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第21話:種命地とダイフク会長
【97】種命地とダイフク会長(5)
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ザボエルは、俺達が把握していない奴自身の空白の期間について語り始めた。
「私はサラとシルバーを追放した後、引き続き異界穴の研究をしていた。
異界穴が開いたからといって、異世界に行けるようになったわけではなかった。異界穴の先には世界網と呼ばれる、鋭利で細かな網が張ってある。無理に異世界へ移動しようとすると、世界網に細かく切り刻まれて挽肉になってしまう。
だからこそ、そこの女が世界間移動をしたという嘘は、世界網すら知らない愚か者故に出る嘘だというのがよく分かるな。」
コイツの言葉は、いちいち鼻につくな。
そもそも異界穴自体、開けたのはシヴァとサラだろ?
それなのに、なんでザボエルはこんなに偉そうなんだ?
「世界網がある以上、人間が世界間移動をすることは不可能と判断した私は、別のものなら世界間移動が可能ではないかと考えた。そこで私は、水や魂などの流体に目をつけ、異世界から抽出する研究を行ったのだ。私は試行錯誤の結果、ついに異世界から魂を抽出することができたのだ。」
「へぇ。面白い話だね♪」
「面白いのは、それだけではない。抽出した魂を解析した結果、その魂には根源が付属していることが判明したのだ。しかもその魂に付属していた根源は極めて特殊たっだ。魔力排出量は龍脈の半数近くあり、しかも龍脈同様、命属性の魔力を排出していた。これが貴様らも知っている『命の器』の正体だ。」
「だったら、俺がこっちの世界に来たのは、テメェの下らない研究のせいってことか?俺がこっちの世界に連れてこられたのも、そのあとクソみたいな目に遭ったのも、全部....全部テメェのせいか!」
話を聞いた時は苛立ちは感じなかったのに、冷静に俺の身に起こった状況を口に出した途端、沸々とザボエルに対する怒りが込み上げてきた。
「ハッ!貴様がこちらの世界でどのような人生を送ろうが、それは貴様自身の責任だろ。自分の人生がうまくいかなかったことを私のせいにするな。こちらの世界に来てからも上手に適応できているダイフクを見習え。」
「クソがっ!」
俺は思わず、テレビ型の魔道具に映っているザボエルに殴りかかろうとしたが、シヴァに羽交い締めにされて止められた。
「そういうことを言って自分の非を認めずに、自分勝手なことばっかりしているから、教団を追われることになったんだよ。身から出た錆じゃないか。」
「何だと貴様!減らず口を叩きおって!」
ゼルが代わりに言い返したおかげで、怒りが少しだけマシになった。
「そんなことより、続きは?こっちは後で2回分、質問に答えるんだから、そっちも2回分相当の内容を喋れよ。」
ザボエルはキッと睨みつけたまま、再び話の続きをした。
「『命の器』は非常に稀有な魂だ。だがそれ故に総裁の目を惹き、命の器は本部預かりとなってしまった。私は一旦、命の器を諦め再度異世界から魂を抽出し、研究を続けた。だがその後、いくら抽出しようと、根源を持つ魂は抽出できなかった。」
よほど悔しかったのか、ザボエルは眉間に皺を寄せて歯を食い縛った。
「異世界であっても、命の器のような魂が稀有であったのだと理解した私は、再び命の器を研究したいと思うようになった。だからこそ、あんな無謀なことをしてしまったのだ。」
「ありゃ~。血迷っちゃったんだね。」
「茶化すな。私は廃棄予定だった実験体の亜人どもをけしかけて、本部から命の器を盗んでこさせた。だが盗ませた亜人は、生意気にも私に歯向かった。だから私は、奴が命の器を差し出すまで、死よりも苦しい拷問をするつもりだった。しかし、あろうことか奴は龍脈研究所を全焼させて脱走したのだ。そのせいで命の器も研究所も失った私は、このままでは責任を問われて教団に消されると察して、教団から逃げ延び今に至るのだ。」
ここでゼルから聞いた話と繋がったな。
「龍脈研究所って燃えたの?!クドージンくん、キミ一体何をしたの?」
「んなこと聞かれても、あんまり覚えてねぇよ。あん時は逃げるのに必死で、逃げる途中にあった道具とか適当に使って追手を怯ませていたからな。その道具の中に、燃えるものでもあったんじゃねーか?」
「今あの時の記憶を振り返ったら、確かにクドージンさんが燃やしてたよ。しかも思いっきり油をぶち撒いて。」
そういえばゼルもあの時の記憶があるのか。
「ま、あんな研究所、今思えば燃やしておいて正解だったな。」
「そうですね。」
「『燃やして正解』って、二人とも....ワイルドだねぇ~。」
シヴァは半分呆れた様子だった。
「貴様らの質問には答えたぞ。今度は私達が質問する番だ。」
するとザボエルは優しい口調で、質問し始めた。
「あなた方は、命の器が今どこにあるか、知っているのでしょうか?私達が命の器の話をする前からは、それについて知っていたようですが。」
「あぁ。知ってるぜ。どこにいるかは教えねぇけどな。」
シヴァの話によると命の器は俺のことらしいから、知っていて当然だ。
「では2つ目の質問としてお聞きします。命の器の居場所を教えてください。」
「だから、2つ目の質問だろうが教えねぇっつったろ。」
「そうですか。それは非常に残念です。」
そういえばダイフク会長はダイフク会長で、俺に会いたがっているんだった。
確か、死の大地へ行くには命属性の魔力を生み出せる俺が必要だと言っていたな。
「ダイフク、私からも質問をさせてくれ。貴様らは何故、命の器や私が教団を追放されたことを知っていた?答えろ。」
「簡単だことだ。お前が逃した亜人が僕だからさ。」
「貴様があの時の亜人か!大人しく命の器を渡して処分されていれば良いものを。」
「やっぱりな。あの時、お前は命の器を手に入れたら、僕を始末するつもりだったんだろ!」
「当たり前だろ。貴様らは私が約束通り逃したところで、長くは生きられない身体なのだからな。むしろ貴様がまだ生きていたことに驚きだ。」
「その考えが透けて見えたから、僕は逃げたんだよ。ま、アンタの自業自得だね。」
「チッ!.....まぁいい。結局、あの時教団から抜けたお陰で、前以上の金と地位、そして何より以前とは比べ物にならないくらい自由に研究ができる環境が手に入ったのだからな。今となっては、貴様に感謝してやってもいいくらいだ。」
「それはどうも。」
ザボエルが前より良い暮らしをしていることに、ゼルは不服そうにしていた。
「これで2回分、答えていただきましたね。それでは他に、質問はありますか?」
「じゃあさ、ダイフク会長達は何で異界穴研究に着手したの?まさか所長に唆されたから...ってことはないよね?」
「私達が異界穴研究に着手した理由は、魂だけ元の世界に帰りたいからです。というのも、私達のような異世界人の魂は、生まれ変わっても生前の記憶が消されないのです。あなた方の中にいる日本人の方は、以前私と会ったことがあるのですよね?その際、生前の記憶が消されないリスクを、私から聞きませんでしたか?」
「あぁ、確かにそんな話をしていたな。魂は本来、死んで生まれ変わるタイミングで記憶が消されるけど、俺達日本人の魂はこの世界の魂じゃないから消されないって。で、記憶が消されないと永久に記憶を引き継いだまま、生と死を繰り返すって言ってた。」
「えぇ?!ちょっとキミ、それ知ってたんなら最初に教えてよ!それじゃあボク、質問した意味なかったじゃん!」
「だって聞かれなかったし。」
「『聞かれなかったから』って...そりゃ確かに聞かなかったけどさぁ」
「何だ貴様ら。仲間割れか?」
あ。小型魔道具、押しっぱなしだった。
シヴァのヤツも押したままだったからか、俺達の会話はザボエル達に丸聞こえだった。
俺達がちょっと揉めているのを見て、ザボエルはほくそ笑んだ。
「それにさっきダイフク会長の質問に答えたし、チャラになったんだから別にいいだろ。」
「えっ?私は何も質問していませんが?」
「はぁ?さっき聞いてたじゃねえか。『以前会った時に生前の記憶が消されないリスクを話さなかったか?』って。」
「えぇ~....それは、質問に含まれるのですか?ズルいように感じますが、まぁ良しとしましょう。」
「ラッキー!それじゃあ、また質問していい?」
「はい、どうぞ。」
「ダイフク会長の下で異界穴研究をしている主要メンバーを教えて♪」
「いいですよ。研究メンバー自体は数十名いますが、その中で主要なメンバーは、ソラさんとザボエルさん、セシルさんとミッチェルさん、それからラーナさんです。」
「そ、っか。」
サラの名前を期待していたシヴァは、その名前が挙がらなかったことに落胆していた。
「では、今度は私から質問です。あなた方の知り合いに『宮藤迅』という名前の、日本人転生者はいますか?ちなみに彼の見た目は、黒目黒髪でヤンキー風のいかついファッション、歳は10~20代くらいです。」
こんな質問をしてくるなんて、ダイフク会長はよほど、俺を見つけて異界穴を開く協力をさせたいらしいな。
「どうする、クドージンくん?言っちゃう?」
「別に良いんじゃねーか?言ったところで、向こうは俺達がどこにいるかも知らねーわけだし。」
シヴァはそれを聞くと、小型魔道具を使ってセンガに答えさせた。
「ボク達の知り合いにクドージンくんはいるよ♪」
「本当ですか?!では彼の居場所を知っていますか?知っていれば教えてください!」
「それは内緒♪」
俺が答える前に、シヴァが質問をパスした。
まぁ、俺も最初から教える気はなかったから結果は同じだが。
「そうですか。...では質問を改めます。あなた方の中にいる日本人の方は、ひょっとして宮藤迅さん、ですか?」
「はぁ?!」
何でバレた?
いや、まだバレたとは決まっていない。
「何故そんなことを聞く?」
「質問に質問で返すのはいかがなものかと思いますが、とりあえずお答えします。まずは手紙の字ですね。男性のような字で漢字が少ないのも、書き手が宮藤迅さんなら納得できます。
それに私は日本で20◯◆年に亡くなったのですが、仮に日本人転生者が全員20◯◆年前後で亡くなっている場合、20XX年生まれであれば享年が大体十代後半から二十代前半となり、宮藤迅さんの年齢と一致します。
加えて、先程からの言動も宮藤迅さんと似ています。それとこれは推測ですが、宮藤迅さんであればザボエルさんを恨む動機もあると思うのです。
ただ、どれも根拠と呼べる程に決定打となるものではありませんが。」
そんなに俺はボロを出していたのか?
「以上で、貴方の質問への答えは終わりです。それでは、先程の私の質問への回答お願いします。」
どうする?
ここまで疑われていたら、誤魔化したところで無駄じゃないか?
いや、ここで正体をバラしたら、住所や連絡先を探ってきて面倒なことになるのは目に見えている。
「さぁな。俺が誰なのかは、テメェに言う義理は無ぇ。」
「そうですか、それは残念です。では別の質問をしましょう。ザボエルさんは何か質問したいことはありますか?
....そうだな。シルバーが今何をしているか等、聞きたいことが無いわけではないが、此奴らに質問させる機会を与えたくはない。ダイフクは聞きたいことはもうないのか?
私もザボエルさんと同意見です。彼らには色々聞きたいことはありますが、逆に色々探られても困りますし。それに、どうしても聞きたかったことは聞けましたので、切り上げても大丈夫です。」
ダイフク会長はザボエルの口を使ってザボエル会話しているからか、側から見たらザボエルの一人芝居のようだ。
それより、これ以上はダイフク会長達から話を聞き出せないのか。
逆に言えば、向こうもこれ以上俺達を探ってこないのだから、まぁ良しとしよう。
「ですが、まだ1回分は質問する権利が私達にあるのですよね。質問しないと勿体無いですし、一応質問してもよろしいでしょうか?」
「こっちはオッケーだよ♪」
「私も構わない。ダイフクの好きにしろ。
...それではお言葉に甘えて。あなた方の中にいる日本人の方の、現在の人種を教えてください。人間なのか、魔人なのか、はたまたエルフなのか、少し興味があります。」
そんなことを聞いてどうするつもりだ?
投げやりな質問だな。
「俺は今は人間だ。」
「そうでしたか。」
俺達は詮索を諦めダイフク会長達と話し終えると、センガはシヴァの屋敷へ帰っていった。
「ところでクドージンさんって、今は人間に転生していたのですか?」
「あぁ?それがどうかしたか?」
「いえ。キメイラ帝国に住んでいると聞いたので、てっきり亜人なのかと思っていました。」
「....あ!」
しまった。
みんなには『亜人』だという設定で通していたことをすっかり忘れていた。
「おいテメェ!このことは絶対、誰にも言うんじゃねーぞ!」
「は、はい!」
今日はサラの居場所を聞くだけだったはずなのに、気がつけば謎が増えてしまった一日だった。
「私はサラとシルバーを追放した後、引き続き異界穴の研究をしていた。
異界穴が開いたからといって、異世界に行けるようになったわけではなかった。異界穴の先には世界網と呼ばれる、鋭利で細かな網が張ってある。無理に異世界へ移動しようとすると、世界網に細かく切り刻まれて挽肉になってしまう。
だからこそ、そこの女が世界間移動をしたという嘘は、世界網すら知らない愚か者故に出る嘘だというのがよく分かるな。」
コイツの言葉は、いちいち鼻につくな。
そもそも異界穴自体、開けたのはシヴァとサラだろ?
それなのに、なんでザボエルはこんなに偉そうなんだ?
「世界網がある以上、人間が世界間移動をすることは不可能と判断した私は、別のものなら世界間移動が可能ではないかと考えた。そこで私は、水や魂などの流体に目をつけ、異世界から抽出する研究を行ったのだ。私は試行錯誤の結果、ついに異世界から魂を抽出することができたのだ。」
「へぇ。面白い話だね♪」
「面白いのは、それだけではない。抽出した魂を解析した結果、その魂には根源が付属していることが判明したのだ。しかもその魂に付属していた根源は極めて特殊たっだ。魔力排出量は龍脈の半数近くあり、しかも龍脈同様、命属性の魔力を排出していた。これが貴様らも知っている『命の器』の正体だ。」
「だったら、俺がこっちの世界に来たのは、テメェの下らない研究のせいってことか?俺がこっちの世界に連れてこられたのも、そのあとクソみたいな目に遭ったのも、全部....全部テメェのせいか!」
話を聞いた時は苛立ちは感じなかったのに、冷静に俺の身に起こった状況を口に出した途端、沸々とザボエルに対する怒りが込み上げてきた。
「ハッ!貴様がこちらの世界でどのような人生を送ろうが、それは貴様自身の責任だろ。自分の人生がうまくいかなかったことを私のせいにするな。こちらの世界に来てからも上手に適応できているダイフクを見習え。」
「クソがっ!」
俺は思わず、テレビ型の魔道具に映っているザボエルに殴りかかろうとしたが、シヴァに羽交い締めにされて止められた。
「そういうことを言って自分の非を認めずに、自分勝手なことばっかりしているから、教団を追われることになったんだよ。身から出た錆じゃないか。」
「何だと貴様!減らず口を叩きおって!」
ゼルが代わりに言い返したおかげで、怒りが少しだけマシになった。
「そんなことより、続きは?こっちは後で2回分、質問に答えるんだから、そっちも2回分相当の内容を喋れよ。」
ザボエルはキッと睨みつけたまま、再び話の続きをした。
「『命の器』は非常に稀有な魂だ。だがそれ故に総裁の目を惹き、命の器は本部預かりとなってしまった。私は一旦、命の器を諦め再度異世界から魂を抽出し、研究を続けた。だがその後、いくら抽出しようと、根源を持つ魂は抽出できなかった。」
よほど悔しかったのか、ザボエルは眉間に皺を寄せて歯を食い縛った。
「異世界であっても、命の器のような魂が稀有であったのだと理解した私は、再び命の器を研究したいと思うようになった。だからこそ、あんな無謀なことをしてしまったのだ。」
「ありゃ~。血迷っちゃったんだね。」
「茶化すな。私は廃棄予定だった実験体の亜人どもをけしかけて、本部から命の器を盗んでこさせた。だが盗ませた亜人は、生意気にも私に歯向かった。だから私は、奴が命の器を差し出すまで、死よりも苦しい拷問をするつもりだった。しかし、あろうことか奴は龍脈研究所を全焼させて脱走したのだ。そのせいで命の器も研究所も失った私は、このままでは責任を問われて教団に消されると察して、教団から逃げ延び今に至るのだ。」
ここでゼルから聞いた話と繋がったな。
「龍脈研究所って燃えたの?!クドージンくん、キミ一体何をしたの?」
「んなこと聞かれても、あんまり覚えてねぇよ。あん時は逃げるのに必死で、逃げる途中にあった道具とか適当に使って追手を怯ませていたからな。その道具の中に、燃えるものでもあったんじゃねーか?」
「今あの時の記憶を振り返ったら、確かにクドージンさんが燃やしてたよ。しかも思いっきり油をぶち撒いて。」
そういえばゼルもあの時の記憶があるのか。
「ま、あんな研究所、今思えば燃やしておいて正解だったな。」
「そうですね。」
「『燃やして正解』って、二人とも....ワイルドだねぇ~。」
シヴァは半分呆れた様子だった。
「貴様らの質問には答えたぞ。今度は私達が質問する番だ。」
するとザボエルは優しい口調で、質問し始めた。
「あなた方は、命の器が今どこにあるか、知っているのでしょうか?私達が命の器の話をする前からは、それについて知っていたようですが。」
「あぁ。知ってるぜ。どこにいるかは教えねぇけどな。」
シヴァの話によると命の器は俺のことらしいから、知っていて当然だ。
「では2つ目の質問としてお聞きします。命の器の居場所を教えてください。」
「だから、2つ目の質問だろうが教えねぇっつったろ。」
「そうですか。それは非常に残念です。」
そういえばダイフク会長はダイフク会長で、俺に会いたがっているんだった。
確か、死の大地へ行くには命属性の魔力を生み出せる俺が必要だと言っていたな。
「ダイフク、私からも質問をさせてくれ。貴様らは何故、命の器や私が教団を追放されたことを知っていた?答えろ。」
「簡単だことだ。お前が逃した亜人が僕だからさ。」
「貴様があの時の亜人か!大人しく命の器を渡して処分されていれば良いものを。」
「やっぱりな。あの時、お前は命の器を手に入れたら、僕を始末するつもりだったんだろ!」
「当たり前だろ。貴様らは私が約束通り逃したところで、長くは生きられない身体なのだからな。むしろ貴様がまだ生きていたことに驚きだ。」
「その考えが透けて見えたから、僕は逃げたんだよ。ま、アンタの自業自得だね。」
「チッ!.....まぁいい。結局、あの時教団から抜けたお陰で、前以上の金と地位、そして何より以前とは比べ物にならないくらい自由に研究ができる環境が手に入ったのだからな。今となっては、貴様に感謝してやってもいいくらいだ。」
「それはどうも。」
ザボエルが前より良い暮らしをしていることに、ゼルは不服そうにしていた。
「これで2回分、答えていただきましたね。それでは他に、質問はありますか?」
「じゃあさ、ダイフク会長達は何で異界穴研究に着手したの?まさか所長に唆されたから...ってことはないよね?」
「私達が異界穴研究に着手した理由は、魂だけ元の世界に帰りたいからです。というのも、私達のような異世界人の魂は、生まれ変わっても生前の記憶が消されないのです。あなた方の中にいる日本人の方は、以前私と会ったことがあるのですよね?その際、生前の記憶が消されないリスクを、私から聞きませんでしたか?」
「あぁ、確かにそんな話をしていたな。魂は本来、死んで生まれ変わるタイミングで記憶が消されるけど、俺達日本人の魂はこの世界の魂じゃないから消されないって。で、記憶が消されないと永久に記憶を引き継いだまま、生と死を繰り返すって言ってた。」
「えぇ?!ちょっとキミ、それ知ってたんなら最初に教えてよ!それじゃあボク、質問した意味なかったじゃん!」
「だって聞かれなかったし。」
「『聞かれなかったから』って...そりゃ確かに聞かなかったけどさぁ」
「何だ貴様ら。仲間割れか?」
あ。小型魔道具、押しっぱなしだった。
シヴァのヤツも押したままだったからか、俺達の会話はザボエル達に丸聞こえだった。
俺達がちょっと揉めているのを見て、ザボエルはほくそ笑んだ。
「それにさっきダイフク会長の質問に答えたし、チャラになったんだから別にいいだろ。」
「えっ?私は何も質問していませんが?」
「はぁ?さっき聞いてたじゃねえか。『以前会った時に生前の記憶が消されないリスクを話さなかったか?』って。」
「えぇ~....それは、質問に含まれるのですか?ズルいように感じますが、まぁ良しとしましょう。」
「ラッキー!それじゃあ、また質問していい?」
「はい、どうぞ。」
「ダイフク会長の下で異界穴研究をしている主要メンバーを教えて♪」
「いいですよ。研究メンバー自体は数十名いますが、その中で主要なメンバーは、ソラさんとザボエルさん、セシルさんとミッチェルさん、それからラーナさんです。」
「そ、っか。」
サラの名前を期待していたシヴァは、その名前が挙がらなかったことに落胆していた。
「では、今度は私から質問です。あなた方の知り合いに『宮藤迅』という名前の、日本人転生者はいますか?ちなみに彼の見た目は、黒目黒髪でヤンキー風のいかついファッション、歳は10~20代くらいです。」
こんな質問をしてくるなんて、ダイフク会長はよほど、俺を見つけて異界穴を開く協力をさせたいらしいな。
「どうする、クドージンくん?言っちゃう?」
「別に良いんじゃねーか?言ったところで、向こうは俺達がどこにいるかも知らねーわけだし。」
シヴァはそれを聞くと、小型魔道具を使ってセンガに答えさせた。
「ボク達の知り合いにクドージンくんはいるよ♪」
「本当ですか?!では彼の居場所を知っていますか?知っていれば教えてください!」
「それは内緒♪」
俺が答える前に、シヴァが質問をパスした。
まぁ、俺も最初から教える気はなかったから結果は同じだが。
「そうですか。...では質問を改めます。あなた方の中にいる日本人の方は、ひょっとして宮藤迅さん、ですか?」
「はぁ?!」
何でバレた?
いや、まだバレたとは決まっていない。
「何故そんなことを聞く?」
「質問に質問で返すのはいかがなものかと思いますが、とりあえずお答えします。まずは手紙の字ですね。男性のような字で漢字が少ないのも、書き手が宮藤迅さんなら納得できます。
それに私は日本で20◯◆年に亡くなったのですが、仮に日本人転生者が全員20◯◆年前後で亡くなっている場合、20XX年生まれであれば享年が大体十代後半から二十代前半となり、宮藤迅さんの年齢と一致します。
加えて、先程からの言動も宮藤迅さんと似ています。それとこれは推測ですが、宮藤迅さんであればザボエルさんを恨む動機もあると思うのです。
ただ、どれも根拠と呼べる程に決定打となるものではありませんが。」
そんなに俺はボロを出していたのか?
「以上で、貴方の質問への答えは終わりです。それでは、先程の私の質問への回答お願いします。」
どうする?
ここまで疑われていたら、誤魔化したところで無駄じゃないか?
いや、ここで正体をバラしたら、住所や連絡先を探ってきて面倒なことになるのは目に見えている。
「さぁな。俺が誰なのかは、テメェに言う義理は無ぇ。」
「そうですか、それは残念です。では別の質問をしましょう。ザボエルさんは何か質問したいことはありますか?
....そうだな。シルバーが今何をしているか等、聞きたいことが無いわけではないが、此奴らに質問させる機会を与えたくはない。ダイフクは聞きたいことはもうないのか?
私もザボエルさんと同意見です。彼らには色々聞きたいことはありますが、逆に色々探られても困りますし。それに、どうしても聞きたかったことは聞けましたので、切り上げても大丈夫です。」
ダイフク会長はザボエルの口を使ってザボエル会話しているからか、側から見たらザボエルの一人芝居のようだ。
それより、これ以上はダイフク会長達から話を聞き出せないのか。
逆に言えば、向こうもこれ以上俺達を探ってこないのだから、まぁ良しとしよう。
「ですが、まだ1回分は質問する権利が私達にあるのですよね。質問しないと勿体無いですし、一応質問してもよろしいでしょうか?」
「こっちはオッケーだよ♪」
「私も構わない。ダイフクの好きにしろ。
...それではお言葉に甘えて。あなた方の中にいる日本人の方の、現在の人種を教えてください。人間なのか、魔人なのか、はたまたエルフなのか、少し興味があります。」
そんなことを聞いてどうするつもりだ?
投げやりな質問だな。
「俺は今は人間だ。」
「そうでしたか。」
俺達は詮索を諦めダイフク会長達と話し終えると、センガはシヴァの屋敷へ帰っていった。
「ところでクドージンさんって、今は人間に転生していたのですか?」
「あぁ?それがどうかしたか?」
「いえ。キメイラ帝国に住んでいると聞いたので、てっきり亜人なのかと思っていました。」
「....あ!」
しまった。
みんなには『亜人』だという設定で通していたことをすっかり忘れていた。
「おいテメェ!このことは絶対、誰にも言うんじゃねーぞ!」
「は、はい!」
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しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
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