転生魔王の正体は?ーー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですーー

サトウミ

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第19話:鉱山探索

【83】鉱山探索(2)

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「それに、さっきからずっと気になっていたけど、カタリーナさんってアップスターオレンジを読んでいないんだよね?だったら何で、こんなに詳しいの?」

ホリーは急に核心をつく質問を切り出した。

まぁホリー達からすれば『本人が読んですらいない小説の話をされても...』って感じなのだろう。

「それは宮藤くんから聞いたのよ。」
「クドージンさんが?」

「えぇ。彼が前世でクラスメイトだった女の子が書いてた小説が、アップスターオレンジらしいわ。彼のことだから、きっとからかい半分で女の子の小説を勝手に読んだのだと思うわ。」

「なるほど。じゃあ実際にアップスターオレンジを読んだことがあるのはクドージンさんだけってことだね。」
「そういうことよ。」

「....無粋な質問かもしれないけど、クドージンさんが嘘をついている可能性はないの?」
うわっ!
そこに勘づくか?
ホリーめ、余計なことを言いやがって。

「それは考えづらいわ。だってアリーシャ様のことや聖ソラトリク教団のことを当てるなんて、嘘でもできないもの。百歩譲ってそれらを当てるのが可能でも、宮藤くんに物語の構成を考えられる程の想像力は無いでしょ。」

テメェ、一言余計だ!
だけど兄さんや母さんがアドバイスしてくれなかったら嘘シナリオアップスターオレンジが完成できなかったのも事実だ。

「確かにアイツ、アホっぽいもんな。小説の設定とか考えるの無理そー。」
「でもタクトくんも出来なさそうだよね。」
「あぁ?ゼル、テメェ怒ってんのか?」
「別に。事実を言っただけ。」

俺を馬鹿にしたタクトに、ゼルは瞬時に俺に代わって言い返す。
そのお陰で、タクトに対する殺意が一瞬で静まった。
ゼルって案外、いい奴だな。

「確かに、偶然であそこまでは思いつかないか。じゃあ、作者の女の子は特別な力を持っていたから、この世界の物語が書けたのかな?」
「それは分からない。ただ言えるのは、日本には魔法や魔術なんてものは存在しなかったわ。」

「マジかよ!魔術がないのにどうやって生活するんだ?」
「私達の世界じゃ魔力が無い代わりに、それ以外の物のエネルギーを使って、便利な道具を作って暮らしていたわ。」
「へぇ、ニホンって変な世界だな。」

「ねぇカタリーナちゃん。ニホンには魔法が存在しないんだよね?だったら何で作者の女の子は、この世界の物語を書くことができたの?」
「それは....言われてみれば、不思議よね。」

やばい。
カタリーナがシナリオを疑い始めている。

「そもそも、本当にニホンには魔法が無かったの?クドージンさんは魂に根源があるよね?だったら普通、魔法が使えるんじゃないの?」

助け舟を出してくれたのはゼルだった。
....いつか礼でも言ってやるか。

「まぁ確かに、無いとは断言できないわね。テレビ番組でたまに自称超能力者とか自称霊媒師とか出てたもの。もしかしたらその中に、本物がいたかもしれないわね。」

「じゃあアップスターオレンジの作者が魔法使いの可能性があるってこと?」
「多分ね。きっと作者の女の子は、日本で数少ない本物の魔法使いだったのかもしれないわね。むしろ、そうでないとあそこまで予言できないわ。」

ゼルのお陰でカタリーナは再び納得したようだ。
これで誰もシナリオを疑わないだろう。

「ところで、タイトルの『アップスターオレンジ』ってどういう意味だろ?」
またホリーが変な質問をしてきた。
タイトルなんざどうでもいいだろ。
深い意味はない。ただのUアップSスターOオレンジだ。

「漫画や小説だと、タイトルって物語と関係あるものになるよね。主人公の名前だったり、物語の名シーンでのセリフだったり。」

「その発想はなかったわ。もしかしたらタイトルに重大な秘密があるかもしれないわね。アップスターオレンジ.....直訳で上・星・橙....」

「それって、カイシュ星のこと?」
ライラは、あまり聞かない単語を口にした。
カイシュ星って確か、夜にときどき現れる橙色に輝く星だよな?

「アップスターオレンジがカイシュ星だとして、どんな意味があるのかしら?」
意味なんかねーよ。

「う~ん、そうねぇ...。例えば、カイシュ星が綺麗に輝く夜に、殿下がアリーシャ様に告白する、とかかしら?」
「確かに、あの星の星言葉って『いつまでも君を想う』だもんね。そんな星の輝く夜に告白って、ロマンチックだね。」

カタリーナもライラも、この手の話が好きだよな。
ってか、星言葉って何だよ。馬鹿馬鹿しい。

「もしかしたら他にメッセージがあるのかも。例えば『タイトルの頭文字を取るとメッセージになっている』とか。そういう作品もいくつかあったよ。」

嘘だろ。
アップスターオレンジと同じ形式のタイトルがあったのか。
ったく、ホリーはいちいち余計なことを言うんじゃねーよ!

「アップスターオレンジ....。
アップ・スター・オレンジ...。」
これはまずい。
案の定、カタリーナが真実に近づきつつある。
気づく前に話を変えないと。

「あ・す・お?」
「あのー、カタリーナさん?」
「あすおって、アスオ鉱山のことかい?」

俺は別の話題を振ろうとしたが、殿下が食い気味にカタリーナに話しかけたせいで遮られた。

「そのアスオ鉱山って何だ?」
「ディシュメイン王国にある鉱山だよ。龍脈の近くにあるからか、高純度の魔法石や宝石が採れるんだ。国内に出回っている魔法石の半数以上が、アスオ鉱山で採れたものなんだ。」

へぇ。そんなのがあるのか。
偶然の一致とはいえ、助かった。

「もしかして、アスオ鉱山に教団の本拠地があるのかしら?」
流石にそれは無理があるだろ!
教団の本拠地がこの国にあるわけがない。
本当に、カタリーナはいつも面白い解釈をしやがる。

「へぇ。そりゃ面白そうじゃねぇか!行ってみようぜ!」
タクトは、まるで観光地へ遊びに行くかのようなノリで軽々しく言った。

「もう、お兄ちゃん!面白半分で余計なこと言わないの!」
「アスオ鉱山に行くだけなら、別に良いんじゃないかな。あそこは一応、観光地でもあるし。それに寮からも比較的近いから、頑張れば日帰りで行けるよ。」

「だったら決定な!今度の休みに、みんなで行くぞー!新・勇者パーティの出動だ!」

「行ってもいいけど、あくまで観光するだけだからね!」
「僕も。教団に関わるのはごめんだけど、観光くらいなら行ってもいいよ。」

ライラとホリーに続くように、殿下とゼルも『観光だけ』と条件付きで賛成した。

「はぁ~。お前ら、弱虫だなぁ。フレイは一緒に教団のアジトを探すよな?」
「もちろん、探しませんよ。」
当たり前だ。
お前らが勝手に勘違いして無駄な捜索をするのを見るのは楽しいが、参加するのは勘弁だ。

「なんだよ、みんなノリ悪ぃな~。」
「仕方ないわ。タクトくん、私達だけで探しましょう。」
「だな。」

「お兄ちゃんもカタリーナちゃんも、やめとこうよ。小説に書いてある内容ならまだしも、ただの推測でしょ?鉱山で働いている人に迷惑だよ。」
「大丈夫よ。誰にも迷惑をかけないように探すから。」

「本当に?」
ライラは疑いの眼差しでタクトとカタリーナを睨みつけた。
ライラの疑う気持ちはよく分かる。
この2人は何となく、やらかしそうな感じがするよな。

だがライラはそれ以上言及せず、結局アスオ鉱山へ赴くことになった。

◆◆◆


次の休日。
この日は朝から馬車に乗って、アスオ鉱山へと向かった。
馬車に乗ること数時間、鉱山付近の観光村へと到着した。

「今日泊まる宿は、もう少しあっちの方にあるんだって。」
指を差しながら説明したのはホリーだった。

『アスオ鉱山は日帰りだと距離的にしんどいから鉱山付近で一泊しよう』という話になった。
一泊するとは言っても宿はあるのか?と疑問に思ったが、ホリーが観光地付近の宿に片っ端から電話をしたおかげで、無事に宿は確保できた。

アスオ鉱山へ到着してからは、鉱山の中を見学したり、観光村で買い物をしたりした。
.....正直、何が面白いのか分からない。

これなら往復に何時間かかってでも、日帰りにすれば良かった。

俺はその日、鉱山で採れた魔法石を何個かお土産に買い、みんなと適当な店で食事を済ませ、宿の自分の部屋でゆったりと寝転がった。

そういえばタクトとカタリーナは、教団の手がかり探しは諦めたのだろうか?
日中、一応探している様子ではあったものの、特に変なことは起きなかったが、タクト達は納得したのか?

俺はこっそり、魔法でタクト達の様子を覗いてみた。
すると、ちょうどカタリーナがタクトの部屋へ行き、扉をノックしているのが見えた。

「よぉ。早ぇじゃねえか。」
「タクトくんはまだ準備中?」
「いいや、今終わったところだ。」

何の準備だ?
よく見ると2人とも、動きやすそうな暗めの色の服を着ている。
そしてウエストポーチを腰につけて、武器も装備している。

これは間違いない。
今から何かをつもりだ。
俺は引き続き2人の様子を観察した。

2人はそっと俺達の部屋の前を通りすぎると、宿から出て行った。

「どこに行くの?」
「?!」

すると、そんな2人を止めるように、突然ゼルが現れた。

「ゼルっ...!お前、なんでこんなところに?」
「もしかしたらと思って、君達2人が出てくるかどうか見張っていたんだ。」
「じゃあ、止めに来たの?」
「あぁ。2人が危険な目に遭うのは嫌だからね。」
「だったら、止めれるもんなら止めてみろ!」

タクトは素早くゼルに殴りかかる。
が、ゼルはタクトの握り拳を掴んでそのまま組み伏せ、タクトに乗っかり身動きが取れないようにした。

「痛てて...」
「ゼルくん、....あなた意外と強いのね!」

「おいゼル、放せっ!」
「駄目だ。2人は連中の怖さを知らない。教団を探ろうとすれば、最悪、命を狙われるようになるかもしれないんだよ?分かっているのか?」

ゼルは教団に殺されかけたからこそ、奴らに近づこうとしている2人が心配なのだろう。

「わかっているわよ!でも教団を野放しにしていたら、この世界が滅びるかもしれないのよ?そうなったらどっちみち終わりよ。だったら少しでも可能性がある方が良いじゃないの。」

まぁ、嘘シナリオアップスターオレンジの設定だとそうだが、あれは全部出鱈目だからな。
もしシナリオが当たっていれば、探る利点はあるのだろう。
だけど教団の本当の目的が別だったら、教団を探るのは損でしかない。

「....そこまで言うなら。」
ゼルは意外なことに、カタリーナの説得に折れたようだ。

「ただし、僕もついて行くよ。」
「おう!いいぜ!」
「ゼルくんもいるなら頼もしいわ。」

こうして3人は聖ソラトリク教団の手がかりを探りに、鉱山へと移動した。
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