天職を見つけたので毎日が幸せです!

水空 葵

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第3章 公爵令嬢、みんなの胃袋を掴みます

19. 大人気の料理②

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 マリエットが壁際に落ち着いてから少しして。
 テオドールがパーティーの始まりを宣言すると、会場の盛り上がりが一気に増した。

 優美な舞踏曲が流れると、さっそくパートナーとダンスを楽しむ令息令嬢の姿も見える。
 料理の方も人気で、あっという間に半分ほどが消えていった。

 けれど、一番人を集めているのはテオドール王太子だ。

(殿下は相変わらず人気ね……)

 テオドールはマリエットより一歳年上だが、未だに婚約者が居ない。
 男性の結婚適齢期が女性よりも遅いことを考えても、そろそろ決めないと不味い時期だ。

「相変わらず殿下は人気ですわね」
「あの美貌ですもの。憧れの的になるのは理解できますわ」
「でも、殿下は女性よりも男性が好きだと噂を聞いたことがありますわ」
「想いの人が居て、そのお方を射止めるのに必死だという噂もありますわよ」

 女性にトラウマがあるという疑惑や男色疑惑、そもそも結婚する気が無い疑惑。色々な噂が立っているが、彼の周りに集まる令嬢達の意には介さないらしい。

(殿下は外見と権力で評価されるのを嫌っているのよね……)

 マリエットは王家に近い公爵令嬢という立場だったから、機嫌を損ねないように王族の嫌いなことを知識として叩き込まれている。
 お陰で今のところ問題を起こさずに済んでいるが、テオドールの容姿に惹かれて群がる令嬢達に冷めた視線しか送ることが出来ない。

 その一方で、マリエットは別の噂話も耳に挟んでしまう。
 語っていたのは王宮仕えの侍女達で、マリエットのことを悪く言うものだ。

(私が男遊びをしていただなんて噂、本当に信じているなら大問題だわ……)

 この噂を流したのはエルマーかカミラだろう。
 証拠は無いが、カミラとエルマーの嫌な笑みが物語っている。

 (……厄介だわ)

 溜息を吐きたくなった時だった。
 テオドールに視線を向けられたような気がして、マリエットは逃げるようにして玉子焼きの周りに集まる人々の陰に隠れる。

(近付いてきている気がするわ……)

 一体どうしてなのか。
 黄色い声が迫ってきているような気がして、マリエットは恐る恐る隙間から様子を伺う。

 すると、今度はしっかりとテオドールと目が合った。
 婚約解消をした直後のため目立つことは避けたいけれど、もう逃げ場はなく、どうすることも出来ない。

(覚悟を決めた方が良さそうね……)

 そう考えている間にテオドールは目の前まで迫り、マリエットに声をかける。

「マリエット嬢。一曲、付き合って頂けませんか?」
「……私で宜しければ、是非」

 王族の誘いを断ることは出来ないため、マリエットは少し間を置いてから答えた。
 周囲にはマリエットがテオドールの誘いを嫌がっているように見えるが、テオドールを囲う令嬢達は違うらしく、マリエットに嫉妬の視線がいくつも突き刺さる。

「ありがとう。では、広い場所に行こう」
「分かりましたわ」

 もっとも、これくらいの嫉妬は今までも受けてきたもの。だから一切動じず、テオドールの機嫌を損ねないよう少し後ろを歩く。
 そうしてダンスのために用意されている開けた場所に着くと、今までよりも多くの視線が集まってきた。

 タイミングよく音楽も変わり、テオドールのリードでマリエットはステップを踏んでいく。

「マリエット嬢。君は料理だけでなくダンスも上手なのだな」
「お褒めいただきありがとうございます。殿下のリードがお上手なお陰ですわ」
「才女と評判な君に言われると、自信を持てるよ。ありがとう」

 言葉を交わしながらでも、二人の動きは乱れることを知らない。
 その様はとても美しく、周囲からは感嘆の声が漏れている。おまけに、カミラとエルマーも視線を奪われていた。

「私はそこまで優秀ではありませんわ。この通り、婚約者に見限られてしまいましたので」
「婚約者の見る目が無かっただけだろう。しかし、婚約破棄されたとて、王宮の料理人という大変な役目を志した理由が分からない。優秀な君なら、他の道もあっただろう」
「私、こう見えて料理が好きなのです。それ以上の理由はありませんわ」
「そうだったのか。やはり、君は面白いな」

 それから他愛のない会話をしながらステップを踏み続け、一つのミス無くダンスを終える。
 すると周囲からは盛大な拍手が送られた。

「ダンスで楽しいと思えたのは久しぶりだ。付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ、お誘いいただきありがとうございました」

 挨拶を交わし、マリエットは元の壁際に戻っていく。
 その途中で料理を温め直すことも忘れない。

 けれど、その途中。
 嬉しくない会話が聞こえてきた。
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