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第19話:鉱山探索
【82】鉱山探索(1)
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授業が終わって、クラスメイト達がほとんどいなくなった放課後の教室。
今日、カタリーナから大事な話があるということで、いつものメンバーが集まっていた。
カタリーナはとうとう、アレをカミングアウトするらしい。
「で、何なんだよ。大事な話って。」
何を話すのか見当のついていないタクト達は、少しソワソワしていた。
「実はまだ、みんなに話していないことがあったの。とは言っても、フレイくんは一応知っているんだけど。」
「えっ?」
「今更俺達に秘密だなんて、水臭ぇ奴だな。」
「仕方なかったのよ。言っても信じてもらえないって思ったから。それにうまく説明できる自信もないし。」
「それで、話って何ですか?」
「実はね...」
「「実は?」」
みんなは固唾を飲んでカタリーナの言葉を待つ。
「この世界と同じ世界観の小説が、前世にあったの!」
ついに言いやがった、コイツ!
案の定、みんな言っていることが理解できずに、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。
思わずニヤニヤしそうになるが、グッと笑いを堪えて成り行きを見守った。
「...カタリーナちゃん、それってどういうこと?」
「私が、前世は異世界に居たって話は前にしたわよね。」
「あぁ。確かダイフク商会の会長も、同じ異世界に居たんだよな?ニホンアイランドの元になった世界のことだろ?」
「そう!私がいた世界には漫画や小説がたくさんあったの。その中に『アップスターオレンジ』っていう小説があったんだけど、その小説の舞台がこの学校で、主人公がアリーシャ様なの!」
理解が深まるどころか、『何を言っているんだコイツは』という怪訝な空気が濃くなった。
「カタリーナさん、その『アップスターオレンジ』という小説は、一体どんな話なの?」
そんな空気を打ち破るようにホリーは質問をした。
「アップスターオレンジは、主人公のアリーシャ様がレックス殿下と恋に落ちる物語よ。」
「恋愛小説なんだ。私も読んでみたかったなぁ。」
「まぁ、私も読んでないんだけどね。」
「えっ?...カタリーナちゃん、それって...」
カタリーナの問題発言に、ライラは一瞬、表情が固まった。
「それはともかく、この小説の内容がとんでもないのよ!」
ライラの疑問を無視するように、カタリーナは話を続けた。
「小説だと、主人公のアリーシャ様は出自が原因でいじめに遭うのよ。それを助けたレックス殿下に恋に落ちて、二人は結ばれるの。」
「それはあり得ないよ。僕にはカタリーナがいるのに。アリーシャ嬢も綺麗だけど、カタリーナを差し置いて恋仲になるなんて考えられない。」
嘘シナリオの設定に、殿下は強い不快感を示した。
自分が不貞行為をする人間だと言われたようなものだから、不愉快に思うのも当然だ。
「でも私ですら知らなかったアリーシャ様の出自を、アップスターオレンジは当てました。きっと、私がシナリオ通りに動いていないから、アリーシャ様とレックス殿下はまだ恋人になっていないのだと思います。」
「カタリーナちゃんがシナリオ通りに動いていないってことは、カタリーナちゃんもアップスターオレンジに出ているの?」
「えぇ。もっとも、私は悪役令嬢としてだけど。」
「悪役令嬢?」
「つまり、ヒロインにいじわるする悪い令嬢ってことよ。シナリオだと私は、殿下と仲良くするアリーシャ様に嫉妬していじめるようになるの。で、それを知った殿下が私を告発して、国外追放になって、最期はキメイラ帝国で亜人に殺されるらしいの。」
「話を聞いてると益々信じられないなぁ。どんな理由であれカタリーナがアリーシャ嬢をいじめるなんて考えられない。むしろアリーシャ嬢のいじめを見かけたら、僕が気づくよりも先に彼女を助けそうだよ。」
「ですよね。私もそう思います。カタリーナちゃん、その物語には私やお兄ちゃん達は出てくるの?」
「いいえ。ここにいるメンバーで登場するのは私と殿下だけよ。強いて言えばレオンやショーン殿下も関係してくるわ。」
「これだけお前と一緒にいる俺達が出てこないなんて、絶対おかしいだろ!」
「もしかしたらカタリーナさんの行動の影響で、運命が変わって僕達が出ていない可能性があるかもよ?例えば僕の場合、本来ドーワ侯国の学校に行くはずが、運命が変わったから今この学校にいるのかもしれないし。」
「多分、運命が大きく変わったのは私だけのせいじゃ無いわ。だって、宮藤くんやダイフク会長みたいに日本から転生した人が多いもの。バタフライエフェクトどころの話じゃないわ。
特に、この世界を大きく変えたのは宮藤くんよ。世界中の龍脈をほぼ封印しちゃったんだから。きっとタクトくん達とホリーくんとゼルくんは、龍脈が封印されていなかったら、各々の国の学校に行ってたんじゃないかしら?フレイくんにしても、宮藤くんが現れなかったら聖女様が功績を残して陞爵することもなかったはずよ。そしたらエセヴィラン家の派閥に入ることもなく、私との接点も無かったんじゃないかしら?」
「仮にカタリーナ達の行動のせいでシナリオが大幅に変わったんだとしたら、アップスターオレンジは参考にならないんじゃないかな?」
「そうとも限りません。現に、アリーシャ様の出自は当たっています。元のシナリオから大きく逸れたとしても、登場人物や本質的な設定は変わらないのではないのでしょうか?」
「本質的な設定って....例えば?」
「聖ソラトリク教団のこととか。」
その単語が出た瞬間、ゼルと殿下は険しい顔つきになった。
「待って!聖ソラトリク教団がシナリオに出てくるの?!」
さっきまで『馬鹿馬鹿しい』と言わんばかりの表情で聞いていたゼルも、流石にこれには食いついた。
「ええ。シナリオだと、聖ソラトリク教団は異世界人による犯罪集団だったって、書いてあるわ。しかもディシュメイン王国での影響力を高めるために、レックス殿下を亡き者にしてショーン殿下を次期国王にしようと目論んでいるの。」
ゼルはそれを聞いて、疑うどころか『奴らならやりかねない』と、どこか納得した様子だった。
....嘘のつもりで書いた設定が、中途半端に当たってしまったのは想定外だ。
嘘シナリオを信じ込ませることができて嬉しい反面、騙している感が減って面白みが無くなった気がして、複雑な気分だ。
「きっとこの前の武闘会での異変も、魔物村の騒動も聖ソラトリク教団が関与しているに決まっているわ!」
本来なら突飛な妄想を語るカタリーナを笑っていただろう。
だけどカタリーナの読みがあながち間違いでもなさそうだから、笑うに笑えない。
「カタリーナちゃん、さすがにそれは陰謀論に近いんじゃないかな。確かに魔物村や武闘会の出来事は不自然だったけど、それを全部聖ソラトリク教団の仕業と言いきるには話が飛躍しすぎなように感じるよ。」
「....いや。僕はカタリーナの話が、そこまで的外れだとは思わないよ。」
殿下は顎に手を当てて、何かを思い出すように考えながら話を続けた。
「この前、海水浴の時に現れたタコの魔物を覚えてる?」
「はい。確か、頭に沈没船を被っていましたよね?」
「そう、そのタコだよ。あのタコが被っていた沈没船に、花にも種にも見える不思議なシンボルが描かれていたんだ。僕はそのマークに見覚えがあったから、何のマークか調べてみたんだ。そしたら、聖ソラトリク教団のシンボルだったことが判明したんだ。」
「「えっ?!」」
「ってことは、じゃあ....どういうことだ?」
理解の追いついていないタクトに、タクト以外の全員がズッコけそうになった。
「あの黒緑色のタコは聖ソラトリク教団が作り出したんじゃないかってことだよ。さらに言えば、あのタコと同じようなドラゴンが武闘会に出てきたけど、それも聖ソラトリク教団が用意したんじゃないかって思うんだ。」
「なるほど!だったらやっぱり、武闘会の騒動は聖ソラトリク教団の仕業じゃねえか!」
半信半疑で聞いていたタクトも、この話は流石に信じたようだ。
心なしか、ワクワクしているようにも見えるが、気のせいか?
「それに聖ソラトリク教団が犯罪集団だっていうのも本当だと思う。現に、教団はクドージンさんを拷問しようとしていたし。」
「「えっ?!」」
何で殿下がそのことを知っているんだ?!
予想外の話に、驚いて思わず声が漏れた。
殿下の話に驚いたのは俺だけじゃなかったようで、教室中に全員の驚いた声が響いた。
「ほ、本当ですか殿下?仮に本当だとしても、なぜ宮藤くんがそんな目に遭ったことを知っているんですか?」
「カタリーナの夢の中に入った時に、不可抗力で彼の記憶を覗いてしまったことがあっただろ?あの時に見たんだ。彼が教団に酷いことをされそうになっているのを。」
そういえば、カタリーナと殿下は俺の記憶を覗いていたんだった。
改めて、記憶を覗かれた不快感に苛まれる。
...カタリーナの夢の中に入るんじゃなかった。
「彼はニホンで死んだ後、気がついたら何者かに拘束されてたみたい。そこで身の危機を感じた彼は必死に逃げ出して、命からがら逃げ出した先で...奴隷商に捕まってしまったんだ。彼の記憶の中で、彼が拘束されていた建物の中に、教団のシンボルがいくつかあった。だから彼の件で、教団が無関係だとは思えないんだ。」
俺はあの日の記憶を少し振り返ってみる。
確かに殿下の言う通り、花なのか種なのか分かりづらい変なマークを所々で見かけたような気がする。
「宮藤くんがそんな目に遭っていたなんて...」
全員が、俺に同情したかのように気まずそうな空気になった。
相変わらずウザい連中だ。
「そんなことより、教団が武闘会の件に関わっていそうなのは分かりましたが、魔物村での出来事との関連性はあるのでしょうか?」
気落ちした空気がうざったいから、無理矢理話を逸らした。
「それなら多分、関係していると思うよ。」
俺の問いに答えたのはゼルだった。
魔物村の件はシヴァからおおよその推測を聞いたが、まさかソレを話すつもりじゃないだろうな?
「僕が聞いた....じゃなくて見た話だけど、聖ソラトリク教団がその....と、トイレで怪しい魔術を使っているのを見たんだ!」
かなり見苦しい嘘だな。
終始目が泳いでいたし、言葉を詰まらせていたし、嘘をつくのが下手だろ。
「怪しい魔術って?」
「さぁ....よく見えなかったから分からない。」
「聖ソラトリク教団は、他に何かしていたの?」
「それは.......分からない。僕はトイレにいた時に、見かけない服装の人が怪しい魔術を使うのをチラッと見ただけだから。その人の服には花と種の中間みないなマークが書いてあったし、あれはきっと聖ソラトリク教団で間違いないよ!」
急な質問にゼルは辿々しく答えるが、特に怪しまれてはいないようだ。
即興の嘘にしては、うまく誤魔化せている方なのか?
「魔物村も武闘会も教団が関与してるってことは、もう完全にクロだろ!表じゃ人々のために祈っている連中が、裏では非合法なことをしているなんて、まるでマンガに出てくる悪の組織じゃねーか!」
タクトはなぜか嬉しそうだ。
...今までの話で、テンションが上がるような内容はあったか?
「話は戻すけど、カタリーナさんのが言ってたシナリオ通りだとすると、教団はレックス殿下を始末するために魔物村や武闘会で騒動を起こしたってこと?」
確かにホリーの言う通り、シナリオ通りだったら教団の狙いはレックス殿下だ。
だがアップスターオレンジは嘘のシナリオだ。
教団の目的は別かもしれないし、もしかしたらこの設定も偶然当たっている可能性もある。
「きっと、そうに違いないわよ。それに殿下の誕生日パーティの時だって、毒を盛られて死にかけたもの。これだけ殿下の周りで事件が起こっているんだから、殿下の命を狙っていないはずが無いわ!」
「教団がレックス殿下を狙っていると仮定して、狙う理由がちょっと納得できないなぁ。聖ソラトリク教の影響力を高めるためだけに殿下を殺すのはリスクの方が大きい気がするけどな。そんなことをしなくても、聖ソラトリク教はディシュメイン王国での影響力はそれなりに大きいし。」
「教団の狙いはあくまでその先よ。聖ソラトリク教の信者でもあるショーン殿下が国王になれば、殿下を操ってディシュメイン王国を意のままにできるわ。そうすることで、国が厳重に管理している龍脈を利用するのが目的よ。」
「龍脈を利用って、一体何をするつもりなの?」
「教団の真の目的に使うのよ。その名も『ノスとラダムスの夜』。」
「ノスとラダムスの夜?」
「そう。この計画が実行されたら教団の最終兵器が稼働して、世界中から魔力が抜き取られちゃうの。そして吸収した魔力を使って、教団の異世界人が住んでいた母世界を甦らせようとしているのよ!」
カタリーナが話すシナリオのスケールの大きさに、みんな唖然としていた。
「マジかよ...!教団を野放しにしていたら世界がヤバいじゃねーか!」
「そうなのよ!」
「こりゃ、新・勇者パーティの出番だな!
みんな!聖ソラトリク教団をぶっ倒すぞ!」
「おー!」
カタリーナとタクトは教団を倒すことに意気込んでいたが、他のメンバーは渋い顔をしていた。
「カタリーナ、あんまり無茶なことをするのは駄目だよ。」
「そうだよ。本当に危険な集団だったら、酷い目に遭わされるかもしれないし。仮にシナリオが嘘だとしても、教団の人達に迷惑をかけることになるから、どっちにしても良くないよ。」
殿下とライラは、真剣な顔でカタリーナを説得した。
「でも....」
カタリーナが反論する前に、ホリーは急に核心をつく質問を切り出した。
「それに、さっきからずっと気になっていたけど、カタリーナさんってアップスターオレンジを読んでいないんだよね?だったら何で、こんなに詳しいの?」
今日、カタリーナから大事な話があるということで、いつものメンバーが集まっていた。
カタリーナはとうとう、アレをカミングアウトするらしい。
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「えっ?」
「今更俺達に秘密だなんて、水臭ぇ奴だな。」
「仕方なかったのよ。言っても信じてもらえないって思ったから。それにうまく説明できる自信もないし。」
「それで、話って何ですか?」
「実はね...」
「「実は?」」
みんなは固唾を飲んでカタリーナの言葉を待つ。
「この世界と同じ世界観の小説が、前世にあったの!」
ついに言いやがった、コイツ!
案の定、みんな言っていることが理解できずに、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。
思わずニヤニヤしそうになるが、グッと笑いを堪えて成り行きを見守った。
「...カタリーナちゃん、それってどういうこと?」
「私が、前世は異世界に居たって話は前にしたわよね。」
「あぁ。確かダイフク商会の会長も、同じ異世界に居たんだよな?ニホンアイランドの元になった世界のことだろ?」
「そう!私がいた世界には漫画や小説がたくさんあったの。その中に『アップスターオレンジ』っていう小説があったんだけど、その小説の舞台がこの学校で、主人公がアリーシャ様なの!」
理解が深まるどころか、『何を言っているんだコイツは』という怪訝な空気が濃くなった。
「カタリーナさん、その『アップスターオレンジ』という小説は、一体どんな話なの?」
そんな空気を打ち破るようにホリーは質問をした。
「アップスターオレンジは、主人公のアリーシャ様がレックス殿下と恋に落ちる物語よ。」
「恋愛小説なんだ。私も読んでみたかったなぁ。」
「まぁ、私も読んでないんだけどね。」
「えっ?...カタリーナちゃん、それって...」
カタリーナの問題発言に、ライラは一瞬、表情が固まった。
「それはともかく、この小説の内容がとんでもないのよ!」
ライラの疑問を無視するように、カタリーナは話を続けた。
「小説だと、主人公のアリーシャ様は出自が原因でいじめに遭うのよ。それを助けたレックス殿下に恋に落ちて、二人は結ばれるの。」
「それはあり得ないよ。僕にはカタリーナがいるのに。アリーシャ嬢も綺麗だけど、カタリーナを差し置いて恋仲になるなんて考えられない。」
嘘シナリオの設定に、殿下は強い不快感を示した。
自分が不貞行為をする人間だと言われたようなものだから、不愉快に思うのも当然だ。
「でも私ですら知らなかったアリーシャ様の出自を、アップスターオレンジは当てました。きっと、私がシナリオ通りに動いていないから、アリーシャ様とレックス殿下はまだ恋人になっていないのだと思います。」
「カタリーナちゃんがシナリオ通りに動いていないってことは、カタリーナちゃんもアップスターオレンジに出ているの?」
「えぇ。もっとも、私は悪役令嬢としてだけど。」
「悪役令嬢?」
「つまり、ヒロインにいじわるする悪い令嬢ってことよ。シナリオだと私は、殿下と仲良くするアリーシャ様に嫉妬していじめるようになるの。で、それを知った殿下が私を告発して、国外追放になって、最期はキメイラ帝国で亜人に殺されるらしいの。」
「話を聞いてると益々信じられないなぁ。どんな理由であれカタリーナがアリーシャ嬢をいじめるなんて考えられない。むしろアリーシャ嬢のいじめを見かけたら、僕が気づくよりも先に彼女を助けそうだよ。」
「ですよね。私もそう思います。カタリーナちゃん、その物語には私やお兄ちゃん達は出てくるの?」
「いいえ。ここにいるメンバーで登場するのは私と殿下だけよ。強いて言えばレオンやショーン殿下も関係してくるわ。」
「これだけお前と一緒にいる俺達が出てこないなんて、絶対おかしいだろ!」
「もしかしたらカタリーナさんの行動の影響で、運命が変わって僕達が出ていない可能性があるかもよ?例えば僕の場合、本来ドーワ侯国の学校に行くはずが、運命が変わったから今この学校にいるのかもしれないし。」
「多分、運命が大きく変わったのは私だけのせいじゃ無いわ。だって、宮藤くんやダイフク会長みたいに日本から転生した人が多いもの。バタフライエフェクトどころの話じゃないわ。
特に、この世界を大きく変えたのは宮藤くんよ。世界中の龍脈をほぼ封印しちゃったんだから。きっとタクトくん達とホリーくんとゼルくんは、龍脈が封印されていなかったら、各々の国の学校に行ってたんじゃないかしら?フレイくんにしても、宮藤くんが現れなかったら聖女様が功績を残して陞爵することもなかったはずよ。そしたらエセヴィラン家の派閥に入ることもなく、私との接点も無かったんじゃないかしら?」
「仮にカタリーナ達の行動のせいでシナリオが大幅に変わったんだとしたら、アップスターオレンジは参考にならないんじゃないかな?」
「そうとも限りません。現に、アリーシャ様の出自は当たっています。元のシナリオから大きく逸れたとしても、登場人物や本質的な設定は変わらないのではないのでしょうか?」
「本質的な設定って....例えば?」
「聖ソラトリク教団のこととか。」
その単語が出た瞬間、ゼルと殿下は険しい顔つきになった。
「待って!聖ソラトリク教団がシナリオに出てくるの?!」
さっきまで『馬鹿馬鹿しい』と言わんばかりの表情で聞いていたゼルも、流石にこれには食いついた。
「ええ。シナリオだと、聖ソラトリク教団は異世界人による犯罪集団だったって、書いてあるわ。しかもディシュメイン王国での影響力を高めるために、レックス殿下を亡き者にしてショーン殿下を次期国王にしようと目論んでいるの。」
ゼルはそれを聞いて、疑うどころか『奴らならやりかねない』と、どこか納得した様子だった。
....嘘のつもりで書いた設定が、中途半端に当たってしまったのは想定外だ。
嘘シナリオを信じ込ませることができて嬉しい反面、騙している感が減って面白みが無くなった気がして、複雑な気分だ。
「きっとこの前の武闘会での異変も、魔物村の騒動も聖ソラトリク教団が関与しているに決まっているわ!」
本来なら突飛な妄想を語るカタリーナを笑っていただろう。
だけどカタリーナの読みがあながち間違いでもなさそうだから、笑うに笑えない。
「カタリーナちゃん、さすがにそれは陰謀論に近いんじゃないかな。確かに魔物村や武闘会の出来事は不自然だったけど、それを全部聖ソラトリク教団の仕業と言いきるには話が飛躍しすぎなように感じるよ。」
「....いや。僕はカタリーナの話が、そこまで的外れだとは思わないよ。」
殿下は顎に手を当てて、何かを思い出すように考えながら話を続けた。
「この前、海水浴の時に現れたタコの魔物を覚えてる?」
「はい。確か、頭に沈没船を被っていましたよね?」
「そう、そのタコだよ。あのタコが被っていた沈没船に、花にも種にも見える不思議なシンボルが描かれていたんだ。僕はそのマークに見覚えがあったから、何のマークか調べてみたんだ。そしたら、聖ソラトリク教団のシンボルだったことが判明したんだ。」
「「えっ?!」」
「ってことは、じゃあ....どういうことだ?」
理解の追いついていないタクトに、タクト以外の全員がズッコけそうになった。
「あの黒緑色のタコは聖ソラトリク教団が作り出したんじゃないかってことだよ。さらに言えば、あのタコと同じようなドラゴンが武闘会に出てきたけど、それも聖ソラトリク教団が用意したんじゃないかって思うんだ。」
「なるほど!だったらやっぱり、武闘会の騒動は聖ソラトリク教団の仕業じゃねえか!」
半信半疑で聞いていたタクトも、この話は流石に信じたようだ。
心なしか、ワクワクしているようにも見えるが、気のせいか?
「それに聖ソラトリク教団が犯罪集団だっていうのも本当だと思う。現に、教団はクドージンさんを拷問しようとしていたし。」
「「えっ?!」」
何で殿下がそのことを知っているんだ?!
予想外の話に、驚いて思わず声が漏れた。
殿下の話に驚いたのは俺だけじゃなかったようで、教室中に全員の驚いた声が響いた。
「ほ、本当ですか殿下?仮に本当だとしても、なぜ宮藤くんがそんな目に遭ったことを知っているんですか?」
「カタリーナの夢の中に入った時に、不可抗力で彼の記憶を覗いてしまったことがあっただろ?あの時に見たんだ。彼が教団に酷いことをされそうになっているのを。」
そういえば、カタリーナと殿下は俺の記憶を覗いていたんだった。
改めて、記憶を覗かれた不快感に苛まれる。
...カタリーナの夢の中に入るんじゃなかった。
「彼はニホンで死んだ後、気がついたら何者かに拘束されてたみたい。そこで身の危機を感じた彼は必死に逃げ出して、命からがら逃げ出した先で...奴隷商に捕まってしまったんだ。彼の記憶の中で、彼が拘束されていた建物の中に、教団のシンボルがいくつかあった。だから彼の件で、教団が無関係だとは思えないんだ。」
俺はあの日の記憶を少し振り返ってみる。
確かに殿下の言う通り、花なのか種なのか分かりづらい変なマークを所々で見かけたような気がする。
「宮藤くんがそんな目に遭っていたなんて...」
全員が、俺に同情したかのように気まずそうな空気になった。
相変わらずウザい連中だ。
「そんなことより、教団が武闘会の件に関わっていそうなのは分かりましたが、魔物村での出来事との関連性はあるのでしょうか?」
気落ちした空気がうざったいから、無理矢理話を逸らした。
「それなら多分、関係していると思うよ。」
俺の問いに答えたのはゼルだった。
魔物村の件はシヴァからおおよその推測を聞いたが、まさかソレを話すつもりじゃないだろうな?
「僕が聞いた....じゃなくて見た話だけど、聖ソラトリク教団がその....と、トイレで怪しい魔術を使っているのを見たんだ!」
かなり見苦しい嘘だな。
終始目が泳いでいたし、言葉を詰まらせていたし、嘘をつくのが下手だろ。
「怪しい魔術って?」
「さぁ....よく見えなかったから分からない。」
「聖ソラトリク教団は、他に何かしていたの?」
「それは.......分からない。僕はトイレにいた時に、見かけない服装の人が怪しい魔術を使うのをチラッと見ただけだから。その人の服には花と種の中間みないなマークが書いてあったし、あれはきっと聖ソラトリク教団で間違いないよ!」
急な質問にゼルは辿々しく答えるが、特に怪しまれてはいないようだ。
即興の嘘にしては、うまく誤魔化せている方なのか?
「魔物村も武闘会も教団が関与してるってことは、もう完全にクロだろ!表じゃ人々のために祈っている連中が、裏では非合法なことをしているなんて、まるでマンガに出てくる悪の組織じゃねーか!」
タクトはなぜか嬉しそうだ。
...今までの話で、テンションが上がるような内容はあったか?
「話は戻すけど、カタリーナさんのが言ってたシナリオ通りだとすると、教団はレックス殿下を始末するために魔物村や武闘会で騒動を起こしたってこと?」
確かにホリーの言う通り、シナリオ通りだったら教団の狙いはレックス殿下だ。
だがアップスターオレンジは嘘のシナリオだ。
教団の目的は別かもしれないし、もしかしたらこの設定も偶然当たっている可能性もある。
「きっと、そうに違いないわよ。それに殿下の誕生日パーティの時だって、毒を盛られて死にかけたもの。これだけ殿下の周りで事件が起こっているんだから、殿下の命を狙っていないはずが無いわ!」
「教団がレックス殿下を狙っていると仮定して、狙う理由がちょっと納得できないなぁ。聖ソラトリク教の影響力を高めるためだけに殿下を殺すのはリスクの方が大きい気がするけどな。そんなことをしなくても、聖ソラトリク教はディシュメイン王国での影響力はそれなりに大きいし。」
「教団の狙いはあくまでその先よ。聖ソラトリク教の信者でもあるショーン殿下が国王になれば、殿下を操ってディシュメイン王国を意のままにできるわ。そうすることで、国が厳重に管理している龍脈を利用するのが目的よ。」
「龍脈を利用って、一体何をするつもりなの?」
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「ノスとラダムスの夜?」
「そう。この計画が実行されたら教団の最終兵器が稼働して、世界中から魔力が抜き取られちゃうの。そして吸収した魔力を使って、教団の異世界人が住んでいた母世界を甦らせようとしているのよ!」
カタリーナが話すシナリオのスケールの大きさに、みんな唖然としていた。
「マジかよ...!教団を野放しにしていたら世界がヤバいじゃねーか!」
「そうなのよ!」
「こりゃ、新・勇者パーティの出番だな!
みんな!聖ソラトリク教団をぶっ倒すぞ!」
「おー!」
カタリーナとタクトは教団を倒すことに意気込んでいたが、他のメンバーは渋い顔をしていた。
「カタリーナ、あんまり無茶なことをするのは駄目だよ。」
「そうだよ。本当に危険な集団だったら、酷い目に遭わされるかもしれないし。仮にシナリオが嘘だとしても、教団の人達に迷惑をかけることになるから、どっちにしても良くないよ。」
殿下とライラは、真剣な顔でカタリーナを説得した。
「でも....」
カタリーナが反論する前に、ホリーは急に核心をつく質問を切り出した。
「それに、さっきからずっと気になっていたけど、カタリーナさんってアップスターオレンジを読んでいないんだよね?だったら何で、こんなに詳しいの?」
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基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
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人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
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——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
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