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第20話:舞踏会
【87】舞踏会(2)
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一週間後。
この日、ライラが脚本を完成させたということで、シヴァは朝一に魔術で複製してクラス全員に配った。
「ライラちゃん、たった一週間で脚本が書けるなんて凄いわ!」
「えへへ、そうかな?なるべくみんなの要望に合うように書いたつもりだけど、うまく書けたか分からないよ。」
「うまい下手の話じゃないわよ!短期間で書き切るのが凄いの!私も前世で二次創作の小説を書いたことがあるから分かるけど、小説を書き切るのって凄く大変なのよ?」
「へぇ。カタリーナさん、小説を書いたことがあるの?どんな話?」
「....ホリーくん、そこには触れないで。」
「なんか、すみません。」
わかる。わかるぞ、その気持ち。
俺もアップスターオレンジの設定を考えるだけでも、かなり苦労したからな。
兄さんと母さんが手伝ってくれなかったら、今も設定が完成していなかったかもしれない。
そんなことを思いながら、俺達は配られたライラの脚本に目を通した。
ーーー
タイトル「双子の王子と厄災の魔王」
昔々、あるところに美しい双子の王子様がいました。
二人は見た目こそ、そっくりですが性格は正反対でした。
兄のカインは誠実で優しく、誰とでも仲良くなれる朗らかな青年でした。
ですが弟のマリシャスは傲慢で意地悪で、気に入らないことがあると誰にでも暴力をふるうような青年でした。
ある日、2人は隣の国からやってきた美しいお姫様のベルに恋をしました。
それから2人はベルに猛アタックをしました。
ベルは次第に2人の違いを理解し、親切なカインに淡い恋心を抱くようになりました。
それに勘づいたマリシャスは、ベルに良いところを見せようと、ある作戦を考えました。
その作戦とは『ベルと2人でいる時に、奴隷の獣人に自分達を襲わせ、獣人を返り討ちにしてベルを助ける』というものでした。
マリシャスが飼っていた奴隷の獣人は醜く、一目では獣人なのか魔物なのか分からないくらい、人間離れな姿をしていました。
獣人は毎日牢屋の中でマリシャスに酷い暴力を振るわれていました。
その日、マリシャスの命令で外に出た獣人は、久々の外の世界に喜びました。
獣人は命令通り、マリシャスとベルを襲うフリをしました。
しかしマリシャスは容赦なく獣人を斬り殺そうとしました。
命からがら逃げ出した獣人は、逃げた先の森で不思議な木の実を見つけました。
木の実は虹色に輝き、その輝きは神々しくも毒々しくも感じました。
瀕死の獣人は「どうせこのまま死ぬなら」と、その木の実を口にしました。
すると獣人は、さらに醜悪な姿へと変わり、邪悪な力を手に入れました。
獣人は手に入れた力を利用して、人間達に復讐しようと決意しました。
やがて獣人は、人間達を次々と殺す姿から『厄災の魔王』と呼ばれるようになりました。
厄災の魔王の噂を聞いたマリシャスは、ベルに良いところを見せようと、近衛騎士達を連れて討伐へ向かいました。
しかしマリシャス一行は返り討ちに遭い、殆どの騎士が命を失いました。
マリシャスは生き残った近衛騎士に守られながら、何とか逃げることに成功しました。
厄災の魔王の恐ろしさを知ったマリシャスは、伝説の勇者・ジャスティンに討伐を依頼しました。
そしてジャスティンと共に、再び厄災の魔王に立ち向かったのです。
それを聞いたベルとカインは、マリシャスが心配になって後を追いました。
ですが2人の心配は杞憂に終わりました。
2人がやってきた頃には、マリシャスとジャスティンは、厄災の魔王を倒していました。
ベルの前でいい格好をしようと、マリシャスは止めを刺そうとしました。
しかしその時、厄災の魔王は最後の力を振り絞って、魔法で世界中の龍脈を封印しました。
厄災の魔王の魔法は強力で、その凶行は誰にも止めることができませんでした。
するとカインは、厄災の魔王をマリシャスから庇い、魔法で傷を癒やしました。
ベルはカインを不思議に思いながらも、一緒に厄災の魔王を介抱しました。
厄災の魔王は辛うじて目を覚ますと、カインは話しかけました。
「なぜ人々を襲うのですか?なぜ世界を滅ぼそうするのですか?」
厄災の魔王はカインの問いかけに素直に答えました。
今まで人間達に酷い目に遭わされたこと。
マリシャスに虐げられて殺されかけたこと。
その話を聞いたカインは、厄災の魔王に深々と頭を下げて謝りました。
「君が人々を襲う気持ちがよく分かった。弟を含む人間達が、君に酷いことをして申し訳ない。君が幸せになれるように努力する。君を二度と辛い目に遭わせはしない。だからどうか、僕達に償うチャンスをくれないか?」
カインの真摯な説得に心を打たれた厄災の魔王は、彼を信じて龍脈にかけた魔法をときました。
厄災の魔王とカインの会話を聞いて、マリシャスは自分の行いを恥じて、厄災の魔王に謝罪しました。
その様子を見ていたベルは、誰も傷つけずに持ち前の優しさで解決したカインに惚れ直しました。
そしてベルはカインと結婚し、二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
ーーー
癪に障る脚本だな。
厄災の魔王のキャラ設定は俺をベースしてるのが丸わかりで、不愉快極まりない。
それに何より、オチが微妙だ。
厄災の魔王の設定的に、カインの説得を聴くよりも、それを無視して世界を滅亡させる方がしっくりくる。
俺は不満に思いながら、ホームルームの時間になるのを待った。
◆◆◆
「それじゃあ今日のホームルームは、舞踏会の詳細を決めて行くよ!」
ホームルームが始まると、クラスのみんなは楽しそうにワイワイとはしゃぎ出した。
「静かにー!まずはミュージカルの詳細を決めていくよ。その前にみんな、朝に配った脚本はちゃんと読んだかな?最初に、脚本を読んだ上での改善点や要望を聞くね。今日ライラちゃんが書いてくれた脚本に、意見のある人ー!」
周りを見回すと、誰も手を挙げていない。
それなら、俺が意見を出すか。
「厄災の魔王がカインの説得に応じるシーンが不自然に感じます。魔王の心情を考えると、説得を聴かずに世界を滅ぼす展開の方が自然です。」
俺は挙手して脚本の違和感を指摘した。
「なるほど~!そういう考えもあるんだね。他に何かある人はいる?」
すると一人の男子生徒が手を挙げた。
「僕は、多少不自然でも今の話のままがいいです。世界が滅びてみんな死んでバッドエンドになるくらいなら、強引でもみんなで仲良く暮らす方が、見ていて幸せな気持ちになれます。」
たかが脚本なんだから、別にバッドエンドでも良くないか?
そこまでしてハッピーエンドに拘る気持ちが分からない。
「なるほど、なるほど。今のままがいい人もいるんだね。」
シヴァは、正反対の意見に『う~ん』と声を出して悩んだ。
「とりあえず、他に意見のある人はいる?」
他に手を挙げる奴はいない。
「じゃあ、さっき出た2つの意見について話そうか。両方の意見を脚本に反映させるのは難しそうだから、多数決でどっちかに決めるね!」
多数決の結果、9対18で現状通りとなった。
どいつもこいつも、そんなにハッピーエンドがいいのかよ。
「とりあえず脚本はコレで決まりだね!じゃあ次は配役を決めていこうか。」
シヴァは脚本に出てくる主要キャラを黒板に書き、以前出た意見をもとに決まっている配役も併せて書いた。
・カイン(レックス・ディシュメイン又はレオン・コーキナル)
・マリシャス(レックス・ディシュメイン又はレオン・コーキナル)
・ベル(カタリーナ・エセヴィラン)
・ジャスティン(タクト・ブレイブ)
・厄災の魔王
「配役が決まっていないのは、双子の王子と厄災の魔王だね。双子の王子は2人の意見を聞いて決めようか。」
「俺様はカイン役を希望します。マリシャスも一応主人公ということになっていますが、どう考えても悪役にしか見えません。」
「僕はマリシャス役でも構いません。それにマリシャスは出番も多いし、演じ甲斐がありそうですから。」
「じゃあ決まりだね♪」
配役、逆だろ。
「これで決まっていないのは、厄災の魔王役だね。やってみたい人、いるー?」
自分をモデルにした役を自分で演じるのは寒いので、俺は手を挙げなかった。
周りを見渡すと、意外にも何人かが立候補していた。
その中にはゼルもいる。
「おっ!みんな、やる気だね!それじゃあ誰が演じるか、多数決で決めようか。」
投票の結果、僅差でゼルに決まった。
ゼルは何を思って、この役をやりたがったんだろう。
その後、衣装準備・音楽演出・魔法演出・振り付け考案.....などの劇の裏方を誰がするかを、それぞれ決めていった。
俺は魔法が得意だからか、半強制的に魔法演出を担当させられた。
しかも『上演中でも執事カフェが回せるように、演劇で必要になる人を最小限にしたい』という理由だけで小道具係も押し付けられた。
普通に理不尽だろ。
「ミュージカルの役割は大体決まったことだし、今度は執事カフェをどうするか決めて行こっか♪
前にホリーくんが『執事達の魔力が込められた水晶石』を商品として挙げてくれたけど、そんな感じで『こういう風にしたい!』っていう意見のある人はいるかな?」
すると、すかさず一人の女子生徒が挙手した。
「水晶石についてですが、水晶石に込められた魔力は持ち主が念じると使うことができるそうです。ですが魔力コントロールができない人が使うと、込められた魔力に応じて魔法が発動してしまうらしいのです。込められた魔力によっては危険な魔法が発動しそうなので、販売する時は注意書きの紙も同封した方がいいと思います。」
「確かに、その通りだね!」
指摘が細かい奴だな。
まぁ、言っていることは正論だし、否定はしないが。
...いや、ちょっと待て。
いいことを思いついたかもしれない。
「はい、先生!」
「おっ、何だい?フレイくん。」
「水晶石を使うと執事の特殊魔法が発動する、というのはどうでしょうか?それなら魔力コントロールが苦手な人でも、水晶石に魔力を込めるだけで簡単に作れます。
それに僕の兄さんの特殊魔法を使えば、クラス全員の特殊魔法を鑑定することができます。水晶石を特殊魔法の説明つきで販売すれば、お客さんももっと興味をもつハズです。」
もちろん、俺は魔力をコントロールして特殊魔法を偽造するが。
「面白いアイデアだね♪他に意見のある子はいる?」
「はい先生!僕の実家は飲食店を経営しているので、飲食物を僕の店から調達するのはどうでしょうか?」
「知っている場所であれば瞬間移動ができる魔術があるので、その魔術を使って執事カフェと彼のお店を行き来して料理を調達すれば、問題ないと思います。」
「好きな執事を指名して、お店にいる間は専属の執事として付き添ってもらえるルールにするのはどうですか?そしたら執事を気に入ったお客さんが、水晶石を買ってくれると思います。」
「執事の人気ランキングを看板に掲示するのはどうですか?初めて来るお客さんにとって、ランキングは指名する執事の参考になると思うんです。」
色んな意見が出たな。
『それはカフェと言えるのか?』と思うようなのもあったが、客が来ればそれでいいか。
「みんな素敵な意見ありがと♪じゃあみんなの意見を取り入れて、最高の執事カフェを作ろっか!」
「「はい!」」
その後、衣装調達係や会計係などの細かい役割を決めた。
こうして、今日から舞踏会の準備が着々と進み始めた。
俺は寮へ帰ると、早速兄さんにメールで『特殊魔法が込められた水晶石を売りたいから、クラス全員の特殊魔法を鑑定して欲しい』と依頼した。
後日、兄さんが学校を訪れて全員を鑑定。
自分の特殊魔法を知らない奴は、ドキドキしながら兄さんに鑑定されていた。
俺もみんなの鑑定結果に興味が湧いたので、鑑定結果の記録も兼ねて兄さんに聞いてみた。
タクトは『温度上昇』、ライラは『性別変換』、殿下は『雨雲作成』、ゼルは『身体同化』と、ショボい能力ばかりで思わず笑いそうになる。
....ん?『性別変換』?
この能力、もしかして執事カフェで役立つんじゃないか?
俺はクラス全員に『ライラの特殊能力を使って、女は全員性別を男に変えて執事になるのはどうか?』と提案したところ、賛成多数で採用された。
執事カフェの準備は、それから滞りなく進んだ。
一方のミュージカルは、問題だらけだ。
殿下とレオンは役になり切れていないし、タクトとゼルは音痴だから歌唱パートが残念だし、カタリーナはダンスが下手くそだ。
そのため、いざという時のために代役を決めた方が良いのではという話になった。
役者達を信用していないわけではないが、『当日に役者が病気などになった場合の備えも大事』ということで、代理の役者も演技に参加することになった。
ついでに魔法演出や音楽演出なども、誰かが休んでも大丈夫なように全員が演出内容を覚えて、できるように練習した。
肝心の役者達も練習を続けた結果、短期間で役者として板についた。
まぁ、『成長力上昇』という特殊魔法を持っている奴が、毎日練習前に役者に特殊魔法をかけたお陰でもあるが。
そうこうしているうちに月日は流れ、あっという間に舞踏会が始まった。
この日、ライラが脚本を完成させたということで、シヴァは朝一に魔術で複製してクラス全員に配った。
「ライラちゃん、たった一週間で脚本が書けるなんて凄いわ!」
「えへへ、そうかな?なるべくみんなの要望に合うように書いたつもりだけど、うまく書けたか分からないよ。」
「うまい下手の話じゃないわよ!短期間で書き切るのが凄いの!私も前世で二次創作の小説を書いたことがあるから分かるけど、小説を書き切るのって凄く大変なのよ?」
「へぇ。カタリーナさん、小説を書いたことがあるの?どんな話?」
「....ホリーくん、そこには触れないで。」
「なんか、すみません。」
わかる。わかるぞ、その気持ち。
俺もアップスターオレンジの設定を考えるだけでも、かなり苦労したからな。
兄さんと母さんが手伝ってくれなかったら、今も設定が完成していなかったかもしれない。
そんなことを思いながら、俺達は配られたライラの脚本に目を通した。
ーーー
タイトル「双子の王子と厄災の魔王」
昔々、あるところに美しい双子の王子様がいました。
二人は見た目こそ、そっくりですが性格は正反対でした。
兄のカインは誠実で優しく、誰とでも仲良くなれる朗らかな青年でした。
ですが弟のマリシャスは傲慢で意地悪で、気に入らないことがあると誰にでも暴力をふるうような青年でした。
ある日、2人は隣の国からやってきた美しいお姫様のベルに恋をしました。
それから2人はベルに猛アタックをしました。
ベルは次第に2人の違いを理解し、親切なカインに淡い恋心を抱くようになりました。
それに勘づいたマリシャスは、ベルに良いところを見せようと、ある作戦を考えました。
その作戦とは『ベルと2人でいる時に、奴隷の獣人に自分達を襲わせ、獣人を返り討ちにしてベルを助ける』というものでした。
マリシャスが飼っていた奴隷の獣人は醜く、一目では獣人なのか魔物なのか分からないくらい、人間離れな姿をしていました。
獣人は毎日牢屋の中でマリシャスに酷い暴力を振るわれていました。
その日、マリシャスの命令で外に出た獣人は、久々の外の世界に喜びました。
獣人は命令通り、マリシャスとベルを襲うフリをしました。
しかしマリシャスは容赦なく獣人を斬り殺そうとしました。
命からがら逃げ出した獣人は、逃げた先の森で不思議な木の実を見つけました。
木の実は虹色に輝き、その輝きは神々しくも毒々しくも感じました。
瀕死の獣人は「どうせこのまま死ぬなら」と、その木の実を口にしました。
すると獣人は、さらに醜悪な姿へと変わり、邪悪な力を手に入れました。
獣人は手に入れた力を利用して、人間達に復讐しようと決意しました。
やがて獣人は、人間達を次々と殺す姿から『厄災の魔王』と呼ばれるようになりました。
厄災の魔王の噂を聞いたマリシャスは、ベルに良いところを見せようと、近衛騎士達を連れて討伐へ向かいました。
しかしマリシャス一行は返り討ちに遭い、殆どの騎士が命を失いました。
マリシャスは生き残った近衛騎士に守られながら、何とか逃げることに成功しました。
厄災の魔王の恐ろしさを知ったマリシャスは、伝説の勇者・ジャスティンに討伐を依頼しました。
そしてジャスティンと共に、再び厄災の魔王に立ち向かったのです。
それを聞いたベルとカインは、マリシャスが心配になって後を追いました。
ですが2人の心配は杞憂に終わりました。
2人がやってきた頃には、マリシャスとジャスティンは、厄災の魔王を倒していました。
ベルの前でいい格好をしようと、マリシャスは止めを刺そうとしました。
しかしその時、厄災の魔王は最後の力を振り絞って、魔法で世界中の龍脈を封印しました。
厄災の魔王の魔法は強力で、その凶行は誰にも止めることができませんでした。
するとカインは、厄災の魔王をマリシャスから庇い、魔法で傷を癒やしました。
ベルはカインを不思議に思いながらも、一緒に厄災の魔王を介抱しました。
厄災の魔王は辛うじて目を覚ますと、カインは話しかけました。
「なぜ人々を襲うのですか?なぜ世界を滅ぼそうするのですか?」
厄災の魔王はカインの問いかけに素直に答えました。
今まで人間達に酷い目に遭わされたこと。
マリシャスに虐げられて殺されかけたこと。
その話を聞いたカインは、厄災の魔王に深々と頭を下げて謝りました。
「君が人々を襲う気持ちがよく分かった。弟を含む人間達が、君に酷いことをして申し訳ない。君が幸せになれるように努力する。君を二度と辛い目に遭わせはしない。だからどうか、僕達に償うチャンスをくれないか?」
カインの真摯な説得に心を打たれた厄災の魔王は、彼を信じて龍脈にかけた魔法をときました。
厄災の魔王とカインの会話を聞いて、マリシャスは自分の行いを恥じて、厄災の魔王に謝罪しました。
その様子を見ていたベルは、誰も傷つけずに持ち前の優しさで解決したカインに惚れ直しました。
そしてベルはカインと結婚し、二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
ーーー
癪に障る脚本だな。
厄災の魔王のキャラ設定は俺をベースしてるのが丸わかりで、不愉快極まりない。
それに何より、オチが微妙だ。
厄災の魔王の設定的に、カインの説得を聴くよりも、それを無視して世界を滅亡させる方がしっくりくる。
俺は不満に思いながら、ホームルームの時間になるのを待った。
◆◆◆
「それじゃあ今日のホームルームは、舞踏会の詳細を決めて行くよ!」
ホームルームが始まると、クラスのみんなは楽しそうにワイワイとはしゃぎ出した。
「静かにー!まずはミュージカルの詳細を決めていくよ。その前にみんな、朝に配った脚本はちゃんと読んだかな?最初に、脚本を読んだ上での改善点や要望を聞くね。今日ライラちゃんが書いてくれた脚本に、意見のある人ー!」
周りを見回すと、誰も手を挙げていない。
それなら、俺が意見を出すか。
「厄災の魔王がカインの説得に応じるシーンが不自然に感じます。魔王の心情を考えると、説得を聴かずに世界を滅ぼす展開の方が自然です。」
俺は挙手して脚本の違和感を指摘した。
「なるほど~!そういう考えもあるんだね。他に何かある人はいる?」
すると一人の男子生徒が手を挙げた。
「僕は、多少不自然でも今の話のままがいいです。世界が滅びてみんな死んでバッドエンドになるくらいなら、強引でもみんなで仲良く暮らす方が、見ていて幸せな気持ちになれます。」
たかが脚本なんだから、別にバッドエンドでも良くないか?
そこまでしてハッピーエンドに拘る気持ちが分からない。
「なるほど、なるほど。今のままがいい人もいるんだね。」
シヴァは、正反対の意見に『う~ん』と声を出して悩んだ。
「とりあえず、他に意見のある人はいる?」
他に手を挙げる奴はいない。
「じゃあ、さっき出た2つの意見について話そうか。両方の意見を脚本に反映させるのは難しそうだから、多数決でどっちかに決めるね!」
多数決の結果、9対18で現状通りとなった。
どいつもこいつも、そんなにハッピーエンドがいいのかよ。
「とりあえず脚本はコレで決まりだね!じゃあ次は配役を決めていこうか。」
シヴァは脚本に出てくる主要キャラを黒板に書き、以前出た意見をもとに決まっている配役も併せて書いた。
・カイン(レックス・ディシュメイン又はレオン・コーキナル)
・マリシャス(レックス・ディシュメイン又はレオン・コーキナル)
・ベル(カタリーナ・エセヴィラン)
・ジャスティン(タクト・ブレイブ)
・厄災の魔王
「配役が決まっていないのは、双子の王子と厄災の魔王だね。双子の王子は2人の意見を聞いて決めようか。」
「俺様はカイン役を希望します。マリシャスも一応主人公ということになっていますが、どう考えても悪役にしか見えません。」
「僕はマリシャス役でも構いません。それにマリシャスは出番も多いし、演じ甲斐がありそうですから。」
「じゃあ決まりだね♪」
配役、逆だろ。
「これで決まっていないのは、厄災の魔王役だね。やってみたい人、いるー?」
自分をモデルにした役を自分で演じるのは寒いので、俺は手を挙げなかった。
周りを見渡すと、意外にも何人かが立候補していた。
その中にはゼルもいる。
「おっ!みんな、やる気だね!それじゃあ誰が演じるか、多数決で決めようか。」
投票の結果、僅差でゼルに決まった。
ゼルは何を思って、この役をやりたがったんだろう。
その後、衣装準備・音楽演出・魔法演出・振り付け考案.....などの劇の裏方を誰がするかを、それぞれ決めていった。
俺は魔法が得意だからか、半強制的に魔法演出を担当させられた。
しかも『上演中でも執事カフェが回せるように、演劇で必要になる人を最小限にしたい』という理由だけで小道具係も押し付けられた。
普通に理不尽だろ。
「ミュージカルの役割は大体決まったことだし、今度は執事カフェをどうするか決めて行こっか♪
前にホリーくんが『執事達の魔力が込められた水晶石』を商品として挙げてくれたけど、そんな感じで『こういう風にしたい!』っていう意見のある人はいるかな?」
すると、すかさず一人の女子生徒が挙手した。
「水晶石についてですが、水晶石に込められた魔力は持ち主が念じると使うことができるそうです。ですが魔力コントロールができない人が使うと、込められた魔力に応じて魔法が発動してしまうらしいのです。込められた魔力によっては危険な魔法が発動しそうなので、販売する時は注意書きの紙も同封した方がいいと思います。」
「確かに、その通りだね!」
指摘が細かい奴だな。
まぁ、言っていることは正論だし、否定はしないが。
...いや、ちょっと待て。
いいことを思いついたかもしれない。
「はい、先生!」
「おっ、何だい?フレイくん。」
「水晶石を使うと執事の特殊魔法が発動する、というのはどうでしょうか?それなら魔力コントロールが苦手な人でも、水晶石に魔力を込めるだけで簡単に作れます。
それに僕の兄さんの特殊魔法を使えば、クラス全員の特殊魔法を鑑定することができます。水晶石を特殊魔法の説明つきで販売すれば、お客さんももっと興味をもつハズです。」
もちろん、俺は魔力をコントロールして特殊魔法を偽造するが。
「面白いアイデアだね♪他に意見のある子はいる?」
「はい先生!僕の実家は飲食店を経営しているので、飲食物を僕の店から調達するのはどうでしょうか?」
「知っている場所であれば瞬間移動ができる魔術があるので、その魔術を使って執事カフェと彼のお店を行き来して料理を調達すれば、問題ないと思います。」
「好きな執事を指名して、お店にいる間は専属の執事として付き添ってもらえるルールにするのはどうですか?そしたら執事を気に入ったお客さんが、水晶石を買ってくれると思います。」
「執事の人気ランキングを看板に掲示するのはどうですか?初めて来るお客さんにとって、ランキングは指名する執事の参考になると思うんです。」
色んな意見が出たな。
『それはカフェと言えるのか?』と思うようなのもあったが、客が来ればそれでいいか。
「みんな素敵な意見ありがと♪じゃあみんなの意見を取り入れて、最高の執事カフェを作ろっか!」
「「はい!」」
その後、衣装調達係や会計係などの細かい役割を決めた。
こうして、今日から舞踏会の準備が着々と進み始めた。
俺は寮へ帰ると、早速兄さんにメールで『特殊魔法が込められた水晶石を売りたいから、クラス全員の特殊魔法を鑑定して欲しい』と依頼した。
後日、兄さんが学校を訪れて全員を鑑定。
自分の特殊魔法を知らない奴は、ドキドキしながら兄さんに鑑定されていた。
俺もみんなの鑑定結果に興味が湧いたので、鑑定結果の記録も兼ねて兄さんに聞いてみた。
タクトは『温度上昇』、ライラは『性別変換』、殿下は『雨雲作成』、ゼルは『身体同化』と、ショボい能力ばかりで思わず笑いそうになる。
....ん?『性別変換』?
この能力、もしかして執事カフェで役立つんじゃないか?
俺はクラス全員に『ライラの特殊能力を使って、女は全員性別を男に変えて執事になるのはどうか?』と提案したところ、賛成多数で採用された。
執事カフェの準備は、それから滞りなく進んだ。
一方のミュージカルは、問題だらけだ。
殿下とレオンは役になり切れていないし、タクトとゼルは音痴だから歌唱パートが残念だし、カタリーナはダンスが下手くそだ。
そのため、いざという時のために代役を決めた方が良いのではという話になった。
役者達を信用していないわけではないが、『当日に役者が病気などになった場合の備えも大事』ということで、代理の役者も演技に参加することになった。
ついでに魔法演出や音楽演出なども、誰かが休んでも大丈夫なように全員が演出内容を覚えて、できるように練習した。
肝心の役者達も練習を続けた結果、短期間で役者として板についた。
まぁ、『成長力上昇』という特殊魔法を持っている奴が、毎日練習前に役者に特殊魔法をかけたお陰でもあるが。
そうこうしているうちに月日は流れ、あっという間に舞踏会が始まった。
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旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
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ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
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竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
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