転生魔王の正体は?ーー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですーー

サトウミ

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第11話:永久睡眠

【36】永久睡眠(3)

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医務室に着いた俺達は、早速、養護教諭にカタリーナの容態を見てもらった。
倒れた原因は考えるまでもない。
「殿下心酔病」だ。
コイツはいつも殿下が絡むと暴走するから間違いない。
きっと倒れたのは末期症状だからだ。

まぁ、要するに大した病気じゃないってことだ。

養護教諭はカタリーナの容態を確認すると、険しい顔をしながら俺たちの方を向いて話し出した。

「皆さん、カタリーナさんが倒れた時の様子を伺ってもよろしいでしょうか?」
「はい。カタリーナと僕達は他愛もない会話をしていて、その会話でカタリーナが興奮して倒れて、そこからなかなか起きないので医務室まで連れてきました。」

「カタリーナさんの足元に、術式が浮き上がったような痕跡はありましたか?」
「いえ。特に変わったことは起きていませんでした。」
「では、倒れる直前にカタリーナさんが何かを手にしましたか?」
「いえ、何も。」

「すみません、それらの質問はカタリーナと、どう関係しているのですか?カタリーナの容態は大丈夫なのでしょうか?」

「....詳しくは不明ですが、カタリーナさんは永久睡眠エターナルスリープをかけられている可能性が高いです。」
「えっ?!」
養護教諭が下した診断結果に、まるで時が止まったかのようにその場が凍りついた。

「少なくとも、カタリーナさんが眠っている原因は魔術であることは判明しています。魔術反応が強いことから永久睡眠エターナルスリープのような強い催眠魔術が使われている可能性が高いです。」

永久睡眠エターナルスリープって、大して催眠効果のない魔術だろ?
そこまで深刻になるような魔術じゃないだろ。

「眠らせるだけの魔術でしたら、カタリーナさんが起きるのを待てばいいのではないのでしょうか?」
「ただの催眠魔術であれば、そのうち起きるかもしれません。ですが永久睡眠エターナルスリープのような強力な魔術の場合、術者が解除しない限り、死ぬまで眠り続けます。」

「でしたら、魔術で起こせば良いのでは?眠らせた人を起こす魔術って、ありましたよね?」
「魔術で無理に起こすのは危険です。強力な催眠魔術の場合、魔術にかかった人間が望む夢を見せて、意識を夢の中に閉じ込めてしまいます。その状態で無理矢理魔術で起こすと、意識は永久に夢の中に閉じ込められたままになり、催眠魔術をかけた者でも解除が不可能になってしまいます。」

思ったより、ややこしい魔術だったんだな。

「では、カタリーナは永遠に眠ったままなのですか?」
「カタリーナ様を助ける方法はありませんか?」

さっきの説明を聞いたからか、殿下とアリーシャは瞳を潤ませて狼狽える。

「カタリーナさんを助けるには、術者を特定して解除させるしか方法はありません。」

そんなアホな。
自力で起きればいいだろ、自力で。
昔、永久睡眠エターナルスリープをかけられた時、「起きたい」って強く願ったら普通に起きれたぞ?

「カタリーナさんが自力で目覚める可能性は、本当にないのですか?」
「あり得ません。自力で起きるには、『夢から覚めたい』と強く願う必要があります。ですが先程説明した通り、強力な催眠魔術の場合、魔術にかかった人間が望む夢を見せます。たとえ夢だと分かっていても『ずっとここにいたい』と思わせるくらい依存性の高い夢なのです。この夢は意思の強い者でも起きることができないくらい、依存性が高いのです。ですので自力で起きるのは不可能、と考えてください。」

そんなにいい夢か?
永久睡眠エターナルスリープをかけられた時、胸糞悪い夢しか見なかったが?
養護教諭の説明に、今ひとつ納得ができない。

「では、もし術者に解除させることができなかったら….」
「カタリーナさんは眠ったまま、いずれ息を引き取ることになります。」

その一言で、殿下とアリーシャは今にも泣きそうな顔で項垂れた。

....永久睡眠エターナルスリープって、大したことない魔術だよな?
まさか、本当にカタリーナが眠ったままだなんて、さすがに無いだろ。
アイツは図太いし、そのうちすぐに起きるに決まっている。

だけどもし、万が一、このまま養護教諭が言うみたいに眠ったままだったら?

そしたら....。
.....。

折角考えた超大作アップスターオレンジが無駄になるじゃねえか!
嘘シナリオに振り回されて、アホなことをしでかすカタリーナ。
それを見るために練りに練った傑作が、こんなところで台無しになるのは勿体ない。

全く、よく懲りもせずに死にかける女だな。
ここで文字通り永眠されてもつまらないし、俺が直々に起こしてやるか。


◆◆◆


「....あれ?」
目が覚めると私は、どこかで見覚えのある部屋で横になっていた。

「え...?」
部屋中に飾られたポスターや本棚を見て、瞬時に思い出した。
ここは前世の、桜井千佳としての私の部屋だ。

「なんで?」
久々に入った自分の部屋に、嬉しさや懐かしさ以上に驚きが勝る。

確か私、殿下達と一緒に話していたはずよね?
それなのに、なぜ日本の実家にいるのかしら?

「千佳ー、入るわよー!」
ノックと同時に入ってきたのは、前世でのお母さんだった。
その懐かしい母の姿を見た瞬間、嬉しさと同時になぜか涙が込み上げてきた。

「お母さんっ!」
私は思わず、お母さんに抱きついた。
もう二度と会えないって、諦めていたのに。
お母さんの服は、私の涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった。

「あらあら、どうしたの?何か辛いことでもあった?」
「お母さんに会えたのが嬉しくて、嬉しくて...。」
「あらそう?お母さんはいつだって、あなたの側にいるわよ。」
泣きじゃくる私とは反対に、お母さんはにこやかな笑顔を私へ向けた。

「でも、もうそろそろあなたも一人立ちした方がいいんじゃない?25歳にもなって実家を出ずに、アニメとゲーム三昧なのは、将来がちょっと心配よ?」
余計なお節介を言うところも懐かしいな。
生前の私だったら『真面目に働いて稼いでいるんだから、別にいいでしょ!』と怒っていただろう。
でも今は、そんな小言ですら聞けて嬉しい。

「そんなことより、私、なんでここで寝てたの?殿下とアリーシャ様、それにフレイくんは?」
「殿下?アリーシャ?フレイ?.....もしかしてあなた、VRゲームのやりすぎで現実とゲームの世界の見分けがついていないんじゃない?」

「VRゲームなんかじゃないわ!そもそもウチには、VRゴーグルが無いじゃないの。」
「VRゴーグルって....なに古いこと言ってるの?イマドキはVRアプリでしょ。」

「VRアプリ?」
「えっ、それ本気で聞いているの?
『アプリを開くだけでVRの世界に行けるなんて、控えめに言って神!視覚や聴覚だけじゃなくて、嗅覚や味覚、痛覚まで再現できるなんて、さすがは天下の大福商事!地元の誇り!』
....って、散々、大福商事を褒め称えていたじゃない。まさか忘れたの?」

全然、記憶にない。
そんな高性能なアプリがあるのならインストールしているはずだし、忘れるワケがない。
でもいくら記憶を辿っても、VRアプリに関する記憶を思い出せない。

「でもさっきまで殿下達はそこにいたわ。それに今までずっと長いこと一緒に過ごしてきたし、VRゲームのはずがない!」

「これは重症ねぇ...。あのね、千佳。ここには殿下もアリーシャもフレイもいないの。アップスターオレンジの世界にしか存在しない人物なの。いい年した大人なんだから、いい加減目を覚ましなさい。」

ちょっと待って?
今、なんて言った?!

「アップスターオレンジって、どういうこと?!」

「どうもこうも、あなたが最近ハマっているVRゲームのことでしょ。確か原作が小説で、よくある中世ヨーロッパ風の異世界が舞台のゲームだっけ?そこであなたは『カタリーナ』って名前の公爵令嬢のアバターを作ってプレイしているんじゃなかったの?」

つまり、さっきまでいた世界がVRゲームだったってこと?
カタリーナ・エセヴィランは転生後の姿じゃなくて、ただのアバターだったの?

「で、でも私、交通事故で死んだわよね?」
「何を言ってるの。確かに千佳は事故で頭を強く打ったけど、軽症で済んでいたでしょ?...もしかして千佳、あの時の事故のせいで記憶に曖昧な部分ができたのかしら?」

お母さんは本気で心配している。
冗談を言っているようには見えない。

....ということは、私は今も生きてるの?
ここは紛れもない現実?
だったら殿下も、アリーシャ様も、フレイくんも....全部、幻?

「じゃあ、殿下達にはもう会えないの?」
「アップスターオレンジの世界に行きたいの?だったらアプリを開けばいいんじゃない?あのアプリ、音声認証で開けるでしょ。あなた、いつも『ワールドチェンジ!』って言ってアプリを開いていたじゃないの。」

そう、なの?
私は試しに『ワールドチェンジ』と唱えてみた。
すると一瞬にして、私の部屋はあっちの世界の学生寮の部屋へと様変わりした。

「戻ってる....!」
机に置いたままの教科書や、枕元に置いてある小説の栞の位置も、今朝と全く同じだわ。
それじゃあこの世界って、お母さんの言う通りVRゲームの世界だったのね。

良かった。私、死んでなかったんだ。
ずっと両親にも、妹にも、友達にも会えないと思っていたけど、私の勘違いだった。
ワールドチェンジをすれば、いつでも現実世界のみんなや、アップスターオレンジの世界のみんなに会えるんだ。

「....誰とも、別れなくていいんだ。」
そのことに安堵した私は、ベッドに横たわった。
そして、自然と笑みがこぼれた。


それから私は、現実世界とVRゲームアップスターオレンジの世界での暮らしを満喫した。

現実世界では家族旅行をしたり、友達とカフェやコミケに行ったり、あと嫌だけどお給料のために仕事を頑張ったりもした。
そしてVRゲームアップスターオレンジの世界では、授業を受けたり、魔法を鍛えたり、ライラちゃん達と放課後に遊びに出かけたりした。

こんな何気ない日常が、ずっと続けばいいのに。

幸せな日々が続いたある日、現実世界で突然、誰かが私の家にやってきた。
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