天職を見つけたので毎日が幸せです!

水空 葵

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第4章 公爵令嬢、新しい役目を手にします

29. 最初の大仕事①

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 すっかり侍従達が寝静まった頃。
 マリエットは嫌な気配を感じて目を覚ました。

(……襲撃かしら?)

 足音は殆ど聞こえないものの、複数人が迫っていることは分かる。
 気配さえ感じられれば、料理スキルで相手の場所を絞ることが出来るため、マリエットは襲撃者に備えた行動をすることが出来た。

 ベッドの中に居るように見せかけるために膨らみを作り、気を引くようにする。
 そして、マリエット自身は扉の裏に隠れ、気付かれても戦えるよう剣を構えた。

(……扉を破られたら、戦うしかないわ)

 公爵邸なら隠し通路を使って逃げられるものの、ここは侍従の部屋だから逃げ道は窓から外に出るくらいしか選択肢が無い。
 けれどもここは三階。飛び降りたら無事では済まないだろう。

 それに、争う声も聞こえないため、王宮内の人が移動しているだけかもしれない。

(勘違いだと良いのだけど……)

 マリエットがそう思った時。
 すぐ目の前の扉に鍵が差し込まれる音がしたと思えば、カチャリと開く音が聞こえた。

(合鍵を持っているということは……)

 侍従の部屋の合鍵に触れられる人は限られているから、相手の予想はすぐについた。

(剣で斬るのは避けたいわ)

 幸いにも扉は開けられず、聞き覚えのある声が聞えてくる。
 何を話しているのかは分からないものの、誰の声なのかは判断がついた。

 一体何のために部屋に忍び込もうとしていたのか。考えるだけでも恐ろしい。
 
(……諦めたみたいね)

 マリエットは鍵をそっと閉め、念のためにと机を扉の前に置いてからベッドに入り、再び眠りについた。



 そして、翌朝。
 普段通りの時間に目を覚ましたマリエットは、眠い目をこすりながら身支度を済ませ、厨房に姿を見せた。

「マリエットさん、眠そうですね。夜更かしですか?」
「夜中に目を覚ましてしまったのです。でも、これくらいなら支障ありません」

 顔を合わせたアンナに心配されても、余計な心配をさせたくないため、気丈に振舞う。
 昨夜のことは明るみに出ていないため、襲撃事件として扱われなかったと想像できた。

 一体どんな手を使って切り抜けたのかは分からないが、騎士は目を付けている様子なため、次の襲撃が起こるとは想像しにくい。

(……でも、諦めている感じがしないのよね)

 警戒態勢も強化されているが、カミラは相変わらずマリエットに憎悪の籠った視線を送っているため、安心は出来なかった。
 どうしてここまで恨まれるのか、理由は分からない。けれど、昨夜の襲撃が失敗したことで、逆恨みされていると考えるのが自然なように思えてしまう。

「支障が無いのなら良いけれど……今日はマリエットさんが初めてメインディッシュを振舞う日だから、心配になるわ」
「本当に大丈夫なので、心配しないでください」

 今回は上質な食材が納入されることになっているため、命の危険は一切無い。
 だから、マリエットは味が落ちないことだけを考えて調味料の準備を始めた。

「今回はベーコンを使わないのね」
「ええ。賄いと同じものを作るわけにはいきませんから」
「そんな決まりは無いのだけど……変えても大丈夫かしら?」

 心配そうに問いかけられ、マリエットはすぐに頷く。
 中身を変えるのは、賄いで作ったナポリタンをテオドールが食べていたからだ。

 あの日からまだ一週間も経っていないため、気に入られていても飽きられることだってあり得る。
 そうなっては料理人失格だから、味付けも少しばかり変えようとマリエットは考えていた。

「――グルース公爵家で出したことがあるので、大丈夫だと思います。」
「それなら安心ね! 今日も頑張りましょう」
「ええ!」

 言葉を交わしながら、マリエット達は昼食に向けて仕込みを進めていく。
 ここには邪魔する人も敵意を向けてくる人も居ないから、私室で眠っている時よりも安心することが出来た。
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