幸せを呼ぶ坤澤は皇帝陛下に寵愛される

舞々

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九、命に変えても

命に変えても④

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「仔空妃殿下を捜すのだ!」
「川は見た目以上に深く流れが速い。十分に気を付けるように!」
 手に行燈を持った家来達が川の中を照らし、様子を窺っている。


「生きているはずなどないではないか……」
 来儀の頭には最悪の結果しか浮かんでこない。なのに玉風からは、諦めるという気配は全く感じられない。それどころか、川の流れに沿うようにゆっくりと川下に向かって歩き出した。


「ここにはいない」
「陛下、お気を付けください」
「わかっている」
 キラキラと月光を浴び輝く川。玉風はその水面を見つめながら、どんどん一人で歩いて行ってしまう。まるで何かに導かれているようだった。


「仔空、私はまだ幸せになってなどいないぞ……。今助けに行くからな」
 玉風の着ていた上着がパサリと地面に落ちた。


「陛下、何を……」
「いいからお前はここで待っていろ」
「陛下! なりません!」
「離せ、私は大丈夫だ」
「しかし……」
 来儀が玉風の腕を掴んだが、強い力で振り払われてしまう。行かせるものか……再び玉風に向かって手を伸ばした瞬間、体がヒラリと宙を舞う。
「陛下!」
 あと一歩、というところで来儀は玉風の腕を掴むことができなかった。


 ドボンと、川に重たいものが落ちる音が響き渡る。来儀の体からスッと体温が消えていき、嫌な汗が額に滲んだ。
 一瞬茫然と立ち尽くしたが、ハッと我に返り大声で叫ぶ。


「陛下が川に飛び込んだ! 捜せ、捜せ!」
 来儀の耳をつんざくような声に、家来達の顔が青ざめる。
「陛下が……まさか……?」
 その場が騒然となり、来儀が小さく舌打ちをする。ここで皇帝陛下が亡くなったら大変なことになる……。
「見つけたらすぐに知らせろ!」
 自分も川に飛び込むしかない。来儀が意を決し着物を脱ぎかけた時。


「ん? なんだ……」


 地面に雫が垂れる音が聞こえてくる。ビチャビチャと水気を帯びた重たいものを引きずるような音が、少しずつ近付いてきた。
 振り返れば、ぐったりとした仔空を横抱きにした玉風が立っていた。
 玉風の足元には水溜りができている。大切そうに抱えられた仔空は真っ白な顔をしており、生気が全く感じられない。来儀は顔を強張らせた。


「大丈夫、まだ生きている。侍医を呼んでくれ。こんなに冷たくなって。可哀そうに……」
 玉風は目を開けようともしない仔空の頬に、そっと唇を押し当てた。

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