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第13話:ドーワ侯国旅行
【51】ドーワ侯国旅行(4)
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集合場所であるポップカルチャービルの出入口へ行くと、他のメンバーも全員揃っていた。
「みんな、お待たせ!」
「私達も、今来たところよ。ライラちゃん達、お買い物とかは楽しかった?」
「うん!ニホンの服、可愛いからたくさん買っちゃった!」
「ゲームセンターも楽しかったですよ。鈍器の達人ってゲームに夢中になって、いつの間にか新記録を更新しちゃいました。」
「メイドキッサもすげー良かったぜ。巨乳美女は乳を見るだけでも癒されるわ。お前らは?」
「屋内フェスは熱気が凄かったよ。激しい音楽で、歌っている人と観客が一丸となって盛り上がって、不思議な感じだった。」
「僕とゼルくんは、その時歌っていた『YOFUKASHI』っていうグループが好きになってね。彼らの曲がスマドで聴けるらしいから、早速『ダウンロード』というものをしてみたんだ。」
「僕が行ったお笑い劇場も、面白かったよ。練乳ガールの行ったり来たり漫才は、やっぱりいつ見ても面白いね。」
「本屋も楽しかったわよ。まさか同人誌がこっちの世界でも買えるなんて思わなかったわ。」
「それに、座ってコーヒーを飲みながら本が読める場所もあったしね。ダイフク商会も粋なことをするじゃないか。」
どうやら全員、ポップカルチャービルを満喫できたようだ。
「じゃあ次は、どこに行こっか?」
俺達はポップカルチャービルを出て、歩きながら次に行く場所を考える。
「そういえば、僕らが持っているVIPフリーパスがあれば、屋形船でニホンアイランドを回りながら、豪華な料理が食べられるよ。」
「屋形船って、何ですか?」
「日本の船の一つよ。まぁ、私もあまり乗った記憶がないけどね。」
「船かぁ!俺、乗ったことがないから乗ってみたい!」
「それにまだ昼食を取ってないしね。ヤカタブネで遅めのお昼ご飯にしようよ。」
「「賛成!」」
話がまとまって屋形船の乗船場へ向かっていると、ふと周りの様子がおかしいのに気付いた。
右にも左にも、赤いスカーフを身に着けた魔人達がいる。
しかも魔人たちは、少し距離を置きながら俺達についてきていた。
「ねぇ、あそこにいる人達って...」
「間違いない。さっき言ったレッドオーシャンの魔人達だよ。」
「なんかアイツら、俺達のことを睨んでいないか?」
ライラ達はコソコソと、小さい声で会話する。
不穏な気配を感じるものの、魔人達のことは気にしないようにして歩き続ける。
すると魔人達は、進路を塞ぐように、俺たちの周りを囲った。
「えっ...」
「ど、どういうこと?」
ライラとカタリーナは、魔人達に怯えて身を寄せ合う。
立ち止まって魔人たちの様子を見ていると、俺たちの前に一人の男が現れた。
その男は、獅子のような鬣と尻尾があり、一見すると獣人のようだった。
しかしその目は、魔人特有の赤い目だった。
....この男、どっかで見たことがある気がする。
「テメェらか?ウチのメンバーを可愛がってくれた厄災ってヤツは。」
「はい?」
「何の話だ?」
そうか。
こいつら、ゲームセンターにいた奴らの敵討ちに来たんだ。
「俺らに喧嘩売るなんざ、いい度胸じゃねえか。たっぷりお礼してやるよ。」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ホリーは俺達を守るようにバリアを張り、男に話しかける。
「きっと何かの間違いです。僕達はレッドオーシャンの皆さんに危害を加えた記憶はありません。そうだよね、みんな?」
ホリーの質問に、俺以外の全員が同意する。
俺も咄嗟に、首を縦に振った。
「あぁ?お前ら、ウチのモンが嘘ついてるって言いてぇのか!」
男はホリーのバリアに拳をぶつける。
バリアはびくともしなかったが、ホリーは「ひぃ!」小さく悲鳴を上げた。
「あ!アイツです、総長!」
そう告げ口をするのは、さっきゲームセンターで怯えて逃げていった奴らだった。
その中の一人が俺を指差して、総長と呼ばれた獅子髪の男に教える。
余計なこと、しやがって。
「そうか、テメェか。出てこいや、そこの緑髪!それともビビってんのか?!」
ん?緑髪?
どういうことだ。俺の髪は緑ではない。
「ンだと?!テメェなんかにビビるワケねぇだろ!このモジャモジャ野郎が!」
総長とやらの煽りに反応したのは、タクトだった。
タクトはキレて、バリアの外に出る。
....そうか、総長の男は、指差された相手を勘違いしているのか。
下っ端の男が指差した方向には、俺の後ろに重なるようにタクトがいた。
そのせいで、細身の俺ではなく、ガタイの良いタクトのことを言っているのだと解釈したのだろう。
なんか、それはそれで腹が立つな。
指差した下っ端の男も、総長が違う相手と勘違いして困惑していた。
だが、場の空気を読んでか、間違いを訂正することはなかった。
「はぁ!モジャモジャだと?!テメェ、ソレ言ったこと後悔させてやる!」
タクトの言葉が総長の男の逆鱗に触れたようだ。
「野郎ども!コイツらぶっ殺せ!」
その一声で、周りを囲っていた魔人達は一斉に俺達に襲いかかってきた。
魔人達の何人かは、バリアの外にいるタクトに襲いかかった。
残りの魔人達は四方八方から、俺達のいるバリアを攻撃する。
タクトは襲いかかった男達の攻撃を避けながら、一人ずつ着実に倒していく。
そして襲いかかってくる奴がいなくなると、今度はバリアに攻撃している奴を順番に倒していった。
「なんだよ。レッドオーシャンって、案外雑魚じゃん!」
タクトは肩で息をしながら、総長の男を挑発した。
「なかなかやるじゃねえか、テメェ。」
男は、鬼の形相でタクトを睨みつける。
「だけどな、俺はコイツら程甘くはねぇぞ。」
「だったら来いよ。返り討ちにしてやる。」
挑発に乗った男は、両手に炎を纏って、タクトに殴りかかった。
「ハッ!そんな技、効くかよ!」
タクトは平然とした顔で、攻撃を両腕でガードする。
「ッチ!だったらコイツはどうだ!」
男は勢いよくタクトの腹へ蹴りを入れた。
よほどの威力だったのか、タクトは苦悶の表情を浮かべる。
「ヘッ...なかなか良い蹴りじゃねえか!だったらこっちも!」
タクトは脚に炎を纏わせて、男に向かって飛びかかる。
「火炎連脚!」
その蹴りを顔面に喰らった男は、後ろにのけぞる。
「くっ...!」
「へぇ、この技喰らって倒れないなんて、なかなかやるじゃねえか。」
「ナメんな。この程度の蹴り、親父に比べれば大したことねぇ。」
「ああ、そうかよ!」
二人は再び、互いに拳をぶつけ合う。
互いに一歩も引かない戦いに、俺達だけでなく、周りを行き来していた一般客もその戦いを眺めていた。
殴り合いの死闘の末、両者は渾身の一撃を互いに喰らわせ、二人同時にその場で倒れた。
それにより、場が一気に静まり返る。
暫くの沈黙の後に、タクトがゆっくりと身体を動かし始めた。
そして満身創痍の身体を無理矢理動かすように、そっと立ち上がった。
立ち上がったタクトは、息遣いが分かるくらい、肩を大きく揺らしていた。
「どうだ...。俺の勝ちだ...!」
タクトは吐き捨てるように言うと、それに反応して総長の男もゆっくり動き出した。
「クソがっ...!」
「これに懲りたら、二度と言いがかりをつけんなよ。」
「うるせぇ!テメーが先に喧嘩売ってきたんだろ、この厄災が!」
「だから知らねぇって。第一、厄災ってなんだよ。厄災の魔王のことか?」
「あぁ?!」
男は『厄災の魔王』という単語を耳にした途端、スイッチが入ったかのように再び怒り出し、ズタボロの身体を必死に起こした。
「お前ら人間如きが、気やすく魔王様を語るんじゃねえよ!」
そして男は再び、タクトに殴りかかろうとした。
「くぉおおおらぁ!!このアホ息子がぁぁ!!」
するとその時、大男が走ってきて総長の男にドロップキックを喰らわした。
ドロップキックを喰らった男は、今度こそ完全に意識を失った。
「兄ちゃんたち、すまねえな。ウチのドラ息子が迷惑かけた。」
大男はタクトに向かって頭を下げる。
「い、いえ...。大丈夫っす。」
急に現れた大男に、タクトは何が起こったのかが分からず、たじたじになる。
タクトの返事を聞いた大男は、頭を上げた。
「あっ!あなたは...!」
ホリーはその大男を知っているのか、顔を見た瞬間、思わず声を漏らした。
その大男は、総長の男と同じく、獅子のような鬣と尻尾があった。
しかし瞳は魔人と違って、緑色だった。
大男は、全身見える範囲に無数の斬り傷があり、右目は眼帯をしていた。
この男も、どこかで見たことがある気がする。
「おっ!誰かと思ったら、コトナカーレ侯爵のところのミラお嬢ちゃんとホリー坊ちゃんじゃないか。」
「ホリーくん、知り合い?」
「彼はキメイラ帝国元・騎士団長の、ゲイル・ホールデンさんだよ。」
あぁ!思い出した。
確かコイツ、厄災の魔王時代で毎回戦地に赴くたびに偉そうにしていた奴だ。
あの時とは違って、傷だらけで眼帯までしていたから、一瞬では分からなかった。
「この馬鹿、坊ちゃん達に迷惑かけてたのか。愚息が申し訳ありません。」
「いえいえ、お気になさらずに。まさかレッドオーシャンの総長がゲイルさんのご子息だとは思いもよりませんでした。」
「恥ずかしい話だが、俺もつい最近知った話でな。『ドーワ侯国で成り上がる』なんて息巻いて家を出て、それっきり音沙汰がないと思ったら、犯罪集団の頭をやってるって噂を聞いてよ。心配になって様子を見に来たら、このザマだ。」
ゲイルは、倒れている息子の顔を見て、ため息をついた。
「坊ちゃん達、息子が迷惑かけたお詫びをさせてくれ。」
「お詫びだなんて、そんな.....。」
「だったら、おっさん。アンタの息子とそのお仲間が、二度と他人に迷惑かけないように教育してくれよ。」
「もちろんだ。でも、そんなのはやって当然だから、詫びにはなんねぇよ。」
「そんなことはありません。ドーワ侯国で社会問題になっているカラーギャングの一つが、ゲイルさんのお陰でいい方向に変わるかもしれないんですから。」
「あぁ。何なら、レッドオーシャンなんてダサいチーム、コイツをぶん殴ってでも即日解散させてやるさ。
そういえば坊ちゃん達、この後ヒマか?お詫びに何か奢らせてくれよ。」
「ありがとうございます。ですが、お気持ちだけ受け取っておきます。」
「そうかい。でもなぁ...。それじゃ、俺の気が済まねぇよ。」
ホリーに断られたゲイルは、渋い顔をした。
「でしたら今度、キメイラ帝国に案内して頂く、というのはどうでしょうか?みんなも、キメイラ帝国へ遊びに行ってみたいよね?」
ホリーの問いかけに、俺達は一同に首を縦に振る。
「そんなんで良けりゃ、いつでも案内するぜ!人間だとキメイラ帝国に入り辛いだろうからな。変なのに絡まれないように、護衛も兼ねて案内してやるよ。」
「それでは決まり、ですね!ゲイルさんが護衛してくださるなんて、頼もしいです。」
すると突然、タイミングを見計らったかのように、ライラのお腹が「ぐぅ~」と大きく鳴った。
その場にいた全員の視線を集めたからか、ライラ恥ずかしそうに顔を伏せた。
「だ、だって!....お昼ご飯、食べてないんだもん。」
「そういえば、まだだったわね。私もお腹空いたし、屋形船でお昼ご飯にしましょ!」
「そうだね。せっかくだし、もしみんなが良ければ、ゲイルさんも一緒に屋形船に行ってもいい?ゲイルさんも、どうですか?」
えぇ....。
何が悲しくて、さっき会ったばかりのおっさんと食事せにゃならんのだ。
ミラが今ここにいることでさえ違和感があるのに、おっさんまで混じったら気まずくて楽しくなくなるじゃないか。
「俺は別に構わねえぜ。キメイラ帝国にいつ遊びに来るのか、とか色々決めたいしな。それに、個人的に話したいこともあるし。」
「私も、ゲイルさんと一緒でも大丈夫だよ。」
「僕も。」
「私も!」
「俺も。」
そんな俺の思いとは裏腹に、他の奴は一切文句を言わなかった。
「それならよかった。それじゃあ、ゲイルさんも屋形船に行きましょう!」
「あぁ!」
結局、こうなるのか。
まぁ、いまさら俺一人が反対したところで、結果が変わることはないだろう。
多少の不満はありつつも、俺達とゲイルは屋形船へと足を運んだ。
「みんな、お待たせ!」
「私達も、今来たところよ。ライラちゃん達、お買い物とかは楽しかった?」
「うん!ニホンの服、可愛いからたくさん買っちゃった!」
「ゲームセンターも楽しかったですよ。鈍器の達人ってゲームに夢中になって、いつの間にか新記録を更新しちゃいました。」
「メイドキッサもすげー良かったぜ。巨乳美女は乳を見るだけでも癒されるわ。お前らは?」
「屋内フェスは熱気が凄かったよ。激しい音楽で、歌っている人と観客が一丸となって盛り上がって、不思議な感じだった。」
「僕とゼルくんは、その時歌っていた『YOFUKASHI』っていうグループが好きになってね。彼らの曲がスマドで聴けるらしいから、早速『ダウンロード』というものをしてみたんだ。」
「僕が行ったお笑い劇場も、面白かったよ。練乳ガールの行ったり来たり漫才は、やっぱりいつ見ても面白いね。」
「本屋も楽しかったわよ。まさか同人誌がこっちの世界でも買えるなんて思わなかったわ。」
「それに、座ってコーヒーを飲みながら本が読める場所もあったしね。ダイフク商会も粋なことをするじゃないか。」
どうやら全員、ポップカルチャービルを満喫できたようだ。
「じゃあ次は、どこに行こっか?」
俺達はポップカルチャービルを出て、歩きながら次に行く場所を考える。
「そういえば、僕らが持っているVIPフリーパスがあれば、屋形船でニホンアイランドを回りながら、豪華な料理が食べられるよ。」
「屋形船って、何ですか?」
「日本の船の一つよ。まぁ、私もあまり乗った記憶がないけどね。」
「船かぁ!俺、乗ったことがないから乗ってみたい!」
「それにまだ昼食を取ってないしね。ヤカタブネで遅めのお昼ご飯にしようよ。」
「「賛成!」」
話がまとまって屋形船の乗船場へ向かっていると、ふと周りの様子がおかしいのに気付いた。
右にも左にも、赤いスカーフを身に着けた魔人達がいる。
しかも魔人たちは、少し距離を置きながら俺達についてきていた。
「ねぇ、あそこにいる人達って...」
「間違いない。さっき言ったレッドオーシャンの魔人達だよ。」
「なんかアイツら、俺達のことを睨んでいないか?」
ライラ達はコソコソと、小さい声で会話する。
不穏な気配を感じるものの、魔人達のことは気にしないようにして歩き続ける。
すると魔人達は、進路を塞ぐように、俺たちの周りを囲った。
「えっ...」
「ど、どういうこと?」
ライラとカタリーナは、魔人達に怯えて身を寄せ合う。
立ち止まって魔人たちの様子を見ていると、俺たちの前に一人の男が現れた。
その男は、獅子のような鬣と尻尾があり、一見すると獣人のようだった。
しかしその目は、魔人特有の赤い目だった。
....この男、どっかで見たことがある気がする。
「テメェらか?ウチのメンバーを可愛がってくれた厄災ってヤツは。」
「はい?」
「何の話だ?」
そうか。
こいつら、ゲームセンターにいた奴らの敵討ちに来たんだ。
「俺らに喧嘩売るなんざ、いい度胸じゃねえか。たっぷりお礼してやるよ。」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ホリーは俺達を守るようにバリアを張り、男に話しかける。
「きっと何かの間違いです。僕達はレッドオーシャンの皆さんに危害を加えた記憶はありません。そうだよね、みんな?」
ホリーの質問に、俺以外の全員が同意する。
俺も咄嗟に、首を縦に振った。
「あぁ?お前ら、ウチのモンが嘘ついてるって言いてぇのか!」
男はホリーのバリアに拳をぶつける。
バリアはびくともしなかったが、ホリーは「ひぃ!」小さく悲鳴を上げた。
「あ!アイツです、総長!」
そう告げ口をするのは、さっきゲームセンターで怯えて逃げていった奴らだった。
その中の一人が俺を指差して、総長と呼ばれた獅子髪の男に教える。
余計なこと、しやがって。
「そうか、テメェか。出てこいや、そこの緑髪!それともビビってんのか?!」
ん?緑髪?
どういうことだ。俺の髪は緑ではない。
「ンだと?!テメェなんかにビビるワケねぇだろ!このモジャモジャ野郎が!」
総長とやらの煽りに反応したのは、タクトだった。
タクトはキレて、バリアの外に出る。
....そうか、総長の男は、指差された相手を勘違いしているのか。
下っ端の男が指差した方向には、俺の後ろに重なるようにタクトがいた。
そのせいで、細身の俺ではなく、ガタイの良いタクトのことを言っているのだと解釈したのだろう。
なんか、それはそれで腹が立つな。
指差した下っ端の男も、総長が違う相手と勘違いして困惑していた。
だが、場の空気を読んでか、間違いを訂正することはなかった。
「はぁ!モジャモジャだと?!テメェ、ソレ言ったこと後悔させてやる!」
タクトの言葉が総長の男の逆鱗に触れたようだ。
「野郎ども!コイツらぶっ殺せ!」
その一声で、周りを囲っていた魔人達は一斉に俺達に襲いかかってきた。
魔人達の何人かは、バリアの外にいるタクトに襲いかかった。
残りの魔人達は四方八方から、俺達のいるバリアを攻撃する。
タクトは襲いかかった男達の攻撃を避けながら、一人ずつ着実に倒していく。
そして襲いかかってくる奴がいなくなると、今度はバリアに攻撃している奴を順番に倒していった。
「なんだよ。レッドオーシャンって、案外雑魚じゃん!」
タクトは肩で息をしながら、総長の男を挑発した。
「なかなかやるじゃねえか、テメェ。」
男は、鬼の形相でタクトを睨みつける。
「だけどな、俺はコイツら程甘くはねぇぞ。」
「だったら来いよ。返り討ちにしてやる。」
挑発に乗った男は、両手に炎を纏って、タクトに殴りかかった。
「ハッ!そんな技、効くかよ!」
タクトは平然とした顔で、攻撃を両腕でガードする。
「ッチ!だったらコイツはどうだ!」
男は勢いよくタクトの腹へ蹴りを入れた。
よほどの威力だったのか、タクトは苦悶の表情を浮かべる。
「ヘッ...なかなか良い蹴りじゃねえか!だったらこっちも!」
タクトは脚に炎を纏わせて、男に向かって飛びかかる。
「火炎連脚!」
その蹴りを顔面に喰らった男は、後ろにのけぞる。
「くっ...!」
「へぇ、この技喰らって倒れないなんて、なかなかやるじゃねえか。」
「ナメんな。この程度の蹴り、親父に比べれば大したことねぇ。」
「ああ、そうかよ!」
二人は再び、互いに拳をぶつけ合う。
互いに一歩も引かない戦いに、俺達だけでなく、周りを行き来していた一般客もその戦いを眺めていた。
殴り合いの死闘の末、両者は渾身の一撃を互いに喰らわせ、二人同時にその場で倒れた。
それにより、場が一気に静まり返る。
暫くの沈黙の後に、タクトがゆっくりと身体を動かし始めた。
そして満身創痍の身体を無理矢理動かすように、そっと立ち上がった。
立ち上がったタクトは、息遣いが分かるくらい、肩を大きく揺らしていた。
「どうだ...。俺の勝ちだ...!」
タクトは吐き捨てるように言うと、それに反応して総長の男もゆっくり動き出した。
「クソがっ...!」
「これに懲りたら、二度と言いがかりをつけんなよ。」
「うるせぇ!テメーが先に喧嘩売ってきたんだろ、この厄災が!」
「だから知らねぇって。第一、厄災ってなんだよ。厄災の魔王のことか?」
「あぁ?!」
男は『厄災の魔王』という単語を耳にした途端、スイッチが入ったかのように再び怒り出し、ズタボロの身体を必死に起こした。
「お前ら人間如きが、気やすく魔王様を語るんじゃねえよ!」
そして男は再び、タクトに殴りかかろうとした。
「くぉおおおらぁ!!このアホ息子がぁぁ!!」
するとその時、大男が走ってきて総長の男にドロップキックを喰らわした。
ドロップキックを喰らった男は、今度こそ完全に意識を失った。
「兄ちゃんたち、すまねえな。ウチのドラ息子が迷惑かけた。」
大男はタクトに向かって頭を下げる。
「い、いえ...。大丈夫っす。」
急に現れた大男に、タクトは何が起こったのかが分からず、たじたじになる。
タクトの返事を聞いた大男は、頭を上げた。
「あっ!あなたは...!」
ホリーはその大男を知っているのか、顔を見た瞬間、思わず声を漏らした。
その大男は、総長の男と同じく、獅子のような鬣と尻尾があった。
しかし瞳は魔人と違って、緑色だった。
大男は、全身見える範囲に無数の斬り傷があり、右目は眼帯をしていた。
この男も、どこかで見たことがある気がする。
「おっ!誰かと思ったら、コトナカーレ侯爵のところのミラお嬢ちゃんとホリー坊ちゃんじゃないか。」
「ホリーくん、知り合い?」
「彼はキメイラ帝国元・騎士団長の、ゲイル・ホールデンさんだよ。」
あぁ!思い出した。
確かコイツ、厄災の魔王時代で毎回戦地に赴くたびに偉そうにしていた奴だ。
あの時とは違って、傷だらけで眼帯までしていたから、一瞬では分からなかった。
「この馬鹿、坊ちゃん達に迷惑かけてたのか。愚息が申し訳ありません。」
「いえいえ、お気になさらずに。まさかレッドオーシャンの総長がゲイルさんのご子息だとは思いもよりませんでした。」
「恥ずかしい話だが、俺もつい最近知った話でな。『ドーワ侯国で成り上がる』なんて息巻いて家を出て、それっきり音沙汰がないと思ったら、犯罪集団の頭をやってるって噂を聞いてよ。心配になって様子を見に来たら、このザマだ。」
ゲイルは、倒れている息子の顔を見て、ため息をついた。
「坊ちゃん達、息子が迷惑かけたお詫びをさせてくれ。」
「お詫びだなんて、そんな.....。」
「だったら、おっさん。アンタの息子とそのお仲間が、二度と他人に迷惑かけないように教育してくれよ。」
「もちろんだ。でも、そんなのはやって当然だから、詫びにはなんねぇよ。」
「そんなことはありません。ドーワ侯国で社会問題になっているカラーギャングの一つが、ゲイルさんのお陰でいい方向に変わるかもしれないんですから。」
「あぁ。何なら、レッドオーシャンなんてダサいチーム、コイツをぶん殴ってでも即日解散させてやるさ。
そういえば坊ちゃん達、この後ヒマか?お詫びに何か奢らせてくれよ。」
「ありがとうございます。ですが、お気持ちだけ受け取っておきます。」
「そうかい。でもなぁ...。それじゃ、俺の気が済まねぇよ。」
ホリーに断られたゲイルは、渋い顔をした。
「でしたら今度、キメイラ帝国に案内して頂く、というのはどうでしょうか?みんなも、キメイラ帝国へ遊びに行ってみたいよね?」
ホリーの問いかけに、俺達は一同に首を縦に振る。
「そんなんで良けりゃ、いつでも案内するぜ!人間だとキメイラ帝国に入り辛いだろうからな。変なのに絡まれないように、護衛も兼ねて案内してやるよ。」
「それでは決まり、ですね!ゲイルさんが護衛してくださるなんて、頼もしいです。」
すると突然、タイミングを見計らったかのように、ライラのお腹が「ぐぅ~」と大きく鳴った。
その場にいた全員の視線を集めたからか、ライラ恥ずかしそうに顔を伏せた。
「だ、だって!....お昼ご飯、食べてないんだもん。」
「そういえば、まだだったわね。私もお腹空いたし、屋形船でお昼ご飯にしましょ!」
「そうだね。せっかくだし、もしみんなが良ければ、ゲイルさんも一緒に屋形船に行ってもいい?ゲイルさんも、どうですか?」
えぇ....。
何が悲しくて、さっき会ったばかりのおっさんと食事せにゃならんのだ。
ミラが今ここにいることでさえ違和感があるのに、おっさんまで混じったら気まずくて楽しくなくなるじゃないか。
「俺は別に構わねえぜ。キメイラ帝国にいつ遊びに来るのか、とか色々決めたいしな。それに、個人的に話したいこともあるし。」
「私も、ゲイルさんと一緒でも大丈夫だよ。」
「僕も。」
「私も!」
「俺も。」
そんな俺の思いとは裏腹に、他の奴は一切文句を言わなかった。
「それならよかった。それじゃあ、ゲイルさんも屋形船に行きましょう!」
「あぁ!」
結局、こうなるのか。
まぁ、いまさら俺一人が反対したところで、結果が変わることはないだろう。
多少の不満はありつつも、俺達とゲイルは屋形船へと足を運んだ。
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王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
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ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
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ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
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「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
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「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
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