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第22話:記憶喪失
【102】記憶喪失(5)
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翌日。
この日も俺は、取り巻き達と一緒に朝の支度を終えて教室へと向かった。
授業も問題なくスムーズに終えて、取り巻き達と一緒に帰ろうとしたその時。
「ねぇ、レオン。話があるんだけど、ちょっといいかしら?」
俺に声をかけたのは、カタリーナ嬢だった。
「俺を嫌っているはずのアンタが、俺に何の用だ?」
皮肉を言ったつもりはないが、純粋に彼女から話しかけられたことに驚いて、思わず尋ねてしまった。
「そんな風に言わないでよ。私、今のアナタは嫌いじゃないわ。それよりお願い。私達、ちょっとアナタと話したいことがあるのよ。」
私達?
教室を見回すと、彼女から少し離れた場所にレックス殿下やフレイ卿達が、俺達を見ていた。
「話したいことって?」
「それは...ちょっと話しづらい内容だから、アナタ以外は席を外してもらえる?」
俺は言われた通り、取り巻き達に先に帰るように言った。
そして俺達以外が教室からいなくなると、カタリーナ嬢は真剣な面持ちで俺に話しかけた。
「アナタ....もしかして宮藤くんなの?」
「宮藤くん?誰だそれは。」
「そっか、今は記憶喪失だったわね。聞いても分からないわよね。」
カタリーナ嬢が説明に困っていると、レックス殿下が代わりに教えてくれた。
「クドーくん、もといクドージンさんは、滅多に会えない僕らの友達だよ。」
「へぇ。じゃあそいつは遠くに住んでいるのか?それとも忙しい奴なのか?」
「それは、私達にも分からないわ。彼、いっつも私達がピンチになった時に急に現れて、助けてくれるの。でも住所や連絡先は一切教えてくれないのよね。」
「まぁ、一応アイツはキメイラ帝国に住んでいるらしいけどな。」
「そうなんだな。で、そのクドージン?とやらが俺とどう関係するんだ?」
「私達は、彼の正体がアナタなんじゃないかって思っているの。」
「俺がクドージン?そいつと俺は、そんなに似ているのか?根拠は?」
「貴方の昨日の魔法よ!あれだけのドラゴンを瞬殺したり、ましてや蘇生したりすることができるのは、宮藤くん以外にいるはずないもの。」
「それにアイツの魔法は滅茶苦茶だからな。姿を変えて俺達の前に現れるなんてザラだし。」
なるほど、俺が実力を隠していた理由はソレか。
コイツらに正体がバレないように隠していたのに、何も知らずに魔法を使ったせいでバレてしまったわけだ。
正体を隠して接触していた理由は分からないが、記憶を無くす前の俺に、悪いことをしてしまったな。
....ん?待てよ?
「ってことは俺ら、友達だったのか?」
昨日だけでも、俺の派閥とカタリーナ嬢達は互いに嫌い合っているグループ同士だと、十分に理解できたが。
そんな俺が、コイツらの友達だというのは、違和感がある。
「少なくとも、僕らはそう思っているよ。そうだよね、みんな。」
するとカタリーナ嬢を含む全員が首を縦に振った。
カタリーナ嬢ですら、俺を友達と思っていたのか。
「でも俺は、アンタらに嫌われていたんじゃないのか?」
「確かにレオンとしてのアナタは嫌だったわ。だけどそれは正体を知らなかったからよ。宮藤くんとしてのアナタは、大事な友達の1人よ。」
「っつーか、お前も水臭いよな。正体隠すなんてまどろっこしいことせずに、普通に助けてくれたら誤解しなかったのによ。」
何となくだが、正体を隠していた理由がわかったぞ。
俺とカタリーナ嬢達は対立派閥だ。
だから表立って仲良くはできない。
それでも、彼女達と仲良くなりたかった俺は、正体を隠して接触したのだろう。
「俺は派閥的に、アンタらと仲良くし辛かったんだと思う。アンタらと仲良くしていたら、取り巻き達に顔向けできないしな。」
「そっか。じゃあいつもアナタが嫌味を言ってきたのも、それを悟らせないようにするためだったのかしら?」
「多分、そうじゃねーか?」
それ以外で、仮にも好きな女を罵倒する理由が思いつかない。
「そうだったのね。でもまさか、いつも嫌味を言ってくるアナタが宮藤くんだったとは。盲点だったわ。」
「俺はてっきり、ゼルがクドージンだと思っていたぜ。なんせアイツに似てるし、魔法の才能もあるしな。」
ゼルって確か、昨日の実技テストでレックス殿下やタクト同様、S評価をもらっていた奴だ。
以前の俺は、コイツの姿に寄せた変装をしていた、ということなのだろうか?
「はは。僕はまだタクトくんに疑われていたんだ。僕は絶対に、レオンがクドージンさんのはずがないって思っていたよ。クドージンさんが、あんな選民思想の塊みたいな奴なわけがないって思ってた。」
ゼルの喋り方から、以前の俺を相当嫌っていたことが伝わってくる。
「それはともかく、クドージンさん、今後魔法を使う時は気をつけた方がいいですよ。クドージンさんの魔法は特別なので、悪い大人が狙ってくる可能性もあります。特に、死者を蘇生する魔法はクドージンさん以外には使えないので、その力が広く知れ渡ると世界中からクドージンさんの力を狙う人達が集まってきますよ。」
「あぁ、そうだな。気をつける。」
「ちなみに昨日の実技テストについては、シヴァ先生に大事にしないよう、お願いしてあります。」
「そうか。ゼル、ありがとう。」
そういえば教師も俺のことを『クドージン』とか何とか言っていたが、あの教師もクドージンとしての俺を知っていたのか?
...ん?
気づけば、なぜかみんなが、驚いた様子で俺を見つめている。
「宮藤くんが、素直にお礼を言ってる!」
「アイツが礼をいうなんて、レアじゃないか?」
「俺はそんなに変なことを言ったか?」
「いえ。変ではありません。ただ、珍しいと思いまして。」
「そういえば昨日も、素直にフレイに謝ってたよな。」
「記憶を失ってからの宮藤くんって、やけに素直よね。」
「謝ったりお礼を言うだけで素直って、大袈裟だろ。悪いことをして謝ったり、何かをしてもらった時にお礼を言ったりするのは、当たり前だろ。」
「確かにそうよ?そうなんだけれどね?」
カタリーナ嬢の動揺っぷりを見るに、普段の俺は碌に挨拶もできない男だったんだな。
「ところでレオン様、その後、何かを思い出しましたか?僕は全然、思い出せません。」
唐突に話題を変えたのはフレイ卿だった。
「いいや。俺も全然だ。でも、何かを思い出しそうな手がかりは一つあった。」
「えっ?!何ですか、それは?」
昨日のことは思い出しただけでも気分が悪い。
が、みんなに話せば、何かがわかるかもしれない。
「実は昨日、取り巻き達が亜人の奴隷を嬲っているところを見た時、頭が痛くなった。あのまま見続けていたら何かを思い出せた気がするが、思い出すのが、その....怖くなって、無理矢理中断させた。」
あの時、目を背けず中断しなかったら、何を思い出したんだろう。
十中八九、いい思い出ではない気がする。
俺の話を聞いたみんなは、なぜか暗い顔をして伏目がちにしていた。
「えっ...と、あの、皆さんどうかしましたか?」
フレイ卿も俺と同じく、みんなが暗い顔をする理由が分からないからか、オドオドしながら質問をした。
「そっか、フレイくんは記憶がないからクドージンさんの過去のことも覚えていないんだね。」
そう話したのはライラだった。
やっぱりみんなは、俺の過去について何か知っているのか。
「差し支えなければ、教えてくださいませんか?」
「それはちょっと...言い辛いから、ごめんね。」
人に言えないような過去なのか?
「過去って言っても、俺は由緒正しい公爵家の長男として何不自由なく暮らしてきたらしいから、大した内容じゃないだろ。取り巻き達も俺には優しいし、知った限りだと家族仲も良さそうだが?」
「そう、だよね。今世は恵まれた環境に転生できたんだ。それだけでも良かったよ。」
ライラは嬉しそうに、少し微笑んだ。
ただ、『今世』だの『転生』だの、大袈裟な単語が出てきたのには少々驚いた。
「...なぁ、このままクドージンは、記憶を取り戻さない方が良いんじゃねえか?」
「「はぁ?!」」
タクトの問題発言に、全員が驚いて変な声を出した。
「お兄ちゃん、何言っているのか分かってるの?このままだったら、クドージンさんは家族も、友達も、私達のことも、ずっと忘れたままなんだよ?思い出が無くなっちゃうんだよ?」
「だとしてもさ、別に最初からやり直せばいいじゃん。コイツの両親も、取り巻き共も、もちろん俺らも、今まで通り一緒にいるだろ。思い出は一からでも作り直せるじゃん。それに過去の記憶を思い出して、辛い思いをするのはコイツだぞ?」
そんなに酷い記憶なのかよ!
「で、ですが、このまま記憶がないと学業や日常生活に支障が出ますよ?僕も同じ状況だから分かりますが、記憶がない状態で生活するのって、正直、不安ですから。」
フレイ卿の言うことに同感だ。
知っている人間が誰1人いない環境というのは、精神的にしんどい。
「確かに、思い出さない方が良いなんて軽々しく言えないよ。でも、だからと言って思い出した方が良いとも言えない。僕は彼のあの記憶を見たからこそ、尚更言えないよ。」
「ちょっと待て殿下!俺の記憶を見たって、どういうことだ?」
「あっ!ごめん。でも、あの時は不可抗力だったんだ。」
不可抗力で記憶を覗くって、どんな状況だよ。
「私も不可抗力でアナタの記憶を見ちゃった。あの時はごめんなさいね。」
好きな女にまで記憶を覗かれるとか、記憶があったら恥ずかしさのあまりに悶絶するレベルだ。
「私もあの記憶を見たから『思い出せ』だなんて到底言えないわ。」
みんながそこまで言うってことは、相当酷い記憶なのか?
....思い出すのが怖くなってきた。
「それでも、私はやっぱりクドージンさんに思い出して欲しい!」
そう断言したのは、ライラだった。
「クドージンさんとの思い出が無くなっちゃうのは嫌だよ。クドージンさんとはあまり会えないし、彼のことはまだまだ全然知らないことだらけだし、仲違いもしたこともあった。でも、それが私達のクドージンさんなんだよ!確かに、一からだって仲良くできるかもしれない。でも、記憶を無くす前のクドージンさんに会えなくなるのは...嫌だ。」
彼女は沈んだ表情でそう語った。
以前の俺を、そこまで思ってくれていたのか。
それに『思い出さない方がいい』って言っている奴も、俺を心配して言ってくれているんだろうな。
「みんなの意見はわかった。でも、思い出すか否かは決められることじゃないよ。それに肝心のクドージンさんの意見を聞かずに、あれこれ語るのは失礼じゃないか?」
ゼルは俺に気を遣ってか、話を終わらせようとした。
だけどその前に、これだけは言いたい。
「俺は、思い出したい。」
「「えっ?!」」
「みんなの話を聞いていて、俺にはとんでもない過去があるんだろうな、っていうのは分かった。正直、それを思い出すのは怖い。でもさ、俺のことをこんなに真剣に思ってくれている友達のことを、このまま忘れたままなのは嫌だ。俺、みんなとの記憶を思い出したい。」
すると、さっきまでの重苦しい雰囲気がガラリと変わって、穏やかな空気になった。
「へへっ。お前、普段からそのくらい素直になれよ。照れるじゃねえか。」
「クドージンさんにそう言ってもらえるなんて、すごく嬉しい。私達、少しでも記憶を取り戻せるように協力するね!」
「あぁ。頼む。」
たとえ、どんなに残念な過去を思い出しても、みんながいればきっと大丈夫だ。
「そういえば宮藤くんって魔法に関してはチートなんだし、魔法を使えば記憶も取り戻せるんじゃないかしら?」
なるほど、その発想はなかった。
「うまくいくか不安だけど、試してみる価値はあるな。」
俺は早速、魔法をかけようとした。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
その時、フレイ卿が俺の手を止めた。
「フレイくん、どうしたの?」
「魔法を使う前に、レオン様と二人で話したいことがあるのです。」
「俺に話したいこと?」
「はい。ですので皆さん、僕ら二人だけにしていただけますか?」
フレイ卿の力強いお願いに、みんなは渋々、教室から出て行った。
「で、フレイ卿。話って何だ?」
「まずは魔法で、記憶を取り戻して欲しいのです。」
何だ、結局魔法は使うのかよ。
俺は記憶が戻るよう、フレイ卿に魔法をかけてみた。
「やってみたぞ。フレイ卿、記憶は戻ったか?」
「え?あ、俺?は、はい。全部思い出しました。」
...本当か?
歯切れの悪い返事のように感じたが、気のせいか。
とにかく魔法は成功したってことだよな。
「今度はレオン様の番ですね。記憶を思い出したら教えてください。」
俺はさっきと同じ要領で、魔法をかけてみた。
すると過去の出来事が、まるで走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
....あぁ。
そういうことだったのか。
こんなクソみたいな記憶、思い出すんじゃなかった。
胸糞悪い記憶が蘇ったせいで、一気に頭が痛くなった。
俺は頭を押さえながら下げた。
「大丈夫ですかレオン様?記憶は思い出せましたか?」
「あぁ。」
質問してきたのは、俺の声だった。
....ん?俺の声?
「誰だ、テメェ。」
俺が頭をあげようとしたその時、またしても強烈な頭痛に苛まれた。
「うあっ!」
「ご苦労だった。半分平民。」
意識が途切れる寸前、俺の声でそう喋っているのが聞こえた。
そうか、わかったぞ。
俺は、奴に身体を入れ替えられていたんだ。
そのことに気づいたものの、俺は再び記憶を消されてしまった。
この日も俺は、取り巻き達と一緒に朝の支度を終えて教室へと向かった。
授業も問題なくスムーズに終えて、取り巻き達と一緒に帰ろうとしたその時。
「ねぇ、レオン。話があるんだけど、ちょっといいかしら?」
俺に声をかけたのは、カタリーナ嬢だった。
「俺を嫌っているはずのアンタが、俺に何の用だ?」
皮肉を言ったつもりはないが、純粋に彼女から話しかけられたことに驚いて、思わず尋ねてしまった。
「そんな風に言わないでよ。私、今のアナタは嫌いじゃないわ。それよりお願い。私達、ちょっとアナタと話したいことがあるのよ。」
私達?
教室を見回すと、彼女から少し離れた場所にレックス殿下やフレイ卿達が、俺達を見ていた。
「話したいことって?」
「それは...ちょっと話しづらい内容だから、アナタ以外は席を外してもらえる?」
俺は言われた通り、取り巻き達に先に帰るように言った。
そして俺達以外が教室からいなくなると、カタリーナ嬢は真剣な面持ちで俺に話しかけた。
「アナタ....もしかして宮藤くんなの?」
「宮藤くん?誰だそれは。」
「そっか、今は記憶喪失だったわね。聞いても分からないわよね。」
カタリーナ嬢が説明に困っていると、レックス殿下が代わりに教えてくれた。
「クドーくん、もといクドージンさんは、滅多に会えない僕らの友達だよ。」
「へぇ。じゃあそいつは遠くに住んでいるのか?それとも忙しい奴なのか?」
「それは、私達にも分からないわ。彼、いっつも私達がピンチになった時に急に現れて、助けてくれるの。でも住所や連絡先は一切教えてくれないのよね。」
「まぁ、一応アイツはキメイラ帝国に住んでいるらしいけどな。」
「そうなんだな。で、そのクドージン?とやらが俺とどう関係するんだ?」
「私達は、彼の正体がアナタなんじゃないかって思っているの。」
「俺がクドージン?そいつと俺は、そんなに似ているのか?根拠は?」
「貴方の昨日の魔法よ!あれだけのドラゴンを瞬殺したり、ましてや蘇生したりすることができるのは、宮藤くん以外にいるはずないもの。」
「それにアイツの魔法は滅茶苦茶だからな。姿を変えて俺達の前に現れるなんてザラだし。」
なるほど、俺が実力を隠していた理由はソレか。
コイツらに正体がバレないように隠していたのに、何も知らずに魔法を使ったせいでバレてしまったわけだ。
正体を隠して接触していた理由は分からないが、記憶を無くす前の俺に、悪いことをしてしまったな。
....ん?待てよ?
「ってことは俺ら、友達だったのか?」
昨日だけでも、俺の派閥とカタリーナ嬢達は互いに嫌い合っているグループ同士だと、十分に理解できたが。
そんな俺が、コイツらの友達だというのは、違和感がある。
「少なくとも、僕らはそう思っているよ。そうだよね、みんな。」
するとカタリーナ嬢を含む全員が首を縦に振った。
カタリーナ嬢ですら、俺を友達と思っていたのか。
「でも俺は、アンタらに嫌われていたんじゃないのか?」
「確かにレオンとしてのアナタは嫌だったわ。だけどそれは正体を知らなかったからよ。宮藤くんとしてのアナタは、大事な友達の1人よ。」
「っつーか、お前も水臭いよな。正体隠すなんてまどろっこしいことせずに、普通に助けてくれたら誤解しなかったのによ。」
何となくだが、正体を隠していた理由がわかったぞ。
俺とカタリーナ嬢達は対立派閥だ。
だから表立って仲良くはできない。
それでも、彼女達と仲良くなりたかった俺は、正体を隠して接触したのだろう。
「俺は派閥的に、アンタらと仲良くし辛かったんだと思う。アンタらと仲良くしていたら、取り巻き達に顔向けできないしな。」
「そっか。じゃあいつもアナタが嫌味を言ってきたのも、それを悟らせないようにするためだったのかしら?」
「多分、そうじゃねーか?」
それ以外で、仮にも好きな女を罵倒する理由が思いつかない。
「そうだったのね。でもまさか、いつも嫌味を言ってくるアナタが宮藤くんだったとは。盲点だったわ。」
「俺はてっきり、ゼルがクドージンだと思っていたぜ。なんせアイツに似てるし、魔法の才能もあるしな。」
ゼルって確か、昨日の実技テストでレックス殿下やタクト同様、S評価をもらっていた奴だ。
以前の俺は、コイツの姿に寄せた変装をしていた、ということなのだろうか?
「はは。僕はまだタクトくんに疑われていたんだ。僕は絶対に、レオンがクドージンさんのはずがないって思っていたよ。クドージンさんが、あんな選民思想の塊みたいな奴なわけがないって思ってた。」
ゼルの喋り方から、以前の俺を相当嫌っていたことが伝わってくる。
「それはともかく、クドージンさん、今後魔法を使う時は気をつけた方がいいですよ。クドージンさんの魔法は特別なので、悪い大人が狙ってくる可能性もあります。特に、死者を蘇生する魔法はクドージンさん以外には使えないので、その力が広く知れ渡ると世界中からクドージンさんの力を狙う人達が集まってきますよ。」
「あぁ、そうだな。気をつける。」
「ちなみに昨日の実技テストについては、シヴァ先生に大事にしないよう、お願いしてあります。」
「そうか。ゼル、ありがとう。」
そういえば教師も俺のことを『クドージン』とか何とか言っていたが、あの教師もクドージンとしての俺を知っていたのか?
...ん?
気づけば、なぜかみんなが、驚いた様子で俺を見つめている。
「宮藤くんが、素直にお礼を言ってる!」
「アイツが礼をいうなんて、レアじゃないか?」
「俺はそんなに変なことを言ったか?」
「いえ。変ではありません。ただ、珍しいと思いまして。」
「そういえば昨日も、素直にフレイに謝ってたよな。」
「記憶を失ってからの宮藤くんって、やけに素直よね。」
「謝ったりお礼を言うだけで素直って、大袈裟だろ。悪いことをして謝ったり、何かをしてもらった時にお礼を言ったりするのは、当たり前だろ。」
「確かにそうよ?そうなんだけれどね?」
カタリーナ嬢の動揺っぷりを見るに、普段の俺は碌に挨拶もできない男だったんだな。
「ところでレオン様、その後、何かを思い出しましたか?僕は全然、思い出せません。」
唐突に話題を変えたのはフレイ卿だった。
「いいや。俺も全然だ。でも、何かを思い出しそうな手がかりは一つあった。」
「えっ?!何ですか、それは?」
昨日のことは思い出しただけでも気分が悪い。
が、みんなに話せば、何かがわかるかもしれない。
「実は昨日、取り巻き達が亜人の奴隷を嬲っているところを見た時、頭が痛くなった。あのまま見続けていたら何かを思い出せた気がするが、思い出すのが、その....怖くなって、無理矢理中断させた。」
あの時、目を背けず中断しなかったら、何を思い出したんだろう。
十中八九、いい思い出ではない気がする。
俺の話を聞いたみんなは、なぜか暗い顔をして伏目がちにしていた。
「えっ...と、あの、皆さんどうかしましたか?」
フレイ卿も俺と同じく、みんなが暗い顔をする理由が分からないからか、オドオドしながら質問をした。
「そっか、フレイくんは記憶がないからクドージンさんの過去のことも覚えていないんだね。」
そう話したのはライラだった。
やっぱりみんなは、俺の過去について何か知っているのか。
「差し支えなければ、教えてくださいませんか?」
「それはちょっと...言い辛いから、ごめんね。」
人に言えないような過去なのか?
「過去って言っても、俺は由緒正しい公爵家の長男として何不自由なく暮らしてきたらしいから、大した内容じゃないだろ。取り巻き達も俺には優しいし、知った限りだと家族仲も良さそうだが?」
「そう、だよね。今世は恵まれた環境に転生できたんだ。それだけでも良かったよ。」
ライラは嬉しそうに、少し微笑んだ。
ただ、『今世』だの『転生』だの、大袈裟な単語が出てきたのには少々驚いた。
「...なぁ、このままクドージンは、記憶を取り戻さない方が良いんじゃねえか?」
「「はぁ?!」」
タクトの問題発言に、全員が驚いて変な声を出した。
「お兄ちゃん、何言っているのか分かってるの?このままだったら、クドージンさんは家族も、友達も、私達のことも、ずっと忘れたままなんだよ?思い出が無くなっちゃうんだよ?」
「だとしてもさ、別に最初からやり直せばいいじゃん。コイツの両親も、取り巻き共も、もちろん俺らも、今まで通り一緒にいるだろ。思い出は一からでも作り直せるじゃん。それに過去の記憶を思い出して、辛い思いをするのはコイツだぞ?」
そんなに酷い記憶なのかよ!
「で、ですが、このまま記憶がないと学業や日常生活に支障が出ますよ?僕も同じ状況だから分かりますが、記憶がない状態で生活するのって、正直、不安ですから。」
フレイ卿の言うことに同感だ。
知っている人間が誰1人いない環境というのは、精神的にしんどい。
「確かに、思い出さない方が良いなんて軽々しく言えないよ。でも、だからと言って思い出した方が良いとも言えない。僕は彼のあの記憶を見たからこそ、尚更言えないよ。」
「ちょっと待て殿下!俺の記憶を見たって、どういうことだ?」
「あっ!ごめん。でも、あの時は不可抗力だったんだ。」
不可抗力で記憶を覗くって、どんな状況だよ。
「私も不可抗力でアナタの記憶を見ちゃった。あの時はごめんなさいね。」
好きな女にまで記憶を覗かれるとか、記憶があったら恥ずかしさのあまりに悶絶するレベルだ。
「私もあの記憶を見たから『思い出せ』だなんて到底言えないわ。」
みんながそこまで言うってことは、相当酷い記憶なのか?
....思い出すのが怖くなってきた。
「それでも、私はやっぱりクドージンさんに思い出して欲しい!」
そう断言したのは、ライラだった。
「クドージンさんとの思い出が無くなっちゃうのは嫌だよ。クドージンさんとはあまり会えないし、彼のことはまだまだ全然知らないことだらけだし、仲違いもしたこともあった。でも、それが私達のクドージンさんなんだよ!確かに、一からだって仲良くできるかもしれない。でも、記憶を無くす前のクドージンさんに会えなくなるのは...嫌だ。」
彼女は沈んだ表情でそう語った。
以前の俺を、そこまで思ってくれていたのか。
それに『思い出さない方がいい』って言っている奴も、俺を心配して言ってくれているんだろうな。
「みんなの意見はわかった。でも、思い出すか否かは決められることじゃないよ。それに肝心のクドージンさんの意見を聞かずに、あれこれ語るのは失礼じゃないか?」
ゼルは俺に気を遣ってか、話を終わらせようとした。
だけどその前に、これだけは言いたい。
「俺は、思い出したい。」
「「えっ?!」」
「みんなの話を聞いていて、俺にはとんでもない過去があるんだろうな、っていうのは分かった。正直、それを思い出すのは怖い。でもさ、俺のことをこんなに真剣に思ってくれている友達のことを、このまま忘れたままなのは嫌だ。俺、みんなとの記憶を思い出したい。」
すると、さっきまでの重苦しい雰囲気がガラリと変わって、穏やかな空気になった。
「へへっ。お前、普段からそのくらい素直になれよ。照れるじゃねえか。」
「クドージンさんにそう言ってもらえるなんて、すごく嬉しい。私達、少しでも記憶を取り戻せるように協力するね!」
「あぁ。頼む。」
たとえ、どんなに残念な過去を思い出しても、みんながいればきっと大丈夫だ。
「そういえば宮藤くんって魔法に関してはチートなんだし、魔法を使えば記憶も取り戻せるんじゃないかしら?」
なるほど、その発想はなかった。
「うまくいくか不安だけど、試してみる価値はあるな。」
俺は早速、魔法をかけようとした。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
その時、フレイ卿が俺の手を止めた。
「フレイくん、どうしたの?」
「魔法を使う前に、レオン様と二人で話したいことがあるのです。」
「俺に話したいこと?」
「はい。ですので皆さん、僕ら二人だけにしていただけますか?」
フレイ卿の力強いお願いに、みんなは渋々、教室から出て行った。
「で、フレイ卿。話って何だ?」
「まずは魔法で、記憶を取り戻して欲しいのです。」
何だ、結局魔法は使うのかよ。
俺は記憶が戻るよう、フレイ卿に魔法をかけてみた。
「やってみたぞ。フレイ卿、記憶は戻ったか?」
「え?あ、俺?は、はい。全部思い出しました。」
...本当か?
歯切れの悪い返事のように感じたが、気のせいか。
とにかく魔法は成功したってことだよな。
「今度はレオン様の番ですね。記憶を思い出したら教えてください。」
俺はさっきと同じ要領で、魔法をかけてみた。
すると過去の出来事が、まるで走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
....あぁ。
そういうことだったのか。
こんなクソみたいな記憶、思い出すんじゃなかった。
胸糞悪い記憶が蘇ったせいで、一気に頭が痛くなった。
俺は頭を押さえながら下げた。
「大丈夫ですかレオン様?記憶は思い出せましたか?」
「あぁ。」
質問してきたのは、俺の声だった。
....ん?俺の声?
「誰だ、テメェ。」
俺が頭をあげようとしたその時、またしても強烈な頭痛に苛まれた。
「うあっ!」
「ご苦労だった。半分平民。」
意識が途切れる寸前、俺の声でそう喋っているのが聞こえた。
そうか、わかったぞ。
俺は、奴に身体を入れ替えられていたんだ。
そのことに気づいたものの、俺は再び記憶を消されてしまった。
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旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
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ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
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竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
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