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第3話:自称悪役令嬢、登場
【5】自称悪役令嬢、登場(2)
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ライトニング領にある、無駄にだだっ広い草原。
その緑色の絨毯のように生い茂った草木を分断するかのように敷かれた道を、豪勢な馬車が通る。
その馬車の中に、俺とカタリーナは並んで座っていた。
あの後、カタリーナが「フレイ君と仲良くなりたいからデートしたい」などと吐かしたせいで、馬車でライトニング領を一緒に観光することになった。
いつもはライトニング邸周辺しか行かないからか、ウチの領内だというのに見たことのない景色だった。
カタリーナは、そんな自然溢れる景色を堪能しながら、俺に他愛もない会話を延々と語りかけてくる。
「珍しい鳥がいる」だの、「この村はどういった村なの?」だの、どうでもいい話ばかりだ。
「そういえば、ライトニング家もウチの派閥に入ったことだし、今度同年代のご令嬢を紹介してあげるわね!もし気に入った娘がいて結婚!…なんてことになったら、ウチも盛大にお祝いしてあげるから!」
「それは、ありがとうございます。」
口ではそう言ったが、勿論、社交辞令だ。
頼んでもいない接待を無理矢理組み込んできて、いい迷惑だ。
「フレイ君は、どんな子がタイプなの?....って聞いても意味ないか。まだ7歳だし。」
「どんな子がタイプ?」
タイプって、何のことだ?
魔法の属性のことか?
確か、この世界には6属性の魔力があるんだっけか?
属性は、火・水・風・土・光・闇....だったハズだ。
人によって得意な属性・不得意な属性があり、それを知るには専用の魔道具で測る必要があるらしい。
「タイプが何のことかは知りませんが、ライトニング家は代々、光属性の魔法が得意だと聞いています。」
「そうなの?.....そういう意味で言ったわけじゃないんだけど...ま、いっか!」
そんな雑談をしていると突然、男の叫び声とともに馬車が急停止した。
叫び声の方向からして、声の主は御者だろう。
突然の出来事にカタリーナは激しく狼狽える。
「何っ?!どうしたの?」
すると、いきなり馬車の扉が開いた。
と、思ったのも束の間、扉から現れた男がカタリーナの腹に何かを刺した。
カタリーナは、ワナワナと震えながら腹に目を向ける。
そこからは、じわじわとドレスに侵食するように血が滲み出ていた。
男は、カタリーナの腹に突き刺したものを抜く。
するとカタリーナの腹から、一気に血がゴボッと吹き出した。
そして、引き抜いた短刀を使って、カタリーナの首を真横に斬る。
首は切り落とされなかったものの、喉はぱっくりと割れ、鮮血が飛び散った。
カタリーナの人生は、あっけなく幕を閉じた。
男がカタリーナの死を確認していると、外から声が聞こえた。
「おい、やったか?」
「あぁ。ターゲットは小娘だけか?コッチのガキはどうする?」
「バーカ。始末するに決まってんだろ。」
「りょーかい。」
カタリーナを殺した男は、血まみれになった短刀を、今度は俺めがけて刺そうとする。
まぁ、カタリーナが刺された時点で、俺も殺されるんだろうとは薄々感じていた。
だけどこんな雑魚に殺される程、間抜けじゃない。
俺は、男に刺される前に、爆発魔法で吹っ飛ばした。
俺を刺そうとした男は勿論、馬車の外で待機している奴もまとめて魔法の餌食となった。
ついでにカタリーナの死体も、一緒に飛んでった。
それどころか、爆発魔法のせいで馬車も半壊し、バランスを崩した馬車は、そのまま崩れた。
....っ痛ぇ。
馬車が倒れたせいで、身体を強く打った。
刺客は殺せたものの、もう少しマシな殺し方をすべきだった。
そもそも、いつも使っている魔法は馬車の中で使うような魔法じゃない。
今までは、開けたところで、沢山いるザコを倒すことが多かったから、特に気にならなかった。
当たり前だが、状況に合わせた魔法を使うべきだ。
っつっても、いざ魔法を使うってなると爆発魔法しか思い浮かばねーんだよなぁ。
なにか、状況に関係なく使える万能な魔法はないのか?
「....っあぁ~~!」
考えるの面倒くせー!
そもそも俺は、頭使って魔法で戦うより、金属バットで直接、相手をボコボコにする方が性に合う。
ゴキブリを殺す時だって、スプレーで殺すより、スリッパで踏み潰す方がよっぽど楽だ。
....よし。今度からは拳で殺そう。
これでも一応、新・勇者パーティの格闘家だしな。
そんなことを考えながら、俺は、ライトニング邸へと戻っていった。
.....ライトニング邸へ戻ってるハズだよな?
馬車が進んでいた方向の、反対方面へと歩いて小一時間。
来た道を戻れば帰れるハズだが、段々と不安が募っていった。
なんせ、初めて来る場所だ。
慣れない土地で、帰巣本能のみで帰るのは心許ない。
...そうだ!
馬車の御者を生き返らせればいいんじゃね?
何なら、馬車も修復すれば、ライトニング邸まで運んでもらえるんじゃないか?
我ながらナイスアイディアだ。
俺は御者を生き返らせるため、早速、馬車まで戻った。
そして御者を生き返らせようと手を伸ばしたその時、2年前の記憶が、ふとよぎった。
◆◆◆
アレは、母さんを蘇生した後のことだった。
『あれ?そういえば、私達を襲った魔物は...?』
母さんは辺りを見渡し、腹に穴を空けて死んでいる魔物に気づいた。
『ウソ.....魔物が、倒されてる!』
その異様な光景に、目を丸くした。
『コレって、もしかして.....フレイが倒してくれたの?』
『えっ?あ、はい。そうです。』
『そう.....』
母さんは魔物の死骸をまじまじと見つめると、少し微笑みながら口を開いた。
『フレイってば、面白い冗談ね!』
『えっ』
『だって、この魔物、ブラッディスカーレットドラゴンよ?大人数百人がかりでも倒せないわ。それこそ、フレイが勇者か魔王くらい強くない限り無理よ。あなたはまだ5歳なんだから、そんなことできるわけないでしょ?』
げっ。
そうなのか?
だとしたら、そんな強い魔物を倒した俺=魔王の生まれ変わりだとバレかねない。
『じ、実は、見たことのないおじさんが急に現れて、魔物を倒してくれたんです!』
俺は咄嗟に、下手くそな嘘で誤魔化した。
今にもバレそうな状況に、冷や汗が少し流れる。
『へぇ。もしかして、そのおじさんって、シヴァさんかしら?ユシャ君並に強くて、この辺に住んでいるおじさんって、シヴァさんくらいだし。』
『さ、さぁ。僕には何のことだかさっぱり.....』
なんかよく知らないが、勝手に都合のいい人物を想像して納得してくれたようだ。
ありがとう。『シヴァさん』とやら。
『今度、シヴァさんに会ったらお礼を言わなくちゃね!』
母さんはかなり上機嫌になり、鼻歌を歌いながら僕の手を引いて、山を下った。
◆◆◆
下手に御者を生き返らせたら、また変に勘繰られるんじゃないか?
試しに、御者を生き返らせたらどうなるかを考えてみよう。
生き返った御者は、『一体何があった?』と驚きながら、馬車の中を確認する。
すると中には俺しかおらず、外を見渡すとカタリーナの死骸が!
それを見た御者は『フレイ坊ちゃんがカタリーナ嬢を殺した!』と騒ぎ立てる。
そしてライトニング家は一連の不祥事のせいで没落・一家離散.......。
完。
.....う~ん。
ひかえめに言って、まずい。
フレイに被害が及ばず、かつ俺が厄災の魔王とバレない方法はないのか?
一体、どうすれば…。
......そうだ!
◆◆◆
痛い。
お腹と、首が。
焼けるように、熱くて、痛くて、怖くて。
でも、その恐怖は一瞬にして消え去った。
私の意識と一緒に。
....あれ?
私の意識は、なぜか覚醒する。
あの時、確実に死んだハズ、よね?
重い瞼を、ゆっくり開ける。
すると目の前には、私の顔を覗く、懐かしい容貌をした男性がいた。
黒い髪に黒い瞳、凹凸感のない平面的な顔立ち。
ガラの悪いファッションをしているものの、どこか幼く見える顔立ちが、そのイカツさを中和させている。
「おっ、目ぇ醒めたか?」
「......あなたは?」
ぼーっとした頭で、最初に出てきた言葉はソレだった。
「俺?俺ぁ、.....ただの通りすがりだ。」
「通り、すがり....?」
「そ。たまたま、本当に、偶然、お前が乗ってる馬車が襲われるのを見かけたから、助けてやっただけだ。」
なぜか偶然であることを強調して喋っているのが気になったが、それよりも気になることがあった。
「私、死んだんじゃ.....」
「だから、生き返らせてやったって言っただろ。」
男性は呆れたように言い放つ。
いや、『生き返らせた』なんて聞いてないわよ?!
って、え?
.....生き返らせた?
そんなこと出来る人もいるの??
私を生き返らせてくれたことについて、もっと追求したかったが、他にも聞きたいことが山ほどあったので、この件については一旦後回しにした。
「そういえば、私を襲った人は?」
「あぁ。ソレなら俺が全部始末しといてやったぞ。」
「....そうなのですね。ありがとうございます。
あの、すみませんが、あの人が私を襲った理由って、何か知っていますか?」
襲われる理由は、抽象的ではあるものの、見当はつく。
でも、いくら何でも時期的に早すぎる。
「さぁ、知らねー。でも、お前を殺すのが目的だったらしいぜ。」
やっぱり。
でも目的はなに?
誰の差し金?
私が襲われる根本的な理由が分かってなければ、対策すら打てない。
「お前も回復したみてーだし、もうそろそろ帰るわ。」
「えぇ?!」
もう帰っちゃうの?!
まだ聞きたいことが沢山あるのに。
そんな私の意に反して、彼は無情にも、背を向けて立ち去ろうとしていた。
「待ってください!せめて名前だけでも、教えてください!」
すると彼は、振り向いて、口を聞いてくれた。
「宮藤迅。」
「えっ?」
「名前。それじゃあな。」
彼は、それだけ答えると、すぐに目の前から立ち去ってしまった。
「宮藤、迅......」
その顔。
その服装。
その名前。
もしかして.....。
「あなたも、日本人なの?」
◆◆◆
「さてと。」
カタリーナ達が見えなくなるくらい、遠くまで来たところで、俺は元の姿に戻った。
変装するのに前世の姿Part2を使ったが、ぶっちゃけ厄災の魔王の姿より動きやすい。
きっと、バケモノの姿で過ごした年数より、人間の姿で過ごした年数の方が長いから、そう感じるのだろう。
.....いや、案外、バケモノの姿でいた期間の方が長かったのか?
それはともかく、もしまた変装することがあったら、人間の姿を使うとしよう。
元の姿に戻った俺は、急いでカタリーナのいる馬車まで戻った。
そして、2人で再び馬車に乗り、ライトニング邸へと帰った。
その緑色の絨毯のように生い茂った草木を分断するかのように敷かれた道を、豪勢な馬車が通る。
その馬車の中に、俺とカタリーナは並んで座っていた。
あの後、カタリーナが「フレイ君と仲良くなりたいからデートしたい」などと吐かしたせいで、馬車でライトニング領を一緒に観光することになった。
いつもはライトニング邸周辺しか行かないからか、ウチの領内だというのに見たことのない景色だった。
カタリーナは、そんな自然溢れる景色を堪能しながら、俺に他愛もない会話を延々と語りかけてくる。
「珍しい鳥がいる」だの、「この村はどういった村なの?」だの、どうでもいい話ばかりだ。
「そういえば、ライトニング家もウチの派閥に入ったことだし、今度同年代のご令嬢を紹介してあげるわね!もし気に入った娘がいて結婚!…なんてことになったら、ウチも盛大にお祝いしてあげるから!」
「それは、ありがとうございます。」
口ではそう言ったが、勿論、社交辞令だ。
頼んでもいない接待を無理矢理組み込んできて、いい迷惑だ。
「フレイ君は、どんな子がタイプなの?....って聞いても意味ないか。まだ7歳だし。」
「どんな子がタイプ?」
タイプって、何のことだ?
魔法の属性のことか?
確か、この世界には6属性の魔力があるんだっけか?
属性は、火・水・風・土・光・闇....だったハズだ。
人によって得意な属性・不得意な属性があり、それを知るには専用の魔道具で測る必要があるらしい。
「タイプが何のことかは知りませんが、ライトニング家は代々、光属性の魔法が得意だと聞いています。」
「そうなの?.....そういう意味で言ったわけじゃないんだけど...ま、いっか!」
そんな雑談をしていると突然、男の叫び声とともに馬車が急停止した。
叫び声の方向からして、声の主は御者だろう。
突然の出来事にカタリーナは激しく狼狽える。
「何っ?!どうしたの?」
すると、いきなり馬車の扉が開いた。
と、思ったのも束の間、扉から現れた男がカタリーナの腹に何かを刺した。
カタリーナは、ワナワナと震えながら腹に目を向ける。
そこからは、じわじわとドレスに侵食するように血が滲み出ていた。
男は、カタリーナの腹に突き刺したものを抜く。
するとカタリーナの腹から、一気に血がゴボッと吹き出した。
そして、引き抜いた短刀を使って、カタリーナの首を真横に斬る。
首は切り落とされなかったものの、喉はぱっくりと割れ、鮮血が飛び散った。
カタリーナの人生は、あっけなく幕を閉じた。
男がカタリーナの死を確認していると、外から声が聞こえた。
「おい、やったか?」
「あぁ。ターゲットは小娘だけか?コッチのガキはどうする?」
「バーカ。始末するに決まってんだろ。」
「りょーかい。」
カタリーナを殺した男は、血まみれになった短刀を、今度は俺めがけて刺そうとする。
まぁ、カタリーナが刺された時点で、俺も殺されるんだろうとは薄々感じていた。
だけどこんな雑魚に殺される程、間抜けじゃない。
俺は、男に刺される前に、爆発魔法で吹っ飛ばした。
俺を刺そうとした男は勿論、馬車の外で待機している奴もまとめて魔法の餌食となった。
ついでにカタリーナの死体も、一緒に飛んでった。
それどころか、爆発魔法のせいで馬車も半壊し、バランスを崩した馬車は、そのまま崩れた。
....っ痛ぇ。
馬車が倒れたせいで、身体を強く打った。
刺客は殺せたものの、もう少しマシな殺し方をすべきだった。
そもそも、いつも使っている魔法は馬車の中で使うような魔法じゃない。
今までは、開けたところで、沢山いるザコを倒すことが多かったから、特に気にならなかった。
当たり前だが、状況に合わせた魔法を使うべきだ。
っつっても、いざ魔法を使うってなると爆発魔法しか思い浮かばねーんだよなぁ。
なにか、状況に関係なく使える万能な魔法はないのか?
「....っあぁ~~!」
考えるの面倒くせー!
そもそも俺は、頭使って魔法で戦うより、金属バットで直接、相手をボコボコにする方が性に合う。
ゴキブリを殺す時だって、スプレーで殺すより、スリッパで踏み潰す方がよっぽど楽だ。
....よし。今度からは拳で殺そう。
これでも一応、新・勇者パーティの格闘家だしな。
そんなことを考えながら、俺は、ライトニング邸へと戻っていった。
.....ライトニング邸へ戻ってるハズだよな?
馬車が進んでいた方向の、反対方面へと歩いて小一時間。
来た道を戻れば帰れるハズだが、段々と不安が募っていった。
なんせ、初めて来る場所だ。
慣れない土地で、帰巣本能のみで帰るのは心許ない。
...そうだ!
馬車の御者を生き返らせればいいんじゃね?
何なら、馬車も修復すれば、ライトニング邸まで運んでもらえるんじゃないか?
我ながらナイスアイディアだ。
俺は御者を生き返らせるため、早速、馬車まで戻った。
そして御者を生き返らせようと手を伸ばしたその時、2年前の記憶が、ふとよぎった。
◆◆◆
アレは、母さんを蘇生した後のことだった。
『あれ?そういえば、私達を襲った魔物は...?』
母さんは辺りを見渡し、腹に穴を空けて死んでいる魔物に気づいた。
『ウソ.....魔物が、倒されてる!』
その異様な光景に、目を丸くした。
『コレって、もしかして.....フレイが倒してくれたの?』
『えっ?あ、はい。そうです。』
『そう.....』
母さんは魔物の死骸をまじまじと見つめると、少し微笑みながら口を開いた。
『フレイってば、面白い冗談ね!』
『えっ』
『だって、この魔物、ブラッディスカーレットドラゴンよ?大人数百人がかりでも倒せないわ。それこそ、フレイが勇者か魔王くらい強くない限り無理よ。あなたはまだ5歳なんだから、そんなことできるわけないでしょ?』
げっ。
そうなのか?
だとしたら、そんな強い魔物を倒した俺=魔王の生まれ変わりだとバレかねない。
『じ、実は、見たことのないおじさんが急に現れて、魔物を倒してくれたんです!』
俺は咄嗟に、下手くそな嘘で誤魔化した。
今にもバレそうな状況に、冷や汗が少し流れる。
『へぇ。もしかして、そのおじさんって、シヴァさんかしら?ユシャ君並に強くて、この辺に住んでいるおじさんって、シヴァさんくらいだし。』
『さ、さぁ。僕には何のことだかさっぱり.....』
なんかよく知らないが、勝手に都合のいい人物を想像して納得してくれたようだ。
ありがとう。『シヴァさん』とやら。
『今度、シヴァさんに会ったらお礼を言わなくちゃね!』
母さんはかなり上機嫌になり、鼻歌を歌いながら僕の手を引いて、山を下った。
◆◆◆
下手に御者を生き返らせたら、また変に勘繰られるんじゃないか?
試しに、御者を生き返らせたらどうなるかを考えてみよう。
生き返った御者は、『一体何があった?』と驚きながら、馬車の中を確認する。
すると中には俺しかおらず、外を見渡すとカタリーナの死骸が!
それを見た御者は『フレイ坊ちゃんがカタリーナ嬢を殺した!』と騒ぎ立てる。
そしてライトニング家は一連の不祥事のせいで没落・一家離散.......。
完。
.....う~ん。
ひかえめに言って、まずい。
フレイに被害が及ばず、かつ俺が厄災の魔王とバレない方法はないのか?
一体、どうすれば…。
......そうだ!
◆◆◆
痛い。
お腹と、首が。
焼けるように、熱くて、痛くて、怖くて。
でも、その恐怖は一瞬にして消え去った。
私の意識と一緒に。
....あれ?
私の意識は、なぜか覚醒する。
あの時、確実に死んだハズ、よね?
重い瞼を、ゆっくり開ける。
すると目の前には、私の顔を覗く、懐かしい容貌をした男性がいた。
黒い髪に黒い瞳、凹凸感のない平面的な顔立ち。
ガラの悪いファッションをしているものの、どこか幼く見える顔立ちが、そのイカツさを中和させている。
「おっ、目ぇ醒めたか?」
「......あなたは?」
ぼーっとした頭で、最初に出てきた言葉はソレだった。
「俺?俺ぁ、.....ただの通りすがりだ。」
「通り、すがり....?」
「そ。たまたま、本当に、偶然、お前が乗ってる馬車が襲われるのを見かけたから、助けてやっただけだ。」
なぜか偶然であることを強調して喋っているのが気になったが、それよりも気になることがあった。
「私、死んだんじゃ.....」
「だから、生き返らせてやったって言っただろ。」
男性は呆れたように言い放つ。
いや、『生き返らせた』なんて聞いてないわよ?!
って、え?
.....生き返らせた?
そんなこと出来る人もいるの??
私を生き返らせてくれたことについて、もっと追求したかったが、他にも聞きたいことが山ほどあったので、この件については一旦後回しにした。
「そういえば、私を襲った人は?」
「あぁ。ソレなら俺が全部始末しといてやったぞ。」
「....そうなのですね。ありがとうございます。
あの、すみませんが、あの人が私を襲った理由って、何か知っていますか?」
襲われる理由は、抽象的ではあるものの、見当はつく。
でも、いくら何でも時期的に早すぎる。
「さぁ、知らねー。でも、お前を殺すのが目的だったらしいぜ。」
やっぱり。
でも目的はなに?
誰の差し金?
私が襲われる根本的な理由が分かってなければ、対策すら打てない。
「お前も回復したみてーだし、もうそろそろ帰るわ。」
「えぇ?!」
もう帰っちゃうの?!
まだ聞きたいことが沢山あるのに。
そんな私の意に反して、彼は無情にも、背を向けて立ち去ろうとしていた。
「待ってください!せめて名前だけでも、教えてください!」
すると彼は、振り向いて、口を聞いてくれた。
「宮藤迅。」
「えっ?」
「名前。それじゃあな。」
彼は、それだけ答えると、すぐに目の前から立ち去ってしまった。
「宮藤、迅......」
その顔。
その服装。
その名前。
もしかして.....。
「あなたも、日本人なの?」
◆◆◆
「さてと。」
カタリーナ達が見えなくなるくらい、遠くまで来たところで、俺は元の姿に戻った。
変装するのに前世の姿Part2を使ったが、ぶっちゃけ厄災の魔王の姿より動きやすい。
きっと、バケモノの姿で過ごした年数より、人間の姿で過ごした年数の方が長いから、そう感じるのだろう。
.....いや、案外、バケモノの姿でいた期間の方が長かったのか?
それはともかく、もしまた変装することがあったら、人間の姿を使うとしよう。
元の姿に戻った俺は、急いでカタリーナのいる馬車まで戻った。
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