる。そんな紅の背中を玉風が気遣うように擦った。
「わかった。紅妃よ。ありがとう。もう下がってよいぞ」
「はい、陛下。どうか、仔空妃がまた元気になられますように……」
そう言い残し、紅は黄龍殿を後にした。
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