転生魔王の正体は?ーー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですーー

サトウミ

文字の大きさ
103 / 145
第22話:記憶喪失

【103】記憶喪失(6)

しおりを挟む
「.....っ。」
俺は重い瞼をあけて目を覚ます。
すると、見慣れない天井が目の前に広がった。

「ここは?」
辺りを見回す。
ここは俺の部屋じゃない。
多分、学校の医務室だ。
俺はどうやら、医務室のベッドで眠っていたらしい。

でも何でこんなところいるんだ?
冷静に直前の記憶を振り返ってみる。

確か放課後に、ホリーに因縁をつけていたレオンを見かけたから、間に入ってレオンと口喧嘩をしたな。
それで、レオンが無理矢理ホリーに水晶石の魔法を使おうとして、それを止めようとしたら頭が痛くなって....気づいたらここで寝ていたってわけか。

「あっ!フレイくん、起きた?」
「お前、記憶は大丈夫か?」

医務室に入ってきたのは、タクトとライラだった。

「記憶、ですか?多分、大丈夫だと思いますが。」
「ホント?良かった!思い出せて。」
「思い出すって、何をですか?」
「え?なにって、記憶のことだよ。フレイくん、ここ数日、記憶喪失だったじゃん。」

なんだソレは。
初耳だ。

「ここ数日って、どういうことですか?僕はレオン卿が持っていた水晶石の魔法を喰らって、今まで眠っていたのではないのですか?」
「あの後、フレイくんはすぐに目覚めたよ?もしかしてフレイくん、目覚めた後のことを覚えていないの?」
「はい。全く。」
じゃあ今日はいつなんだ?
俺が眠っている間に、何が起きた?

「おいおい。まさか今度は『記憶喪失中の記憶』がないのかよ。面倒臭えな。」
「そもそも『記憶喪失』とは、どういうことですか?レオン卿に魔法をかけられてから今までに何があったか、教えてくれませんか?」

「いいよ。あの時、レオンくんは記憶を消す魔法を使っいたんだ。そのせいでフレイくんの記憶が無くなったんだけど、その反動かレオンくんも記憶喪失になったんだ。」
アイツ、ヒトにかけた魔法に自分もかかったのか。
自業自得だな。

「記憶喪失の時のフレイは結構面白かったぞ。なんせ、カタリーナにベタ惚れだったからな。『趣味は何ですか?』とか、『好きな食べ物は?』とか、普段のお前からじゃ想像できない言動ばっかで、今思い出しても笑えるぜ。」
うわー。
俺、そんなこと言っていたのか。
想像しただけで鳥肌が立つ。

「しかも何回『カタリーナちゃんはレックス殿下の婚約者だよ』って言っても、全然聞かなくて困ってたの。殿下もカタリーナちゃんも『記憶が戻ればきっと止めてくれるだろう』って諦めてたし。」
そんなの聞いたら、あの2人に会いづらいじゃないか。

「そういえば、お前の記憶が無い間に、実技テストがあったぞ。」
「えぇ?!」
まさかの出来事に、思わず大きな声が出た。

「で、でも実技テストって来週じゃ...」
「あー、それな。シヴァ先生の勘違いだったらしいぜ。」
シヴァの馬鹿野郎!
嘘だろ?じゃあ実技テストをやったってことは、俺の実力もバレたってことか?

この前、試しに学生用魔物転送装置を稼働したら強い魔物がうじゃうじゃ召喚された。
あの装置は実力に見合った魔物が召喚されるらしいから、召喚された魔物を見られたら一発で俺の実力がバレる。
でもって実力がバレたら自動的に、俺が宮藤迅だということもバレてしまう。

「そ、それで....僕の評価は?」
「お前の評価か?B+だったぞ。全然戦えてなかったから評価が下がったけど、ブラッディスカーレットドラゴンを召喚するなんて、すげぇじゃねえか。」

「....え?魔物って、それだけですか?他には?」
「それだけって、お前なぁ。ブラッディスカーレットドラゴンを1匹召喚するだけでも凄いんだぞ?それ以上を求めんなよ。まともに戦えないお前がブラッディスカーレットドラゴンを召喚しただけでも凄いことなんだぞ?」

意外な結果に、ホッと胸を撫で下ろす。
なぜだか知らないが魔物は1体しか召喚されなかったため、そこそこの評価に落ち着いたようだ。
これがもし記憶喪失によるものだったら、レオンには少しだけ感謝しないとな。

「あっ、そうそう!実技テストで思い出したけど、重要なことが判明したんだよ!」
「重要なこと、ですか?」
「うん。実はね....なんと、クドージンさんの正体はレオンくんだったんだよ!」
はぁ?
何を馬鹿なことを言ってんだ、コイツは。

「そうなんですね。」
「あ!信じてないね。でも本当なんだよ?実技テストの時も、ありえなかったんだから。」
「アイツ、実技テストで凄い数のドラゴンを召喚したんだぜ。しかも一瞬でぶっ倒すし。記憶がなくてもアイツは滅茶苦茶な奴だぜ。評価もアイツだけS+だったしな。」

レオンはそんなに凄い技を繰り出したのか。
だから2人はレオンを俺だと勘違いしている、と。
....まぁ、訂正しない方が都合が良いし、適当に話を合わせるか。

「それは凄いですね。僕も是非、見たかったです。」
「今のフレイくんも、見たらきっと驚いたと思うよ。」
「だな。記憶が無い時のフレイも、かなり混乱していたからな。」
俺が混乱するレベルって。
...もしかしてレオンの奴、本当に凄いのか?

「だから俺達は、アイツがクドージンだって確信して、話しかけたんだ。それで色々話した後、カタリーナが『クドージンは魔法が得意なんだから、魔法で思い出したら?』って言ったんだ。それでレオンが、自分とフレイの記憶を魔法で蘇らせたら、2人とも倒れて今に至るってわけだ。」

なるほどな。
つまりレオンの魔法が中途半端だったせいで、記憶を取り戻す代わりに、記憶喪失だった時の記憶が無くなったわけか。

「フレイくんがってことは、レオンくんも記憶喪失中の記憶が無くなっているのかな?」
「そうかもな。どうする?アイツに『お前の正体知ってるぜ』って言うか?」

「言わない方がいいんじゃない?レオンくんだって、正体を知られたのは不本意だったと思うし。それにきっと、いつか自分から正体を打ち明けてくれるよ。」
残念だが、そんな予定は一切ない。

「そうだな。アイツが記憶喪失中の時みたいに、もう少し素直になったら教えてくれるかもな。」
素直じゃなくて悪かったな。

「記憶喪失中のクドージンさんって、いつもとちょっと雰囲気が違ったよね。『たとえ辛い記憶があっても私達を思い出したい』って言ってくれた時は、心にジーンときたよ。」
「俺も。記憶が無くてもアイツは心のどこかで、俺達のことを大切な仲間だと思ってくれてるんだなって感じたぜ。」

レオンとそんな臭い三文芝居をやっていたのか。
きっと記憶がある時にその光景を見ていたら、滑稽で笑い転げていただろうな。

『辛い記憶があってもみんなのことを思い出したい』?
レオンがそう思えたのは所詮、最初から恵まれた家で生まれたからだろ。
俺みたいなクソ以下の記憶があったら、絶対にそうは思わない。

....だけど。
このクソみたいな記憶が綺麗さっぱりなくなる代わりに、父さん達やみんなのことも全部忘れてしまうのだったら。
それはそれで、嫌だとも思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...