転生魔王の正体は?ーー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですーー

サトウミ

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第8話:魔法学園、入学

【21】魔法学園、入学(1)

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転生して15年が経った。
俺は今年、王立ディシュメイン魔法学園へ入学する。

ディシュメイン王国では基本的に、15歳になる貴族の子供達は王立ディシュメイン魔法学園へ入学することになっている。

新入生は皆、入学前に学園の学生寮へ入って、自分の部屋の荷物を片付けていた。

「まぁ、こんなもんか。」

片付けがひと段落し、俺はベッドに腰を掛ける。
すると部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「はい?」
扉を開けると、そこにはタクトと、俺達と同い年くらいの男がいた。
この男、どこかで見覚えがあるような...?

「よぅ、フレイ!片付け終わったか?」
「まぁ、終わってますが....そちらの方は?」
「初めまして、僕はホリー・コトナカーレです。」

あぁ!確か前にライトニング領に遊びに来ていたヤツか。
王立ディシュメイン魔法学園は、お金さえあれば平民や他国の子供でも入学できる。
とはいえ、まさかホリーもこの学園に入学していたとは。

「僕はライトニング公爵の息子の、フレイ・ライトニングです。よろしく。」
「そういえばフレイは知らないだろうけど、ホリーは前に、お前ん家に遊びに来たことがあるんだぜ?」
うん。知ってる。

「あの時は確か、風邪で参加できなかったんだよね?」
「はい。」
あの時、俺は『風邪』ってことになってたのか。

「パーティに参加できなくて残念でした。」
「僕も、フレイ君に会えなくて残念だったよ。」
「ところで、二人は何の用で僕の部屋に?」
「今から学食で夕食だろ?だから呼びに来たんだよ。」
夕食?もうそんな時間になっていたのか。

「僕も学食に行こうとしていた時に、たまたまタクト君がいたんだ。」
「まさか隣の部屋にホリーが来るとはなぁ。世界は狭いな。」
「タクト君、寝坊して遅刻しそうになったら、起こしてあげるよ。」
「おう!任せた!」
「1回銀貨1枚で。」
「金、取んのかよ....」
「ははは、冗談冗談!」

「そういえば学食って、男女共用でしたよね?もしかしたら、ライラさんやカタリーナさんもいるかもしれませんね。」
「確かに、そうだな。」
俺達は、雑談をしながら、学食へと足を運んだ。


「ところでカタリーナさん、って誰?」
「カタリーナさんは、エセヴィラン公爵のご息女で、レックス殿下の婚約者です。」

「え、エセヴィラン公爵のご息女?!エセヴィラン公爵って、あのディシュメイン王国の宰相の?」
「そうそう。その公爵だよ。」

「二人とも、そんな重鎮の娘さんと一体どうやって知り合ったの?」
「僕の家がエセヴィラン公爵の派閥でして。それで僕経由でタクト君も面識があります。」

「そうそう。今じゃアイツは、俺達 新・勇者パーティの一人だからな。」
「カタリーナさんも勇者パーティに入れられてたんだ。フレイ君も確か入っているんだよね?」
「はい。格闘家枠で。」

「いいなぁ、格闘家枠。リファルさん枠が嫌ってわけじゃないけど、僕も結構鍛えているから格闘家枠だと思うんだけどなぁ。」
「筋肉があっても、運動神経が悪かったら意味ないですよ。」
「....フレイ君、辛辣だね。」

「そういえばホリーの姉ちゃんって、2コ上だよな?姉ちゃんも学園にいるのか?」
「いや、姉さんは3年前に卒業試験に合格したからいないよ。」

「え、あの卒業試験に合格したんですか?!」
「うん。本当は姉さんもこの学園に通う予定だったんだけど『程度の低い学校にわざわざ通うのは面倒』とか言い出して、父さんが『学校に行くのが嫌だったら、卒業試験に合格すれば良いよ』って言ったら、あっさりその年の試験で合格したんだ。」

「ホリー君のお姉さんって、天才なんですね。」
「まあね。多分、魔術に関しては世界一だと思うよ。」

そんな話をしていると、気づけば学食へ辿り着いていた。
ライラ達がいないか探してみたが、見当たらない。
もう夕飯を終わらせて帰ったのか?

「お兄ちゃ~ん!」
すると後ろから、ライラとカタリーナが現れた。

「タクト君達も今から夕食?....って、そちらは?」
「初めまして。ホリー・コトナカーレです。もしかしてカタリーナさんですか?」
「えぇ。初めまして。」

「ここに来るまでに、お前のこと説明しといたぞ。」
「カタリーナちゃん、ホリー君はドーワ侯国の君主の息子だよ。前にライトニング領でパーティを開いた時に、一緒に遊んだの。」
「へぇ。ドーワ侯国出身なんだ。じゃあさ、スマホ....じゃなかった、あの国で流行っている『スマド』って魔道具、持ってたりするの?」

「もちろん!カタリーナさんもスマドを持っているの?」
「いいえ。お父様が、『ダイフク商会の商品は信用できない』とか言って買わせてもらえないの。ねぇ、ホリーくん。こっそりスマドを譲ってくれない?定価で買うからさ。お願い!」

「はいはい。カタリーナさん、それよりも夕食もらって席を探しましょうよ。」
「あ、それもそうね。」

俺達は夕食を受け取って、5席分まとまって空いている机を探した。
すると、見覚えのある後ろ姿を見つけた。

金髪で体格が良く、整った横顔。
あれは間違いなく、レックス殿下だ。

殿下は他の奴と先に食事をしていたようだが、机の左側はちょうど5席分、空いていた。
....正直スルーしたいが、エセヴィラン公爵の派閥に入っている以上、スルーするわけにもいかない。

「カタリーナさん、あそこにレックス殿下もいますよ。せっかくですし、殿下の隣に行きましょう。」
「あ、待ってフレイ君!そいつは....」
「お久しぶりです、レックス殿下。」
俺は笑顔を取り繕い、殿下の席に近づいて声をかけた。

「あぁ?」
殿下は不機嫌そうに振り返って、俺を見た。
「誰と勘違いしてんだよ、この愚民が。」
はぁ?何だコイツ。
顔面を林檎のように握り潰したくなる気持ちを、必死に抑えて冷静さを保った。
コイツ、よく見たらいつもと目の色が違うような...。
確か殿下の目の色って、緑じゃなくて青だった気がする。

「ほらね。こういう奴なの。さっさと行きましょう。」
「なんだ、カタリーナの連れか。どおりで平民臭い連中だと思った。」
「殿下、もしかして頭でも打ちましたか?」
お前の母親も元々は平民だろ。

「貴様、さっきから俺様を『王族の恥』なんかと勘違いしてないか?これだから教養のない馬鹿な平民は困る。」
王族の恥?
どこかで聞いたことのある単語だ。

「おいカタリーナ。マジで何なんだ、コイツ。」
「カタリーナちゃんの知り合い?」
「コイツはレオンって言って、コーキナル家の長男よ。ご覧の通り、性格の捻くれた嫌な奴なのよ。」

コイツが例の、コーキナル家のクズか。
確かに噂どおり、レックス殿下と瓜二つだ。
むしろ双子だろとツッコミたくなるレベルだ。

そういえばカタリーナは、俺が話しかけるようとした時に引き止めたよな?
ということは後ろ姿だけで殿下と見分けがついたのか。凄いな。

「どいつもこいつも田舎者特有の間抜け面だなぁ。家柄しか取り柄のないブスにはお似合いの連中じゃないか。」
「みんなのこと何も知らないクセに、よくそんなことが言えるわね。流石は偏見がお家芸のコーキナル家のご子息ですこと。」
「そうだよ!それに、カタリーナちゃんはブスじゃないよ!むしろ美人だよ!ね、みんな?」

急に同意を求められても、回答に困る。

「うん。美人だと思うよ。」
「目の圧が凄いですが、目鼻立ちは整っていると思いますよ。」
「あぁ。普通にかわいい方じゃね?ただ貧乳ってだけで...ぐふぉっ...!」

タクトのみぞおちに、カタリーナの渾身の一撃が入った。
タクトは身悶えながらも、夕食の乗ったプレートを落とさず器用に持っていた。

「ハッ!このブスが美人って....これだから美しいものを見慣れていない平民は残念だよなぁ。美人って呼んでもらえてよかったじゃないか、ブス。」
「ええ。そうね。良かったわよ。みんな美人って言ってくれるし、偉そうにしないし、選民思想でもないし、何より優しいし。アンタと会話するより1000倍いいわ。」

カタリーナとレオンは、激しく睨み合って火花を散らしていた。
犬猿の仲、とはこのことを言うのだろう。

「カタリーナちゃん、もう行こう。夕食を食べる時間が無くなっちゃうよ。」
「それもそうね。せっかくの夕食が不味くなっちゃうわね。」
「そうそう。どっか行けよ。ブスと平民が近くにいたら、間抜け面が感染る。」

コイツとの会話を打ち切って離れる流れになったが、このまま言われっぱなしじゃ釈然としない。

やられたら、やり返す。
でないと、こういう奴らはつけあがる。
かといって、殴ったり殺したりしたら、父さん達に迷惑がかかる。
....そうだ!

「失礼しました、レオン卿。ちなみに僕はライトニング公爵家の次男、フレイ・ライトニングです。貴方と同じ、公爵ですよ。」
俺はあえて、レオンに嫌味ったらしく挨拶をした。

「はぁ?」

するとレオンとその取り巻きは、俺を馬鹿にするように大笑いした。

「同じ公爵っつっても、ついこの間陞爵したばかりの家と由緒あるコーキナル家が同等なわけないだろ。半分平民の血が混じっていると、そんな事もわからないのか?」

「半分平民?」

「だって、そうだろ?貴様の父親は、元平民のアーロン男爵の息子だろ。だったら貴様も、平民同然だ。まぁ、貴様の母親が由緒正しい家の人間と結婚するぐらいの知能があったら、俺様の取り巻きに入れても良かったんだがな。」
やっぱりコイツ、ブン殴りたい。
誰にも気づかれずに殴る方法とか、ないかな?

「フレイくん、もうそんなヤツ無視して行きましょう」
「だとしたら、母には感謝しないといけませんね。ところで気になったのですが、貴族と平民って、そんなに違いますかね?」
カタリーナの制止を無視して、俺はレオンに尋ねる。

「ハッ!半分平民だと、それがわからないくらい頭が湧いてんのか。俺様と貴様ら平民風情とじゃ、魔力や頭の出来が違うんだよ。」

「そうなんですね。ところで、その『頭の出来』とやらに、領地経営能力も含まれるのでしょうか?」
「当たり前だろ」

「だとしたら.....おかしいですね。でしたら、なぜ由緒正しいコーキナル家の財力は、ほぼ平民が領主のライトニング家や、平民出身のアーロン男爵より劣るのでしょうか?」

「はぁ?!」
「仮に父や祖父が優秀だとしても、コーキナル家のような上位貴族が平民より圧倒的に優れているのでしたら、平民如きの財力に劣るハズありませんよね?もしかしてコーキナル公爵って、貴族の中でもお馬鹿さんなのですか?」

俺の煽りにキレたレオンは、立ち上がって胸ぐらを掴んできた。
わかりやすいくらいにキレてて、面白い。

「貴様如きが、偉大なるお父上を愚弄するな。」
「もしかして図星ですか?それはすみませんでした。」

胸ぐらを掴む手を振り解こうとしたが、意外と力強く、夕食を片手で持ちながらでは振り解けない。
...いいことを思いついた。
俺は魔法で手の力を強め、レオンの手をバキバキにへし折ってやった。

「痛っ!!!」
レオンが手を離すと、すかさずへし折った手を治してやった。
これで、俺が手を折った証拠は一切残らないハズだ。

「なんか、凄い音鳴らなかった?」
「フレイ、お前なにしたんだよ。」

「僕はただ、掴んできた手を振り解いただけですよ?その時に指の関節の音でも鳴ったんじゃないですか?でもまさか、僕に掴まれた程度でこんなに痛がるなんて思いませんでした。もしかして、その恵まれた体格は見かけ倒しですか?」

「......貴様っ!」
レオンが悔しそうな顔で、俺を睨んでくる。
あー愉快愉快。
スカッとした!
口で言い負かすのは、相手をぶっ殺す時とは違った爽快感がある。

「では、僕達はお望みどおり、退散しますね。あ、そうそう。一つ言い忘れていました。レオン卿、由緒正しいコーキナル家の人間は、僕やレックス殿下のような半分平民なんかよりも、優れた魔力を持っているのですよね?」

「...それがどうした?」

「だとしたら、当然、学校での成績も半分平民なんかより凄いんでしょうね。万が一にでも、成績で半分平民に負けるようなことがあったら、僕なら恥ずかしくて学校に来られないなぁ~。」

「何が言いたい?」

「別に。それだけですよ。では、失礼します。」
俺は捨て台詞を残して、カタリーナ達と一緒に席を離れた。
絶対、アイツより良い成績取って、また煽りに行こ♩

レオンのいた席から遠い場所に、まとまった空席があるのを見つけ、俺達はそこで夕食を取ることにした。

「フレイ、お前けっこう言うなぁ!側から見てて面白かったぜ!」
「私も。アイツのあんな悔しそうな顔、初めて見たかも!」
「本当ですか?」
もしかして俺って、口喧嘩の才能があるんじゃないか?

「それより、カタリーナさん。さっきスマドが欲しいって言ってなかったっけ?」
「あ!そういえば、そんな話していたわね!ホリーくん、スマド欲しいんだけど、お願いできる?」
「スマド?」
カタリーナがスマホと言い間違えていたやつか?

「『素晴らしい魔道具』で、略してスマドだよ。遠くに離れた相手といつでも会話できたり、本が読めたり....とにかく色んなことができて、とっても便利だよ!」
「へぇ~。すごい!」

「今、僕のスマドがあるから、良かったら見てみる?」
「見たい見たい!」
するとホリーは懐から『スマド』とやらを取り出した。
見た目といい、大きさといい、まんまスマホじゃねーか。

「凄ぇ!触ったら何か出てきた!」
「なになに?『僕のマナは?』...って、何これ?」

「あぁ、コレは秘密の合言葉だよ。誰かが勝手に僕のスマドを悪用しないように、正しい合言葉を入れないと使えないようにしているんだ。」
「いわゆるパスワードみたいなものね。」
ホリーは俺達に見えないように、隠れて『秘密の合言葉』を入力し、再び俺達の前にスマドを出した。

「メールに読書にゲームまで....ここまでスマホと同じ機能が揃っているなんて...」
「カタリーナちゃん、スマホって何?」
「こっちの話よ。気にしないで。」

「この『ゲーム』っていうの、面白い!もっと遊びたいよ!」
「実はこんな事もあろうかと、布教用のスマドを沢山持ってきているんだ。後でみんなにあげるよ。」
「マジ?!」
「やったー!」

俺達は夕食を終わらせた後、ホリーの部屋へ行ってスマドをもらった。
そしてひと通り説明を聞き、設定を終わらせ、連絡先を交換した後は、各々の部屋へと戻る流れとなった。

部屋に戻った俺は、ベッドで横になりながらスマドのゲームを始めた。
前世じゃ、何だかんだで持っていなかったスマホ。
小さいし、どうせ大したゲームなんて出来ないだろ、とナメてた。

気づいたら、バッテリー残量がほぼ尽きるまで、ゲームで遊んでしまった。

バッテリーを充電....もといするには確か、魔法石で魔力を補給する必要があるんだっけ?
魔法石は家から持ってきていないから、明日買いに行くまでスマドはお預けか。
このステージだけは、今日クリアしてスッキリ眠りたかったのに。

待てよ?
今の時間だったら、まだホリーも起きているかもしれない。
ホリーだったら魔法石を持っていそうだし、今から頼めば譲ってもらえるかもしれない。

俺はホリーに会うために、部屋を出る。
すると、隣の部屋の住人が、ちょうど帰ってきて部屋に入ろうとしていた。

「なっ?!?!」

隣人を一目見た瞬間、絶句した。

部屋に入る前に見えた隣人の顔は、『厄災の魔王』そのものだった。
明らかに人間ではあったものの、頭部分は魔王の時の俺と瓜二つだ。


アイツは一体、何者なんだ?
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