80 / 145
第18話:武闘会
【80】武闘会(5)
しおりを挟む
まずい。
失敗した。
『失敗作』を使ってレックス殿下を抹殺するはずだったのに、どうしてこうなった。
なぜ失敗作は突然、元のドラゴンに戻ってしまったのだ?
あの失敗作が突然変異したことを教団に報告するか?
いや、報告したら失敗が露見して私が消される。
何か他の手段を使ってでも本来の任務を遂行しなければ。
私には後がない。
どうやって教団の存在を悟られずにレックス殿下を抹殺するか?
....そうだ、魔物村の時と同じ手法は使えないだろうか?
あの時はドラゴンに発狂魔術をかけていたが、アレを人に対して仕向ければ、混乱に乗じてレックス殿下を抹殺できるのではないか?
だがどうやって複数人に発狂魔術をかける?
魔術をかけるために不特定多数に近づいたら、不審に思われる。
それならば。
私は球入れの競技中にスタッフに変装して、選手の出入口に遅効性の発狂魔術を仕掛けた。
この出入口から生徒達が出てきた後に魔術の痕跡を消せばバレることは無いはずだ。
私は誰にも気づかれない場所に隠れて、出入口から生徒達が出てくるのを待った。
◆◆◆
球入れが終わって小一時間が経ち、バトルロワイアルが始まる時間が迫っていた。
「おいフレイ。お前、本当に大丈夫なんだろうな?」
「フレイくん、あんまり無理しちゃ駄目よ?アリーシャ様やエレブン先輩に攻撃されそうになったら、すぐに降参するのよ?」
俺を非戦闘員だと思っているタクトとカタリーナは余計な心配をしている。
「大丈夫ですよ。僕、こう見えて強いですから。それに取っておきの策も考えていますので。」
俺の考えた策はもちろん、『正体を怪しまれずに』一人勝ちする方法だ。
この方法を閃いた俺は天才かもしれない。
「よっ!フレイくん、とうとう君の出番だぞぉー!」
「ここで最下位でもクラス優勝は確実だから、開始早々に降参してもいいんだよぉ?アハハハハッ!」
レオンの取り巻きどもが、少し離れた席から俺を馬鹿にしてきた。
馬鹿にできるのも今のうちだ。
俺はアリーナへと向かい、バトルロワイアルが始まるのを待った。
アリーナに集まった各クラスの代表達を見る。
観客席も他の選手も、アリーシャとエレブンに注目していた。
流石は去年と一昨年の優勝者だ。
他の選手も恐らくは強者なのだろうが、俺には誰が強いかさっぱり分からん。
むしろ全員、有象無象の雑魚に見える。
ま、実際に戦ってみれば相手の実力が分かるか。
会場の雰囲気を見ながら軽く準備運動を終えると、審判による開始の合図がなった。
この時を待っていた。
俺は開始の合図とともに、闘技場全体を光で包み込んだ。
この魔法はキメイラ帝国にいた時に使ったから、今更タクト達に疑われることはないだろう。
いきなりの目に刺さるような強い光に、誰も目を開けることができない。
ということはつまり、俺が何をしようが誰も見ることはできない、ということだ。
俺は魔法で視界を保護して目を開ける。
そして強い光で動けなくなっている他の選手たちをワンパンで殺していった。
兄さんは『殺したら最悪極刑』と言っていたが、光を消すタイミングで生き返らせたらバレないだろう。
全員を殺した後に光を消せばあら不思議、俺だけが一人勝ちしている状態の完成だ。
余裕すぎで笑いが込み上げてくる。
俺は次々と他の選手を殺していき、残るはアリーシャとエレブンだけとなった。
俺は近くにいたエレブンに近づき、顔面に本気のグーパンを喰らわそうとした。
が、その攻撃はエレブンに入らなかった。
エレブンは身体を透過させて、俺の攻撃を避けやがった。
鬱陶しい奴だ。
「最初に私に攻撃を仕掛けてくるのは、てっきりアリーシャ様かと思っていました。」
エレブンは余裕そうに俺に話しかける。
「貴方の攻撃は恐ろしい。きっと、一撃でも喰らえば致命傷になるでしょう。これ程の選手がまだ学校内にいたとは。....もしかして貴方は1年生でしょうか?」
俺は何度も攻撃を仕掛けるも、エレブンは余裕綽々な態度を崩さず、透過すらしていない状態で躱す。
「ですが攻撃が荒い。雑だ。潜在能力が高そうなだけに残念です。力任せの攻撃では私には届きませんよ。」
偉そうにお説教しやがって、ウゼェ。
何度攻撃しても擦りやしない。
仕方ない、コイツは後回しだ。
先にアリーシャを始末しよう。
俺はアリーシャに近づき、腹に蹴りを入れようとした。
がしかし、アリーシャはその蹴りを避けた上で足を掴み、俺を遠くへ投げ飛ばした。
カウンター攻撃するなんて、鬱陶しい奴だ。
「エレブン君....というわけでもなさそうですね。素晴らしい攻撃でした。貴方、お名前は?」
コイツも余裕そうにしているのが、これまたムカつく。
「名乗りませんか。まぁ、いいでしょう。貴方がその気なら、私も本気で参ります!」
アリーシャは見えていないにも関わらず、俺の位置を正確に把握して攻撃を仕掛けてきた。
アリーシャの攻撃を躱しつつ反撃しようとするも、俺の攻撃はすべて躱されてしまう。
アリーシャもエレブンもウゼェ!
全然、攻撃が当たらない。
だったら絶対躱せないように、テメーらを爆発魔法で囲ってやる。
俺が爆発魔法を仕掛けようとしたその時、急に頭がキーンと痛くなった。
脳みそを握りつぶされそうな痛みだ。
あの2人のどっちかの攻撃か?
俺は自分に回復魔法をかけて、2人の様子を伺う。
そしたら2人とも俺と同じように、苦しそうに頭を押さえていた。
急な頭痛はこの2人の仕業じゃない。
ということは....どういうことだ?
ワケが分からなくなった俺は、観客席をぐるっと眺めた。
すると観客席の方でも、半数近くの人間が頭を押さえて苦しんでいた。
中には、暴れて隣や周りの人間に暴力を振るっている者も沢山いた。
何が起こっている?
....もしかして、この光のせいか?
長時間、眩しい光の中にいるせいで体調が崩れて、おかしなことになっているのか?
もしそうだったら、原因は俺?
光のせいで観客席にも危害を加えたとなったら、俺は失格になりそうだ。
俺は闘技場全体に回復魔法をかけようとしたが、かける寸前に思い止まった。
バトルロワイアルの選手たちはワンパンで殺したから、魔法で生き返らせた時、殺された選手たちはきっと『ワンパンで気絶させられた』と勘違いするだろう。
だけど観客席の奴らは違う。
急に頭痛が治ったり、周囲の暴れ回ってる連中が大人しくなったりしたら、明らかに不自然だ。
ただでさえ宮藤迅がここにいるかもと怪しまれているのに、そんな魔法を使ったら最悪正体がバレる。
...いや、待てよ?
逆に宮藤迅が現れて、ここにいる連中に回復魔法をかければ、正体がバレずに済むじゃねえか!
俺はバトルロワイアルの選手達を蘇生すると同時に、光の魔法を消した。
そして、移動魔術を使っているかのように見せかけながら宮藤迅の姿の分身を出した。
いきなりの登場に観客席の連中は驚くかと思ったが、それどころではないようだ。
みんな周囲の異変に困惑して、バトルロワイアルで戦っている選手を見ている人は少なかった。
あのタクト達でさえ、頭痛で苦しんで暴れていて、俺に気づく様子はなかった。
...これだったら、宮藤迅で出てくる意味がないじゃないか。
まぁいい。
とりあえず全員に回復魔法をかけるか。
魔法をかけようとしたその時、アリーシャとエレブンが同時に宮藤迅に対して攻撃を仕掛けてきた。
さっきまでキレのあった2人の攻撃が、頭痛のせいか鈍くなっている。
俺は2人の攻撃を敢えて受け止め、それと同時に2人の拳を掴んで勢いよく壁にぶつけた。
普通ならコレで死んでいてもおかしくはないが、2人は頑丈だからか、その場で気絶する程度で済んでいた。
まぁそれはさておき、とっとと回復魔法をかけるか。
俺は闘技場全体に回復魔法をかけると、さっきまでパニック状態だった観客席は落ち着きを取り戻した。
念のため、頭痛の原因はフレイの光魔法じゃないことと、今回復魔法をかけたのは宮藤迅だということをタクト達に説明しておくか。
宮藤迅はタクト達座っている席へとジャンプして、みんなに会いに行った。
「あっ、お前っ!」
「クドージンさん?!」
「よっ、お前ら。正気に戻ったか?」
さっきまで頭を抱えて暴れていたタクト達だったが、もう大丈夫そうだ。
「もしかして、さっきまでの頭痛を治してくれたのって、クドージンさんですか?」
「あぁ?当たり前だろ。前触れもなくこの闘技場にいる全員に回復魔法をかけれる人間なんて、俺くらいしかいねーだろ。」
「何でお前がここにいるんだよ!」
「別にー。面白そうな祭りがやってたから、ちょっと傍観していただけ。そしたら誰かが闘技場中に変な魔術をかけて台無しにしようとしていたから、俺の回復魔法で魔術を無効化しただけだ。」
こう言っとけば、あの頭痛の原因がフレイだと誰も思わないだろう。
ってか、本当に原因が俺じゃない可能性もあるし。
「そうなのですね、ありがとうございます。ところで変な魔術って、どんな魔術だったのですか?」
「さぁな。それはかけられたお前らがよく分かってんだろ。」
「体感としては何となく分かる気がしますが....そもそも、アレって魔術によるものだったのですか?魔法とは違うのでしょうか?」
ホリーがウザい質問をしてきたせいで、一瞬、言葉が出なかった。
いちいち人の揚げ足を取るなよ。
「知るか!俺に聞くな!」
俺がイライラをぶつけるようにホリーに怒鳴ると、ホリーはそれ以上言及してこなかった。
「君がいる、ということはあの黒緑色のドラゴンを何とかしてくれたのも、やっぱり君なんだね。」
「まーな。どうせお前らがあのまま戦ったところで、あのドラゴンに喰われるのは想像できたからな。」
「クドージンさん、いつも本当にありがとう!」
「宮藤くんって、いっつも私達がピンチになった時にタイミングよく助けに来てくれるわよね。ホント、宮藤くんさまさまだわ。」
「お前ら、なんか勘違いしてねぇか?俺がいつもお前らの都合良く動くと思ったら大間違いだぞ。」
「は~い。わかってまーす。」
本当に分かってんのか?
呑気な返事をするカタリーナとは反対に、ライラは少し顔を強張らせていた。
「ねぇ、クドージンさん。」
「あぁ?何だ?」
「このガラケーって....」
ライラはか細い声で呟くように言うと、俺に例のガラケーを差し出した。
俺はそれを手にした瞬間、反射的に床に叩きつけた。
そういえば気持ち悪い誤解をされたままだった。
思い出しただけでも屈辱的で鳥肌が立つ。
「このガラケーは俺のじゃねぇ!勘違いすんな!誰があんな趣味の悪いホーム画面にするかよ!むしろキモすぎて鳥肌が立ってんだよ!」
「キモい?」
すると急にレックス殿下が俺の肩を掴んで、にっこりと笑顔で俺に話しかけた。
口や目は笑っているように見えるが、全体的に表情が歪でなんだか怖い。
「カタリーナがキモいって、本気で言ってるのかい?」
その不自然な笑顔から、理解し難い『圧』を感じる。
今まで感じたことのない不気味さに戸惑って、一瞬、言葉を失った。
「....わ、悪かった。」
俺は圧に負けて、思わず謝ってしまった。
どう考えても俺、何も悪くないよな?
「ねぇ、あのガラケーがクドージンさんのじゃないって、本当なの?」
一方のライラは、さっきまでの浮かない表情から一転、パァっと嬉しそうな顔をして俺を見つめた。
「当たり前だろ。俺があんなのをホーム画面にするワケねぇ。第一、あのガラケーはもらってすぐ魔物村で無くしたから、使ってねーし。」
「そっか!....よかった。」
一体、何が良かったんだ?
「じゃあ宮藤くんのガラケーを使っていたのって、誰だったのかしら?」
「さぁな。知るか。」
「少なくともガラケーを勝手に使っていた人は、カタリーナちゃんが好きってことだよね?」
「ってことは少なくとも闘技場に私のことが好きな人がいるのよね。嗚呼、私って罪な女。」
誤解は解けたとはいえ、カタリーナの調子に乗った態度は鼻につく。
するとその時、少し離れた席に座っていた勇者サマ達が俺の存在に気づいて、凄い剣幕で俺を睨みながら近ついてきた。
ガラケーの誤解は解けたし、もうここに要はない。
俺は「じゃあな」と言うと、宮藤迅の分身を消した。
再びフレイの方へと意識を向け、改めてアリーナを見渡す。
俺がワンパンで殺した選手たちは未だに寝転がっており、さっき投げ飛ばしたアリーシャとエレブンも起き上がっていなかった。
倒れていない選手は俺だけだ。
アリーシャとエレブンを倒したのは宮藤迅だが、この場合ってどうなるんだ?
疑問に思っていると、俺の元へと近づいていた審判が俺の腕を掴み、上へと挙げた。
「バトルロワイアルの勝者は、1年αクラスのフレイ・ライトニング選手です。」
その宣言と同時に、観客席中が拍手喝采し、俺を褒め称えた。
.....これでいいのか?
若干、審判にツッコミを入れたくなったが、当初目的通りだし良しとしよう。
俺は拍手を浴びながら、観客席にある自分の席へと移動した。
失敗した。
『失敗作』を使ってレックス殿下を抹殺するはずだったのに、どうしてこうなった。
なぜ失敗作は突然、元のドラゴンに戻ってしまったのだ?
あの失敗作が突然変異したことを教団に報告するか?
いや、報告したら失敗が露見して私が消される。
何か他の手段を使ってでも本来の任務を遂行しなければ。
私には後がない。
どうやって教団の存在を悟られずにレックス殿下を抹殺するか?
....そうだ、魔物村の時と同じ手法は使えないだろうか?
あの時はドラゴンに発狂魔術をかけていたが、アレを人に対して仕向ければ、混乱に乗じてレックス殿下を抹殺できるのではないか?
だがどうやって複数人に発狂魔術をかける?
魔術をかけるために不特定多数に近づいたら、不審に思われる。
それならば。
私は球入れの競技中にスタッフに変装して、選手の出入口に遅効性の発狂魔術を仕掛けた。
この出入口から生徒達が出てきた後に魔術の痕跡を消せばバレることは無いはずだ。
私は誰にも気づかれない場所に隠れて、出入口から生徒達が出てくるのを待った。
◆◆◆
球入れが終わって小一時間が経ち、バトルロワイアルが始まる時間が迫っていた。
「おいフレイ。お前、本当に大丈夫なんだろうな?」
「フレイくん、あんまり無理しちゃ駄目よ?アリーシャ様やエレブン先輩に攻撃されそうになったら、すぐに降参するのよ?」
俺を非戦闘員だと思っているタクトとカタリーナは余計な心配をしている。
「大丈夫ですよ。僕、こう見えて強いですから。それに取っておきの策も考えていますので。」
俺の考えた策はもちろん、『正体を怪しまれずに』一人勝ちする方法だ。
この方法を閃いた俺は天才かもしれない。
「よっ!フレイくん、とうとう君の出番だぞぉー!」
「ここで最下位でもクラス優勝は確実だから、開始早々に降参してもいいんだよぉ?アハハハハッ!」
レオンの取り巻きどもが、少し離れた席から俺を馬鹿にしてきた。
馬鹿にできるのも今のうちだ。
俺はアリーナへと向かい、バトルロワイアルが始まるのを待った。
アリーナに集まった各クラスの代表達を見る。
観客席も他の選手も、アリーシャとエレブンに注目していた。
流石は去年と一昨年の優勝者だ。
他の選手も恐らくは強者なのだろうが、俺には誰が強いかさっぱり分からん。
むしろ全員、有象無象の雑魚に見える。
ま、実際に戦ってみれば相手の実力が分かるか。
会場の雰囲気を見ながら軽く準備運動を終えると、審判による開始の合図がなった。
この時を待っていた。
俺は開始の合図とともに、闘技場全体を光で包み込んだ。
この魔法はキメイラ帝国にいた時に使ったから、今更タクト達に疑われることはないだろう。
いきなりの目に刺さるような強い光に、誰も目を開けることができない。
ということはつまり、俺が何をしようが誰も見ることはできない、ということだ。
俺は魔法で視界を保護して目を開ける。
そして強い光で動けなくなっている他の選手たちをワンパンで殺していった。
兄さんは『殺したら最悪極刑』と言っていたが、光を消すタイミングで生き返らせたらバレないだろう。
全員を殺した後に光を消せばあら不思議、俺だけが一人勝ちしている状態の完成だ。
余裕すぎで笑いが込み上げてくる。
俺は次々と他の選手を殺していき、残るはアリーシャとエレブンだけとなった。
俺は近くにいたエレブンに近づき、顔面に本気のグーパンを喰らわそうとした。
が、その攻撃はエレブンに入らなかった。
エレブンは身体を透過させて、俺の攻撃を避けやがった。
鬱陶しい奴だ。
「最初に私に攻撃を仕掛けてくるのは、てっきりアリーシャ様かと思っていました。」
エレブンは余裕そうに俺に話しかける。
「貴方の攻撃は恐ろしい。きっと、一撃でも喰らえば致命傷になるでしょう。これ程の選手がまだ学校内にいたとは。....もしかして貴方は1年生でしょうか?」
俺は何度も攻撃を仕掛けるも、エレブンは余裕綽々な態度を崩さず、透過すらしていない状態で躱す。
「ですが攻撃が荒い。雑だ。潜在能力が高そうなだけに残念です。力任せの攻撃では私には届きませんよ。」
偉そうにお説教しやがって、ウゼェ。
何度攻撃しても擦りやしない。
仕方ない、コイツは後回しだ。
先にアリーシャを始末しよう。
俺はアリーシャに近づき、腹に蹴りを入れようとした。
がしかし、アリーシャはその蹴りを避けた上で足を掴み、俺を遠くへ投げ飛ばした。
カウンター攻撃するなんて、鬱陶しい奴だ。
「エレブン君....というわけでもなさそうですね。素晴らしい攻撃でした。貴方、お名前は?」
コイツも余裕そうにしているのが、これまたムカつく。
「名乗りませんか。まぁ、いいでしょう。貴方がその気なら、私も本気で参ります!」
アリーシャは見えていないにも関わらず、俺の位置を正確に把握して攻撃を仕掛けてきた。
アリーシャの攻撃を躱しつつ反撃しようとするも、俺の攻撃はすべて躱されてしまう。
アリーシャもエレブンもウゼェ!
全然、攻撃が当たらない。
だったら絶対躱せないように、テメーらを爆発魔法で囲ってやる。
俺が爆発魔法を仕掛けようとしたその時、急に頭がキーンと痛くなった。
脳みそを握りつぶされそうな痛みだ。
あの2人のどっちかの攻撃か?
俺は自分に回復魔法をかけて、2人の様子を伺う。
そしたら2人とも俺と同じように、苦しそうに頭を押さえていた。
急な頭痛はこの2人の仕業じゃない。
ということは....どういうことだ?
ワケが分からなくなった俺は、観客席をぐるっと眺めた。
すると観客席の方でも、半数近くの人間が頭を押さえて苦しんでいた。
中には、暴れて隣や周りの人間に暴力を振るっている者も沢山いた。
何が起こっている?
....もしかして、この光のせいか?
長時間、眩しい光の中にいるせいで体調が崩れて、おかしなことになっているのか?
もしそうだったら、原因は俺?
光のせいで観客席にも危害を加えたとなったら、俺は失格になりそうだ。
俺は闘技場全体に回復魔法をかけようとしたが、かける寸前に思い止まった。
バトルロワイアルの選手たちはワンパンで殺したから、魔法で生き返らせた時、殺された選手たちはきっと『ワンパンで気絶させられた』と勘違いするだろう。
だけど観客席の奴らは違う。
急に頭痛が治ったり、周囲の暴れ回ってる連中が大人しくなったりしたら、明らかに不自然だ。
ただでさえ宮藤迅がここにいるかもと怪しまれているのに、そんな魔法を使ったら最悪正体がバレる。
...いや、待てよ?
逆に宮藤迅が現れて、ここにいる連中に回復魔法をかければ、正体がバレずに済むじゃねえか!
俺はバトルロワイアルの選手達を蘇生すると同時に、光の魔法を消した。
そして、移動魔術を使っているかのように見せかけながら宮藤迅の姿の分身を出した。
いきなりの登場に観客席の連中は驚くかと思ったが、それどころではないようだ。
みんな周囲の異変に困惑して、バトルロワイアルで戦っている選手を見ている人は少なかった。
あのタクト達でさえ、頭痛で苦しんで暴れていて、俺に気づく様子はなかった。
...これだったら、宮藤迅で出てくる意味がないじゃないか。
まぁいい。
とりあえず全員に回復魔法をかけるか。
魔法をかけようとしたその時、アリーシャとエレブンが同時に宮藤迅に対して攻撃を仕掛けてきた。
さっきまでキレのあった2人の攻撃が、頭痛のせいか鈍くなっている。
俺は2人の攻撃を敢えて受け止め、それと同時に2人の拳を掴んで勢いよく壁にぶつけた。
普通ならコレで死んでいてもおかしくはないが、2人は頑丈だからか、その場で気絶する程度で済んでいた。
まぁそれはさておき、とっとと回復魔法をかけるか。
俺は闘技場全体に回復魔法をかけると、さっきまでパニック状態だった観客席は落ち着きを取り戻した。
念のため、頭痛の原因はフレイの光魔法じゃないことと、今回復魔法をかけたのは宮藤迅だということをタクト達に説明しておくか。
宮藤迅はタクト達座っている席へとジャンプして、みんなに会いに行った。
「あっ、お前っ!」
「クドージンさん?!」
「よっ、お前ら。正気に戻ったか?」
さっきまで頭を抱えて暴れていたタクト達だったが、もう大丈夫そうだ。
「もしかして、さっきまでの頭痛を治してくれたのって、クドージンさんですか?」
「あぁ?当たり前だろ。前触れもなくこの闘技場にいる全員に回復魔法をかけれる人間なんて、俺くらいしかいねーだろ。」
「何でお前がここにいるんだよ!」
「別にー。面白そうな祭りがやってたから、ちょっと傍観していただけ。そしたら誰かが闘技場中に変な魔術をかけて台無しにしようとしていたから、俺の回復魔法で魔術を無効化しただけだ。」
こう言っとけば、あの頭痛の原因がフレイだと誰も思わないだろう。
ってか、本当に原因が俺じゃない可能性もあるし。
「そうなのですね、ありがとうございます。ところで変な魔術って、どんな魔術だったのですか?」
「さぁな。それはかけられたお前らがよく分かってんだろ。」
「体感としては何となく分かる気がしますが....そもそも、アレって魔術によるものだったのですか?魔法とは違うのでしょうか?」
ホリーがウザい質問をしてきたせいで、一瞬、言葉が出なかった。
いちいち人の揚げ足を取るなよ。
「知るか!俺に聞くな!」
俺がイライラをぶつけるようにホリーに怒鳴ると、ホリーはそれ以上言及してこなかった。
「君がいる、ということはあの黒緑色のドラゴンを何とかしてくれたのも、やっぱり君なんだね。」
「まーな。どうせお前らがあのまま戦ったところで、あのドラゴンに喰われるのは想像できたからな。」
「クドージンさん、いつも本当にありがとう!」
「宮藤くんって、いっつも私達がピンチになった時にタイミングよく助けに来てくれるわよね。ホント、宮藤くんさまさまだわ。」
「お前ら、なんか勘違いしてねぇか?俺がいつもお前らの都合良く動くと思ったら大間違いだぞ。」
「は~い。わかってまーす。」
本当に分かってんのか?
呑気な返事をするカタリーナとは反対に、ライラは少し顔を強張らせていた。
「ねぇ、クドージンさん。」
「あぁ?何だ?」
「このガラケーって....」
ライラはか細い声で呟くように言うと、俺に例のガラケーを差し出した。
俺はそれを手にした瞬間、反射的に床に叩きつけた。
そういえば気持ち悪い誤解をされたままだった。
思い出しただけでも屈辱的で鳥肌が立つ。
「このガラケーは俺のじゃねぇ!勘違いすんな!誰があんな趣味の悪いホーム画面にするかよ!むしろキモすぎて鳥肌が立ってんだよ!」
「キモい?」
すると急にレックス殿下が俺の肩を掴んで、にっこりと笑顔で俺に話しかけた。
口や目は笑っているように見えるが、全体的に表情が歪でなんだか怖い。
「カタリーナがキモいって、本気で言ってるのかい?」
その不自然な笑顔から、理解し難い『圧』を感じる。
今まで感じたことのない不気味さに戸惑って、一瞬、言葉を失った。
「....わ、悪かった。」
俺は圧に負けて、思わず謝ってしまった。
どう考えても俺、何も悪くないよな?
「ねぇ、あのガラケーがクドージンさんのじゃないって、本当なの?」
一方のライラは、さっきまでの浮かない表情から一転、パァっと嬉しそうな顔をして俺を見つめた。
「当たり前だろ。俺があんなのをホーム画面にするワケねぇ。第一、あのガラケーはもらってすぐ魔物村で無くしたから、使ってねーし。」
「そっか!....よかった。」
一体、何が良かったんだ?
「じゃあ宮藤くんのガラケーを使っていたのって、誰だったのかしら?」
「さぁな。知るか。」
「少なくともガラケーを勝手に使っていた人は、カタリーナちゃんが好きってことだよね?」
「ってことは少なくとも闘技場に私のことが好きな人がいるのよね。嗚呼、私って罪な女。」
誤解は解けたとはいえ、カタリーナの調子に乗った態度は鼻につく。
するとその時、少し離れた席に座っていた勇者サマ達が俺の存在に気づいて、凄い剣幕で俺を睨みながら近ついてきた。
ガラケーの誤解は解けたし、もうここに要はない。
俺は「じゃあな」と言うと、宮藤迅の分身を消した。
再びフレイの方へと意識を向け、改めてアリーナを見渡す。
俺がワンパンで殺した選手たちは未だに寝転がっており、さっき投げ飛ばしたアリーシャとエレブンも起き上がっていなかった。
倒れていない選手は俺だけだ。
アリーシャとエレブンを倒したのは宮藤迅だが、この場合ってどうなるんだ?
疑問に思っていると、俺の元へと近づいていた審判が俺の腕を掴み、上へと挙げた。
「バトルロワイアルの勝者は、1年αクラスのフレイ・ライトニング選手です。」
その宣言と同時に、観客席中が拍手喝采し、俺を褒め称えた。
.....これでいいのか?
若干、審判にツッコミを入れたくなったが、当初目的通りだし良しとしよう。
俺は拍手を浴びながら、観客席にある自分の席へと移動した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました
Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる