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第21話:種命地とダイフク会長
【93】種命地とダイフク会長(1)
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「おーい!シヴァ!居るかー?」
とある日の休日。
俺は宮藤迅の姿に変身して、ライトニング領にあるシヴァの屋敷へと来ていた。
というのも、以前アスオ鉱山で見つけた謎の女について、その後どうなったか気になったからだ。
事前の連絡もなしに気まぐれで来ただけだから、もしかしたら屋敷にいないかもしれない。
「はいはーい....って、その声はクドージンくん?!」
留守かもという懸念は、どうやら杞憂だったようだ。
「どうしたの?!急にボクん家に来るなんて。」
「お前に聞きたいことがあったからな。直接会いに来た。」
「ホント、キミはいつもいつも突然現れるよね~。」
「それより、ゼルが連れてきた女はどうなった?」
「ゼルくんが?あー!もしかして、センガ・マキナちゃんのこと?」
「センガ・マキナぁ?それが女の名前なのか?」
仮に女が日本人だった場合、ギリギリありそうな名前ではある。
だが日本人だとすれば、奇妙な名前だ。
「多分ね!言葉が通じないから何を言ってるのかさっぱりわかんないけど、自分のこと指差して何度も『センガ・マキナ』って言ってたから、きっと名前だと思うよ~♪」
「ってか、あの女、目を覚ましたのか。今もここにいるのか?」
「もちろんだよ!お~い、センガ・マキナちゃ~ん!」
シヴァが屋敷中に聞こえるくらい大きい声で呼びかける。
すると程なくして、女はゼルと一緒に俺たちのもとへと現れた。
『あっ!?あなたは、もしかして....』
女は俺を見るなり、口を大きく開けて吃驚した。
改めて女の姿を見る。
彫りの浅い目鼻立ちに、黒い髪。
それだけでも日本人のように思えたが、瞳の色まで黒色だったため、より一層日本人だとしか思えない。
だがさっき喋っていた女の言葉は全然分からない。
もしかしてコイツ、中国人か?
『あなたも、もしかしてコールドスリープから目覚めた華葉人ですか?』
「はぁ?喋りかけられても全然、分からねーんだけど。お前、何語喋ってんの?」
『え、ウソ。言葉が通じないの?これだけ華葉人らしい見た目なのに。』
まどろっこしいので俺は魔法で女の言葉を翻訳した。
「テメェ、さっきから何言ってたんだ?」
「えっ?あれ?華葉語じゃないのに、この人の言っていることが分かる...!」
「すごい!僕も彼女の喋っていることがわかるよ!クドージンさん、もしかして前に黒い物体の言葉を変換したのと同じ魔法を使ったのですか?」
「まぁな。」
「魔法?そんなこと、ありえない。非現実的よ。」
「ありえねーっつっても、使えるもんは使えるんだよ。日本じゃありえなくても、この世界じゃ常識なんだよ。」
「魔法が常識?あなた方の顔立ちといい、見慣れない動植物といい、私が眠っている間に種命地は一体どうなってしまったの?」
女はよほど理解できなかったのか、眉間に皺を寄せて頭を抱えた。
「とりあえずみんな、こんなところで立ち話もアレだし、中でゆっくり話そっか♪」
シヴァの提案を受け、俺達は屋敷の中に入って話の続きをした。
「クドージンくんのおかげで言葉も通じるようになったし、改めて自己紹介しよっか♪
ボクはシヴァ・レイブン。学校で先生やっているよ!」
「僕はゼル・ポーレイ。シヴァ先生が働いている学校の生徒だよ。」
「俺は宮藤迅。元・日本人だ。」
「私はセンガ・マキナと申します。コールドスリープする前は華葉国泉堂橋地ST–53枠に住んでいて、泉堂橋体核研究所で準研究員として働いていました。」
....おかしいな。
ちゃんと翻訳の魔法をかけたはずなのに、ほとんど何を言っているか分からなかったぞ?
「皆さんにお聞きしたいことがあります。今は幸公歴何年でしょうか?」
「幸公歴?なんだそりゃ。」
「こ、幸公歴が通じない?!...では、皆さんの国の歴史は、何年くらい続いているのでしょうか?」
「面白い質問だねぇ~♪ボクらが今いる国はディシュメイン王国っていうんだけど、初代国王がこの国を建国したのが聖ソラトリク歴1368年だから、だいたい9000年くらい続いているよ~。」
「きゅ、9000年...!」
センガはシヴァの話を聞いた途端、なぜか卒倒しそうになっていた。
シヴァの話にそこまで驚く要素はあったか?
「す、すみません。あまりにも長い年月が経っていたもので、気が遠くなってしまいました。」
長い年月が経った?
さっきからセンガの言うことが理解できない。
「お前、さっきから何言ってんの?質問の意図が見えねぇんだけど。」
「それは失礼しました。でしたら先に、私のことについて皆さんにお話します。」
センガは冷静に、自分のことについて少しずつ語り出した。
「私が生きていた時代には聖ソラトリク歴というものはありませんでした。代わりに、幸公歴というものが存在し、私がコールドスリープをしたのは幸公歴4256年のことでした。」
「さっきから気になっていたんだけど、コールドスリープって何?」
ゼルが俺の疑問を代弁するかのように質問した。
「コールドスリープというのは、簡潔に言うと人体を長期間、一切劣化させずに生きたまま保存することを指します。」
「わぉ!それって、コールドスリープをしている間は不老不死ってこと?」
「装置が壊れたり壊されたりしなければ、不老不死と言えるのかもしれません。ですがコールドスリープ中は眠った状態であるため、皆さんが想像しているような理想的な不老不死ではないと思われます。」
「っつーことは、お前はコールドスリープをしてから今までずっと寝てたってことか?」
「その通りです。」
「センガさんは今までどのくらい眠っていたの?」
「幸公歴が無いとのことですので、正確には私も分かりません。ですが先程のお話を聞く限り、私の推測では一万年以上は経過しているのではと思われます。」
「い、一万年も?!」
だからさっき、卒倒しそうになっていたのか。
ちょっと寝るつもりが一万年も経っていたと知ったら、そりゃ倒れたくもなるな。
「そもそも、なーんでセンガちゃんは一万年も眠ろうって思ったの?」
「一万年も眠っていたのは結果に過ぎません。私は、人類が生存可能な環境になるまで眠る予定でコールドスリープしました。周囲の環境はクロノトロイドが把握しているため、コールドスリープの解除はクロノトロイドに任せていました。」
クロノトロイドって、確かセンガが入っていた黒い物体の声の主だよな?
そういえば黒い物体は今どうしているんだ?
後で聞いてみるか。
「『人類が生存可能な環境になるまで』ってことは、センガさんが生きていた時代は人間が生きられない環境だったってこと?」
「はい、その通りです。」
「人間が生きられないってことは、亜人や魔物が世界を支配していたのかな?」
「亜人と魔物がどのようなものかは存じませんが、恐らく違います。そもそも私が生きていた時代では、近い将来、世界中が生物の住めない土地になることが予測されていました。」
生物の住めない土地って、何だか死の大地に似ているな。
「私が生きていた時代では、活溜口から活素を抽出し、そのエネルギーを使うことで様々な機器を動かし、社会を発展させてきました。」
「まーた専門用語か。もうちょっと分かりやすく説明できねぇのかよ。」
「まぁまぁ、クドージンくん。せっかくセンガちゃんが説明してくれているんだから、そんなこと言わずに話の続きを聞こうよ♪」
「...小難しくてすみません。先程の続きですが、私達は『活素』と呼ばれるエネルギーのお陰で社会が成りたっていました。活素は従来6種類しかないと考えられていましたが、最近になって第7の種類、その名も『真活素』というものの存在が明らかになりました。
この『真活素』は、全ての生物が生きるために必要なエネルギーではないかという研究が、最近になって明らかになったのです。
というのも、生物の体内にある『体核』と呼ばれる器官は、大気中の微弱な真活素を吸収し、体内にエネルギーとして取り込んでいることが判明したのです。
活素は元々、生物の体核や活溜口で作られていますが、真活素に限っては活溜口でしか作られていないことも研究で判りました。」
「つまり、体核は根源、活素は魔力、真活素は命属性の魔力、活溜口は龍脈ってことかな?」
「あっ、ゼルくんもそう思った?ボクもそうなんじゃないかな~って薄々思っていたよ。」
なるほど。
2人の話を聞いて、言っていることがようやく理解できた。
「この時代の言葉では、そう呼ばれるのですね。では皆さんが理解できるよう、言葉を置き換えて説明致します。
私の生きていた時代では、龍脈から魔力エネルギーを抽出しすぎて龍脈が弱っていることが社会問題になっていました。
そのため魔力エネルギーに代わる新たなエネルギーを模索しました。
しかし新たなエネルギーを発見するも、なかなか社会に浸透せず、魔力エネルギーは相変わらず使われ続けました。
そして龍脈が本格的に弱り始めた頃、世界中で原因不明の頭痛や吐き気・倦怠感が流行し始めました。
私のように根源を研究している研究者や、龍脈や魔力を研究している研究者は、『龍脈が弱り命属性の魔力の排出量が少なくなったため、根源から命属性の魔力を吸収できずに体調不良を起こしている』という仮説が有力であると考えていました。
ですが当時の人々には信じてもらえませんでした。それどころか『反魔力エネルギー派による陰謀論だ』と鼻で笑われてしまいました。」
「まさか大昔にも、15年前と同じようなことが起こっていただなんて...。」
「えっ?!15年前にも同様の現象が発生したのですか?」
「そーそー♪しかも人為的にね!どっかの誰かさんが世界中の龍脈を、魔力が一切漏れないように封印したんだ♪」
シヴァの言葉がちくちく俺に刺さる。
「そのような恐ろしいことをするなんて、にわかには信じられません。しかし私達が生きているということは、龍脈は生命維持とは無関係、ということでしょうか?」
「いいや。センガちゃん達の仮説は大正解だったよ。龍脈が封印されて世界中の殆どの人は死んじゃったし、封印された龍脈付近の土地は、今でも虫一匹住めない土地になってるよ。
ボク達は生きていられるのは、急いで龍脈の封印を解いたお陰さ。それでも3つが精一杯で、残りの龍脈は未だに封印されたままだよ。
センガちゃん達の仮説が大ウソだったら、誰も死なずに済んだんだけどね。」
憂いげに話すシヴァの顔を見ていたら、俺の中にある正体不明の不快感が大きくなった。
これ以上、この話を聞きたくない。
「それより、世界はそのあと、どうなったんだ?」
不快感を紛らわすため、俺は無理矢理、話題を戻した。
「その後、世界中で起こった異常現象は、人々の体調不良だけに留まりませんでした。
農作物や家畜が育たず食糧不足に陥り、体調不良により労働人口が急激に減り、体調不良者が増えたことで医療崩壊も起こりました。
そして何より、子どもや年寄り、持病のある人など、身体の弱い方は次々と亡くなり、人口は急減少しました。
世界各地でそれだけの異常現象が起こっているにも関わらず、政府も世間も私達の話に耳を貸さず、それどころか人々の治療のために龍脈から魔力エネルギーを過剰に抽出していました。
その上で、世界各地で戦争や暴動が多発する始末。
まさに『この世の終わり』とは、あのような世界だと思いました。
我々研究者一同は『このままでは人類は滅亡する』と判断して、コールドスリープの研究に専念するようになりました。
龍脈が崩壊した後でも稼働できるよう、魔力エネルギーを使わずに稼働する装置を開発しました。
努力の末、コールドスリープ装置は完成し、何台か製造することもできました。
しかし数は限られており、人類全員どころか、研究チーム全員すら眠らせることは不可能でした。
ですので種の存続のために、コールドスリープに同意する若い男女を優先的に眠らせたのです。
私は研究者としては優秀ではありませんでしたが、『比較的若い』という、たったそれだけの理由でコールドスリープさせていただけました。
私なんかより、優秀で生きていた方が人類のためになる方は沢山いました。
その方達を差し置いて私は生かされているので、私はその期待に応える義務があるのです。」
センガはひと通り、コールドスリープに至るまでの経緯を話し終えた。
とりあえず色々質問してみるか。
「つまり、センガのいた時代に龍脈が弱って、人類が滅亡して、そこから何千年もの時間をかけて龍脈が復活して、俺らの先祖が誕生して、国を作って、聖ソラトリク歴ができて、今に至る...ってところか?」
「あくまで推測ですが、クドージンさんの認識で間違いないと思われます。」
「じゃあ聖ソラトリク歴ができるもっと前からって考えると、もしかしたら数十万年、いや数百万年も経っているかもしれないね。」
「その可能性は大いにあります。」
「でもさー。それなら何で今までコールドスリープが解除されなかったの?人間が暮らせる環境ってだけなら、聖ソラトリク歴ができるもっと前からあったんじゃないの?」
「それは私にも分かりません。」
「そういえば前に、センガさんが眠っていたコールドスリープ装置が『僕達が危険種だから、危険種の近くではコールドスリープが解除できない』って言っていたけど、それが原因なのかな?」
「クロノトロイドがそのように判断したのであれば、それが原因で間違いありません。....ということは、皆さんは、この時代の人々は、私達に危害を及ぼす存在なのですか?!」
センガは急に身構えて、怯えた様子で俺達の顔を見た。
「まぁまぁ、そう怖がらないで。少なくともボク達は、キミに酷いことをするつもりはないよ♪だから安心して!」
「僕達はたまたま君が入っていたコールドスリープ装置を見つけて、中に入っていた君を保護しただけだよ。君を傷つけるどころか、むしろこれから君が不自由なく暮らしていけるようにサポートしたいと考えているくらいだよ。」
「ほ、本当ですか。疑ってすみません。皆さんが優しい方達で安心しました。」
センガは、ほっと胸を撫で下ろす。
「クロノトロイドで思い出したが、センガの入っていたコールドスリープ装置って、今どうなってんだ?」
「あー、アレ?色々調べてみたんだけど、よく分かんないから奥の部屋に放置してるよ。よかったら見てみる?」
そう言うとシヴァは、コールドスリープ装置が置いてある部屋へと案内した。
とある日の休日。
俺は宮藤迅の姿に変身して、ライトニング領にあるシヴァの屋敷へと来ていた。
というのも、以前アスオ鉱山で見つけた謎の女について、その後どうなったか気になったからだ。
事前の連絡もなしに気まぐれで来ただけだから、もしかしたら屋敷にいないかもしれない。
「はいはーい....って、その声はクドージンくん?!」
留守かもという懸念は、どうやら杞憂だったようだ。
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「それより、ゼルが連れてきた女はどうなった?」
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「多分ね!言葉が通じないから何を言ってるのかさっぱりわかんないけど、自分のこと指差して何度も『センガ・マキナ』って言ってたから、きっと名前だと思うよ~♪」
「ってか、あの女、目を覚ましたのか。今もここにいるのか?」
「もちろんだよ!お~い、センガ・マキナちゃ~ん!」
シヴァが屋敷中に聞こえるくらい大きい声で呼びかける。
すると程なくして、女はゼルと一緒に俺たちのもとへと現れた。
『あっ!?あなたは、もしかして....』
女は俺を見るなり、口を大きく開けて吃驚した。
改めて女の姿を見る。
彫りの浅い目鼻立ちに、黒い髪。
それだけでも日本人のように思えたが、瞳の色まで黒色だったため、より一層日本人だとしか思えない。
だがさっき喋っていた女の言葉は全然分からない。
もしかしてコイツ、中国人か?
『あなたも、もしかしてコールドスリープから目覚めた華葉人ですか?』
「はぁ?喋りかけられても全然、分からねーんだけど。お前、何語喋ってんの?」
『え、ウソ。言葉が通じないの?これだけ華葉人らしい見た目なのに。』
まどろっこしいので俺は魔法で女の言葉を翻訳した。
「テメェ、さっきから何言ってたんだ?」
「えっ?あれ?華葉語じゃないのに、この人の言っていることが分かる...!」
「すごい!僕も彼女の喋っていることがわかるよ!クドージンさん、もしかして前に黒い物体の言葉を変換したのと同じ魔法を使ったのですか?」
「まぁな。」
「魔法?そんなこと、ありえない。非現実的よ。」
「ありえねーっつっても、使えるもんは使えるんだよ。日本じゃありえなくても、この世界じゃ常識なんだよ。」
「魔法が常識?あなた方の顔立ちといい、見慣れない動植物といい、私が眠っている間に種命地は一体どうなってしまったの?」
女はよほど理解できなかったのか、眉間に皺を寄せて頭を抱えた。
「とりあえずみんな、こんなところで立ち話もアレだし、中でゆっくり話そっか♪」
シヴァの提案を受け、俺達は屋敷の中に入って話の続きをした。
「クドージンくんのおかげで言葉も通じるようになったし、改めて自己紹介しよっか♪
ボクはシヴァ・レイブン。学校で先生やっているよ!」
「僕はゼル・ポーレイ。シヴァ先生が働いている学校の生徒だよ。」
「俺は宮藤迅。元・日本人だ。」
「私はセンガ・マキナと申します。コールドスリープする前は華葉国泉堂橋地ST–53枠に住んでいて、泉堂橋体核研究所で準研究員として働いていました。」
....おかしいな。
ちゃんと翻訳の魔法をかけたはずなのに、ほとんど何を言っているか分からなかったぞ?
「皆さんにお聞きしたいことがあります。今は幸公歴何年でしょうか?」
「幸公歴?なんだそりゃ。」
「こ、幸公歴が通じない?!...では、皆さんの国の歴史は、何年くらい続いているのでしょうか?」
「面白い質問だねぇ~♪ボクらが今いる国はディシュメイン王国っていうんだけど、初代国王がこの国を建国したのが聖ソラトリク歴1368年だから、だいたい9000年くらい続いているよ~。」
「きゅ、9000年...!」
センガはシヴァの話を聞いた途端、なぜか卒倒しそうになっていた。
シヴァの話にそこまで驚く要素はあったか?
「す、すみません。あまりにも長い年月が経っていたもので、気が遠くなってしまいました。」
長い年月が経った?
さっきからセンガの言うことが理解できない。
「お前、さっきから何言ってんの?質問の意図が見えねぇんだけど。」
「それは失礼しました。でしたら先に、私のことについて皆さんにお話します。」
センガは冷静に、自分のことについて少しずつ語り出した。
「私が生きていた時代には聖ソラトリク歴というものはありませんでした。代わりに、幸公歴というものが存在し、私がコールドスリープをしたのは幸公歴4256年のことでした。」
「さっきから気になっていたんだけど、コールドスリープって何?」
ゼルが俺の疑問を代弁するかのように質問した。
「コールドスリープというのは、簡潔に言うと人体を長期間、一切劣化させずに生きたまま保存することを指します。」
「わぉ!それって、コールドスリープをしている間は不老不死ってこと?」
「装置が壊れたり壊されたりしなければ、不老不死と言えるのかもしれません。ですがコールドスリープ中は眠った状態であるため、皆さんが想像しているような理想的な不老不死ではないと思われます。」
「っつーことは、お前はコールドスリープをしてから今までずっと寝てたってことか?」
「その通りです。」
「センガさんは今までどのくらい眠っていたの?」
「幸公歴が無いとのことですので、正確には私も分かりません。ですが先程のお話を聞く限り、私の推測では一万年以上は経過しているのではと思われます。」
「い、一万年も?!」
だからさっき、卒倒しそうになっていたのか。
ちょっと寝るつもりが一万年も経っていたと知ったら、そりゃ倒れたくもなるな。
「そもそも、なーんでセンガちゃんは一万年も眠ろうって思ったの?」
「一万年も眠っていたのは結果に過ぎません。私は、人類が生存可能な環境になるまで眠る予定でコールドスリープしました。周囲の環境はクロノトロイドが把握しているため、コールドスリープの解除はクロノトロイドに任せていました。」
クロノトロイドって、確かセンガが入っていた黒い物体の声の主だよな?
そういえば黒い物体は今どうしているんだ?
後で聞いてみるか。
「『人類が生存可能な環境になるまで』ってことは、センガさんが生きていた時代は人間が生きられない環境だったってこと?」
「はい、その通りです。」
「人間が生きられないってことは、亜人や魔物が世界を支配していたのかな?」
「亜人と魔物がどのようなものかは存じませんが、恐らく違います。そもそも私が生きていた時代では、近い将来、世界中が生物の住めない土地になることが予測されていました。」
生物の住めない土地って、何だか死の大地に似ているな。
「私が生きていた時代では、活溜口から活素を抽出し、そのエネルギーを使うことで様々な機器を動かし、社会を発展させてきました。」
「まーた専門用語か。もうちょっと分かりやすく説明できねぇのかよ。」
「まぁまぁ、クドージンくん。せっかくセンガちゃんが説明してくれているんだから、そんなこと言わずに話の続きを聞こうよ♪」
「...小難しくてすみません。先程の続きですが、私達は『活素』と呼ばれるエネルギーのお陰で社会が成りたっていました。活素は従来6種類しかないと考えられていましたが、最近になって第7の種類、その名も『真活素』というものの存在が明らかになりました。
この『真活素』は、全ての生物が生きるために必要なエネルギーではないかという研究が、最近になって明らかになったのです。
というのも、生物の体内にある『体核』と呼ばれる器官は、大気中の微弱な真活素を吸収し、体内にエネルギーとして取り込んでいることが判明したのです。
活素は元々、生物の体核や活溜口で作られていますが、真活素に限っては活溜口でしか作られていないことも研究で判りました。」
「つまり、体核は根源、活素は魔力、真活素は命属性の魔力、活溜口は龍脈ってことかな?」
「あっ、ゼルくんもそう思った?ボクもそうなんじゃないかな~って薄々思っていたよ。」
なるほど。
2人の話を聞いて、言っていることがようやく理解できた。
「この時代の言葉では、そう呼ばれるのですね。では皆さんが理解できるよう、言葉を置き換えて説明致します。
私の生きていた時代では、龍脈から魔力エネルギーを抽出しすぎて龍脈が弱っていることが社会問題になっていました。
そのため魔力エネルギーに代わる新たなエネルギーを模索しました。
しかし新たなエネルギーを発見するも、なかなか社会に浸透せず、魔力エネルギーは相変わらず使われ続けました。
そして龍脈が本格的に弱り始めた頃、世界中で原因不明の頭痛や吐き気・倦怠感が流行し始めました。
私のように根源を研究している研究者や、龍脈や魔力を研究している研究者は、『龍脈が弱り命属性の魔力の排出量が少なくなったため、根源から命属性の魔力を吸収できずに体調不良を起こしている』という仮説が有力であると考えていました。
ですが当時の人々には信じてもらえませんでした。それどころか『反魔力エネルギー派による陰謀論だ』と鼻で笑われてしまいました。」
「まさか大昔にも、15年前と同じようなことが起こっていただなんて...。」
「えっ?!15年前にも同様の現象が発生したのですか?」
「そーそー♪しかも人為的にね!どっかの誰かさんが世界中の龍脈を、魔力が一切漏れないように封印したんだ♪」
シヴァの言葉がちくちく俺に刺さる。
「そのような恐ろしいことをするなんて、にわかには信じられません。しかし私達が生きているということは、龍脈は生命維持とは無関係、ということでしょうか?」
「いいや。センガちゃん達の仮説は大正解だったよ。龍脈が封印されて世界中の殆どの人は死んじゃったし、封印された龍脈付近の土地は、今でも虫一匹住めない土地になってるよ。
ボク達は生きていられるのは、急いで龍脈の封印を解いたお陰さ。それでも3つが精一杯で、残りの龍脈は未だに封印されたままだよ。
センガちゃん達の仮説が大ウソだったら、誰も死なずに済んだんだけどね。」
憂いげに話すシヴァの顔を見ていたら、俺の中にある正体不明の不快感が大きくなった。
これ以上、この話を聞きたくない。
「それより、世界はそのあと、どうなったんだ?」
不快感を紛らわすため、俺は無理矢理、話題を戻した。
「その後、世界中で起こった異常現象は、人々の体調不良だけに留まりませんでした。
農作物や家畜が育たず食糧不足に陥り、体調不良により労働人口が急激に減り、体調不良者が増えたことで医療崩壊も起こりました。
そして何より、子どもや年寄り、持病のある人など、身体の弱い方は次々と亡くなり、人口は急減少しました。
世界各地でそれだけの異常現象が起こっているにも関わらず、政府も世間も私達の話に耳を貸さず、それどころか人々の治療のために龍脈から魔力エネルギーを過剰に抽出していました。
その上で、世界各地で戦争や暴動が多発する始末。
まさに『この世の終わり』とは、あのような世界だと思いました。
我々研究者一同は『このままでは人類は滅亡する』と判断して、コールドスリープの研究に専念するようになりました。
龍脈が崩壊した後でも稼働できるよう、魔力エネルギーを使わずに稼働する装置を開発しました。
努力の末、コールドスリープ装置は完成し、何台か製造することもできました。
しかし数は限られており、人類全員どころか、研究チーム全員すら眠らせることは不可能でした。
ですので種の存続のために、コールドスリープに同意する若い男女を優先的に眠らせたのです。
私は研究者としては優秀ではありませんでしたが、『比較的若い』という、たったそれだけの理由でコールドスリープさせていただけました。
私なんかより、優秀で生きていた方が人類のためになる方は沢山いました。
その方達を差し置いて私は生かされているので、私はその期待に応える義務があるのです。」
センガはひと通り、コールドスリープに至るまでの経緯を話し終えた。
とりあえず色々質問してみるか。
「つまり、センガのいた時代に龍脈が弱って、人類が滅亡して、そこから何千年もの時間をかけて龍脈が復活して、俺らの先祖が誕生して、国を作って、聖ソラトリク歴ができて、今に至る...ってところか?」
「あくまで推測ですが、クドージンさんの認識で間違いないと思われます。」
「じゃあ聖ソラトリク歴ができるもっと前からって考えると、もしかしたら数十万年、いや数百万年も経っているかもしれないね。」
「その可能性は大いにあります。」
「でもさー。それなら何で今までコールドスリープが解除されなかったの?人間が暮らせる環境ってだけなら、聖ソラトリク歴ができるもっと前からあったんじゃないの?」
「それは私にも分かりません。」
「そういえば前に、センガさんが眠っていたコールドスリープ装置が『僕達が危険種だから、危険種の近くではコールドスリープが解除できない』って言っていたけど、それが原因なのかな?」
「クロノトロイドがそのように判断したのであれば、それが原因で間違いありません。....ということは、皆さんは、この時代の人々は、私達に危害を及ぼす存在なのですか?!」
センガは急に身構えて、怯えた様子で俺達の顔を見た。
「まぁまぁ、そう怖がらないで。少なくともボク達は、キミに酷いことをするつもりはないよ♪だから安心して!」
「僕達はたまたま君が入っていたコールドスリープ装置を見つけて、中に入っていた君を保護しただけだよ。君を傷つけるどころか、むしろこれから君が不自由なく暮らしていけるようにサポートしたいと考えているくらいだよ。」
「ほ、本当ですか。疑ってすみません。皆さんが優しい方達で安心しました。」
センガは、ほっと胸を撫で下ろす。
「クロノトロイドで思い出したが、センガの入っていたコールドスリープ装置って、今どうなってんだ?」
「あー、アレ?色々調べてみたんだけど、よく分かんないから奥の部屋に放置してるよ。よかったら見てみる?」
そう言うとシヴァは、コールドスリープ装置が置いてある部屋へと案内した。
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平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
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「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
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"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
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「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
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竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
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人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
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