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第3章 公爵令嬢、みんなの胃袋を掴みます
24. 美味しさの秘訣③
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「……しかし、早いな」
剣と包丁を使い分け、手早く解体を進めていくマリエットを見て、テオドールは感嘆の声を漏らす。
牛を仕留めてから十分も経っていないが、殆どが肉へと変わっていた。
「早く解体しないと、味が落ちてしまいますから。これも美味しく作るために必要なのです」
「なるほど。美味しくなる理由が分かった気がする」
言葉を交わしている間にマリエットは氷の箱を作り出し、切り分けた肉を入れていく。
そして箱ごと馬車に積み終えると、牛よりずっと危険な熊が寄らないように料理スキルの炎で残った部分を焼き払った。
「……お肉も手に入ったので、王宮に戻りますわ」
「分かった」
剣と包丁の汚れを料理スキルで落とし、馬車に戻るマリエット。
続けてテオドールも乗ると、馬車は王宮目指して動き出した。
帰りの馬車では会話が弾み、時間はあっという間に過ぎていく。
気が付けば窓の外には王宮の庭園が広がっており、玄関に視線を移すと大勢の侍従が出迎えに来ているところが目に入った。
(流石は王家ね。公爵家よりも圧巻の光景だわ)
マリエットがそう思っていると、馬車は玄関前に止まる。
そしてテオドールが降りると、彼らは一斉に頭を下げた。
「「――お帰りなさいませ、殿下!」」
「ただいま。これから厨房を見学するから、これを戻して欲しい」
「畏まりました」
テオドールは荷物を侍女に預けると、マリエットに視線を向ける。
「続きを見せてもらえるか?」
「もちろんでございます。まずはお肉を冷蔵庫に運びますわ」
「あれを全部運ぶのか……俺にも手伝わせて欲しい」
王族に手伝わせるのは、本来なら許されない行いだ。
今回はテオドールが望んでいるため問題はない……どころか、断る方が問題になる。
「では、お願いしますわ。とても冷たいので、手袋をお使いください」
マリエットは手袋を差し出しながら笑顔で口にする。
「この氷も君が作ったのか?」
「ええ。食材を保存するために必要なので、いつも作っていますわ」
どのスキルでも、自分で生み出したものなら痛みを伴うことはなく、マリエットの場合は氷を触り続けても凍傷にならない。
触れている間はひんやりと感じる程度で、凍えることもないのだ。
テオドールが問いかけてきたのは、これを確認するためだろう。
「……そういうことなら、使わせてもらう」
答えを待ってから、マリエットは荷物用の馬車の扉を開ける。
すると、テオドールは氷の箱を二つ重ねて軽々と抱えた。
(私は一つ抱えるだけでも大変なのに……)
彼はスラリとした体躯だが、かなり力持ちのようだ。
マリエットとアンナも一箱ずつ抱え、冷蔵庫のある場所へと足を向ける。
その時だった。
「マリエットさん。殿下に物を運ばせるなんて、どういうつもりなのかしら?」
怒りを滲ませながら、カミラがそんなことを口にした。
どうやらアンナとテオドールのことは一切気にしていないらしく、視線はマリエットだけに向けられている。
「殿下が望まれたことですので、問題無いと思います」
「問題しか無いわ。今すぐに殿下が運んでいる分を受け取って、貴女が運びなさい! あんな氷の塊を運ばせるなんて、不敬罪もいいところだわ!」
テオドールが不機嫌を露わにしても気付かず、カミラはマリエットを追い詰めようと一歩距離を詰めた。
「この重さをマリエットに運ばせたら、怪我をするだろう。俺は侍従が怪我をすることを望まない」
「ですが、マリエットの行いは失礼にあたりますわ」
「そもそも、これは俺が望んで運んでいる。それとも……俺が荷物の一つも運べない軟弱者に見えるのか?」
テオドールの言葉に、カミラは言葉を失う。
この状況でもマリエットを不利にしたい。その一心で頭を回すが、良い考えは浮かばない。
「──俺は鍛えているから問題ない故、余計な口出しは慎め」
「申し訳ありませんでした」
結局、カミラはテオドールの圧に負け、深々と頭を下げた。
居心地も悪くなったようで、マリエットを睨みつけてからこの場を去る。
(一体何が目的なのかしら……?)
わざとなのか、それとも本当に何も知らないのか。見ているだけでは判断がつかず、マリエットは首を傾げた。
もし何も知らないまま侍女を続けられているのだとすれば、才能があるのかもしれない。
「大丈夫だったか?」
「ええ、殿下のお陰で何事もありませんでした」
そんな言葉を交わしながら足を進め、厨房にある冷蔵庫の前に辿り着くと、テオドールは箱を片手だけで抱えながら扉を開けた。
「……この辺りで大丈夫か?」
「いえ、こちらにお願いしますわ」
「分かった」
どうやら護衛達も手を貸してくれるようで、次々と氷の箱が運び込まれていく。
それをテオドールは手早く積んでいき、豚肉の時の何倍も早く仕舞い終えることが出来た。
「手伝っていただき、ありがとうございました。これから火を使うので、殿下は離れたところから見ていてください」
「分かった。君のスキルで火傷しないよう、盾を用意しよう」
牛を倒したことで、テオドールにとんでもないスキルの使い手と勘違いされているらしい。
けれど余計なことを考える余裕はなく、マリエットは苦笑いを浮かべながら肉をまな板の上に乗せた。
剣と包丁を使い分け、手早く解体を進めていくマリエットを見て、テオドールは感嘆の声を漏らす。
牛を仕留めてから十分も経っていないが、殆どが肉へと変わっていた。
「早く解体しないと、味が落ちてしまいますから。これも美味しく作るために必要なのです」
「なるほど。美味しくなる理由が分かった気がする」
言葉を交わしている間にマリエットは氷の箱を作り出し、切り分けた肉を入れていく。
そして箱ごと馬車に積み終えると、牛よりずっと危険な熊が寄らないように料理スキルの炎で残った部分を焼き払った。
「……お肉も手に入ったので、王宮に戻りますわ」
「分かった」
剣と包丁の汚れを料理スキルで落とし、馬車に戻るマリエット。
続けてテオドールも乗ると、馬車は王宮目指して動き出した。
帰りの馬車では会話が弾み、時間はあっという間に過ぎていく。
気が付けば窓の外には王宮の庭園が広がっており、玄関に視線を移すと大勢の侍従が出迎えに来ているところが目に入った。
(流石は王家ね。公爵家よりも圧巻の光景だわ)
マリエットがそう思っていると、馬車は玄関前に止まる。
そしてテオドールが降りると、彼らは一斉に頭を下げた。
「「――お帰りなさいませ、殿下!」」
「ただいま。これから厨房を見学するから、これを戻して欲しい」
「畏まりました」
テオドールは荷物を侍女に預けると、マリエットに視線を向ける。
「続きを見せてもらえるか?」
「もちろんでございます。まずはお肉を冷蔵庫に運びますわ」
「あれを全部運ぶのか……俺にも手伝わせて欲しい」
王族に手伝わせるのは、本来なら許されない行いだ。
今回はテオドールが望んでいるため問題はない……どころか、断る方が問題になる。
「では、お願いしますわ。とても冷たいので、手袋をお使いください」
マリエットは手袋を差し出しながら笑顔で口にする。
「この氷も君が作ったのか?」
「ええ。食材を保存するために必要なので、いつも作っていますわ」
どのスキルでも、自分で生み出したものなら痛みを伴うことはなく、マリエットの場合は氷を触り続けても凍傷にならない。
触れている間はひんやりと感じる程度で、凍えることもないのだ。
テオドールが問いかけてきたのは、これを確認するためだろう。
「……そういうことなら、使わせてもらう」
答えを待ってから、マリエットは荷物用の馬車の扉を開ける。
すると、テオドールは氷の箱を二つ重ねて軽々と抱えた。
(私は一つ抱えるだけでも大変なのに……)
彼はスラリとした体躯だが、かなり力持ちのようだ。
マリエットとアンナも一箱ずつ抱え、冷蔵庫のある場所へと足を向ける。
その時だった。
「マリエットさん。殿下に物を運ばせるなんて、どういうつもりなのかしら?」
怒りを滲ませながら、カミラがそんなことを口にした。
どうやらアンナとテオドールのことは一切気にしていないらしく、視線はマリエットだけに向けられている。
「殿下が望まれたことですので、問題無いと思います」
「問題しか無いわ。今すぐに殿下が運んでいる分を受け取って、貴女が運びなさい! あんな氷の塊を運ばせるなんて、不敬罪もいいところだわ!」
テオドールが不機嫌を露わにしても気付かず、カミラはマリエットを追い詰めようと一歩距離を詰めた。
「この重さをマリエットに運ばせたら、怪我をするだろう。俺は侍従が怪我をすることを望まない」
「ですが、マリエットの行いは失礼にあたりますわ」
「そもそも、これは俺が望んで運んでいる。それとも……俺が荷物の一つも運べない軟弱者に見えるのか?」
テオドールの言葉に、カミラは言葉を失う。
この状況でもマリエットを不利にしたい。その一心で頭を回すが、良い考えは浮かばない。
「──俺は鍛えているから問題ない故、余計な口出しは慎め」
「申し訳ありませんでした」
結局、カミラはテオドールの圧に負け、深々と頭を下げた。
居心地も悪くなったようで、マリエットを睨みつけてからこの場を去る。
(一体何が目的なのかしら……?)
わざとなのか、それとも本当に何も知らないのか。見ているだけでは判断がつかず、マリエットは首を傾げた。
もし何も知らないまま侍女を続けられているのだとすれば、才能があるのかもしれない。
「大丈夫だったか?」
「ええ、殿下のお陰で何事もありませんでした」
そんな言葉を交わしながら足を進め、厨房にある冷蔵庫の前に辿り着くと、テオドールは箱を片手だけで抱えながら扉を開けた。
「……この辺りで大丈夫か?」
「いえ、こちらにお願いしますわ」
「分かった」
どうやら護衛達も手を貸してくれるようで、次々と氷の箱が運び込まれていく。
それをテオドールは手早く積んでいき、豚肉の時の何倍も早く仕舞い終えることが出来た。
「手伝っていただき、ありがとうございました。これから火を使うので、殿下は離れたところから見ていてください」
「分かった。君のスキルで火傷しないよう、盾を用意しよう」
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