転生魔王の正体は?ーー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですーー

サトウミ

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第26話:短期留学

【118】短期留学(3)

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魔術の授業から10分程度の休憩を挟んで、今度は魔法の授業をした。

魔法の授業は外で行うため、教室にいた生徒は全員、中庭へと移動した。
中庭には、授業に使うからか学生用魔物転送装置が置いてあった。

シヴァは引き続き俺達と一緒に授業に参加したが、ミラは魔術の教科担任だからか、いつの間にか別の教師と入れ代わっていた。

魔法の教科担任が授業の始めに自己紹介をしていると、その後ろから大男がこちらへ近づいてくるのが見えた。
遠くからでも分かるくらい大柄で、炎のように赤い髪をしたその男を、俺は知っている。

「本日は特別な方が見学に来られております。キメイラ帝国現皇帝のアラン・ヘイトレッド様です。」

コイツも何でここにいるんだよ!
百歩譲って、ミラはまだドーワ侯国に住んでいるから、いても不思議ではない。
だけどドーワ侯国と同盟関係にあるとはいえ、隣国の皇帝が普通来るか?

「ホリーくん、アランさんがこの学校に来ている理由について、何か知っていますか?」
「....アランさん、どこから聞いたのか、僕らが短期留学でこっちに来るのを知ったみたい。それで僕らを監視するために、ダイフクさんにお願いして今日来たみたいだよ。」

「俺らを監視...って、まだ父さん達のことを恨んでるのかよ。」
「勇者様達というよりかは、クドージンさんが狙いじゃないかな?僕らがいるところに、クドージンさんがまた現れると思ったから、僕らを監視してるのかも。」
俺が狙いか。
万が一にでもアイツに正体がバレたら面倒だから、アイツが近くにいる時は特に気をつけよう。

「はいはい、静かに!それでは授業を始めますよ。」
すると教師は、学生用魔物転送装置の隣に置いてあった棚から、光る粉のようなものが入った6つの大きな瓶を取り出した。

「留学生のみなさんは、これを見たことがありますか?」
俺達は首を横に振った。
学年が上のアリーシャだったら知っているかもしれないと思ったが、どうやらアリーシャも知らないらしい。

「では改めて説明しますね。これは大気中に漂う魔力を凝縮し、可視化させたものです。ドーワ侯国の最新の技術で作られるようになりました。この物質の名称は『精霊』です。」
精霊というより、粉と言う方がしっくりくる。

「例えばこちらの赤い精霊は、火の魔力を凝縮し、可視化させたものです。青は水の魔力、黄色は土の魔力....と、全6種類の魔力を凝縮させた精霊を準備しました。
今から皆さんには、精霊を使って魔力をコントロールする感覚を掴んでいただきます。」

「割と初歩的なことを教えるんだね♪」
「我が校では授業の始めに魔力コントロール能力を養う訓練を行うことで、生徒全体の魔法の質を高めています。現に、この訓練を毎回行うようにしてから、生徒達の魔法実現率の格差が良い意味で縮まりました。」

「へぇ~。ボクの受け持つクラスも、できない子はホントにできないからねぇ。ウチでもやってみようかな?」
「是非検討してください。精霊は値が張りますが、魔力コントロール能力を高めるのにうってつけです。ドーワ侯国内であれば入手可能ですので、この機会に買われてみてはいかがでしょうか?」

魔法が全然使えないライラは、その話に興味深々だった。

「お土産に精霊を買って帰ろうかなぁ。」
「いいね。僕も買おうかな。」

ホリーもつられて興味を示す。
コイツも全然、魔法が使えねぇもんな。

「とにかく、授業を始めますね。」
すると教師は全ての瓶の蓋をあけて、中身を大気中にばら撒いた。

「それでは皆さん、ばら撒いた精霊を体内に取り込むよう、強く念じてください。そして、取り込んだ精霊を、再び体の外へ出すように念じてみてください。留学生の方は初めて行うので、より感覚を掴めるよう、一度に体内に取り込む精霊は一つだけにしてください。そして、取り込んだ時に感じた力を、そのまま体の外へと出すようにイメージしましょう。」

俺は、ちょうど目の前に漂っていた黒い精霊を掴むと、言われた通りに念じてみた。
すると手の中にあった黒い精霊は、一旦体の中へと入った後に、再び手から出てきた。
...これの一体何が、魔力コントロール能力と関係するんだ?

「....わぁ!すごい...光った!」
ライラの驚く声が聞こえたので、そっちを見てみると、ライラの手から小さくて弱弱しい光が出ていた。

周りを見渡すと、みんな手から小さい火や土、風などを出していた。
ヒノモト魔術学園の生徒達に至っては、大量の精霊を取り込んだ後に、大きな光や火を出している。

「皆さん、その調子です。留学生の皆さんも上手にできていますね。」
いや、誰も出来ていないだろ!
どいつもこいつも、精霊を取り込むことは出来ても、誰も精霊を出せてはいないじゃないか。
しかも出しているのは精霊じゃなくて、初級以下の魔法だ。

「先生。この訓練では、精霊を体の中へ取り込んだ後に、取り込んだ精霊を体の外へ出すのですよね?でしたら、体から出てくるのは火や光などではなく、精霊でないとおかしくはありませんか?」

「面白い質問ですね。確かに私の説明だと、そう捉えられても仕方がありません。ですが、この訓練で意識して欲しいのは『各属性の魔力の流れを掴むこと』なのです。例えば、火の精霊を体内へ取り込むと、火属性の魔力だけが身体の中に流れてきます。この『火属性の魔力が身体の中を流れる感覚』を掴むと、火属性の魔力に対するコントロール能力が格段に高まるのです。

そして火の精霊から取り込んだ魔力を、そのまま外へ出そうとすると、火属性の魔力は小さな火となって外へ出ていきます。
そうすることで、『火属性の魔法を出す感覚』というものを覚えていただくのが、この訓練での醍醐味なのです。

ですので、取り込んだ精霊をそっくりそのまま外に出す必要はありませんよ。
むしろそのような芸当は、教師を含めても出来る人は誰もいませんよ。
なんせ、取り込んだ精霊をそのまま出すには、取り込んだ魔力に加えて『精霊を作り出す魔法』を発動させる必要がありますからね。

魔法大全にすら乗っていない魔法なので、できる必要はありませんよ。
むしろ仮に出来たとしたら、その人はこの訓練を受ける必要がないくらい、魔力コントロール能力が高いということになります。」

なるほどな。どおりで俺だけ取り込んだ精霊がそのまま出てきたのか。

「ところで、君はもう取り込んだ精霊の力を出すのに成功しましたか?魔力コントロール向上のためにも、6属性全てで成功できるまで挑戦してくださいね。」
「はい。」

ここで俺だけ精霊をそのまま出したのがバレたら目立ってしまう。
かといって、魔法がダメダメなホリーとライラですら出来ているのに、俺だけ出来ないとなると逆に疑われる。

そこで俺はみんなの様子をこっそり覗きながら、みんなと同じような魔法を出して、怪しまれないようにした。

「それでは魔力コントロールの訓練を終わります。次は...そうですね。せっかくですし、留学生の方々の要望を聞いてみましょうか。留学生の皆さんはどのような魔法について学んでみたいですか?」
するとタクトは勢いよく手を挙げた。

「はいはーい!俺、強い魔物を倒せるような、強力な魔法を覚えたいっす!」
「魔物を倒せる強力な魔法、ですね。戦闘用の魔法は数多くありますが、今回は魔力量が少なくても使えて、かつ戦闘に役立つ魔法をお教えしましょうか。」
「よっしゃ!」
タクトは小さくガッツポーズをした。

「では魔物を召喚しますので、少々お待ちください。」
すると教師は学生用魔物転送装置を発動して、マンドラゴアを召喚した。
召喚されたマンドラゴアは眠っていたが、今にも起きて叫び出しそうだ。

毒の回廊ポイズン・サーキット!」
教師は召喚したマンドラゴアに、早速魔法を使ったようだ。
その声に驚いたマンドラゴアは目を覚ます。

マンドラゴアの叫び声は強烈で、聞いた者を死に至らしめることもあるらしい。
そのため俺は咄嗟に耳を塞いだ。

マンドラゴアは案の定、大声で泣き出したようだ。
がしかし、一番近くにいた教師は耳を塞いでいないにも関わらず、平気そうにしている。
恐る恐る、耳を塞いでいた手をおろすと、マンドラゴアのうるさい泣き声が響いていた。
だが、鳴き声がうるさいだけで、痛くも痒くもない。

「皆さん、安心してください。今はマンドラゴアの声を聞いても大丈夫ですよ。」
俺と同じように警戒していた生徒たちも、耳を塞ぐのをやめた。

「先程私が使用した魔法は毒の回廊ポイズン・サーキットと言います。簡潔に説明すると、相手が魔法を使えない状態にする魔法です。
この魔法は、相手の体内にある魔法回路に、少量の闇魔法で作った毒を流し込むことで、魔法回路の機能を失わせて魔法を使えなくしているのです。

マンドラゴアは叫びとともに魔法を発動させて攻撃してきます。ですが毒の回廊ポイズン・サーキットを使えば、マンドラゴアがいくら叫んでも魔法は発動しません。」

「へぇ~。なんか、思ってたより地味な魔法だな。」
「でも戦闘時に初動で相手にこの魔法をかけられたら、凄く有利になると思うわ。戦闘で相手の魔法が封じれるのって、便利じゃない?話を聞く限り闇属性の魔法っぽいし、適性が闇属性の私にはうってつけの魔法だわ。」

リクエストしたタクト以上に、カタリーナはこの魔法に興味を持ったようだ。

「それでは皆さんには早速、この魔法を出してもらいましょう。皆さんにはこの魔法を使うのに必要な魔力量と同じ量の精霊を配ります。配られた精霊を一気に取り込んで、その魔力を一気に体から出すと毒の回廊ポイズン・サーキットが発動できますよ。
毒の回廊ポイズン・サーキットを発動する準備が整った人から順に、学生用魔物転送装置から魔物を召喚してくださいね。」

その後、俺達生徒は皆、魔物を召喚して毒の回廊ポイズン・サーキットの練習をした。
精霊を使って練習したからか、ライラやホリーですら何回か練習しただけで習得できたようだ。
精霊って、便利だな。

ほぼ全員が毒の回廊ポイズン・サーキットを習得したタイミングで、授業終了のチャイムが鳴った。
今日の授業はこれで終わりだ。
夜までは自由時間だ。何をするか?
みんなにどこへ遊びにいくか話を振ろうとした時、突然、アランがこっちへやってきた。

睨みながら来るアランに警戒していると、アランはタクトの前に来て顔を覗いた。

「な、なんだテメェ!や、や、やる気か?!」
タクトが警戒して臨戦態勢に入るのも無理はない。
アランは黙ったまま、タクトを睨みつける。
一触即発のその空気に、俺達は息を呑んで成り行きを見守った。

「.....以前は、すまなかった。」
沈黙を破るように放たれたのは、意外な言葉だった。

「....へ?」
「厄災がいたとはいえ、もう少し冷静になるべきだった。」
口では謝っているが、鋭く睨みつけたままだからか未だにキレているように感じる。

「それに貴様の言っていた通り、父上を殺したのは厄災だ。貴様らの父親...勇者達はむしろ、厄災に襲われた父上を助けようとしていた。」
そういえば俺がアランの親父を殺した時、セージャ叔母さんが回復魔法をかけていたな。

「父上が....当時のキメイラ帝国がしていたことも、確かに非があった。」
「お前、それ本気で思ってるか?全然、謝っているように見えねえんだけど。」
「勇者の息子は鋭いな。」
いや、勇者の息子じゃなくても、そう見えるぞ。

「頭では分かっているのだ。貴様らの父親が、父上を殺したわけではないと。父上と勇者達、ひいては人間達とが争うことになった原因は、父上にもあったと。だが、いくら冷静に客観的に理解したところで、内から湧き上がる怒りや憎しみは消せないのだ。」
アランは自傷気味に語る。

「だったら無理に、反省なんざしなくても良いんじゃないか?」
「それは駄目だ。怒りの感情を消せないからこそ、己を客観的に見て冷静な行動をする必要がある。我々魔人は怒りの感情に振り回されやすい。だから一国を統治する者として、怒りに振り回されてはいけないのだ。」

「へぇ。皇帝って、気苦労が多そうだな。」
「まぁな。怒りに任せて人間どもを拒絶し、争うことは簡単だ。だがそれをして苦しい思いを強いられるのは自国の民だ。だからこそ、感情を押し殺してでも合理的な判断ができなければ、民を守れない。」
皇帝って面倒くさいな。

「それで?わざわざ俺に謝った理由は何だ?俺のことなんて、別に放っておいても何の問題もないだろ。」
するとアランは一瞬、戸惑って言葉を詰まらせた。

「....貴様は勇者の息子という立場を理解していない。貴様はいずれ『勇者の息子』として、今の勇者どものようにキョウシュー帝国を代表する英雄として掲げられるだろう。その時、貴様が『キメイラ帝国の現皇帝は最悪だ』などと吹聴したら、戦争の火種になりかねない。その可能性を無くすためにも、貴様とは友好関係を築いた方が得策だからな。」

「そんな打算的な理由で謝られてもなぁ....。まぁ、あん時のことはそこまで気にしてねぇけどさ。」
タクトは複雑そうな顔をしながらも、渋々謝罪を受け入れた。

「でしたらアラン様、勇者様のご子息と親睦を深めるためにも、この後、私達と一緒にドーワ侯国内を散策しませんか?」
突拍子もないことを言い出したのはアリーシャだった。
放課後もアランと一緒とか、御免被る。

「いいですね!僕も、アラン様と是非親睦を深めたいです。」
殿下もアリーシャに賛同する。
それに続くように、他のみんなも賛成した。
またこのパターンか。
俺1人が反対したところで意味がなさそうだし、この流れを受け入れるしかないのか。

「「ちょっと待ってー!!」」
すると、俺達の会話を聞いていたヒノモト魔術学園の女子生徒数名が、話に割って入った。

「私達も一緒に遊びに行きたいです!」
「私達、魔王陛下や留学生のみんなと仲良くなりたいです!」
「それにオススメのカフェがいくつかあります。よければ案内します♪」
コイツら、グイグイ来るなぁ。

「ホントに?オススメのカフェ、行ってみたい!みんなも、アラン様もいいよね?」
ライラに反対する奴は誰もいない。
アランに加えて、コイツらまで一緒に出歩くのかよ。

俺はため息を出したくなるのを堪えて、渋々全員で外へと出かけた。
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