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第16話:海水浴
【70】海水浴(4)
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突然、海に現れた魔物のような謎の難破船。
ホリーは戸惑いながらも、勇者サマにお願いされて、海面に難破船までの道をバリアで作った。
勇者サマは一直線に船まで向かう。
船の目前まで近づいたその時、黒緑色の気持ち悪い触手が何本も出てきて、勇者サマを捉えようとした。
だがその攻撃を事前に察知していた勇者サマは、勢いよくジャンプして触手を避けた。
獲物を捉えきれなかった触手は、その本体を海面から浮上させた。
触手の正体は黒緑色の巨大タコだ。
巨大タコは帽子のように船を頭に被せている。
「何よアレ!ひょっとしてクラーケン?」
「クラーケンに似ているけど、ありゃ別物だね。もうちょい近くで観察しないと分かんないや。」
「大した魔物ではなさそうだが、念のため我々もユシャに加勢するぞ。」
そう言ってロインとリファルとシヴァは、ホリーが作った道を通って巨大タコへ近づく。
「でしたら勇者様達が戦えるように、足場を確保しますね!」
ホリーはバリアの道を広げて、透明な床を作る。
「俺も加勢するぜ!」
「あっ、待って!お兄ちゃん!」
タクトは、祭りに参加する子どものようなテンションで巨大タコの元へと向かった。
「私も加勢するわ!ちょっとでも勇者様達の力になりたいもの。」
「それなら僕も!カタリーナが心配だし。」
その流れに乗じて、カタリーナと殿下も参戦する。
「それだったら、みんなも向こうに行ってもいい?その方がバリアを張る範囲が絞れて、魔力を節約できるんだ。」
「了解ー。」
ホリーの労力節約のために、残りの俺達も巨大タコの前まで移動することになった。
巨大タコは近くで見るとヌメヌメしていて、まるでヘドロのようだった。
先に戦っていた元勇者パーティ達の活躍もあってか、タコの足はすでに全て斬り落とされていた。
「トドメだ!」
勇者サマは横に真っ二つに斬り、終止符を打つ。
船のある上半身は絶妙なバランスでバリアの上に乗っかり、下半身は斬り落とされた足同様、海の底へと沈んでいった。
「な~んだ。俺らの出る幕ないじゃん。」
あっさりと片付いたせいでタクトはふてくされる。
「別にいいじゃないの。無事に済んだんだし。」
「....本当に、そうかな?」
あっけらかんとしている俺達とは反対に、ライラは冷や汗を流してタコの死骸を眺めていた。
「どうしたんだ、ライラちゃん?」
そんなライラを気づかって、兄さんはライラと同じようにタコの死骸を見つめる。
するとタコの死骸はピクピクと痙攣して、まるで生きているかのように動いていた。
「あ、あれはきっとタコの踊り食いと同じようなモンだよ!タコって、切られてもしばらくは動いているらしいし!」
兄さんはまるで自分自身に言い聞かせるように、ライラに説明する。
「でもソレって、踊っているのはタコの足ですよね?頭部も動くのですか?」
そうツッコミを入れるホリーも、青ざめた顔でタコを眺めていた。
「ねぇ....。アレって、あの魔物に似てない?ほら、学校の魔物転送装置でお兄ちゃんが呼び出したあの魔物に。」
タクトが呼び出した魔物?
何の話だ?
「確かに似てる!」
「じゃあアレも、バラバラになっても死ななかったり、他の生き物を吸収したりするの?」
「ねぇ貴方達、何の話をしているの?」
ライラ達の母親のロインは、俺の気持ちを代弁するかのように質問した。
「学校に魔物転送装置っていう、魔物を召喚できる魔道具があるの。お兄ちゃんがそれを使って魔物と戦おうとした時に出てきたのが、あの巨大タコと似た感じの魔物だったの。」
「タクトくんが召喚したのは、ドラゴンの形をした魔物でした。でもそのドラゴンは、私が圧縮して粉々にしても、粉々になった状態で動いていたんです。しかも近くにあった魔物の死骸を乗っ取って、また動き出して....」
「え?そんなこと、ホントにあり得るの?」
そんな状態になっても生きている魔物が厄災の魔王以外にもいるのか。
だとしたら、その魔物と厄災の魔王には何か共通点でもあるのだろうか?
「あー!確かにいたね。あの気味の悪いドラゴン。」
シヴァも知っていたのか。
「シヴァがそう言うってことは、本当にそんな魔物がいたのね。」
ロインはその事実を知って、真剣な面持ちになる。
「粉々にしても死なない生き物が、厄災の魔王以外にもいるなんて...」
厄災の魔王以外の死なない生物と聞いて、ふと魔物村での出来事を思い出しだ。
「そういえば魔物村にも、厄災の魔王そっくりの死なない魔物がいましたよね。」
「何それ!ホントなの?さっきから突拍子のない話ばかりで信じられないわ。」
「はい本当です。」
あの魔物について、前から少しだけ気になっていた。
この際、ついでに尋ねてみるか。
「あの魔物は確か、シヴァ先生が研究するために保護していましたよね?その後の研究で何か分かりましたか?」
「またシヴァも知ってる話?ねぇシヴァ、ホントにホントなの?」
俺の話に半信半疑のロインは、シヴァの目を見て問いただす。
「ハハハハ.....ホントだよ。フレイくん、この件は内緒って言ってたの覚えてる?」
「あれ?そうでしたっけ?」
「そうだよー♪フレイくん、もしかして口は軽い方?そんなんじゃ、うっかり自分の言いたくない秘密も喋っちゃうかもよ~?」
言いたくない秘密と聞いて、俺の正体のことが頭によぎった。
...肝に銘じておこう。
「そんなことより!......アレ、どうしますか?」
ゼルの指摘で、タコの斬られた頭部に再び注目が集まる。
「...ん?んーーーー??」
シヴァは何かに気付いたのか、変な声を出しながらタコを凝視している。
「ちょ~っといい?あの船、なーんか気になるんだよねぇ。」
呑気に船なんか気にしている場合か?
よほど気になったのか、シヴァは足場代わりの魔法陣を出すと、ひょいひょいとそれに飛び移り、器用に船の中へと移動した。
異物感を察知したのか、タコの肉片もシヴァを追いかけるように船の中へ入ろうとする。
だがシヴァは無数の魔法陣を繰り出し、タコに近寄らせない。
「シヴァ先生、大丈夫なのかなぁ..。」
心配そうなライラをよそに、シヴァはものの数分もしないうちにあっさり船から出てきた。
シヴァの手には、見たことのない魔道具が握られていた。
「ふぅ~。なかなか面白そうなものがあるじゃないの♪」
「シヴァ、それは一体何だ?」
「さぁ?ボクにも分かんな~い。だから、今からちょっくら解析しても良い?」
「解析?」
「そう♪」
シヴァはそう言うと、足元に魔法陣を浮かべて、魔術でどこかへとワープした。
「まったく。アイツは相変わらず自由なヤツだな。」
そんなシヴァに流石の勇者サマも呆れた様子だった。
「とりあえず、このタコどうする?ライラ達の話していた魔物と同類だったら、海に捨てるのも危ないんじゃない?」
ロインは再び話を戻した。
「そもそも、仮に厄災の魔王以外の不死の魔物が本当に出たのだとして、タクト達はその時はどう処理したんだ?」
「それは....」
返答に迷ったタクトは、なぜか俺の顔を見た。
心なしか、タクト以外の視線も俺に集まっているような気がする。
「その時は、シヴァ先生が永久睡眠をかけて保護していたよ。」
ライラが言っているのは魔物村で出た魔物のことか?
話の流れ的に、魔物転送装置で呼び出したドラゴンを倒した方法について聞いているよな気がしたが...?
「だったら今回もそれで良いな。永久睡眠なら私も使える。」
するとリファルはタコの下に魔法陣を浮かべて永久睡眠をかける。
「....おかしい。」
魔術は確かに発動したようだった。
だがタコの動きはさっきまでと変わらない。
勇者サマが剣を構えながら、恐る恐るタコに近づいたその時。
大量の黒緑色でネバネバした魔物が海から飛び出てきて、バリアの上に乗っかった。
「うわぁぁ!!」
「きゃぁ!」
ホリーとライラは情けない声を出して尻餅をつく。
そんな二人に魔物達は容赦なく襲い掛かろうとしたが、近くにいた殿下とロインが二人を抱えて回避したため、難を免れた。
「子ども達は下がってろ!ここは俺達大人が対処する!」
勇者サマは威勢よく魔物に立ち向かう。
黒緑色の魔物達は次々と斬られて行くが、斬られた後も魔物の肉片は動きだし、やがて肉片同士がくっついて大きな塊になった。
「これならどうだ!」
リファルは炎魔法で魔物を跡形もなく燃やし尽くすが、灰になった魔物の残骸は斬られた肉片同様、残骸同士でくっついて大きくなる。
「クソッ!」
「こんなの、どう倒せばいいのよ?!」
その後、3人は様々な技を試すも魔物には全く効いていないようだった。
攻撃が通じない相手に、元勇者パーティの3人は魔物の進行を阻止することしかできない。
3人の体力と魔力は、次第に尽きていった。
一方、魔物達の残骸はタコの死体と合流し、最終的に一つの大きな肉塊へと姿を変えた。
そして大きな肉塊は津波のように、元勇者パーティの3人に降りかかる。
「ぐあぁっ!」
3人はとうとう押し負けて、肉塊の餌食となった。
「嘘、だろ....?」
元勇者パーティの呆気ない最後を垣間見て、その場にいるほぼ全員が絶望しきった表情で立ち尽くした。
「お父さん!お母さん!」
両親が肉塊に埋もれた光景を見て、ライラは大粒の涙を流しながら叫ぶ。
「はいはーい♪お待たせ~っ!」
すると、バリアの上に光る魔法陣が浮かぶと同時に、シリアスな状況に似つかわしくない声が響いた。
「「シヴァ先生!」」
「ありゃ?もしかしてこの状況、とってもまずい?」
「そう思うなら、もっと早く帰ってきてください!」
ゼルの意見はごもっともだ。
「ごめんごめん。」
シヴァはヘラヘラしながら、魔物の肉塊を魔術の鎖で身動きが取れないように縛りつけた。
...つーか、このゲル状の塊に鎖は通じるのか?
「でも例の魔道具を解析したら、その魔物が何なのかが分かったよ。」
「えっ?!」
まさか船の中にヒントがあるとは。
だからシヴァは船が怪しいと睨んで探索したのか。
「この魔物、どうやら胡散臭い組織が作り出した『失敗作』らしいんだよねぇ~。」
「失敗作?」
「そ。その組織は物質に魂を移植する実験をしていたらしいんだけど、この魔物ちゃん達は失敗して物質と魂が同化しちゃってるんだって!」
移植?同化?
単語の意味は分かるが、具体的にどんな現象を言い表しているのかが今ひとつ分からない。
「先生の言っている意味が分かりません。」
「ん~。専門家じゃないキミ達に説明するの、難しいなぁ~。」
シヴァは頭をぽりぽりと書いて、どう説明するか考え込む。
「そうだなぁ、絵の具で例えたら分かりやすいかな?
仮に、黒と白の絵の具で絵を描くとするじゃん?
『同化』っていうのは、黒と白の絵の具を全部混ぜちゃって、キャンバスを灰色一色で染めるようなものなの。
それで『移植』って言うのは、黒と白の絵の具は混ぜるけど一部だけで、基本的には黒・白・灰色の3色を使って絵を描く感じかな。
ちなみに似た用語に『封印』っていうのもあって、そっちは黒と白の絵の具は混ぜずに2色だけで絵を描くような感じだよ。」
なるほど、全く分からない。
むしろ余計に頭が混乱しそうな気がする。
「う~ん。この感じ、みんな理解できてなさそ~。だったらもっとストレートに説明するよ?
例えばここに、魂の入っていない生きた肉体があったとするでしょ?
その中に誰かの魂を『封印』する場合、このとき魂はあくまで肉体の中に閉じ込められているだけだから、身動きが取れないの。
これがもし『移植』だと、魂は肉体に閉じ込められているけど、魂の持つエネルギーは肉体に循環されるから、魂は肉体を動かすことができるワケ。
でもこれが『同化』だった場合は、肉体と魂が混ざって、肉体とも魂とも言えない変な物質が誕生しちゃうんだよ。」
さっきよりはまだ分かりやすい気がするが、それでもまだピンとこない。
「つまりこの魔物は、物質と魂が同化しているから生き物でも物質でもない、ということでしょうか?」
「当たり!アニスくん、理解がいいね!」
生き物でも物質でもないのだったら、アレは何と呼べばいいんだ?
「生き物でも物質でもないから、生きているとも死んでいるとも言えない。だから永久睡眠も効かないし、斬っても燃やしても死なない、ってことですか?」
「そうそう、その通り!感がいいねキミは。ちなみに物質と魂が同化しちゃっていると、ボクの転生魔術も使えないんだよねぇ~。」
「...え?」
シヴァの発言はその場の人間の表情を凍らせたが、当の本はあっけらかんとしていた。
転生魔術すら使えないんだったら、どうすればいいんだ?
「あれぇ?そういえばユシャくん達は?」
今更それを聞くのか?
シヴァはとことん、空気が読めていない。
「お父さんは...お母さんは......ぁぁっ。」
ライラは勇者サマたちのことを思い出すと、途端に泣き崩れて嗚咽した。
それを見てシヴァはばつの悪そうな顔をする。
「...ぅうっ...お父さん...お母さん...」
涙でぬれた目を手で拭うライラに、タクトは落ち着かせるように抱擁した。
そんなタクトも、顔は伏せていて表情は見えないが、泣いているように見えた。
なぜだか二人が泣いている光景を見ていると、よく分からない不快感に苛まれる。
…...仕方ない。ライラにこれ以上ピーピー泣かれてもウザいし、あの3人を蘇生してやるか。
ホリーは戸惑いながらも、勇者サマにお願いされて、海面に難破船までの道をバリアで作った。
勇者サマは一直線に船まで向かう。
船の目前まで近づいたその時、黒緑色の気持ち悪い触手が何本も出てきて、勇者サマを捉えようとした。
だがその攻撃を事前に察知していた勇者サマは、勢いよくジャンプして触手を避けた。
獲物を捉えきれなかった触手は、その本体を海面から浮上させた。
触手の正体は黒緑色の巨大タコだ。
巨大タコは帽子のように船を頭に被せている。
「何よアレ!ひょっとしてクラーケン?」
「クラーケンに似ているけど、ありゃ別物だね。もうちょい近くで観察しないと分かんないや。」
「大した魔物ではなさそうだが、念のため我々もユシャに加勢するぞ。」
そう言ってロインとリファルとシヴァは、ホリーが作った道を通って巨大タコへ近づく。
「でしたら勇者様達が戦えるように、足場を確保しますね!」
ホリーはバリアの道を広げて、透明な床を作る。
「俺も加勢するぜ!」
「あっ、待って!お兄ちゃん!」
タクトは、祭りに参加する子どものようなテンションで巨大タコの元へと向かった。
「私も加勢するわ!ちょっとでも勇者様達の力になりたいもの。」
「それなら僕も!カタリーナが心配だし。」
その流れに乗じて、カタリーナと殿下も参戦する。
「それだったら、みんなも向こうに行ってもいい?その方がバリアを張る範囲が絞れて、魔力を節約できるんだ。」
「了解ー。」
ホリーの労力節約のために、残りの俺達も巨大タコの前まで移動することになった。
巨大タコは近くで見るとヌメヌメしていて、まるでヘドロのようだった。
先に戦っていた元勇者パーティ達の活躍もあってか、タコの足はすでに全て斬り落とされていた。
「トドメだ!」
勇者サマは横に真っ二つに斬り、終止符を打つ。
船のある上半身は絶妙なバランスでバリアの上に乗っかり、下半身は斬り落とされた足同様、海の底へと沈んでいった。
「な~んだ。俺らの出る幕ないじゃん。」
あっさりと片付いたせいでタクトはふてくされる。
「別にいいじゃないの。無事に済んだんだし。」
「....本当に、そうかな?」
あっけらかんとしている俺達とは反対に、ライラは冷や汗を流してタコの死骸を眺めていた。
「どうしたんだ、ライラちゃん?」
そんなライラを気づかって、兄さんはライラと同じようにタコの死骸を見つめる。
するとタコの死骸はピクピクと痙攣して、まるで生きているかのように動いていた。
「あ、あれはきっとタコの踊り食いと同じようなモンだよ!タコって、切られてもしばらくは動いているらしいし!」
兄さんはまるで自分自身に言い聞かせるように、ライラに説明する。
「でもソレって、踊っているのはタコの足ですよね?頭部も動くのですか?」
そうツッコミを入れるホリーも、青ざめた顔でタコを眺めていた。
「ねぇ....。アレって、あの魔物に似てない?ほら、学校の魔物転送装置でお兄ちゃんが呼び出したあの魔物に。」
タクトが呼び出した魔物?
何の話だ?
「確かに似てる!」
「じゃあアレも、バラバラになっても死ななかったり、他の生き物を吸収したりするの?」
「ねぇ貴方達、何の話をしているの?」
ライラ達の母親のロインは、俺の気持ちを代弁するかのように質問した。
「学校に魔物転送装置っていう、魔物を召喚できる魔道具があるの。お兄ちゃんがそれを使って魔物と戦おうとした時に出てきたのが、あの巨大タコと似た感じの魔物だったの。」
「タクトくんが召喚したのは、ドラゴンの形をした魔物でした。でもそのドラゴンは、私が圧縮して粉々にしても、粉々になった状態で動いていたんです。しかも近くにあった魔物の死骸を乗っ取って、また動き出して....」
「え?そんなこと、ホントにあり得るの?」
そんな状態になっても生きている魔物が厄災の魔王以外にもいるのか。
だとしたら、その魔物と厄災の魔王には何か共通点でもあるのだろうか?
「あー!確かにいたね。あの気味の悪いドラゴン。」
シヴァも知っていたのか。
「シヴァがそう言うってことは、本当にそんな魔物がいたのね。」
ロインはその事実を知って、真剣な面持ちになる。
「粉々にしても死なない生き物が、厄災の魔王以外にもいるなんて...」
厄災の魔王以外の死なない生物と聞いて、ふと魔物村での出来事を思い出しだ。
「そういえば魔物村にも、厄災の魔王そっくりの死なない魔物がいましたよね。」
「何それ!ホントなの?さっきから突拍子のない話ばかりで信じられないわ。」
「はい本当です。」
あの魔物について、前から少しだけ気になっていた。
この際、ついでに尋ねてみるか。
「あの魔物は確か、シヴァ先生が研究するために保護していましたよね?その後の研究で何か分かりましたか?」
「またシヴァも知ってる話?ねぇシヴァ、ホントにホントなの?」
俺の話に半信半疑のロインは、シヴァの目を見て問いただす。
「ハハハハ.....ホントだよ。フレイくん、この件は内緒って言ってたの覚えてる?」
「あれ?そうでしたっけ?」
「そうだよー♪フレイくん、もしかして口は軽い方?そんなんじゃ、うっかり自分の言いたくない秘密も喋っちゃうかもよ~?」
言いたくない秘密と聞いて、俺の正体のことが頭によぎった。
...肝に銘じておこう。
「そんなことより!......アレ、どうしますか?」
ゼルの指摘で、タコの斬られた頭部に再び注目が集まる。
「...ん?んーーーー??」
シヴァは何かに気付いたのか、変な声を出しながらタコを凝視している。
「ちょ~っといい?あの船、なーんか気になるんだよねぇ。」
呑気に船なんか気にしている場合か?
よほど気になったのか、シヴァは足場代わりの魔法陣を出すと、ひょいひょいとそれに飛び移り、器用に船の中へと移動した。
異物感を察知したのか、タコの肉片もシヴァを追いかけるように船の中へ入ろうとする。
だがシヴァは無数の魔法陣を繰り出し、タコに近寄らせない。
「シヴァ先生、大丈夫なのかなぁ..。」
心配そうなライラをよそに、シヴァはものの数分もしないうちにあっさり船から出てきた。
シヴァの手には、見たことのない魔道具が握られていた。
「ふぅ~。なかなか面白そうなものがあるじゃないの♪」
「シヴァ、それは一体何だ?」
「さぁ?ボクにも分かんな~い。だから、今からちょっくら解析しても良い?」
「解析?」
「そう♪」
シヴァはそう言うと、足元に魔法陣を浮かべて、魔術でどこかへとワープした。
「まったく。アイツは相変わらず自由なヤツだな。」
そんなシヴァに流石の勇者サマも呆れた様子だった。
「とりあえず、このタコどうする?ライラ達の話していた魔物と同類だったら、海に捨てるのも危ないんじゃない?」
ロインは再び話を戻した。
「そもそも、仮に厄災の魔王以外の不死の魔物が本当に出たのだとして、タクト達はその時はどう処理したんだ?」
「それは....」
返答に迷ったタクトは、なぜか俺の顔を見た。
心なしか、タクト以外の視線も俺に集まっているような気がする。
「その時は、シヴァ先生が永久睡眠をかけて保護していたよ。」
ライラが言っているのは魔物村で出た魔物のことか?
話の流れ的に、魔物転送装置で呼び出したドラゴンを倒した方法について聞いているよな気がしたが...?
「だったら今回もそれで良いな。永久睡眠なら私も使える。」
するとリファルはタコの下に魔法陣を浮かべて永久睡眠をかける。
「....おかしい。」
魔術は確かに発動したようだった。
だがタコの動きはさっきまでと変わらない。
勇者サマが剣を構えながら、恐る恐るタコに近づいたその時。
大量の黒緑色でネバネバした魔物が海から飛び出てきて、バリアの上に乗っかった。
「うわぁぁ!!」
「きゃぁ!」
ホリーとライラは情けない声を出して尻餅をつく。
そんな二人に魔物達は容赦なく襲い掛かろうとしたが、近くにいた殿下とロインが二人を抱えて回避したため、難を免れた。
「子ども達は下がってろ!ここは俺達大人が対処する!」
勇者サマは威勢よく魔物に立ち向かう。
黒緑色の魔物達は次々と斬られて行くが、斬られた後も魔物の肉片は動きだし、やがて肉片同士がくっついて大きな塊になった。
「これならどうだ!」
リファルは炎魔法で魔物を跡形もなく燃やし尽くすが、灰になった魔物の残骸は斬られた肉片同様、残骸同士でくっついて大きくなる。
「クソッ!」
「こんなの、どう倒せばいいのよ?!」
その後、3人は様々な技を試すも魔物には全く効いていないようだった。
攻撃が通じない相手に、元勇者パーティの3人は魔物の進行を阻止することしかできない。
3人の体力と魔力は、次第に尽きていった。
一方、魔物達の残骸はタコの死体と合流し、最終的に一つの大きな肉塊へと姿を変えた。
そして大きな肉塊は津波のように、元勇者パーティの3人に降りかかる。
「ぐあぁっ!」
3人はとうとう押し負けて、肉塊の餌食となった。
「嘘、だろ....?」
元勇者パーティの呆気ない最後を垣間見て、その場にいるほぼ全員が絶望しきった表情で立ち尽くした。
「お父さん!お母さん!」
両親が肉塊に埋もれた光景を見て、ライラは大粒の涙を流しながら叫ぶ。
「はいはーい♪お待たせ~っ!」
すると、バリアの上に光る魔法陣が浮かぶと同時に、シリアスな状況に似つかわしくない声が響いた。
「「シヴァ先生!」」
「ありゃ?もしかしてこの状況、とってもまずい?」
「そう思うなら、もっと早く帰ってきてください!」
ゼルの意見はごもっともだ。
「ごめんごめん。」
シヴァはヘラヘラしながら、魔物の肉塊を魔術の鎖で身動きが取れないように縛りつけた。
...つーか、このゲル状の塊に鎖は通じるのか?
「でも例の魔道具を解析したら、その魔物が何なのかが分かったよ。」
「えっ?!」
まさか船の中にヒントがあるとは。
だからシヴァは船が怪しいと睨んで探索したのか。
「この魔物、どうやら胡散臭い組織が作り出した『失敗作』らしいんだよねぇ~。」
「失敗作?」
「そ。その組織は物質に魂を移植する実験をしていたらしいんだけど、この魔物ちゃん達は失敗して物質と魂が同化しちゃってるんだって!」
移植?同化?
単語の意味は分かるが、具体的にどんな現象を言い表しているのかが今ひとつ分からない。
「先生の言っている意味が分かりません。」
「ん~。専門家じゃないキミ達に説明するの、難しいなぁ~。」
シヴァは頭をぽりぽりと書いて、どう説明するか考え込む。
「そうだなぁ、絵の具で例えたら分かりやすいかな?
仮に、黒と白の絵の具で絵を描くとするじゃん?
『同化』っていうのは、黒と白の絵の具を全部混ぜちゃって、キャンバスを灰色一色で染めるようなものなの。
それで『移植』って言うのは、黒と白の絵の具は混ぜるけど一部だけで、基本的には黒・白・灰色の3色を使って絵を描く感じかな。
ちなみに似た用語に『封印』っていうのもあって、そっちは黒と白の絵の具は混ぜずに2色だけで絵を描くような感じだよ。」
なるほど、全く分からない。
むしろ余計に頭が混乱しそうな気がする。
「う~ん。この感じ、みんな理解できてなさそ~。だったらもっとストレートに説明するよ?
例えばここに、魂の入っていない生きた肉体があったとするでしょ?
その中に誰かの魂を『封印』する場合、このとき魂はあくまで肉体の中に閉じ込められているだけだから、身動きが取れないの。
これがもし『移植』だと、魂は肉体に閉じ込められているけど、魂の持つエネルギーは肉体に循環されるから、魂は肉体を動かすことができるワケ。
でもこれが『同化』だった場合は、肉体と魂が混ざって、肉体とも魂とも言えない変な物質が誕生しちゃうんだよ。」
さっきよりはまだ分かりやすい気がするが、それでもまだピンとこない。
「つまりこの魔物は、物質と魂が同化しているから生き物でも物質でもない、ということでしょうか?」
「当たり!アニスくん、理解がいいね!」
生き物でも物質でもないのだったら、アレは何と呼べばいいんだ?
「生き物でも物質でもないから、生きているとも死んでいるとも言えない。だから永久睡眠も効かないし、斬っても燃やしても死なない、ってことですか?」
「そうそう、その通り!感がいいねキミは。ちなみに物質と魂が同化しちゃっていると、ボクの転生魔術も使えないんだよねぇ~。」
「...え?」
シヴァの発言はその場の人間の表情を凍らせたが、当の本はあっけらかんとしていた。
転生魔術すら使えないんだったら、どうすればいいんだ?
「あれぇ?そういえばユシャくん達は?」
今更それを聞くのか?
シヴァはとことん、空気が読めていない。
「お父さんは...お母さんは......ぁぁっ。」
ライラは勇者サマたちのことを思い出すと、途端に泣き崩れて嗚咽した。
それを見てシヴァはばつの悪そうな顔をする。
「...ぅうっ...お父さん...お母さん...」
涙でぬれた目を手で拭うライラに、タクトは落ち着かせるように抱擁した。
そんなタクトも、顔は伏せていて表情は見えないが、泣いているように見えた。
なぜだか二人が泣いている光景を見ていると、よく分からない不快感に苛まれる。
…...仕方ない。ライラにこれ以上ピーピー泣かれてもウザいし、あの3人を蘇生してやるか。
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平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
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「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
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"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
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「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
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竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
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人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
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