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第9話:授業開始
【26】授業開始(3)
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授業が終わって、休み時間になった。
「魔法の授業、楽しかったね!」
「あぁ!なんたって、先生がシヴァおじさんだからな!」
「まさかシヴァ先生から、未知の魔力の話が出るなんて思わなかったよ。」
授業が終わった後も、授業の話でもちきりだった。
「『命属性』だっけ?家庭教師すら知らない属性を知っている先生って、何者なの?デマを言っているようにも感じなかったし。」
「もしかして、博士とか研究者だったんじゃないかな?」
あんな胡散臭い博士がいてたまるか。
「そうなのかな?シヴァ先生って、いい意味で教授とか研究者って感じがしないなぁ。お偉い研究者って、僕の姉さんみたいな感じなんじゃないかな。」
ホリーの姉って、あのミラとかいう生意気そうな小娘のことか?
たしかに、あっちの方が研究者っぽい感じがする。
「確かに、ミラさんの方が研究者って感じがするね。」
「あの人もクセが強いからなぁ...。そこが姉さんの個性でもあるんだけどね。そういえばタクトくん達の両親とフレイくんの叔母さんって、シヴァ先生と旅をしていたんだよね?何か話を聴いていないの?」
「いえ。全然。」
そもそも、あのおっさんのこと、そこまで興味ないし。
「前にお父さん達に聞いたことがあるんだけど、お父さん達ですらシヴァさんが何者か、知らないんだって。」
「そうそう。シヴァさんは、あまり過去を語りたがらなかったらしいぜ。」
「そうなんだ。シヴァ先生は謎が多いね。」
「素性不明で胡散臭い見た目のシヴァ先生が、よく学校の教師になれたわね。」
ごもっともだ。
「シヴァ先生の授業は、面白いし分かりやすかったから、そこを評価されて採用されたんじゃないかな?」
「確かに、それもそうかも!」
「そういや、さっきの授業で気になったことがあんだけどさ。ゼル、お前本当に、厄災の魔王じゃないのか?」
「え?」
タクトの唐突な追及に、ゼルはたじろいだ。
「だってさー。アイツとそっくりってだけでも怪しいのに、桁違いに魔力量が多いじゃんか。しかも厄災の魔王が使ってた魔法って、火属性と闇属性の技なんだろ?お前の適性って、その2つじゃん。これだけアイツとの共通点が多かったら、偶然じゃ納得できないぞ。」
ゼルと前世の俺との繋がりについては、俺も気になっていた。
まぁ、十八番の爆発魔法が火属性と闇属性の魔法だったのは、ただの偶然だが。
戦地でたまたまあの技を見て「あの技、強くてカッコいい!俺も使えるかな?」で試してみて使えたから重宝していただけだ。
「実は....。」
「実は?」
「厄災の魔王は、僕なんだ。....って言ったら、どうする?」
口を割ったのかと思ったら、はぐらかされてしまった。
「なんだよ、それ!」
「ハハハ、からかってゴメン。とりあえず、僕と彼がどういう関係なのかは秘密だよ。」
どういう関係も何も、無関係だろ。
...とは言い切れないだけに、余計に気になる。
それに俺はゼルのことを知らないのに、ゼルは俺のことを知っている感じがするのが、何だか気持ち悪い。
「そんなことを言って、もしかして厄災の魔王のことを何も知らないだけなんじゃないですか?」
俺は試しに、ゼルを煽ってみた。
「そんなことは....!いや、でもそうかも。
確かに、僕は彼のことを何も知らないのかもしれない。
でも、みんなが知らない彼のことを、僕は知っているつもりだよ。」
「随分、思わせぶりなことを言うわね。」
まったくだ。
結局、知っているのか知らないのか、どっちなんだ。
「みんなが知らない....って、もしかして彼の出自とか?」
「それは....ちょっと....なんと言うか....。」
「それじゃあ、クドージンさんの隠れた一面とかかな?実は、やっぱり良い人だった!とか?」
ライラは未だに、そんなことを期待しているのか?
相変わらず馬鹿なヤツだな。
「それは絶対ねーよ。だってアイツ、どう考えても根っからのクズだろ。俺らを助けたのだって、ただの気まぐれに決まっている。父さん達の言う通り、アイツはどうしようもない最低最悪の外道だ。」
するとゼルは、急にキレてタクトの胸ぐらを掴んだ。
「何も知らないクセに、あの人の事を悪く言うな!」
ん?
そこ、キレるポイントか?
むしろ、ムカつくがタクトの言っている事の方が正しい。
「まぁまぁ、ゼルくん落ち着いてください。タクトくんは客観的な事実を言っているだけですよ。」
「客観的な事実?何も知らないから、君たちはそんな事が言えるんだ!」
少なくともお前よりかは知っているつもりだ、と言ってやりたい。
なんせ自分自身のことだし。
ゼルの怒りは収まるどころか、逆に今にもタクトに殴りかかりそうな勢いだった。
「ゼルくん落ち着いて!お兄ちゃんもゼルくんに謝って!」
「はぁ?なんで俺が謝るんだよ!俺、間違ったこと言ってねぇだろ!」
タクトのその発言は、完全に火に油だ。
「間違ってないだって?なんで何も知らないクセに、断言できるんだよ!」
「世界の大半を死の大地にした奴が、良い奴なワケねーだろ!」
売り言葉に買い言葉と言わんばかりに、タクトはゼルに言い返した。
タクトの言い分はごもっともである。
「それは....確かに悪いことだけど、だからって彼をクズ呼ばわりする筋合いはない!」
「だったらそれ、アイツのせいで死んだ人達にも言えんのか?アイツに家族を殺された奴にも言えんのか?!」
「うるさい、うるさい!彼は悪くない!悪いのは、世界の方だ!」
一触即発の険悪な雰囲気に、無関係の周囲の人間までもが、遠巻きに二人の様子を伺った。
ゼルがそこまで怒る理由がわからない。
俺は自分の過去をサラッと振り返るが、ゼルが俺を擁護する理由となりそうな出来事は思い当たらなかった。
あと可能性があるとすれば、前世の俺のルーツ関係か?
「ちょっと待った!二人とも、落ち着いて!冷静になって、お互いの言い分を聞いてみようよ!」
「「お前は黙ってろ!」」
止めに入ったホリーは、二人に怒鳴られたショックで固まってしまった。
このままだと取っ組み合いの喧嘩に発展するのは目に見えている。
「殿下、タクトくんとゼルくんを引き離すのを手伝ってくれませんか?僕はタクトくんを向こうへ連れて行きます。」
「わかった。じゃあ僕はゼルくんをあっちへ連れて行くよ。」
殿下に小声で相談した後、俺はタクトを半ば強引に教室の外へと連れて行った。
そして中庭へ移動し、タクトの話を聞くことにした。
「なぁフレイ。俺、間違ったこと言ってないよな?あんなヤツ庇うとか、アイツおかしいだろ!」
「そうですね。僕もそう思います。」
中庭へ移動した後も、タクトの愚痴は続いた。
「しかし不思議ですよね。ゼルくんはなぜ、あんなにも厄災の魔王に固執しているのでしょうか?」
「知らねー。『僕は君たちの知らない彼を知ってる』とか偉そうに言ってたけど、本当かどうかもわかんねーしな。もしかして、ガチで本人なんじゃね?」
本人はここにいるけどな。
「確かに、本人だったらあそこまで怒る理由がわかりますね。」
「そっか!アイツ、やっぱりクドージンなんだよ!知らないフリしていたつもりかも知れねぇが、俺との喧嘩で本性が出ちまったんだよ。」
タクトは勝手に勘違いしていやがる。
面白い。
「でしたら、気づいていないフリをして謝ってあげたらどうですか?そしたらいつか、彼の本性が暴けるかもしれませんよ?」
「う~ん......そうだな。謝るのは凄くムカつくけど、ここで仲違いしたらアイツの正体を暴けねえし、ここは俺が大人になってやるか。」
とりあえず、タクトは冷静にゼルと話し合う気になったようだ。
俺はタクトを連れて、ゼル達のいる講堂へと移動した。
◆◆◆
ゼルくんとタクトくんが急に喧嘩し出したのが、ほんの数分前。
ゼルくんと殿下について行く形で、私は一緒に講堂へと足を運んだ。
「ゼルくん、ちょっとは落ち着いた?」
殿下はゼルくんに、優しく話しかける。
「........迷惑かけて、本当にすみません!」
ゼルくんは冷静さを取り戻したのか、急にしおらしくなった。
「はぁ。なんであんなに怒っちゃったんだろ。タクトくんの気持ちを考えれば、ああ言うのもわかるはずなのに。本当に、ちょっとしたことで怒っちゃう自分が情けないよ。」
ゼルくんは私達が説得するまでもなく反省している。
むしろ、自己嫌悪に近いかもしれない。
「ゼルくんが落ち着いてくれてよかった。ゼルくんはよっぽど、宮藤くんのことが大事なのね。」
「クドーくん?」
「あ、クドージンくん.....つまり厄災の魔王のことよ。宮藤っていうのは彼のファミリーネームよ。要するにエセヴィランとか、ポーレイと同じ意味合いなの。」
「そうなんだ。カタリーナさん、意外と彼のことを知っているね。」
「まぁ、何回か助けられているしね。それにゼルくんしか知らない彼の情報があるように、私しか知らない彼の情報もあるってことよ。」
「....ねぇ、カタリーナ。それってもしかして、異世界に関係することかい?」
殿下の唐突な質問に、心臓を鷲掴みされたような気分になった。
「....え?殿下、なんで...?」
「実はさ、前から気になってたんだ。僕の誕生日パーティで、僕たちが毒を盛られていた時のこと、覚えているかい?」
「はい、覚えています。」
「あの時、フレイくんとカタリーナが会話しているのが聞こえて、こっそり聞いていたんだ。」
嘘?!
あの会話、聞かれていたの?
ちょっと待って?あの時、私、どこまで話していたっけ?
「すみません。殿下はその時、どこまで聞かれていましたか?」
「カーテン越しだったし、随分前のことだったから、そこまで詳しくは覚えてないよ。でも、クドージンさんとカタリーナが、異世界から来たっていう話は驚いたなぁ。」
そこまで聞いていたら十分よ。
「ねぇ、ちょっと待って!彼が異世界から来たって、どういうこと?!」
そうだった。ゼルくんも聞いていたんだった。
「えっとね。私も宮藤くんも、元々は異世界に住んでいたのよ。死んで生まれ変わったら、この世界にいたってワケ。」
「そうなんだ。彼は異世界から来た魂だったんだね。カタリーナさんも異世界から来たってことは、異世界にいた頃の彼を知っているの?」
「まぁ、知っていると言えば、知っているわね。彼から話を聞いただけで、生前は面識はなかったけど。」
「本当に?よかったら、彼のことを教えてよ!」
「確か、少年院に入っていたって言ってたわ。それから熱中症で19歳で亡くなったとも聞いたわ。」
「ショーネンイン?」
「ネッチューショー?」
「....要するに、ろくでもない人生だったってことよ。」
説明が億劫に感じたから、雑に説明しちゃった。
ゼルくんはそれを聞いて、なぜだか悲しそうな顔をした。
「そうなんだ。...彼は今、幸せなのかな?」
「へ?」
何?唐突に。
「さぁ。きっと、幸せなんじゃない?多分彼、今ごろパフェとか食ってるよ。」
私は、前世で随分昔にバズっていたセリフを使って、適当に答えた。
確か、こんな感じの文章だったわよね?
「『パフェ』って...。」
「ハハハハッ!カタリーナは面白いことを言うね。そうだね、パフェでもいっぱい食べて、幸せに過ごしていたらいいね。」
「....ハハ。それも、そうだね!」
殿下が笑ったからか、ゼルくんもつられて笑顔になった。
そんな時、スマドでフレイくんから連絡が入った。
『タクトくん、ひとまず落ち着きました。ゼルくんに謝りたいそうです。殿下達は今、どこにいますか?』
私はフレイくんに『講堂にいる』と伝え、私達は二人がここに来るのを待った。
「魔法の授業、楽しかったね!」
「あぁ!なんたって、先生がシヴァおじさんだからな!」
「まさかシヴァ先生から、未知の魔力の話が出るなんて思わなかったよ。」
授業が終わった後も、授業の話でもちきりだった。
「『命属性』だっけ?家庭教師すら知らない属性を知っている先生って、何者なの?デマを言っているようにも感じなかったし。」
「もしかして、博士とか研究者だったんじゃないかな?」
あんな胡散臭い博士がいてたまるか。
「そうなのかな?シヴァ先生って、いい意味で教授とか研究者って感じがしないなぁ。お偉い研究者って、僕の姉さんみたいな感じなんじゃないかな。」
ホリーの姉って、あのミラとかいう生意気そうな小娘のことか?
たしかに、あっちの方が研究者っぽい感じがする。
「確かに、ミラさんの方が研究者って感じがするね。」
「あの人もクセが強いからなぁ...。そこが姉さんの個性でもあるんだけどね。そういえばタクトくん達の両親とフレイくんの叔母さんって、シヴァ先生と旅をしていたんだよね?何か話を聴いていないの?」
「いえ。全然。」
そもそも、あのおっさんのこと、そこまで興味ないし。
「前にお父さん達に聞いたことがあるんだけど、お父さん達ですらシヴァさんが何者か、知らないんだって。」
「そうそう。シヴァさんは、あまり過去を語りたがらなかったらしいぜ。」
「そうなんだ。シヴァ先生は謎が多いね。」
「素性不明で胡散臭い見た目のシヴァ先生が、よく学校の教師になれたわね。」
ごもっともだ。
「シヴァ先生の授業は、面白いし分かりやすかったから、そこを評価されて採用されたんじゃないかな?」
「確かに、それもそうかも!」
「そういや、さっきの授業で気になったことがあんだけどさ。ゼル、お前本当に、厄災の魔王じゃないのか?」
「え?」
タクトの唐突な追及に、ゼルはたじろいだ。
「だってさー。アイツとそっくりってだけでも怪しいのに、桁違いに魔力量が多いじゃんか。しかも厄災の魔王が使ってた魔法って、火属性と闇属性の技なんだろ?お前の適性って、その2つじゃん。これだけアイツとの共通点が多かったら、偶然じゃ納得できないぞ。」
ゼルと前世の俺との繋がりについては、俺も気になっていた。
まぁ、十八番の爆発魔法が火属性と闇属性の魔法だったのは、ただの偶然だが。
戦地でたまたまあの技を見て「あの技、強くてカッコいい!俺も使えるかな?」で試してみて使えたから重宝していただけだ。
「実は....。」
「実は?」
「厄災の魔王は、僕なんだ。....って言ったら、どうする?」
口を割ったのかと思ったら、はぐらかされてしまった。
「なんだよ、それ!」
「ハハハ、からかってゴメン。とりあえず、僕と彼がどういう関係なのかは秘密だよ。」
どういう関係も何も、無関係だろ。
...とは言い切れないだけに、余計に気になる。
それに俺はゼルのことを知らないのに、ゼルは俺のことを知っている感じがするのが、何だか気持ち悪い。
「そんなことを言って、もしかして厄災の魔王のことを何も知らないだけなんじゃないですか?」
俺は試しに、ゼルを煽ってみた。
「そんなことは....!いや、でもそうかも。
確かに、僕は彼のことを何も知らないのかもしれない。
でも、みんなが知らない彼のことを、僕は知っているつもりだよ。」
「随分、思わせぶりなことを言うわね。」
まったくだ。
結局、知っているのか知らないのか、どっちなんだ。
「みんなが知らない....って、もしかして彼の出自とか?」
「それは....ちょっと....なんと言うか....。」
「それじゃあ、クドージンさんの隠れた一面とかかな?実は、やっぱり良い人だった!とか?」
ライラは未だに、そんなことを期待しているのか?
相変わらず馬鹿なヤツだな。
「それは絶対ねーよ。だってアイツ、どう考えても根っからのクズだろ。俺らを助けたのだって、ただの気まぐれに決まっている。父さん達の言う通り、アイツはどうしようもない最低最悪の外道だ。」
するとゼルは、急にキレてタクトの胸ぐらを掴んだ。
「何も知らないクセに、あの人の事を悪く言うな!」
ん?
そこ、キレるポイントか?
むしろ、ムカつくがタクトの言っている事の方が正しい。
「まぁまぁ、ゼルくん落ち着いてください。タクトくんは客観的な事実を言っているだけですよ。」
「客観的な事実?何も知らないから、君たちはそんな事が言えるんだ!」
少なくともお前よりかは知っているつもりだ、と言ってやりたい。
なんせ自分自身のことだし。
ゼルの怒りは収まるどころか、逆に今にもタクトに殴りかかりそうな勢いだった。
「ゼルくん落ち着いて!お兄ちゃんもゼルくんに謝って!」
「はぁ?なんで俺が謝るんだよ!俺、間違ったこと言ってねぇだろ!」
タクトのその発言は、完全に火に油だ。
「間違ってないだって?なんで何も知らないクセに、断言できるんだよ!」
「世界の大半を死の大地にした奴が、良い奴なワケねーだろ!」
売り言葉に買い言葉と言わんばかりに、タクトはゼルに言い返した。
タクトの言い分はごもっともである。
「それは....確かに悪いことだけど、だからって彼をクズ呼ばわりする筋合いはない!」
「だったらそれ、アイツのせいで死んだ人達にも言えんのか?アイツに家族を殺された奴にも言えんのか?!」
「うるさい、うるさい!彼は悪くない!悪いのは、世界の方だ!」
一触即発の険悪な雰囲気に、無関係の周囲の人間までもが、遠巻きに二人の様子を伺った。
ゼルがそこまで怒る理由がわからない。
俺は自分の過去をサラッと振り返るが、ゼルが俺を擁護する理由となりそうな出来事は思い当たらなかった。
あと可能性があるとすれば、前世の俺のルーツ関係か?
「ちょっと待った!二人とも、落ち着いて!冷静になって、お互いの言い分を聞いてみようよ!」
「「お前は黙ってろ!」」
止めに入ったホリーは、二人に怒鳴られたショックで固まってしまった。
このままだと取っ組み合いの喧嘩に発展するのは目に見えている。
「殿下、タクトくんとゼルくんを引き離すのを手伝ってくれませんか?僕はタクトくんを向こうへ連れて行きます。」
「わかった。じゃあ僕はゼルくんをあっちへ連れて行くよ。」
殿下に小声で相談した後、俺はタクトを半ば強引に教室の外へと連れて行った。
そして中庭へ移動し、タクトの話を聞くことにした。
「なぁフレイ。俺、間違ったこと言ってないよな?あんなヤツ庇うとか、アイツおかしいだろ!」
「そうですね。僕もそう思います。」
中庭へ移動した後も、タクトの愚痴は続いた。
「しかし不思議ですよね。ゼルくんはなぜ、あんなにも厄災の魔王に固執しているのでしょうか?」
「知らねー。『僕は君たちの知らない彼を知ってる』とか偉そうに言ってたけど、本当かどうかもわかんねーしな。もしかして、ガチで本人なんじゃね?」
本人はここにいるけどな。
「確かに、本人だったらあそこまで怒る理由がわかりますね。」
「そっか!アイツ、やっぱりクドージンなんだよ!知らないフリしていたつもりかも知れねぇが、俺との喧嘩で本性が出ちまったんだよ。」
タクトは勝手に勘違いしていやがる。
面白い。
「でしたら、気づいていないフリをして謝ってあげたらどうですか?そしたらいつか、彼の本性が暴けるかもしれませんよ?」
「う~ん......そうだな。謝るのは凄くムカつくけど、ここで仲違いしたらアイツの正体を暴けねえし、ここは俺が大人になってやるか。」
とりあえず、タクトは冷静にゼルと話し合う気になったようだ。
俺はタクトを連れて、ゼル達のいる講堂へと移動した。
◆◆◆
ゼルくんとタクトくんが急に喧嘩し出したのが、ほんの数分前。
ゼルくんと殿下について行く形で、私は一緒に講堂へと足を運んだ。
「ゼルくん、ちょっとは落ち着いた?」
殿下はゼルくんに、優しく話しかける。
「........迷惑かけて、本当にすみません!」
ゼルくんは冷静さを取り戻したのか、急にしおらしくなった。
「はぁ。なんであんなに怒っちゃったんだろ。タクトくんの気持ちを考えれば、ああ言うのもわかるはずなのに。本当に、ちょっとしたことで怒っちゃう自分が情けないよ。」
ゼルくんは私達が説得するまでもなく反省している。
むしろ、自己嫌悪に近いかもしれない。
「ゼルくんが落ち着いてくれてよかった。ゼルくんはよっぽど、宮藤くんのことが大事なのね。」
「クドーくん?」
「あ、クドージンくん.....つまり厄災の魔王のことよ。宮藤っていうのは彼のファミリーネームよ。要するにエセヴィランとか、ポーレイと同じ意味合いなの。」
「そうなんだ。カタリーナさん、意外と彼のことを知っているね。」
「まぁ、何回か助けられているしね。それにゼルくんしか知らない彼の情報があるように、私しか知らない彼の情報もあるってことよ。」
「....ねぇ、カタリーナ。それってもしかして、異世界に関係することかい?」
殿下の唐突な質問に、心臓を鷲掴みされたような気分になった。
「....え?殿下、なんで...?」
「実はさ、前から気になってたんだ。僕の誕生日パーティで、僕たちが毒を盛られていた時のこと、覚えているかい?」
「はい、覚えています。」
「あの時、フレイくんとカタリーナが会話しているのが聞こえて、こっそり聞いていたんだ。」
嘘?!
あの会話、聞かれていたの?
ちょっと待って?あの時、私、どこまで話していたっけ?
「すみません。殿下はその時、どこまで聞かれていましたか?」
「カーテン越しだったし、随分前のことだったから、そこまで詳しくは覚えてないよ。でも、クドージンさんとカタリーナが、異世界から来たっていう話は驚いたなぁ。」
そこまで聞いていたら十分よ。
「ねぇ、ちょっと待って!彼が異世界から来たって、どういうこと?!」
そうだった。ゼルくんも聞いていたんだった。
「えっとね。私も宮藤くんも、元々は異世界に住んでいたのよ。死んで生まれ変わったら、この世界にいたってワケ。」
「そうなんだ。彼は異世界から来た魂だったんだね。カタリーナさんも異世界から来たってことは、異世界にいた頃の彼を知っているの?」
「まぁ、知っていると言えば、知っているわね。彼から話を聞いただけで、生前は面識はなかったけど。」
「本当に?よかったら、彼のことを教えてよ!」
「確か、少年院に入っていたって言ってたわ。それから熱中症で19歳で亡くなったとも聞いたわ。」
「ショーネンイン?」
「ネッチューショー?」
「....要するに、ろくでもない人生だったってことよ。」
説明が億劫に感じたから、雑に説明しちゃった。
ゼルくんはそれを聞いて、なぜだか悲しそうな顔をした。
「そうなんだ。...彼は今、幸せなのかな?」
「へ?」
何?唐突に。
「さぁ。きっと、幸せなんじゃない?多分彼、今ごろパフェとか食ってるよ。」
私は、前世で随分昔にバズっていたセリフを使って、適当に答えた。
確か、こんな感じの文章だったわよね?
「『パフェ』って...。」
「ハハハハッ!カタリーナは面白いことを言うね。そうだね、パフェでもいっぱい食べて、幸せに過ごしていたらいいね。」
「....ハハ。それも、そうだね!」
殿下が笑ったからか、ゼルくんもつられて笑顔になった。
そんな時、スマドでフレイくんから連絡が入った。
『タクトくん、ひとまず落ち着きました。ゼルくんに謝りたいそうです。殿下達は今、どこにいますか?』
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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