転生魔王の正体は?ーー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですーー

サトウミ

文字の大きさ
101 / 145
第22話:記憶喪失

【101】記憶喪失(4)

しおりを挟む
この日の午後は実技テストのみで、その後は取り巻き達と一緒に、寮の一室で他愛もない会話をした。

「それにしても、今日の実技テストは最高でしたね。あの半分平民の間抜けな姿は、今思い出しても面白いですよ。」
「それでもブラッディスカーレットドラゴンなんかを召喚するなんて、生意気ですよね。アイツにはスライムがお似合いですよ。」

「あぁ。このままアイツの記憶が戻らずに永遠に醜態を晒し続ければ良いのに。レオン様も、そう思いますよね?」
「あー...。すまないが、どうでもいい。」

よっぽどコイツらはフレイ卿が嫌いなんだな。
さっきからフレイ卿の悪口が止まらない。

「そうですか。レオン様は記憶を無くされてますし、仕方がありませんよね。」
「レオン様も、記憶があれば絶対に、今日の半分平民の間抜け面を見て喜んでいましたよ。」
「そうかそうか。だったら俺の分までみんなで喜んでくれ。」

今の俺にとっては今日会ったばかりの奴だから、取り巻き達のフレイ卿を罵るノリについていけない。
俺がフレイ卿の記憶を消さなければ彼は醜態を晒さなくて済んだのではと考えると、少し申し訳ない気がする。

フレイ卿の悪口で盛り上がっていると、部屋の扉をノックする音が響いた。

取り巻きの1人が扉を開けると、そこに居たのは獣人と魔人のハーフと思われる女だった。
その女を見た瞬間、取り巻きは慌てて扉を閉めた。

「す、すみませんレオン様!お見苦しいものを見せてしまって。」
「は?何のことだ?」
「レオン様の視界に卑しい亜人を入れてしまうなんて、一生の不覚です。」

「大袈裟な奴だな。別に亜人の1人や2人ぐらい、珍しくはないだろ。」
「で、ですが....。」

「普段のレオン様は『穢らわしい亜人が視界に入ると目が腐る』『亜人を俺様に近づけるな・俺様の所有物に触れさせるな』と仰っていたので、亜人奴隷をレオン様に近づけるのは、我々取り巻き一同の間ではタブーでした。」

なるほどな。
以前の俺は生粋の差別主義者だったってワケか。

「今の俺はそんなこと気にしないから、中に入れてやれ。用があって来たんだろ?」
取り巻きは俺の言葉に戸惑いながら、恐る恐る扉を開けた。

「ったく、何の用だよお前!レオン様の寛大なお言葉がなければぶっ殺すところだったぞ!」
「も、申し訳ありません!」
亜人の女は深々と頭を下げた。

「へぇ。ハーピーと魔人のハーフって、珍しいじゃん。」
「だろ?しかもコイツ、見た目もいいし胸もデカいから、試しに買ってみたんだ。」

「でも魔人って、いちいち口ごたえするからウザくない?」
「そこがいいんだよ。生意気な奴隷ほど、調教し甲斐があるからな。従順なだけの奴隷は飼ってて退屈だし。」

コイツらの会話を聞いていると、なぜか胸糞悪い気分になってきた。
これ以上コイツらの話を聞いていたら、コイツらが嫌いになりそうだ。

「それより、そこの女の要件は何だったんだ?」
「レオン様の有難い質問だぞ。さっさと言え!」
「はい。昨日、買ってくるよう仰っていた魔道具を届けに来ました。」
女は持っていた紙袋を取り巻きに差し出した。

だが取り巻きは紙袋を受け取った後、女に平手打ちをした。
女は叩かれた衝撃で、その場に倒れる。

「この程度のことで、いちいち俺の部屋まで来るなぁ!」
「で、ですが『今日までに買って持ってこないと殺す』と仰ったのは...」
「うるさい!奴隷風情が口ごたえするな!」
取り巻きは、女の顔面を踏み抜くかのように、勢いよく蹴った。
その光景を見ていると、胸の中の不快感が増してきた。

「生意気な奴隷には、特別な躾が必要だな。おい、中に入れ。」
女はオドオドしながら部屋の中に入ってきた。
取り巻き達は、そんな女を見てニヤニヤしている。

「なぁ、この羽意外とふかふかして気持ちいいから、ちぎっていいか?」
「いいぜ。コイツ頑丈だし、すぐ生えるだろうからな。」
取り巻きの1人が女の羽を勢いよくもぎ取る。

「ああああっ!!!」
ブチブチという生々しい音と、苦しみ喘ぐ女の声が部屋中に響く。
その音と声を聞いていると、嫌な感じがして頭が痛くなる。

「うるせぇな。躾はまだ始まってないんだから、いちいちこの程度で騒ぐなよ。」
よほどの激痛だったからか、女はその場で蹲るように倒れた。
そして、女の持ち主でもある取り巻きの1人は、机の引き出しを漁って魔道具を取り出した。

取り巻きがその魔道具をいじると、女は突然、大声をあげて悶絶した。

「やっぱり、躾といえばまずはコレだな。」
「ソレ知ってる!新型の拘束魔道具だよな?確か、色んな痛みを与えることができるんだろ?」
「あぁ。前の奴隷は使う前に死んだから、使うのはコイツが初めてなんだ。」

「それ、俺にも貸せよ。試してみたい!」
「いいぜ。ただし大事に使えよ。」
「わかってるって。え~っと、『火傷の痛み』『骨折の痛み』『切断の痛み』...結構種類が豊富だな。とりあえず火傷の痛みだ。」

「熱ぅぅあぁぁぁ!!」
「あははは!!本当に熱がってるじゃん!面白ぇ。今度は切断の痛みだ!」

「ぃいいあああぁぁぁ!!」
「へへっ、なかなかいいリアクションじゃないか。というかコイツ、デカい声で騒ぐだけの元気はあるんだな。」
「確かに言えてる!フツー、苦しかったらこんなにデカい声出ないよな?痛みが足りてないんじゃねえか?」

痛い。
痛い痛い痛い。

取り巻き達が女をいたぶる度に、頭をかち割られるかのような、それでいて初めてではないような痛みに苛まれる。
それと一緒に、胃から何かが込み上げてくる感覚にも襲われ、俺は口を塞いで必死に堪えた。

だが不思議なことに、女が痛めつけられる様子を見ていると、何かが思い出せそうな気になった。
怖いような、痛いような、屈辱的なような、そんな記憶だった気がする。
記憶を取り戻したいという気持ちはあるが、なぜだかこの時は『思い出したくない』という気持ちでいっぱいになった。

「...あれ?レオン様、どうかしましたか?」
俺が口を押さえて苦しんでいるのに気づいた取り巻きの1人が、心配そうに背中をさすってくれた。

「...めてくれ。」
「はい?何でしょうか?」
「今すぐ、そこの女を嬲るのをやめてくれ!」
声を荒げたつもりはなかったが、俺の声は部屋中に響き、一瞬で場が静かになった。

吐き気が収まって顔を上げると、取り巻き達は顔を強張らせて俺を見つめていた。
女の様子を見てみると、放心状態で横たわっていた。
胸糞悪い気分になるから、この女をこれ以上見たくない。

「なぁ。この女、目の前から消しても良いか?」
「えぇ?!は、はい。レオン様がお望みであれば、喜んで差し上げます。」

取り巻きの許可を得たので、俺は女の首につけられた拘束魔道具を取り外し、彼女に回復魔法をかけた。

「...え?」
「えっ?!」

取り巻き達も女も、俺の行動に驚いて固まった。

「お前、家はどこだ?」
「え...?なんで?」
「だから、お前が元いた場所を聞いているんだ。奴隷になる前はどこにいた?」
「き、キメイラ帝国、です。」

それだけを聞くと、俺は魔法で女をキメイラ帝国へと送った。

「あっ!奴隷の亜人が一瞬で...?!」
「レオン様、一体何をされたのですか?」
「あの女を見ていたら嫌なことを思い出しそうだったから、目の前から消した。」

「そうでしたか。やはり穢らわしい亜人奴隷は、レオン様の視界へ入れるべきではありませんでした。今後はレオン様の視界に入らないよう、より一層、注意致します。」
「あぁ、是非そうしてくれ。」

その後、奴隷のことには一切触れず、何気ない会話で盛り上がった。

だけどその日の夜、奴隷の女のせいで嫌な夢を見た。
夢の中では、誰かの悶え苦しむ声がずっと続いた。
そして何度も『死にたい』と、声にならない叫びが続いていた。

何なんだ、この夢は。
もしかして、俺の失った記憶と関係するのか?
だとしたら、思い出すのが怖い。

....俺は一体、どんな人生を歩んできたのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...