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第18話:武闘会
【78】武闘会(3)
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「それじゃあ、次は僕の番か。」
ゼルは立ち上がってアリーナへと向かった。
もうそろそろ次の種目が始まる時間か。
確か『属性魔法当て』だっけ。
特定の属性の魔法でないと割れない的が沢山出てきて、一番多くの的を割ったクラスが勝つ競技だ。
そういえばゼルも一応、初級魔法は全属性無詠唱で発動できるんだったな。
曲がりなりにもアイツも厄災の魔王なワケだし、そのくらいは出来て当然か。
属性魔法当ての競技が始まると、ゼルは上級生にも劣らないスピードで的を割っていく。
最初は無言で1つずつ的を割っていたゼルだったが、次第に「火!風!水!」と謎の掛け声を出していた。
その掛け声のおかげなのか、属性魔法当ての結果は3位だった。
1年だけに絞ればトップの順位だから、善戦した方だろう。
「ゼルくんお疲れ!」
「いやぁ~。あともう少しで1位になれたのに、残念だったよ。」
ゼルは観客席に帰ってきて、腰を下ろした。
「そういえばゼルくん、途中で『火』とか『風』とか喋っていましたが、アレって詠唱か何かですか?」
「あー、アレ?最初は無言で的に魔法を当ててたんだけど、だんだん『何色の的にどの属性の魔法を使えばいいんだっけ?』って混乱してきたから、使う魔法を口に出すようにしてみたんだ。」
確かにあれだけの量の的を魔法を使い分けて打つとなると、頭が混乱しそうだな。
「せっかく無詠唱で魔法が使えるのに、なんか勿体ねぇな。」
「むしろ属性魔法当てに出たおかげで『詠唱して魔法を出すのって案外分かりやすくていいな』って思えたよ。」
さっきのゼルの掛け声は詠唱と呼べるようなものか?
まぁでも、カタリーナだって圧縮魔法を『圧縮』と詠唱しているし、ホリーも結界魔法を『バリア』と詠唱しているから、『火』や『水』が詠唱として成立しても不思議ではないか。
属性魔法当ての後、何種目か他学年の競技を挟んだ後に1年の個人競技『ドラゴンバスター』が始まろうとしていた。
「もうすぐ俺とレックスの出番だな。行くぞ!」
「うん!」
タクトと殿下は剣を装備してアリーナへと向かった。
ドラゴンバスターはその名の通り、ドラゴンの討伐ポイントを争う競技だ。
倒したドラゴンが強ければ強いほど討伐ポイントが高くなり、強いドラゴンを沢山倒したクラスが1位になる。
ちなみにこの競技に限って、武器の使用が許可されている。
2人がアリーナへ着いて数分後に、審判の合図のもとドラゴンバスターが始まった。
タクトも殿下もそれなりに戦えるし、この競技はウチのクラスの優勝は堅いだろう。
そう思って観戦していると、どこかで見覚えのある不気味なドラゴンが視界に入った。
全身黒緑色で、スライムのように弾力と粘り気がありそうな皮膚を持ったドラゴンだ。
そのドラゴンはどこか、海水浴の時に現れた死なないタコに似ていた。
確かあのタコは聖ソラトリク教団が作り出した失敗作だったよな?
....もしかして、あのドラゴンも失敗作か?
仮にそうだったらタクトと殿下に勝ち目がないじゃないか。
そういえばあの時のタコは、封印だか移植だかをすれば倒せたよな。
気づかれないようにあのドラゴンにも試してみるか。
俺は黒緑色のドラゴンに対して、タコを倒した時の手順を思い出しながら魔法を仕掛けた。
まず、あのドラゴンに取り込まれている魔物がいれば、それをドラゴンと切り離すように念じる。
すると黒緑色のドラゴンはブラッディスカーレットドラゴンへと姿を変え、ドラゴンの足元に黒緑色のゲル状のうねうね動く物体がぽたりと落ちた。
「何だ?!」
「急に姿を変えた....?」
ドラゴンの変化に対して、選手だけでなく観客もどよめいている。
...まずい。
派手にやり過ぎたか?
だが選手も観客もそれ以上不審がる様子はなかった。
...大丈夫だよな、多分。
それよりドラゴンから切り離した、黒緑色のゲル状の物体も処理しないとな。
俺はその物体に対して、肉体と魂が別々になるように念じる。
するとその物体はタコの時と同じく、黒緑色の宝石へと姿を変えた。
あの宝石は、あとでこっそり回収するか。
これでタクトと殿下でもあのドラゴンを倒せるはずだ。
二人に目をやると、案の定、さっきまで黒緑色だったブラッディスカーレットドラゴンは二人によって倒されていた。
「凄い...!」
「大人でも倒せないブラッディスカーレットドラゴンを倒すなんて、さすが勇者様のご子息だ!」
「レックス殿下、万歳!」
巨龍を屠る二人の勇士に、歓声が湧く。
ブラッディスカーレットドラゴンを倒す偉業を成し遂げた二人には、あり得ないくらいの討伐ポイントが加算され、ぶっちぎりの1位になった。
「二人ともお疲れ様!」
「ブラッディスカーレットドラゴンを倒すなんて、二人とも凄い成長だわ!魔物村の時は4人がかりでも倒せなかったのに。」
「へっ!今の俺達を見くびるなよ!あんなドラゴンの一匹や二匹、屁でもねーぜ!」
そう言う割には、汗だくで呼吸も荒いし、服もボロボロで傷だらけだぞ?
まぁそれでも、ブラッディスカーレットドラゴンを倒せたわけだし、この二人にしては上出来か。
ドラゴンバスターが終わったから、次はお昼休憩だ。
俺はいつもの面々と一緒に、闘技場近くのレストランへ食べに行った。
他愛もない雑談をしながら食事を終え、闘技場へ戻ってくると何人かの生徒が回復魔法を使っているのが見えた。
回復魔法をかけてもらった生徒達は、そのお礼と言わんばかりに青いチップを渡していた。
「そういえば今の時間ってヒーラーポイントを稼ぐ絶好のチャンスじゃない?」
カタリーナの言葉を聞いて、ヒーラータイムのことを思い出した。
ヒーラータイムとは、他の競技に出ていない間だけできる隠れ競技のようなものだ。
生徒は競技に出ていない時であれば、いつでも他の選手に対して回復魔法を使うことができる。
そして回復してもらった生徒はお礼に『ヒーラーポイント』と呼ばれる青いチップを渡すのだ。
そして最終的にクラス全員のヒーラーポイントを合算し、より多くのヒーラーポイントを持っていたクラスに総合ポイントが加算される。
...つまり、今全員を全快させたら、ヒーラーポイントを独り占めできるってワケだ。
「いいですね。時間もまだありますし、ヒーラーポイントを稼ぎに行きましょう!」
俺は闘技場や闘技場周辺にいる生徒全員に対して、回復魔法をかけた。
これで先を越されることはないだろう。
回復魔法を使ったことで、ドラゴンバスターに出ていたタクトや殿下の傷も一瞬にして治った。
「...あれ?」
「傷が勝手に治ってる?!」
急に治った傷に、タクト達は目を見開いていた。
いきなり治った傷に驚いたのは2人だけじゃないようで、周囲がざわざわし始めた。
「...やっぱり、いるんだ。」
その光景にライラは、何かを確信した様子だった。
「いるって、何がですか?」
「クドージンさんだよ!やっぱり今、闘技場にいるんだよ!」
またその話を蒸し返すのか。
「さっきも話しましたけど、彼がここにるとは限らないじゃないですか。」
「いるよ、絶対!だって、いきなりこの闘技場にいる全員の傷が治ったんだよ?こんな凄い魔法を前触れもなく使える人なんて、クドージンさん以外いるはずないじゃない!」
え?
そうなのか?
てっきり蘇生魔法以外は使っても怪しまれないと思っていた。
....蘇生魔法じゃなくても高度な魔法を使うと、俺の正体がバレるリスクが上がるのか?
「宮藤くんがいるならクイーンズ・ティアラの件も納得よ。きっとあの時一斉にティアラを壊したのは宮藤くんだったのよ!」
「あー。確かにアイツ、キメイラ帝国で会った時もカタリーナの魔法を使ってたな。」
「それにドラゴンバスターの時、黒緑色のドラゴンが急にブラッディスカーレットドラゴンになったのも、クドージンさんの魔法によるものだったら納得だよ。
あのドラゴンはきっと、魔物転送装置の時や海水浴の時に遭遇した魔物と同じ種類だったんじゃないかな?
ブラッディスカーレットドラゴンの足元に黒緑色の宝石が落ちていたし、きっとクドージンさんが海水浴の時と同じ方法で倒してくれたんだよ。」
殿下め。余計な考察をペラペラ喋りやがって。
カタリーナと殿下のせいで『宮藤迅はいない』と説得するのが難しくなった。
「それにさっき闘技場の男子トイレの前に、コレが落ちてたの!」
ライラは『これが証拠だ』と言わんばかりに堂々と黄金のガラケーを見せつけた。
「これって確か、アーロン卿がクドージンさんに渡していたガラケーだよね?」
「そう!コレが落ちていたってことは、クドージンさんがここにいる可能性が高いってことだよね?」
ここまで状況証拠が揃ってしまったせいで、みんなは宮藤迅がこの場にいると確信したようだ。
...ただガラケーに関しては納得いかない。
他の状況証拠は俺に落ち度があったが、ガラケーの件は完全にお門違いだ。
このガラケーを勝手にパクった奴は、いつか絶対にボコボコにしてやる。
「これアイツのガラケーなのか!面白ぇ、ちょっと中見せろよ!」
「あっ、お兄ちゃん!」
タクトはいきなりガラケーをライラから取り上げて操作した。
...ってことは、もしかして。
「嘘だろ!アイツ、マジか!」
ガラケーの画面を見るなり、タクトはニヤニヤと大笑いした。
あームカつく!絶対コイツ、勘違いしている!
「このカタリーナの写真を選ぶなんて、クドージンさんは分かっているね。」
タクトの隣からガラケーを覗き見た殿下は、感心した様子で呟いた。
「まさか宮藤くんまで私のことが好きだったなんて!....嗚呼、私ってなんて罪深き女なのかしら。でも私には殿下という心に決めた人がいるのに。残念だけど彼の思いに応えられないわ。」
ああああ!きっっしょ!!
何勝手に勘違いした上で俺をフってんだよ!
こっちだってお前みたいな脳みそ沸いてる女は願い下げだ!
今すぐこの誤解を解きたいのに、解けないのがもどかしい。
「....よかった。」
イライラしている俺の隣で、ライラはなぜかホッと胸を撫で下ろしていた。
全然、よくねーよ。
クッソ!
こんな形でガラケーの話を蒸し返されるんだったら、回復魔法なんざ使わなければ良かった。
せっかくヒーラーポイントを稼ぐために使ったのに、いま回収しに行ったら俺の正体が怪しまれるじゃねーか。
せめて一人一人見回りながら、詠唱して回復魔法を使っていたらバレなかったかもしれないのに。
...待てよ?そもそも、どの程度の魔法を使ったら俺の正体がバレるんだ?
蘇生魔法は論外として、無詠唱で広範囲の回復技を使っても疑われてしまうのは今回わかった。
じゃあ圧縮魔法は?肉体と魂を分離する魔法は?
....わからない。
逆に考えよう。
今までフレイが使った魔法については、『凄い』と言われるだけで、正体を疑われることはなかった。
ということは、フレイでコイツらの前で使ったことのある魔法は、使っても大丈夫ってことだ。
次からコイツらの前で魔法を使う時は、なるべくフレイが使った魔法だけにしよう。
そんなことを考えているうちにお昼休憩は終わり、午後の部へ突入した。
ゼルは立ち上がってアリーナへと向かった。
もうそろそろ次の種目が始まる時間か。
確か『属性魔法当て』だっけ。
特定の属性の魔法でないと割れない的が沢山出てきて、一番多くの的を割ったクラスが勝つ競技だ。
そういえばゼルも一応、初級魔法は全属性無詠唱で発動できるんだったな。
曲がりなりにもアイツも厄災の魔王なワケだし、そのくらいは出来て当然か。
属性魔法当ての競技が始まると、ゼルは上級生にも劣らないスピードで的を割っていく。
最初は無言で1つずつ的を割っていたゼルだったが、次第に「火!風!水!」と謎の掛け声を出していた。
その掛け声のおかげなのか、属性魔法当ての結果は3位だった。
1年だけに絞ればトップの順位だから、善戦した方だろう。
「ゼルくんお疲れ!」
「いやぁ~。あともう少しで1位になれたのに、残念だったよ。」
ゼルは観客席に帰ってきて、腰を下ろした。
「そういえばゼルくん、途中で『火』とか『風』とか喋っていましたが、アレって詠唱か何かですか?」
「あー、アレ?最初は無言で的に魔法を当ててたんだけど、だんだん『何色の的にどの属性の魔法を使えばいいんだっけ?』って混乱してきたから、使う魔法を口に出すようにしてみたんだ。」
確かにあれだけの量の的を魔法を使い分けて打つとなると、頭が混乱しそうだな。
「せっかく無詠唱で魔法が使えるのに、なんか勿体ねぇな。」
「むしろ属性魔法当てに出たおかげで『詠唱して魔法を出すのって案外分かりやすくていいな』って思えたよ。」
さっきのゼルの掛け声は詠唱と呼べるようなものか?
まぁでも、カタリーナだって圧縮魔法を『圧縮』と詠唱しているし、ホリーも結界魔法を『バリア』と詠唱しているから、『火』や『水』が詠唱として成立しても不思議ではないか。
属性魔法当ての後、何種目か他学年の競技を挟んだ後に1年の個人競技『ドラゴンバスター』が始まろうとしていた。
「もうすぐ俺とレックスの出番だな。行くぞ!」
「うん!」
タクトと殿下は剣を装備してアリーナへと向かった。
ドラゴンバスターはその名の通り、ドラゴンの討伐ポイントを争う競技だ。
倒したドラゴンが強ければ強いほど討伐ポイントが高くなり、強いドラゴンを沢山倒したクラスが1位になる。
ちなみにこの競技に限って、武器の使用が許可されている。
2人がアリーナへ着いて数分後に、審判の合図のもとドラゴンバスターが始まった。
タクトも殿下もそれなりに戦えるし、この競技はウチのクラスの優勝は堅いだろう。
そう思って観戦していると、どこかで見覚えのある不気味なドラゴンが視界に入った。
全身黒緑色で、スライムのように弾力と粘り気がありそうな皮膚を持ったドラゴンだ。
そのドラゴンはどこか、海水浴の時に現れた死なないタコに似ていた。
確かあのタコは聖ソラトリク教団が作り出した失敗作だったよな?
....もしかして、あのドラゴンも失敗作か?
仮にそうだったらタクトと殿下に勝ち目がないじゃないか。
そういえばあの時のタコは、封印だか移植だかをすれば倒せたよな。
気づかれないようにあのドラゴンにも試してみるか。
俺は黒緑色のドラゴンに対して、タコを倒した時の手順を思い出しながら魔法を仕掛けた。
まず、あのドラゴンに取り込まれている魔物がいれば、それをドラゴンと切り離すように念じる。
すると黒緑色のドラゴンはブラッディスカーレットドラゴンへと姿を変え、ドラゴンの足元に黒緑色のゲル状のうねうね動く物体がぽたりと落ちた。
「何だ?!」
「急に姿を変えた....?」
ドラゴンの変化に対して、選手だけでなく観客もどよめいている。
...まずい。
派手にやり過ぎたか?
だが選手も観客もそれ以上不審がる様子はなかった。
...大丈夫だよな、多分。
それよりドラゴンから切り離した、黒緑色のゲル状の物体も処理しないとな。
俺はその物体に対して、肉体と魂が別々になるように念じる。
するとその物体はタコの時と同じく、黒緑色の宝石へと姿を変えた。
あの宝石は、あとでこっそり回収するか。
これでタクトと殿下でもあのドラゴンを倒せるはずだ。
二人に目をやると、案の定、さっきまで黒緑色だったブラッディスカーレットドラゴンは二人によって倒されていた。
「凄い...!」
「大人でも倒せないブラッディスカーレットドラゴンを倒すなんて、さすが勇者様のご子息だ!」
「レックス殿下、万歳!」
巨龍を屠る二人の勇士に、歓声が湧く。
ブラッディスカーレットドラゴンを倒す偉業を成し遂げた二人には、あり得ないくらいの討伐ポイントが加算され、ぶっちぎりの1位になった。
「二人ともお疲れ様!」
「ブラッディスカーレットドラゴンを倒すなんて、二人とも凄い成長だわ!魔物村の時は4人がかりでも倒せなかったのに。」
「へっ!今の俺達を見くびるなよ!あんなドラゴンの一匹や二匹、屁でもねーぜ!」
そう言う割には、汗だくで呼吸も荒いし、服もボロボロで傷だらけだぞ?
まぁそれでも、ブラッディスカーレットドラゴンを倒せたわけだし、この二人にしては上出来か。
ドラゴンバスターが終わったから、次はお昼休憩だ。
俺はいつもの面々と一緒に、闘技場近くのレストランへ食べに行った。
他愛もない雑談をしながら食事を終え、闘技場へ戻ってくると何人かの生徒が回復魔法を使っているのが見えた。
回復魔法をかけてもらった生徒達は、そのお礼と言わんばかりに青いチップを渡していた。
「そういえば今の時間ってヒーラーポイントを稼ぐ絶好のチャンスじゃない?」
カタリーナの言葉を聞いて、ヒーラータイムのことを思い出した。
ヒーラータイムとは、他の競技に出ていない間だけできる隠れ競技のようなものだ。
生徒は競技に出ていない時であれば、いつでも他の選手に対して回復魔法を使うことができる。
そして回復してもらった生徒はお礼に『ヒーラーポイント』と呼ばれる青いチップを渡すのだ。
そして最終的にクラス全員のヒーラーポイントを合算し、より多くのヒーラーポイントを持っていたクラスに総合ポイントが加算される。
...つまり、今全員を全快させたら、ヒーラーポイントを独り占めできるってワケだ。
「いいですね。時間もまだありますし、ヒーラーポイントを稼ぎに行きましょう!」
俺は闘技場や闘技場周辺にいる生徒全員に対して、回復魔法をかけた。
これで先を越されることはないだろう。
回復魔法を使ったことで、ドラゴンバスターに出ていたタクトや殿下の傷も一瞬にして治った。
「...あれ?」
「傷が勝手に治ってる?!」
急に治った傷に、タクト達は目を見開いていた。
いきなり治った傷に驚いたのは2人だけじゃないようで、周囲がざわざわし始めた。
「...やっぱり、いるんだ。」
その光景にライラは、何かを確信した様子だった。
「いるって、何がですか?」
「クドージンさんだよ!やっぱり今、闘技場にいるんだよ!」
またその話を蒸し返すのか。
「さっきも話しましたけど、彼がここにるとは限らないじゃないですか。」
「いるよ、絶対!だって、いきなりこの闘技場にいる全員の傷が治ったんだよ?こんな凄い魔法を前触れもなく使える人なんて、クドージンさん以外いるはずないじゃない!」
え?
そうなのか?
てっきり蘇生魔法以外は使っても怪しまれないと思っていた。
....蘇生魔法じゃなくても高度な魔法を使うと、俺の正体がバレるリスクが上がるのか?
「宮藤くんがいるならクイーンズ・ティアラの件も納得よ。きっとあの時一斉にティアラを壊したのは宮藤くんだったのよ!」
「あー。確かにアイツ、キメイラ帝国で会った時もカタリーナの魔法を使ってたな。」
「それにドラゴンバスターの時、黒緑色のドラゴンが急にブラッディスカーレットドラゴンになったのも、クドージンさんの魔法によるものだったら納得だよ。
あのドラゴンはきっと、魔物転送装置の時や海水浴の時に遭遇した魔物と同じ種類だったんじゃないかな?
ブラッディスカーレットドラゴンの足元に黒緑色の宝石が落ちていたし、きっとクドージンさんが海水浴の時と同じ方法で倒してくれたんだよ。」
殿下め。余計な考察をペラペラ喋りやがって。
カタリーナと殿下のせいで『宮藤迅はいない』と説得するのが難しくなった。
「それにさっき闘技場の男子トイレの前に、コレが落ちてたの!」
ライラは『これが証拠だ』と言わんばかりに堂々と黄金のガラケーを見せつけた。
「これって確か、アーロン卿がクドージンさんに渡していたガラケーだよね?」
「そう!コレが落ちていたってことは、クドージンさんがここにいる可能性が高いってことだよね?」
ここまで状況証拠が揃ってしまったせいで、みんなは宮藤迅がこの場にいると確信したようだ。
...ただガラケーに関しては納得いかない。
他の状況証拠は俺に落ち度があったが、ガラケーの件は完全にお門違いだ。
このガラケーを勝手にパクった奴は、いつか絶対にボコボコにしてやる。
「これアイツのガラケーなのか!面白ぇ、ちょっと中見せろよ!」
「あっ、お兄ちゃん!」
タクトはいきなりガラケーをライラから取り上げて操作した。
...ってことは、もしかして。
「嘘だろ!アイツ、マジか!」
ガラケーの画面を見るなり、タクトはニヤニヤと大笑いした。
あームカつく!絶対コイツ、勘違いしている!
「このカタリーナの写真を選ぶなんて、クドージンさんは分かっているね。」
タクトの隣からガラケーを覗き見た殿下は、感心した様子で呟いた。
「まさか宮藤くんまで私のことが好きだったなんて!....嗚呼、私ってなんて罪深き女なのかしら。でも私には殿下という心に決めた人がいるのに。残念だけど彼の思いに応えられないわ。」
ああああ!きっっしょ!!
何勝手に勘違いした上で俺をフってんだよ!
こっちだってお前みたいな脳みそ沸いてる女は願い下げだ!
今すぐこの誤解を解きたいのに、解けないのがもどかしい。
「....よかった。」
イライラしている俺の隣で、ライラはなぜかホッと胸を撫で下ろしていた。
全然、よくねーよ。
クッソ!
こんな形でガラケーの話を蒸し返されるんだったら、回復魔法なんざ使わなければ良かった。
せっかくヒーラーポイントを稼ぐために使ったのに、いま回収しに行ったら俺の正体が怪しまれるじゃねーか。
せめて一人一人見回りながら、詠唱して回復魔法を使っていたらバレなかったかもしれないのに。
...待てよ?そもそも、どの程度の魔法を使ったら俺の正体がバレるんだ?
蘇生魔法は論外として、無詠唱で広範囲の回復技を使っても疑われてしまうのは今回わかった。
じゃあ圧縮魔法は?肉体と魂を分離する魔法は?
....わからない。
逆に考えよう。
今までフレイが使った魔法については、『凄い』と言われるだけで、正体を疑われることはなかった。
ということは、フレイでコイツらの前で使ったことのある魔法は、使っても大丈夫ってことだ。
次からコイツらの前で魔法を使う時は、なるべくフレイが使った魔法だけにしよう。
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