天職を見つけたので毎日が幸せです!

水空 葵

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第3章 公爵令嬢、みんなの胃袋を掴みます

17. パーティーの準備

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 手早く朝食を済ませ、マリエット達はパーティーに出す料理の準備を始めることになった。

「私は何をすれば良いでしょうか?」
「メインディッシュは決まっているが、他のメニューは大まかにしか決まっていないんだ。そうだな……揚げ物を一品と……黄色系のものを一品お願いしたい」

 今日のパーティーはビュッフェスタイルだけれど、色合いも気にしないといけないらしい。
 すぐにメニューは思い浮かんだものの、黄色い料理は手間がかかるためマリエットは一瞬だけ迷ってしまった。

「……分かりました」
「食材はよく使うものを一通り揃えてある。メインディッシュの分は確保してあるから、好きなだけ使って良い」
「では、その通りにしますね」

 料理長の言葉に返事をし、さっそく食品庫に向かう。
 中は昨日よりもずっと狭くなっていて、食材を探すだけでも一苦労だ。

(鶏肉はここにあったから……卵はここかしら?)

 幸いにも目当ての食材はすぐに見つけられ、卵を箱ごと厨房に運ぶ。
 続けて大きなボウルを用意し、卵を一つ一つ割っていく。

「マリエットさん、卵割るの早いわね」
「ありがとうございます」
「そんなに沢山、何に使うのか分からないけど……楽しみにしているわ」
「見た目はシンプルなので、あまり期待しないでくださいね」

 調理台の向かい側で野菜を洗っているアンナは興味深そうにしていて、それが切っ掛けで他の料理人の視線も集めてしまった。
 けれど、マリエットは一切集中を切らすことなく卵を割り続け、あっという間に必要な分を用意し終える。

(昆布のことを忘れていたわ……)

 そして再び食品庫に足を運ぶと、スープによく用いられる昆布を見つけ、片手で掴めるほどの量を取って厨房に戻った。

「卵と昆布って……大丈夫か?」
「はい! これから作る料理はグルース公爵家で好評だったものなので!」

 隣で肉を仕込んでいる料理長の弟子マイクは不安そうにしているが、マリエットはグルース家のことを出し、納得させる。
 昆布の方はというと……大きな鍋に水と一緒に入れ、そのまま放置して卵をかき混ぜていく。

(玉子焼きの下準備はこれくらいにして……次は唐揚げね)

 今度は卵に酢と塩、そして植物から採った油をひたすら混ぜていく。

「見たこと無い料理だが、何を作っているんだ?」
「マヨネーズという調味料を作っています」
「まよ……? 何ですかそれは」
「私のレシピスキルが教えてくれたものなので、私もよく分かっていないのです……」
「なるほど……完成品を見るのが少し怖いです……」

 マヨネーズが完成すると、今度は鶏肉に塩と胡椒をかけ、最近になって商家が扱うようになったショウユという調味料とマヨネーズを混ぜて揉みこんでいく。
 鶏肉はその状態で一旦放置し、今度は玉子焼きに使う卵をひたすら混ぜるマリエット。

「マリエットさん、腕疲れないか?」
「これくらい大丈夫です!」
「あまり無理はしないように……」

 この細腕のどこから力が出ているのか、料理長は気になって仕方がない。
 けれど、しばらくするとマリエットは手を止め、少しの昆布を入れた鍋に火を付ける作業を始め、料理長は少しばかり安堵した。

 一方のマリエットはというと、火をそのままに他の料理人の手助けを始める。
 お陰で料理長の安堵は消し飛び、マリエットの腕の心配が頭から離れなくなってしまった。


   ◇


 それからしばらくして。
 二時間後にパーティー開始を控え、厨房は穏やかな雰囲気を取り戻していた。

 料理は全て出来上がり、今は試食をする時間だ。

「これが玉子焼き……小さくて黄色いレンガみたいね」
「でも、柔らかいんですよ!」
「本当だわ。それに、良い感じの甘さでスイーツみたいね!」

 他の料理人が作ったものも含めて、どの料理もとても美味しいとマリエットは思っているが、玉子焼きが料理人たちに人気の様子。
 唐揚げも好評で、すっかり冷えているのに全員から美味しいと評価を得ることが出来た。

「全て出せそうですが、王家の判断次第になりますね……」
「緊張します……」

 とはいえ、会場に出す前にパーティー主催者である王家の判断を仰がなければならない。
 今回はテオドール王太子が主催ということになっているため、料理長が彼の元に試食用の料理を出しているところだ。

「……遅いですね」
「様子、見に行きますか?」
「怖いが、そうしよう……」

(怒りを買っているなら、どうにも出来ないけれど……)

 他の料理人達に続いて廊下に出るマリエットは不安に襲われる。
 けれど、試食をしているダイニングを覗いてみると、不安が杞憂だったと気付いた。

「美味しそうに食べていらっしゃる……」
「あれは……玉子焼きですか」
「美味しすぎて固まられてしまったようですね」

 料理人達がヒソヒソと言葉を交わす一方で、テオドールは玉子焼きをゆっくり食べ進めていく。

「――これを作ったのは誰か聞いても良いか?」
「マリエットでございます」
「そうか。これを夕食に出してもらうことは出来るか?」
「私だけでは判断出来かねます。こちらの玉子焼きですが、かなり手間がかかりますので」
「分かった。では、私が直接聞いてみよう」
「その前に、他の料理のご判断をお願いいたします」

 どうやら、テオドールは玉子焼きを気に入ったらしい。
 料理長もマリエットの腕に感心しているが、新人に王族の対応をさせるのは荷が重いと考え、話を誤魔化そうとする。

 けれどテオドールの視線は玉子焼きに釘付けだ。

(嬉しいけれど、これを何度も作るのは気が乗らないわ……)

 その様子に、マリエットは曖昧な笑みを浮かべた
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