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第2章 公爵令嬢、料理人になりました
7. 物騒な料理名②
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「これが正しい作り方なので、大丈夫です!」
戸惑うアンナに、マリエットは堂々と答える。
卵といえばかき混ぜてから使うのが常識だから、驚かれるのは予想していたのだ。
「……どんな料理になるのか、怖くなってきたわ。料理の名前、聞いても良いかしら?」
「目玉焼きです。物騒な名前ですけれど、すごく美味しいですわ」
「目玉を焼くだなんて……名前だけ聞いたら食欲が消えそうだから、料理名は出さない方が良さそうね」
名前から想像すると、とても生々しい料理が想像できてしまう。
でも、今のところフライパンの上には卵が乗っているだけだから、言葉の綾に違いない。
アンナはそう考え、安堵しつつも自分の料理を進めていく。
一方のマリエットも、言葉を交わしながら手を動かし続け、タイミングを見て味付けをしていく。
そして程よく火が通ったところで火を止め、形を崩さないようにお皿に移していく。
黄身は白身の中心にあり、七つとも偏りのない綺麗な円形だ。
「――完成しました」
「綺麗な形ね。目玉焼きの理由も分かった気がするわ。早速味見しても良いかしら?」
「はい。黄身の部分が特に熱いので、気を付けてくださいね」
マリエットがそう口にすると、アンナは手で仰いで少し冷ましてから、目玉焼きを口に運ぶ。
けれども、直後に固まる様子を見て、マリエットは少しだけ焦りを感じた。
「……これ、すごく美味しいわ。上手く表現できないけれど、味付けが完璧だと思うわ」
「上手く出来て良かったです。これ、王家の皆様にお出しできるでしょうか?」
「ええ、もちろん。見た目が良くなるように盛り付けていきましょう!」
初日から評価されるとは思っておらず、驚きと嬉しい気持ちが入り混じる。
でも、まだ王族の評価は得ていないことを思い出し、すぐに頬を引き締め直す。
そしてアンナの助言を得ながら盛り付けを終えると、ちょうどダイニングの方から談笑する声が聞こえてきた。
今回の配膳担当になっている侍女がやって来たらしい。
「今日の料理はこれかしら?」
「ええ。崩れやすいから気を付けて」
「そんなこと言われなくても分かっているわ」
厨房に現れたのは、昨日マリエットを部屋に案内したカミラで、料理に視線を向けると明らかに嫌そうな顔をする。
「何か問題があったかしら?」
「この料理、そこの新人が作ったのかしら?」
「ええ」
「黄色と白のこれ……こんなに変わったものを陛下に出したら、何を言われるか分からないわ。今すぐ捨てましょう」
カミラはそう口にすると、トングに手を伸ばす。
けれど、その手がトングに触れることはなかった。
「彼女は新人でも優秀な料理人よ。無碍に扱うことは許さないわ」
「……陛下の身に何かあったら、責任は取れるのかしら?」
「ええ。私が食べて問題無かったから、大丈夫よ」
理由は分からないが、カミラに目を付けられてしまったらしい。
幸いにもアンナはマリエットの味方をしてくれるようで、先行きが不安になることはなかった。
それでも厄介なことに変わりはなく、マリエットの表情は少しだけ暗くなる。
カミラはそれに気付くと、マリエットに含みのある笑顔を向け厨房を後にした。
「……あれは気にしなくて良いわ。料理を粗末にする人は敵だもの」
「ありがとうございます」
そんな言葉を交わしながら、後片付けを進めていく。
料理人の仕事は食器を全て洗って片付けるところまででも、本来は見習いの仕事になっている。
マリエットも洗い物を任され、スキルを使ってあっという間に道具を綺麗にしていった。
「それ、何のスキルなのかしら?」
「これも料理スキルです。本来は野菜を綺麗にするために使うのですけど、洗い物は時間がかかるので……」
「私も料理スキル持ちだけど、そんな使い方は出来ないわ。マリエットのスキルはすごく便利そうね!」
そう口にしながら、目を輝かせるアンナ。
この会話の間に洗い場から物が消え、調理で汚れた厨房も輝きを取り戻す。
「……他にすることはありますか?」
「王家の皆様の食事が終わるのを待つことかしら?」
「ダイニングに聞こえないようにお話しましょう」
朝の仕事が殆ど終わり、雑談を始めるマリエット達。
しばらくすると、食器を下げに来た侍女に続いて、王族の一人が姿を見せるのだった。
戸惑うアンナに、マリエットは堂々と答える。
卵といえばかき混ぜてから使うのが常識だから、驚かれるのは予想していたのだ。
「……どんな料理になるのか、怖くなってきたわ。料理の名前、聞いても良いかしら?」
「目玉焼きです。物騒な名前ですけれど、すごく美味しいですわ」
「目玉を焼くだなんて……名前だけ聞いたら食欲が消えそうだから、料理名は出さない方が良さそうね」
名前から想像すると、とても生々しい料理が想像できてしまう。
でも、今のところフライパンの上には卵が乗っているだけだから、言葉の綾に違いない。
アンナはそう考え、安堵しつつも自分の料理を進めていく。
一方のマリエットも、言葉を交わしながら手を動かし続け、タイミングを見て味付けをしていく。
そして程よく火が通ったところで火を止め、形を崩さないようにお皿に移していく。
黄身は白身の中心にあり、七つとも偏りのない綺麗な円形だ。
「――完成しました」
「綺麗な形ね。目玉焼きの理由も分かった気がするわ。早速味見しても良いかしら?」
「はい。黄身の部分が特に熱いので、気を付けてくださいね」
マリエットがそう口にすると、アンナは手で仰いで少し冷ましてから、目玉焼きを口に運ぶ。
けれども、直後に固まる様子を見て、マリエットは少しだけ焦りを感じた。
「……これ、すごく美味しいわ。上手く表現できないけれど、味付けが完璧だと思うわ」
「上手く出来て良かったです。これ、王家の皆様にお出しできるでしょうか?」
「ええ、もちろん。見た目が良くなるように盛り付けていきましょう!」
初日から評価されるとは思っておらず、驚きと嬉しい気持ちが入り混じる。
でも、まだ王族の評価は得ていないことを思い出し、すぐに頬を引き締め直す。
そしてアンナの助言を得ながら盛り付けを終えると、ちょうどダイニングの方から談笑する声が聞こえてきた。
今回の配膳担当になっている侍女がやって来たらしい。
「今日の料理はこれかしら?」
「ええ。崩れやすいから気を付けて」
「そんなこと言われなくても分かっているわ」
厨房に現れたのは、昨日マリエットを部屋に案内したカミラで、料理に視線を向けると明らかに嫌そうな顔をする。
「何か問題があったかしら?」
「この料理、そこの新人が作ったのかしら?」
「ええ」
「黄色と白のこれ……こんなに変わったものを陛下に出したら、何を言われるか分からないわ。今すぐ捨てましょう」
カミラはそう口にすると、トングに手を伸ばす。
けれど、その手がトングに触れることはなかった。
「彼女は新人でも優秀な料理人よ。無碍に扱うことは許さないわ」
「……陛下の身に何かあったら、責任は取れるのかしら?」
「ええ。私が食べて問題無かったから、大丈夫よ」
理由は分からないが、カミラに目を付けられてしまったらしい。
幸いにもアンナはマリエットの味方をしてくれるようで、先行きが不安になることはなかった。
それでも厄介なことに変わりはなく、マリエットの表情は少しだけ暗くなる。
カミラはそれに気付くと、マリエットに含みのある笑顔を向け厨房を後にした。
「……あれは気にしなくて良いわ。料理を粗末にする人は敵だもの」
「ありがとうございます」
そんな言葉を交わしながら、後片付けを進めていく。
料理人の仕事は食器を全て洗って片付けるところまででも、本来は見習いの仕事になっている。
マリエットも洗い物を任され、スキルを使ってあっという間に道具を綺麗にしていった。
「それ、何のスキルなのかしら?」
「これも料理スキルです。本来は野菜を綺麗にするために使うのですけど、洗い物は時間がかかるので……」
「私も料理スキル持ちだけど、そんな使い方は出来ないわ。マリエットのスキルはすごく便利そうね!」
そう口にしながら、目を輝かせるアンナ。
この会話の間に洗い場から物が消え、調理で汚れた厨房も輝きを取り戻す。
「……他にすることはありますか?」
「王家の皆様の食事が終わるのを待つことかしら?」
「ダイニングに聞こえないようにお話しましょう」
朝の仕事が殆ど終わり、雑談を始めるマリエット達。
しばらくすると、食器を下げに来た侍女に続いて、王族の一人が姿を見せるのだった。
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