27 / 145
第9話:授業開始
【27】授業開始(4)
しおりを挟む
喧嘩したお兄ちゃんとゼルくんを落ち着かせるために、フレイくんはお兄ちゃんを、殿下とカタリーナちゃんはゼルくんを、それぞれ別のところへ連れて行った。
私は、お兄ちゃん達に怒鳴られて固まっているホリーくんが心配で、二人で教室に残った。
「ホリーくん、元気出して。」
励ましてみたものの、ホリーくんは呆然としている。
そしてしばらくすると、大きなため息をついてうなだれてしまった。
「『みんなで仲良く』って、そんなに難しいことなのかな?」
ホリーくんはうつむきながら、愚痴をこぼし始めた。
「別に世界平和とか、みんな友達とか、そんな大それたことを言いたいわけじゃないんだ。ただ、嫌いな相手とは距離を置くというか、関わらないというか....そうすればみんな嫌な気持ちにならないと思うんだ。とにかく、不毛な争いは見るのも辛いよ。」
同感だ。
私も、言い争いを見るのは辛い。
「私も、みんなで仲良くできればなぁって思うよ。」
「ライラさん....」
「いつもカタリーナちゃんやレオンくん、それにフレイくんが言い争っているでしょ?カタリーナちゃん達が悪いわけじゃないけど、アレを見るたびにいつも嫌な気分になるの。」
「ライラさんも?実は僕もなんだ。何というか、ギスギスした空気が辛いというか....。」
ホリーくんも、同じ気持ちだったんだ。
仲間がいて、嬉しく感じた。
「どうすればみんな、いがみ合わなくて済むんだろうね。」
「カタリーナさん達の場合、レオンくんが嫌味を言ってこなければほぼ解決だけど、実現は難しそうだよね。レオンくんに嫌味を言わないように説得するのは無理そうだし。」
「そうだね。いまさら部外者の私達が言っても、どうにもならなさそうだよね。」
「あと、タクトくんとゼルくんが仲直りできるか心配だよ。二人とも、譲り合う感じはなかったし。」
「そうだね。あのお兄ちゃんが、相手に譲歩して謝るなんて、想像できないよ。」
お兄ちゃん達が喧嘩した時のことを思い返す。
お兄ちゃんがクドージンさんを酷く言う気持ちはわかる。
面白半分に世界中の人を殺した彼は、どう考えても間違っている。
でも、クドージンさんを庇うゼルくんの気持ちも、分からなくはない。
彼の本心を聞いた後でも、それでも少しは良心があるんじゃないかって希望が捨てきれない。
....だって、どんな理由であれ、私達を助けてくれた命の恩人だもの。
「....ねぇ、ホリーくん。ホリーくんは、クドージンさんのこと、どう思う?」
「え?そうだなぁ....1回しか会ったことがないし、そこまで話していないから、何とも言えないかな?」
「そっか....。」
ホリーくんはライトニング邸でしか会ったことがないんだっけ?
だったら仕方ないか。
「ライラさん、もしかして彼のことで、何か悩んでいるの?」
「えっ?なんで?」
「だって、彼のことで悩んでいなかったら『彼のことをどう思うか』なんて聞かないでしょ?」
確かに、その通りかも。
「...実は私、クドージンさんが良い人であって欲しいの。確かに、あの人がやったことは悪いことだよ。それでも私達を助けてくれた人だから、完全に悪い人だと思えない、というか.....」
「確かに、人助けをする人に根っからの悪人はいないと思うよ。僕も彼が悪人じゃないって信じたい。だけど、以前彼が言っていたことは、本心のようにも感じるんだ。」
クドージンさんが前に言っていたこと...。
『世界を滅ぼそうとしたのは、単に面白そうだったからに決まってんだろ?』
アレは本当に、本心なの?
彼の心の中に、良心は一欠片も残っていないのかな?
「もし、彼が本当に根っからの悪人、だったら...。」
「だったら?」
「私は、彼に改心して欲しい。私達を助けてくれるくらいだから、きっとできると思うの!」
「改心、かぁ。」
するとホリーくんは、渋い顔をして質問をした。
「そもそもクドージンさんが世界の滅亡を望んだのは、なんでなの?」
「え?その理由は前、彼自身が言ってたよ?『面白そうだから』って。」
「ごめん、語弊があったね。そういう意味じゃないんだ。彼が『世界が滅亡したら面白そう』と感じる価値観になったのは、なんでかな?って思ったんだ。」
「それって、どういうこと?価値観なんて、人それぞれなんじゃないの?」
「確かに、人ぞれぞれではあるんだけどね。でも、その言葉で終わりにしたら、彼を説得するのは難しいんじゃないかな?」
ホリーくんは何を言いたいんだろう?
「クドージンさんの価値観がわからなくても、『人を痛めつけるのは悪いことだ』って言い続けたら、いつかは通じるんじゃないかな。」
「う~ん。それは、どうだろう?」
ホリーくんは私の意見に、眉をひそめた。
「悪いことを『悪いことだ』と思っていない相手に、頭ごなしに『それは悪いことです』って言い続けても、相手の心には響かないと思うんだ。
というのもね。これは知人の資産家の話なんだけど、その資産家は、毎日のように罵詈雑言や嫌がらせをしてくる人がいて、困っていたんだ。ある日、その資産家は嫌がらせに耐えかねて、その人を裁判で訴えたんだ。そしてその人は当然、罰せられることになった。罰を受けることになったその人は、一体、なんて言ったと思う?」
「う~ん。『今まで酷いことをして、すみませんでした。』とかかな?」
ホリーくんは、静かに首を横に振った。
「『なんで私がお金を払わないといけないんですか。金持ちの癖に、批判を真摯に受け止めずに弱者からお金を巻き上げようだなんて、やってて恥ずかしくないんですか?いいですよ。今回は仕方ないから慰謝料を払ってあげますよ。そのかわり、あなたは私の批判を客観的に受け止める努力をしなさいよ。こっちはお金を払ってやってるんだから、やって当然でしょ?』」
うわぁ。
反省どころか、暴言ばかりが出てきて、引いてしまった。
「ちなみにその人、裁判が終わった数日後に『あの資産家は権力を使って私を潰そうとした!自分にとって不都合な真実を言う人間に、無実の罪を着せるなんて、現代のヒトラーだ!』って声高々に吹聴し出したよ。」
「.....本当に資産家の人は、悪いことはしていないの?」
ここまで酷いと、資産家の人を疑いたくなる。
「していないよ。その人は至って誠実だった。
要するにこの話で言いたかったのは、どんなに悪い人でも『自分は間違ったことをしている』なんて微塵も思っていない、ってことなんだ。それが例え法に触れていたとしてもね。」
そんな...。
法を破るのって、普通に悪いことじゃん。
それなのに『悪い』って思えないなんて。
理解できない感性だ。
「あ。ライラさん、『理解できない』って顔しているね。じゃあ、悪いことをする人の心理を、さっきの困った人の話で例えてみるね。
さっきの困った人の考えは多分こうだよ。
『非常識な資産家がいたから、何度もキツく言って改善を促そうとした。しかし資産家はなかなか反省しないため、私は正義の鉄槌を下してやった。ところがその資産家は、権力を駆使して私を攻撃してきた。私は非常識な資産家を注意していただけなのに、なぜ訴えられないといけないのか。悪いのは客観的に自分を省みない資産家と、資産家を擁護する歪んだ法律だ。私は権力者にねじ伏せられた可哀想な被害者だ。』
こんなところかな?」
なるほど。
訴えられた人は客観的に見たら悪い人だけど、その人は『その人が思う正しいこと』をやっていただけなんだ。
その人からすれば、本当に悪いのは資産家の人や法なんだ。
「ライラさん、こんな風に考えている人に『悪口や嫌がらせは悪いことです』って注意して、伝わると思う?」
私は首を横に振った。
自分が正しいと思うことをしただけなのに、それを否定されたら嫌な気持ちににしかならない。
何なら、意地でも相手の意見なんか聞くものか!って思っちゃうかも。
だから訴えられた人は、謝らなかったんだ。
「話は戻すけど、クドージンさんを説得する時、さっきライラさんが言っていたみたいに何度も正論で訴えたら伝わると思う?」
「それは.....無理かも。」
彼が何で『人を殺すが面白い』と思うのかはわからない。
でも自分が面白いと思っているものを全否定されたら、誰だって不愉快だ。
それを何度も言われたら、聞き入れるどころか、その人と距離を置きたくなる。
「でも、それじゃあ一体どうやって、彼を説得すればいいの?」
「そうだなぁ。これは僕個人の意見だけど、まずは彼の気持ちを理解するのが一番重要なんじゃないかな。」
クドージンさんの気持ち?
人が、たくさん死んで、それを面白いと思う気持ち....。
想像しただけで、理解できない。
「でも私、どう考えても『人が死んで面白い!』なんて思えないよ。」
「なにも本当に彼と同じ気持ちになる必要はないよ。彼が『人が死んで面白い』と感じるようになった思考回路が理解できれば十分じゃないかな。」
ホリーくんは難しいことを言うなぁ。
「魔物を倒すのだって、闇雲に攻撃するより魔物のことを調べて弱点を狙う方が、倒せる確率が上がるでしょ?要するにそれと同じだよ。」
確かに、それは言えてるかも。
「あと、彼と仲良くなるのも大事だと思うな。説得って『何を言うか』より『誰が言うか』が重要だからさ。」
「『誰か言うか』?」
「そう。例えば、僕たちがレオンくんに『平民を差別するのは良くないことだよ』って言って、聞いてくれると思う?」
「う~ん。『口ごたえするな!平民風情が!』って怒られる気がする。」
「じゃあ、レオンくんのお父さんが、彼に『平民を差別するのは品のない行為だからやめなさい!』って言ったら、彼は言うことを聞くと思う?」
「それだったら、言うことを聞くかも。レオンくん、お父さんのことを尊敬していそうだから、尊敬するお父さんの期待を裏切れないと思うし。」
「だよね?説得内容が同じでも、説得する人間が違ったら、結果も全然違ってくるんだよ。
人間って『言っていることの正しさ』と『言っている相手に対する感情』を割り切れるほど、器用じゃないんだよ。
まぁ、中にはそれができる器用な人もいるかもしれないけどさ。それができる人って、一部の徳が高い人だけなんだよ。」
確かに、それはそうかも。
私自身、『言っていることの正しさ』と『言っている相手に対する感情』を割り切れている自信がない。
「だからクドージンさんに『ライラさんの話だったら聞いても良い』って思ってもらってから、説得する方が効果的なんじゃないかな?」
なるほどね。
ホリーくんの助言は、的を得ている。
クドージンさんを説得するのに、彼を理解することと彼の信頼を得ることは、確かに重要なのかも。
「ごめんねライラさん、話が長くなって。いやぁ~、歳をとると、どうしても説教臭くなっちゃうね。....気をつけないと。」
「ううん。むしろ、ありがとう。ホリーくんのおかげで、クドージンさんと、どう関わっていけばいいか分かったよ。」
よく考えたら、私は彼のことを全然知らない。
たった数回、会って話しただけだ。
でも、それじゃ駄目なんだ。
自分の理想を彼に押し付けるんじゃなくて、彼のことをもっと理解しないといけないんだ。
今度クドージンさんに会ったら、彼のこと、たくさん聞いてみよう。
好きなものはなにか。
普段は何をしているのか。
....彼の正体は、どこの誰なのか。
さすがにそれは答えてくれないか。
「あっ!ライラさん、ちょっと待ってね。」
ホリーくんがスマドを取り出して操作すると、画面を私に見せてくれた。
「タクトくんとゼルくん、仲直りできたって!」
「よかった!お兄ちゃん、ちゃんとゼルくんと話し合えたんだ。」
私とホリーくんは連絡を受けて、みんながいる講堂へと向かった。
私は、お兄ちゃん達に怒鳴られて固まっているホリーくんが心配で、二人で教室に残った。
「ホリーくん、元気出して。」
励ましてみたものの、ホリーくんは呆然としている。
そしてしばらくすると、大きなため息をついてうなだれてしまった。
「『みんなで仲良く』って、そんなに難しいことなのかな?」
ホリーくんはうつむきながら、愚痴をこぼし始めた。
「別に世界平和とか、みんな友達とか、そんな大それたことを言いたいわけじゃないんだ。ただ、嫌いな相手とは距離を置くというか、関わらないというか....そうすればみんな嫌な気持ちにならないと思うんだ。とにかく、不毛な争いは見るのも辛いよ。」
同感だ。
私も、言い争いを見るのは辛い。
「私も、みんなで仲良くできればなぁって思うよ。」
「ライラさん....」
「いつもカタリーナちゃんやレオンくん、それにフレイくんが言い争っているでしょ?カタリーナちゃん達が悪いわけじゃないけど、アレを見るたびにいつも嫌な気分になるの。」
「ライラさんも?実は僕もなんだ。何というか、ギスギスした空気が辛いというか....。」
ホリーくんも、同じ気持ちだったんだ。
仲間がいて、嬉しく感じた。
「どうすればみんな、いがみ合わなくて済むんだろうね。」
「カタリーナさん達の場合、レオンくんが嫌味を言ってこなければほぼ解決だけど、実現は難しそうだよね。レオンくんに嫌味を言わないように説得するのは無理そうだし。」
「そうだね。いまさら部外者の私達が言っても、どうにもならなさそうだよね。」
「あと、タクトくんとゼルくんが仲直りできるか心配だよ。二人とも、譲り合う感じはなかったし。」
「そうだね。あのお兄ちゃんが、相手に譲歩して謝るなんて、想像できないよ。」
お兄ちゃん達が喧嘩した時のことを思い返す。
お兄ちゃんがクドージンさんを酷く言う気持ちはわかる。
面白半分に世界中の人を殺した彼は、どう考えても間違っている。
でも、クドージンさんを庇うゼルくんの気持ちも、分からなくはない。
彼の本心を聞いた後でも、それでも少しは良心があるんじゃないかって希望が捨てきれない。
....だって、どんな理由であれ、私達を助けてくれた命の恩人だもの。
「....ねぇ、ホリーくん。ホリーくんは、クドージンさんのこと、どう思う?」
「え?そうだなぁ....1回しか会ったことがないし、そこまで話していないから、何とも言えないかな?」
「そっか....。」
ホリーくんはライトニング邸でしか会ったことがないんだっけ?
だったら仕方ないか。
「ライラさん、もしかして彼のことで、何か悩んでいるの?」
「えっ?なんで?」
「だって、彼のことで悩んでいなかったら『彼のことをどう思うか』なんて聞かないでしょ?」
確かに、その通りかも。
「...実は私、クドージンさんが良い人であって欲しいの。確かに、あの人がやったことは悪いことだよ。それでも私達を助けてくれた人だから、完全に悪い人だと思えない、というか.....」
「確かに、人助けをする人に根っからの悪人はいないと思うよ。僕も彼が悪人じゃないって信じたい。だけど、以前彼が言っていたことは、本心のようにも感じるんだ。」
クドージンさんが前に言っていたこと...。
『世界を滅ぼそうとしたのは、単に面白そうだったからに決まってんだろ?』
アレは本当に、本心なの?
彼の心の中に、良心は一欠片も残っていないのかな?
「もし、彼が本当に根っからの悪人、だったら...。」
「だったら?」
「私は、彼に改心して欲しい。私達を助けてくれるくらいだから、きっとできると思うの!」
「改心、かぁ。」
するとホリーくんは、渋い顔をして質問をした。
「そもそもクドージンさんが世界の滅亡を望んだのは、なんでなの?」
「え?その理由は前、彼自身が言ってたよ?『面白そうだから』って。」
「ごめん、語弊があったね。そういう意味じゃないんだ。彼が『世界が滅亡したら面白そう』と感じる価値観になったのは、なんでかな?って思ったんだ。」
「それって、どういうこと?価値観なんて、人それぞれなんじゃないの?」
「確かに、人ぞれぞれではあるんだけどね。でも、その言葉で終わりにしたら、彼を説得するのは難しいんじゃないかな?」
ホリーくんは何を言いたいんだろう?
「クドージンさんの価値観がわからなくても、『人を痛めつけるのは悪いことだ』って言い続けたら、いつかは通じるんじゃないかな。」
「う~ん。それは、どうだろう?」
ホリーくんは私の意見に、眉をひそめた。
「悪いことを『悪いことだ』と思っていない相手に、頭ごなしに『それは悪いことです』って言い続けても、相手の心には響かないと思うんだ。
というのもね。これは知人の資産家の話なんだけど、その資産家は、毎日のように罵詈雑言や嫌がらせをしてくる人がいて、困っていたんだ。ある日、その資産家は嫌がらせに耐えかねて、その人を裁判で訴えたんだ。そしてその人は当然、罰せられることになった。罰を受けることになったその人は、一体、なんて言ったと思う?」
「う~ん。『今まで酷いことをして、すみませんでした。』とかかな?」
ホリーくんは、静かに首を横に振った。
「『なんで私がお金を払わないといけないんですか。金持ちの癖に、批判を真摯に受け止めずに弱者からお金を巻き上げようだなんて、やってて恥ずかしくないんですか?いいですよ。今回は仕方ないから慰謝料を払ってあげますよ。そのかわり、あなたは私の批判を客観的に受け止める努力をしなさいよ。こっちはお金を払ってやってるんだから、やって当然でしょ?』」
うわぁ。
反省どころか、暴言ばかりが出てきて、引いてしまった。
「ちなみにその人、裁判が終わった数日後に『あの資産家は権力を使って私を潰そうとした!自分にとって不都合な真実を言う人間に、無実の罪を着せるなんて、現代のヒトラーだ!』って声高々に吹聴し出したよ。」
「.....本当に資産家の人は、悪いことはしていないの?」
ここまで酷いと、資産家の人を疑いたくなる。
「していないよ。その人は至って誠実だった。
要するにこの話で言いたかったのは、どんなに悪い人でも『自分は間違ったことをしている』なんて微塵も思っていない、ってことなんだ。それが例え法に触れていたとしてもね。」
そんな...。
法を破るのって、普通に悪いことじゃん。
それなのに『悪い』って思えないなんて。
理解できない感性だ。
「あ。ライラさん、『理解できない』って顔しているね。じゃあ、悪いことをする人の心理を、さっきの困った人の話で例えてみるね。
さっきの困った人の考えは多分こうだよ。
『非常識な資産家がいたから、何度もキツく言って改善を促そうとした。しかし資産家はなかなか反省しないため、私は正義の鉄槌を下してやった。ところがその資産家は、権力を駆使して私を攻撃してきた。私は非常識な資産家を注意していただけなのに、なぜ訴えられないといけないのか。悪いのは客観的に自分を省みない資産家と、資産家を擁護する歪んだ法律だ。私は権力者にねじ伏せられた可哀想な被害者だ。』
こんなところかな?」
なるほど。
訴えられた人は客観的に見たら悪い人だけど、その人は『その人が思う正しいこと』をやっていただけなんだ。
その人からすれば、本当に悪いのは資産家の人や法なんだ。
「ライラさん、こんな風に考えている人に『悪口や嫌がらせは悪いことです』って注意して、伝わると思う?」
私は首を横に振った。
自分が正しいと思うことをしただけなのに、それを否定されたら嫌な気持ちににしかならない。
何なら、意地でも相手の意見なんか聞くものか!って思っちゃうかも。
だから訴えられた人は、謝らなかったんだ。
「話は戻すけど、クドージンさんを説得する時、さっきライラさんが言っていたみたいに何度も正論で訴えたら伝わると思う?」
「それは.....無理かも。」
彼が何で『人を殺すが面白い』と思うのかはわからない。
でも自分が面白いと思っているものを全否定されたら、誰だって不愉快だ。
それを何度も言われたら、聞き入れるどころか、その人と距離を置きたくなる。
「でも、それじゃあ一体どうやって、彼を説得すればいいの?」
「そうだなぁ。これは僕個人の意見だけど、まずは彼の気持ちを理解するのが一番重要なんじゃないかな。」
クドージンさんの気持ち?
人が、たくさん死んで、それを面白いと思う気持ち....。
想像しただけで、理解できない。
「でも私、どう考えても『人が死んで面白い!』なんて思えないよ。」
「なにも本当に彼と同じ気持ちになる必要はないよ。彼が『人が死んで面白い』と感じるようになった思考回路が理解できれば十分じゃないかな。」
ホリーくんは難しいことを言うなぁ。
「魔物を倒すのだって、闇雲に攻撃するより魔物のことを調べて弱点を狙う方が、倒せる確率が上がるでしょ?要するにそれと同じだよ。」
確かに、それは言えてるかも。
「あと、彼と仲良くなるのも大事だと思うな。説得って『何を言うか』より『誰が言うか』が重要だからさ。」
「『誰か言うか』?」
「そう。例えば、僕たちがレオンくんに『平民を差別するのは良くないことだよ』って言って、聞いてくれると思う?」
「う~ん。『口ごたえするな!平民風情が!』って怒られる気がする。」
「じゃあ、レオンくんのお父さんが、彼に『平民を差別するのは品のない行為だからやめなさい!』って言ったら、彼は言うことを聞くと思う?」
「それだったら、言うことを聞くかも。レオンくん、お父さんのことを尊敬していそうだから、尊敬するお父さんの期待を裏切れないと思うし。」
「だよね?説得内容が同じでも、説得する人間が違ったら、結果も全然違ってくるんだよ。
人間って『言っていることの正しさ』と『言っている相手に対する感情』を割り切れるほど、器用じゃないんだよ。
まぁ、中にはそれができる器用な人もいるかもしれないけどさ。それができる人って、一部の徳が高い人だけなんだよ。」
確かに、それはそうかも。
私自身、『言っていることの正しさ』と『言っている相手に対する感情』を割り切れている自信がない。
「だからクドージンさんに『ライラさんの話だったら聞いても良い』って思ってもらってから、説得する方が効果的なんじゃないかな?」
なるほどね。
ホリーくんの助言は、的を得ている。
クドージンさんを説得するのに、彼を理解することと彼の信頼を得ることは、確かに重要なのかも。
「ごめんねライラさん、話が長くなって。いやぁ~、歳をとると、どうしても説教臭くなっちゃうね。....気をつけないと。」
「ううん。むしろ、ありがとう。ホリーくんのおかげで、クドージンさんと、どう関わっていけばいいか分かったよ。」
よく考えたら、私は彼のことを全然知らない。
たった数回、会って話しただけだ。
でも、それじゃ駄目なんだ。
自分の理想を彼に押し付けるんじゃなくて、彼のことをもっと理解しないといけないんだ。
今度クドージンさんに会ったら、彼のこと、たくさん聞いてみよう。
好きなものはなにか。
普段は何をしているのか。
....彼の正体は、どこの誰なのか。
さすがにそれは答えてくれないか。
「あっ!ライラさん、ちょっと待ってね。」
ホリーくんがスマドを取り出して操作すると、画面を私に見せてくれた。
「タクトくんとゼルくん、仲直りできたって!」
「よかった!お兄ちゃん、ちゃんとゼルくんと話し合えたんだ。」
私とホリーくんは連絡を受けて、みんながいる講堂へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました
Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる