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第21話:種命地とダイフク会長
【95】種命地とダイフク会長(3)
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2週間後、シヴァから連絡が入った。
ダイフク会長から返事があったようで、今度の休みに会いに行くことになった。
そのため、俺は休日に再びシヴァの屋敷を訪れ、日本人のフリの手伝いをすることになった。
「今の私は、本当にニホン人に見えますか?」
「あぁ。日本にいても違和感ねーよ。」
以前カタリーナの夢の中に入った時に前世のカタリーナが着ていた服を、魔法でコピーしてセンガに着せてみた。
これで日本語を喋れたら、誰がどう見ても日本人にしか見えない。
「念のため、魔道具の動作確認をしてから出発してもよろしいでしょうか?」
「そうだね!ただでさえセンガちゃんは外の世界に行くのは初めてだし、いざという時に魔道具が役に立たなかったら大変だもんね。」
センガをダイフク会長と会わせるために、シヴァは様々な魔道具をセンガに持たせた。
例えば、センガが今かけている眼鏡には、センガの視界が専用の受信機に映し出されるように作られた小さな魔道具が仕込まれている。
それから、イヤリングにはセンガの周囲の音声を受信したり、俺達の声をセンガへ届けたりすることができる魔道具が仕込まれている。
そして首にも首輪型の魔道具をつけさせ、タートルネックで見えないように隠している。
この魔道具は、俺達が喋った内容をそのままセンガに喋らせることができる魔道具だ。
「それじゃあ受信機を確認するから、センガちゃんは屋敷の中を色々歩いてみて。」
「はい。」
センガは言われた通り別の部屋へ行って、屋敷の中を歩き回る。
すると、テレビのような見た目の受信機に、センガの視界と音が映し出された。
「あの、大丈夫でしょうか?」
受信機から、センガの声が聞こえる。
「大丈夫だよ!こっちに戻っておいで~。」
「はい。」
するとセンガはUターンをして、俺達のいる部屋へと戻ってきた。
「あとは首につけてる魔道具の動作確認だけだね!試してみるから、センガちゃんは何も喋らないでね♪」
「はい。」
シヴァは小型の四角い魔道具を取り出すと、魔道具にあるスイッチを押しながら喋り始めた。
「やっほー♪ボクはシヴァちゃんだよ~!」
「やっほー♪ボクはシヴァちゃんだよ~!」
シヴァの間抜けな喋り声と同時に、センガがシヴァの声に被せるように喋り出した。
「うん、成功だね♪」
「うん、成功だね♪」
動作が確認できると、シヴァはスイッチを押す指を離した。
「ひと通り動作も確認できたし、もうそろそろダイフク会長のところへ行こっか。ボクが途中まで案内するよ♪」
「ありがとうございます。道案内、よろしくお願いします。」
シヴァはセンガを、ドーワ侯国あるニホンアイランドまで送ると、移動魔術で一瞬で屋敷まで戻ってきた。
そして俺達3人は、小型魔道具を片手に、テレビ型の受信機を確認した。
しばらくすると、センガはダイフク会長のいるタワーマンションへ入っていった。
「....はじめまして。私はダイフク商会会長のショージ・ダイフクと申します。」
ダイフク会長はセンガの見た目を気にする様子もなく、以前と同じように挨拶した。
「あぁー!!」
「アイツは!」
むしろダイフク会長の姿を見て驚いたのは、シヴァとゼルの方だった。
「あの時からかなり老けてはいるけど、この特徴的な声...間違いない!」
「なんでザボエルがここに?!っていうか、彼がダイフク会長って、どういうこと?」
コイツがザボエル?
ザボエルって確か、聖ソラトリク教団の元所長で、シヴァを教団から追放したり、ゼルを殺そうとしたりした奴だよな?
そんな奴が転生者だと?
...頭が混乱してきた。
「初めまして。私はセンガ・マキナと申します。お会いできて光栄です。」
混乱している俺達3人をよそに、センガは冷静に挨拶をした。
「千賀真希奈さん、ですか。珍しい名前ですね。どうぞお入りください。」
センガは応接間に入ると、ダイフク会長と向かい合うようにソファへ座った。
「千賀さんがお手紙で書かれていた通り、私も日本人です。いえ、日本人『でした』というべきでしょうか。兎に角、同じ故郷の人にまた会えて嬉しいです。」
「私もです。」
センガは適当に相槌をする。
「千賀さん。単刀直入でお聞きします。千賀さんは日本から転生してこられたのでしょうか?それとも転移してこられたのですか?」
さっきは全然気にする様子もなかったが、やっぱりこの姿が気になっていたようだ。
「私は日本から転移してきました。」
と、センガに言わせてみた。
するとダイフク会長は、なぜか目を見開いてセンガを睨みつけた。
「馬鹿な!そんな技術は...!」
驚きのあまり声を荒げるが、途中で手で口を塞ぎ落ち着きを取り戻す。
「...失礼しました。千賀さんは日本から転移されたのですね。でしたらその姿にも納得です。千賀さんはどのようにして、この世界へ転移して来られたのですか?」
「それは....」
やべぇ。その辺の設定を全然考えていなかった。
センガは言葉に詰まって黙ってしまう。
その状況を見かねたゼルが、センガに代わって答えた。
「すみません。あの時のことは、正直、思い出したくもないのです。できれば聞かないでくだされば有難いのですが。」
「それは失礼しました。不快な質問をして申し訳ありません。」
「いえいえ、お気になさらないでください。」
どうやら誤魔化すことに成功したようだ。
「千賀さんは日本では、どちらに住まれていたのでしょうか?」
「私は豹堂県紫陽花市に住んでいました。」
俺は咄嗟に、自分が住んでいた場所を答えさせた。
これ以上日本での生活について言及されたらボロが出るかもしれない。
「豹堂県紫陽花市には、あの有名な大企業・大福商事株式会社があります。ダイフク商会の存在を知った時、大福商事と関係があるのではと思いました。ダイフク会長は大福商事と関係があるのでしょうか?」
俺は余計な質問をされる前に、センガに質問させた。
「はい。実は私は生前、大福商事の代表取締役をやっていました。」
「本当ですか?!まさか社長本人だとは思いもしませんでした。そういえば社長は溺死したと聞きましたが、どうして溺死したのでしょうか?」
確かカタリーナと話した時、そんな話題が出た記憶がある。
質問する隙を与えないために、俺は敢えてその話を振った。
「あの頃は半身浴がマイブームでして、うっかりお風呂場で眠ってしまったら、気づいた時にはこちらの世界で転生していました。」
「そうでしたか。それはご愁傷様です。」
この辺のくだりも前と同じだ。
大したことのない内容だったが、ゼルとシヴァは不思議そうにその会話を聞いていた。
「声も姿もザボエルで間違いないはずなのに、話し方が全然、奴とは違う。」
「あの誰にでも偉そうな態度なザボエルが、赤の他人に対してここまで丁寧な態度を取れるようになるかなぁ?う~ん、不思議だねぇ。」
「だったら直接聞いて見るか?お前はザボエルかって。」
「う~ん、いきなり聞くと警戒されそうだし、とりあえず他に色々聞いてからにしよっか。」
シヴァは小型魔道具のスイッチを押すと、ダイフク会長に対して話しかけた。
「ダイフク会長は、いつからこの世界で商売を始めたのですか?」
「そうですね、大体15年くらい前からでしょうか。」
「たったの15年でこれだけの大商会を築くなんて、さすがですね。よほど、商売が大好きなのですね。」
「商売は好きですが、短期間でここまで成長できたのは商会のみんなのおかげですよ。私1人では到底、ここまで大きくはできなかったでしょう。」
「素敵な人達に恵まれたのですね。ダイフク会長は商売以外に好きなことはあるのですか?それとも商売一筋ですか?」
「商売以外だったら、筋トレとお笑いが好きですね。筋肉は裏切りませんし、お笑いは癌細胞を殺してくれますから。」
ダイフク会長は、また意味のわからないことを言っている。
同じ日本人のはずなのに、なんで理解できない言い回しや単語が時々あるんだ?
「筋トレとお笑いが趣味ぃ~?ボクの知ってるザボエルは、良くも悪くも研究一筋だったけど?」
シヴァもシヴァで、その返答に困惑している。
「千賀さんの趣味は何ですか?」
「私、ですか?」
唐突に聞かれて、シヴァも俺達も黙ってしまった。
俺達が黙っていると、察したセンガが自分で答えた。
「強いて言えば、散歩ですかね。毎朝散歩するのが日課です。散歩をすると頭がスッキリするので好きです。」
「いいですよね、散歩。私も筋トレの後、よく散歩しますよ。」
センガが答えたことで、何とか不自然な間を作らずに済んだ。
趣味が散歩、というのは多分本当にセンガの趣味なんだろうな。
シヴァは再び小型魔道具のスイッチを押して、質問する。
「ダイフク商会が売っている魔道具って、凄く高度な技術で作られていそうなものが多いですが、一体どなたが作っているのですか?ダイフク会長ですか?」
「いいえ。私ではありません。私も一応、こちらの世界の魔術を勉強していますが、これ程の魔道具を作れるだけの知識や技術はありません。私には起業当初から技術者の仲間がいるので、彼女達にお願いして作ってもらっています。」
「彼女?!」
その単語に、シヴァは食いついた。
まるでその『彼女』の中にサラがいると確信したかのようだ。
「その、技術者の人達とは、どこで知り合ったのですか?」
「一人は私が生まれた時から一緒にいて、もう一人はその人のツテで知り合いました。あとのみんなは求人で知り合いましたね。」
「生まれた時から一緒、というのは具体的にどういった関係ですか?」
「簡潔に言えば、現世での兄弟ですね。」
「兄弟?」
シヴァはまた、ダイフク会長の言葉に疑問を抱く。
「ザボエルの言っている兄弟ってサラのこと?サラには確かに兄弟がいたけど面識はないから、ザボエルが兄弟だと気づかなかった可能性もある。だけどザボエルとサラが兄弟っていうのは、ちょーっと理解ができないなぁ。じゃあ2人は『ザボエルの兄弟のツテで知り合った』ってこと?ボク以外とまともに喋る気のなかったサラが、ザボエルの兄弟と交流があったとは思えないけどなぁ。」
シヴァはブツブツと考え事を漏らしていた。
「そういえば千賀さんは、兄弟はいるのですか?」
「私は一人っ子でした。両親はなかなか子宝に恵まれず、やっとの思いで授かったのが私だったそうです。」
ダイフク会長から急にまた質問をされたが、今度もセンガが素早く答えてくれた。
「ご両親は?」
「....かなり昔に、亡くなりました。」
「それは、ご愁傷様です。不躾な質問をしてしまいましたね。」
「いえ。気になさらないでくださ。」
その後の質問にも、センガは無難に答える。
日本が絡んでいない質問の場合は、センガに任せた方が良さそうだな。
「ダイフク会長は、現世では何というかお名前なのですか?」
ダイフク会長からの質問が終わったのを見計らって、シヴァは再び質問をした。
「今の名前はショージ・ダイフクです。というのも、諸事情で現世での元の名前を捨てて、素性を隠しながら生きてる身ですから。」
「なぜ元の素性を捨てることになったのでしょうか?」
「それを話すと元の素性がバレてしまうので、秘密です。」
元の素性、というのがザボエルとして生きていた時のことなのだろう。
「ところで、私からも質問、よろしいですか?」
「はい、どうぞ。」
「『あなたは何年生まれですか?和暦で、日本語で教えてください。』」
唐突に、ダイフク会長は日本語で質問してきた。
「えっ?クドージンくん、彼は何ていってるの?」
「もしかして、これがニホン語というものですか?」
シヴァとゼルは、助けを求めるように俺を見る。
日本語で言っている意味は分かるが、和暦って何だ?
「『和暦の意味は分かりませんが、私は20XX年生まれです。』」
俺はセンガに代わって、日本語で正直に答えた。
「に、日本人なのに和暦を知らないのですか?!ですが西暦では答えられていますし、嘘ではなさそうですね。」
和暦を知らなくて悪かったな。
「では、もう一つ、質問よろしいでしょうか。」
「はい。」
この時、ダイフク会長がしてきた質問に、俺は致命的なミスをしていたことに気付かされた。
ダイフク会長から返事があったようで、今度の休みに会いに行くことになった。
そのため、俺は休日に再びシヴァの屋敷を訪れ、日本人のフリの手伝いをすることになった。
「今の私は、本当にニホン人に見えますか?」
「あぁ。日本にいても違和感ねーよ。」
以前カタリーナの夢の中に入った時に前世のカタリーナが着ていた服を、魔法でコピーしてセンガに着せてみた。
これで日本語を喋れたら、誰がどう見ても日本人にしか見えない。
「念のため、魔道具の動作確認をしてから出発してもよろしいでしょうか?」
「そうだね!ただでさえセンガちゃんは外の世界に行くのは初めてだし、いざという時に魔道具が役に立たなかったら大変だもんね。」
センガをダイフク会長と会わせるために、シヴァは様々な魔道具をセンガに持たせた。
例えば、センガが今かけている眼鏡には、センガの視界が専用の受信機に映し出されるように作られた小さな魔道具が仕込まれている。
それから、イヤリングにはセンガの周囲の音声を受信したり、俺達の声をセンガへ届けたりすることができる魔道具が仕込まれている。
そして首にも首輪型の魔道具をつけさせ、タートルネックで見えないように隠している。
この魔道具は、俺達が喋った内容をそのままセンガに喋らせることができる魔道具だ。
「それじゃあ受信機を確認するから、センガちゃんは屋敷の中を色々歩いてみて。」
「はい。」
センガは言われた通り別の部屋へ行って、屋敷の中を歩き回る。
すると、テレビのような見た目の受信機に、センガの視界と音が映し出された。
「あの、大丈夫でしょうか?」
受信機から、センガの声が聞こえる。
「大丈夫だよ!こっちに戻っておいで~。」
「はい。」
するとセンガはUターンをして、俺達のいる部屋へと戻ってきた。
「あとは首につけてる魔道具の動作確認だけだね!試してみるから、センガちゃんは何も喋らないでね♪」
「はい。」
シヴァは小型の四角い魔道具を取り出すと、魔道具にあるスイッチを押しながら喋り始めた。
「やっほー♪ボクはシヴァちゃんだよ~!」
「やっほー♪ボクはシヴァちゃんだよ~!」
シヴァの間抜けな喋り声と同時に、センガがシヴァの声に被せるように喋り出した。
「うん、成功だね♪」
「うん、成功だね♪」
動作が確認できると、シヴァはスイッチを押す指を離した。
「ひと通り動作も確認できたし、もうそろそろダイフク会長のところへ行こっか。ボクが途中まで案内するよ♪」
「ありがとうございます。道案内、よろしくお願いします。」
シヴァはセンガを、ドーワ侯国あるニホンアイランドまで送ると、移動魔術で一瞬で屋敷まで戻ってきた。
そして俺達3人は、小型魔道具を片手に、テレビ型の受信機を確認した。
しばらくすると、センガはダイフク会長のいるタワーマンションへ入っていった。
「....はじめまして。私はダイフク商会会長のショージ・ダイフクと申します。」
ダイフク会長はセンガの見た目を気にする様子もなく、以前と同じように挨拶した。
「あぁー!!」
「アイツは!」
むしろダイフク会長の姿を見て驚いたのは、シヴァとゼルの方だった。
「あの時からかなり老けてはいるけど、この特徴的な声...間違いない!」
「なんでザボエルがここに?!っていうか、彼がダイフク会長って、どういうこと?」
コイツがザボエル?
ザボエルって確か、聖ソラトリク教団の元所長で、シヴァを教団から追放したり、ゼルを殺そうとしたりした奴だよな?
そんな奴が転生者だと?
...頭が混乱してきた。
「初めまして。私はセンガ・マキナと申します。お会いできて光栄です。」
混乱している俺達3人をよそに、センガは冷静に挨拶をした。
「千賀真希奈さん、ですか。珍しい名前ですね。どうぞお入りください。」
センガは応接間に入ると、ダイフク会長と向かい合うようにソファへ座った。
「千賀さんがお手紙で書かれていた通り、私も日本人です。いえ、日本人『でした』というべきでしょうか。兎に角、同じ故郷の人にまた会えて嬉しいです。」
「私もです。」
センガは適当に相槌をする。
「千賀さん。単刀直入でお聞きします。千賀さんは日本から転生してこられたのでしょうか?それとも転移してこられたのですか?」
さっきは全然気にする様子もなかったが、やっぱりこの姿が気になっていたようだ。
「私は日本から転移してきました。」
と、センガに言わせてみた。
するとダイフク会長は、なぜか目を見開いてセンガを睨みつけた。
「馬鹿な!そんな技術は...!」
驚きのあまり声を荒げるが、途中で手で口を塞ぎ落ち着きを取り戻す。
「...失礼しました。千賀さんは日本から転移されたのですね。でしたらその姿にも納得です。千賀さんはどのようにして、この世界へ転移して来られたのですか?」
「それは....」
やべぇ。その辺の設定を全然考えていなかった。
センガは言葉に詰まって黙ってしまう。
その状況を見かねたゼルが、センガに代わって答えた。
「すみません。あの時のことは、正直、思い出したくもないのです。できれば聞かないでくだされば有難いのですが。」
「それは失礼しました。不快な質問をして申し訳ありません。」
「いえいえ、お気になさらないでください。」
どうやら誤魔化すことに成功したようだ。
「千賀さんは日本では、どちらに住まれていたのでしょうか?」
「私は豹堂県紫陽花市に住んでいました。」
俺は咄嗟に、自分が住んでいた場所を答えさせた。
これ以上日本での生活について言及されたらボロが出るかもしれない。
「豹堂県紫陽花市には、あの有名な大企業・大福商事株式会社があります。ダイフク商会の存在を知った時、大福商事と関係があるのではと思いました。ダイフク会長は大福商事と関係があるのでしょうか?」
俺は余計な質問をされる前に、センガに質問させた。
「はい。実は私は生前、大福商事の代表取締役をやっていました。」
「本当ですか?!まさか社長本人だとは思いもしませんでした。そういえば社長は溺死したと聞きましたが、どうして溺死したのでしょうか?」
確かカタリーナと話した時、そんな話題が出た記憶がある。
質問する隙を与えないために、俺は敢えてその話を振った。
「あの頃は半身浴がマイブームでして、うっかりお風呂場で眠ってしまったら、気づいた時にはこちらの世界で転生していました。」
「そうでしたか。それはご愁傷様です。」
この辺のくだりも前と同じだ。
大したことのない内容だったが、ゼルとシヴァは不思議そうにその会話を聞いていた。
「声も姿もザボエルで間違いないはずなのに、話し方が全然、奴とは違う。」
「あの誰にでも偉そうな態度なザボエルが、赤の他人に対してここまで丁寧な態度を取れるようになるかなぁ?う~ん、不思議だねぇ。」
「だったら直接聞いて見るか?お前はザボエルかって。」
「う~ん、いきなり聞くと警戒されそうだし、とりあえず他に色々聞いてからにしよっか。」
シヴァは小型魔道具のスイッチを押すと、ダイフク会長に対して話しかけた。
「ダイフク会長は、いつからこの世界で商売を始めたのですか?」
「そうですね、大体15年くらい前からでしょうか。」
「たったの15年でこれだけの大商会を築くなんて、さすがですね。よほど、商売が大好きなのですね。」
「商売は好きですが、短期間でここまで成長できたのは商会のみんなのおかげですよ。私1人では到底、ここまで大きくはできなかったでしょう。」
「素敵な人達に恵まれたのですね。ダイフク会長は商売以外に好きなことはあるのですか?それとも商売一筋ですか?」
「商売以外だったら、筋トレとお笑いが好きですね。筋肉は裏切りませんし、お笑いは癌細胞を殺してくれますから。」
ダイフク会長は、また意味のわからないことを言っている。
同じ日本人のはずなのに、なんで理解できない言い回しや単語が時々あるんだ?
「筋トレとお笑いが趣味ぃ~?ボクの知ってるザボエルは、良くも悪くも研究一筋だったけど?」
シヴァもシヴァで、その返答に困惑している。
「千賀さんの趣味は何ですか?」
「私、ですか?」
唐突に聞かれて、シヴァも俺達も黙ってしまった。
俺達が黙っていると、察したセンガが自分で答えた。
「強いて言えば、散歩ですかね。毎朝散歩するのが日課です。散歩をすると頭がスッキリするので好きです。」
「いいですよね、散歩。私も筋トレの後、よく散歩しますよ。」
センガが答えたことで、何とか不自然な間を作らずに済んだ。
趣味が散歩、というのは多分本当にセンガの趣味なんだろうな。
シヴァは再び小型魔道具のスイッチを押して、質問する。
「ダイフク商会が売っている魔道具って、凄く高度な技術で作られていそうなものが多いですが、一体どなたが作っているのですか?ダイフク会長ですか?」
「いいえ。私ではありません。私も一応、こちらの世界の魔術を勉強していますが、これ程の魔道具を作れるだけの知識や技術はありません。私には起業当初から技術者の仲間がいるので、彼女達にお願いして作ってもらっています。」
「彼女?!」
その単語に、シヴァは食いついた。
まるでその『彼女』の中にサラがいると確信したかのようだ。
「その、技術者の人達とは、どこで知り合ったのですか?」
「一人は私が生まれた時から一緒にいて、もう一人はその人のツテで知り合いました。あとのみんなは求人で知り合いましたね。」
「生まれた時から一緒、というのは具体的にどういった関係ですか?」
「簡潔に言えば、現世での兄弟ですね。」
「兄弟?」
シヴァはまた、ダイフク会長の言葉に疑問を抱く。
「ザボエルの言っている兄弟ってサラのこと?サラには確かに兄弟がいたけど面識はないから、ザボエルが兄弟だと気づかなかった可能性もある。だけどザボエルとサラが兄弟っていうのは、ちょーっと理解ができないなぁ。じゃあ2人は『ザボエルの兄弟のツテで知り合った』ってこと?ボク以外とまともに喋る気のなかったサラが、ザボエルの兄弟と交流があったとは思えないけどなぁ。」
シヴァはブツブツと考え事を漏らしていた。
「そういえば千賀さんは、兄弟はいるのですか?」
「私は一人っ子でした。両親はなかなか子宝に恵まれず、やっとの思いで授かったのが私だったそうです。」
ダイフク会長から急にまた質問をされたが、今度もセンガが素早く答えてくれた。
「ご両親は?」
「....かなり昔に、亡くなりました。」
「それは、ご愁傷様です。不躾な質問をしてしまいましたね。」
「いえ。気になさらないでくださ。」
その後の質問にも、センガは無難に答える。
日本が絡んでいない質問の場合は、センガに任せた方が良さそうだな。
「ダイフク会長は、現世では何というかお名前なのですか?」
ダイフク会長からの質問が終わったのを見計らって、シヴァは再び質問をした。
「今の名前はショージ・ダイフクです。というのも、諸事情で現世での元の名前を捨てて、素性を隠しながら生きてる身ですから。」
「なぜ元の素性を捨てることになったのでしょうか?」
「それを話すと元の素性がバレてしまうので、秘密です。」
元の素性、というのがザボエルとして生きていた時のことなのだろう。
「ところで、私からも質問、よろしいですか?」
「はい、どうぞ。」
「『あなたは何年生まれですか?和暦で、日本語で教えてください。』」
唐突に、ダイフク会長は日本語で質問してきた。
「えっ?クドージンくん、彼は何ていってるの?」
「もしかして、これがニホン語というものですか?」
シヴァとゼルは、助けを求めるように俺を見る。
日本語で言っている意味は分かるが、和暦って何だ?
「『和暦の意味は分かりませんが、私は20XX年生まれです。』」
俺はセンガに代わって、日本語で正直に答えた。
「に、日本人なのに和暦を知らないのですか?!ですが西暦では答えられていますし、嘘ではなさそうですね。」
和暦を知らなくて悪かったな。
「では、もう一つ、質問よろしいでしょうか。」
「はい。」
この時、ダイフク会長がしてきた質問に、俺は致命的なミスをしていたことに気付かされた。
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「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
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