転生魔王の正体は?ーー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですーー

サトウミ

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第26話:短期留学

【123】短期留学(8)

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ゲーミングビル・8階。

俺は、ゼルとアランと一緒に、ボウリングをしながらフレイが帰ってくるのを待っていた。
フレイがジュースを買いに行って戻ってこないまま、20分は経過している。

「遅ぇな、アイツ。」
たかがジュースで、なに手間取っているんだ?

「フレイくん、電話しても出ないね。」
「ったく、何やってんだ。」
「もしかして、カラーギャングに絡まれたんじゃ....。」

ゼルは不安そうにスマドを握りしめた。
確かに、フレイが絡まれていたら心配だ。
アイツ、威勢はいいけど大して戦えねぇからな。
前の実技テストじゃ散々な結果だったし、カラーギャングに絡まれたら一撃で伸びちまうんじゃねえか?
仕方ない、探しに行ってやるか。

「だったら....」
「俺が探しに行ってくる。」
俺が言い出す前に、アランはそう言ってフレイを探しに地下1階まで降りていった。

「それじゃあ、フレイのことはアランに任せて、ボウリングの続きでもするか。」

俺とゼルでボウリングをしながら2人を待っていると、突然、ガラの悪い男達がこの階にやってきた。
ソイツらは青いスカーフを巻いている。
ってことは、カラーギャングの連中か。
俺は警戒して、気づかれないように遠くから連中の様子を眺めていた。

「申し訳ありません、今はもう満員でして...。」
「はぁ?!んなの知るか!」
「テメェが他の客どかせばいいだけだろ!」
「それにここは、今日から俺らのテリトリーだ!ぶっ殺されたくなかったら、さっさとどうにかしやがれ!」

「すみません、お客様。他のお客様のご迷惑になる行為は...」
「あぁ?!口答えしてんじゃねぇ!」
カラーギャングの1人が、店員を殴って気絶させた。
何てことをするんだ、アイツら!

すると連中はこっちに来て、他の客に対しても怒鳴ってきた。

「テメェら、さっさと出て行けや!」
「ここは俺らのテリトリーだ!」
「さっさと出ねぇと、ぶん殴るぞ!」

その脅しに、他の客は全員怖がって、逃げるように別の階へと移動する。
自分勝手な都合で、お店や他の客に迷惑をかけるなんざ、許せねぇ!
俺はカラーギャングの奴らに近づいて、注意してやった。

「おいお前ら!先に使ってたのは俺や他の客達だ!待てねぇんだったら他の店に行きやがれ!」
「あぁ?!なんだテメェは!殺さてぇのか?!」
「ちょっとタクトくん、落ち着いて!」
俺はゼルの制止を振り切って、カラーギャングの奴らに文句を言い続けた。

「聞こえなかったか?店のルールを守れねぇ奴は、さっさと帰れ!」
「んだとテメェ!死ねぇ!」
カラーギャングの奴らは一斉に俺に殴りかかった。
だけど下っ端連中なのか、パンチもキックも、遅いしキレがない。
喰らったところで大した威力じゃなさそうだ。

「ハッ!そんな雑魚パンチ、誰が喰らうかよ!」
俺は次々くる攻撃を、躱しながら反撃する。
やっぱりコイツら雑魚だ。
どいつもこいつも、たった一発、急所を蹴っただけであっさり倒れる。

雑魚をひと通り片付けたところで、ふとゼルのことを思い出して周りを見てみる。
すると、ゼルも片っ端から雑魚どもを薙ぎ倒していた。
ゼルのヤツ、意外とやるじゃねえか。

雑魚どもを一掃すると、俺達の乱闘を遠巻きに見ていたカラーギャングの1人が、拍手をしながら俺達に近づいてきた。

「へぇ~。これだけの人数をたった2人で倒すなんて、凄いじゃないか。流石、あのレッドオーシャンを潰したタクト・ブレイブだな。」
「テメェがコイツらの親玉か?」
「そうだと言ったら?」

「コイツら連れて、どっかにいけよ。で、もう二度とここに来んな。」
「そいつは無理な話だ。雑魚とはいえ、俺らの大事な仲間をぶん殴ったテメェらを、今から制裁しねぇといけないからな。そうだよな!野郎ども!」
「「ウスッ!!」」
「っつーわけで、お前ら!やっちまいな!」

親玉の合図とともに、残りのカラーギャングの奴らも一斉に襲いかかった。
コイツら、さっきまでの奴らと違って、攻撃にキレがある。
中には魔力で手や足を強化して攻撃している奴もいる。
その上、何人かはバットやナックルを装備していた。
一発でも躱し損ねたら致命的かもしれない。

「ハッ!上等じゃねえか!」
俺は連中の攻撃をよく見て躱しつつ、母さん直伝の火炎連脚かえんれんきゃくを食らわせた。
その技をくらった相手は、怯んで持っていたバットを落とす。

これはチャンスだ!
俺は落としたバットを奪い取って、必殺技を繰り出すために構えた。

「避けろ、ゼル!」
ゼルに一言警告すると、俺は勢いよくバットを横に振った。

風雅ふうが炎神えんじん光雷斬こうらいざん!」
その一撃で、カラーギャングの連中をまとめて吹っ飛ばして戦闘不能にした。
だけど、攻撃がゼルにも当たってしまい、ゼルもその場で倒れた。

「....痛っ!」
「ワリィ。大丈夫か?」
「『大丈夫か?』じゃないだろ!あんな技使うんだったら、もっと早く言ってくれ!」
幸い、ゼルは思ったよりダメージを喰らっていないようだ。

だけどゼルの姿がおかしい。
角や翼のようなものが生えてきて、どんどん変化していく。

「ゼル、お前...その姿...!」
「え?...あっ!しまった!」

ゼルは自分の姿を見て、焦り始める。
そして数秒も経たないうちに、ゼルは化け物のような姿へ変身した。

いや、違う。
この姿はただの化け物じゃない。
厄災の魔王アイツそのものだ。
変わり果てた姿に驚きつつ、俺は冷静になって、ゼルに質問した。

「ゼル、お前....やっぱりクドージン、だったのか?」
ゼルは困惑して口を開かなかったが、やがて全てを諦めたかのように喋り出した。

「僕は、厄災の魔王だけれど、クドージンさんではない。」
ん?
どういう意味だ?
その意味を尋ねようとした時、後ろからカラーギャングの親玉が顔を真っ赤にしてゼルに襲いかかった。

「テメェが....!テメェが、厄災の魔王かぁ!!テメェは今すぐここで死ねやぁぁ!!」
カラーギャングの親玉は、完全に頭に血が昇っている。
親玉はゼルに勢いよく殴りかかる。
だけどゼルはそんなパンチを物ともせずに、親玉の腕を掴んで遠くへ投げ飛ばした。

投げ飛ばされた親玉は結構なダメージを喰らっていたが、それでも倒れることなく、再びゼルに立ち向かう。

「お前のせいで親父はっ!お袋はっ!妹はっ!....お前だけは!お前だけは絶対許さねぇ!」

親玉が何で狂ったようにキレているのか、その言葉で察した。
親玉は全身に毒水のような鎧を纏い、両手に氷の剣を作り出した。
そして、さっきまでの連中とは比べ物にならないスピードでゼルに斬りかかる。

「俺はなぁ、ずっとずっと、テメェに復讐したかった!高笑いしながら親父の胸を貫いたテメェを!龍脈潰して、お袋達も、故郷も潰したお前を!」

氷の剣によって、ゼルの翼はバッサリ斬り落とされた。
ゼルは多少痛がったものの、ゼルの翼は何事もなかったかのように再び生えてきた。

ゼルは鎧ごと親玉を掴もうとしたところ、掴んだ手が毒水の鎧のせいで溶けてしまった。
でも、しばらくすると、ゼルの手は何事もなかったかのように元通りになった。

この身体的特徴は厄災の魔王アイツそのものだ。

「テメェは覚えてねぇだろうな。テメェにとったら、親父達は沢山殺した有象無象の1人だろうよ。でも俺は、テメェのことは忘れねぇ!絶対に許さない!」

カラーギャングの親玉の殺意の籠った目に、ゼルは複雑そうな顔をする。
生半可な攻撃じゃ通用しないと察したゼルは、親玉に向けて手をかざすと、大きな禍々しい渦のような魔法をぶつけた。

この魔法、見たことがある。
前に魔物村で暴れていた厄災の魔王アイツそっくりの魔物。
あの魔物が使っていた爆発魔法と同じだ。

その爆発魔法を喰らったカラーギャングの親玉は、そのまま壁まで吹っ飛ばされた。
爆発魔法が当たった壁は大穴が開き、そこから綺麗な夜空が見えた。
親玉はどうやら、爆発魔法と一緒にその穴から外へと落ちたようだ。

「アイツ、大丈夫か?」
俺は壁に開いた穴から、下の様子をのぞいて見る。
カラーギャングの親玉は、あの鎧のお陰か死んではいなさそうだ。
親玉は立ちあがってこっちへ戻ってこようとしていたが、2・3步進んだところで、力尽きて倒れていた。

ここ8階だけど、本当に大丈夫だよな、アイツ?
少し気になったが、そんなことより今はゼルの方が気になる。
俺はゼルに近づいて、問い詰めた。

「その技、それに再生能力....やっぱりお前、クドージンだろ!」
「だから違うって。バレたからには説明するけど、その前に人間の姿に戻ってからでもいい?」

「構わねーぜ。」
「じゃあ、シヴァさんを呼ぶから、ちょっと待ってて?」
「シヴァ先生を?どういうことだ?」
「それも後で話す。とりあえず、あの人がいないと人間の姿になれないから、来るのを待ってて。」

ゼルとシヴァ先生はどういう関係だ?
早く知りたくてウズウズする。
ゼルと一緒にシヴァ先生を待っていると、テレポーターの扉が開く音が聞こえた。

先生、もう来たのか。
と思ったが、出てきたのはアランだった。

何だよ、アランか。
ってか、フレイを探しに行ったくせに、肝心のフレイがいないじゃないか。

テレポーターから出てきたアランは、なぜか俺達を見た途端、目をカッと見開いて憎悪に満ちた顔でこっちに近づいてきた。

アイツ、何にキレてるんだ?
アランの視線の先をたどると、そこにはゼルがいた。
そういうことか。
アランと厄災の魔王ゼルが出会ってしまった。
まずい。
これはきっと、いや絶対に修羅場になる。

「待てよアラン。」
「どけ、邪魔だ!」
俺は2人の間に入ってアランを止めようとしたが、逆に思い切り顔面を殴られて遠くへ飛ばされた。
クソっ!なにも思い切り殴ることねぇだろ!

「...貴様が厄災か!貴様が...貴様がぁぁ!!」
起き上がって2人を見ると、アランは鬼気迫る表情で、ゼルに殴りかかっていた。
ゼルもそれに抵抗するように、アランを殴ろうと拳を出した。

アランとゼルは、拳と拳をぶつけて拮抗している。
するとアランは、魔力で両手と両足に鋼のようなものを武装した。
そして素早い動きでゼルの懐に入ると、首めがけて勢いよく蹴りを入れる。

蹴りを喰らったゼルの首はどこかへ吹っ飛んでしまうも、またすぐに生えてきた。
ゼルも仕返しに、爆発魔法を出してアランへぶつける。

だけどアランは、その爆発魔法を勢いよく殴り、拮抗の末にゼルへと跳ね返した。
ゼルは跳ね返された爆発魔法を受け止めようとしたが、受け止めきれずに吹っ飛ぶ。
その勢いで壁に叩きつけられたゼルへ、追い討ちをかけるようにアランは渾身の一撃を喰らわす。
その一撃で壁に穴が開き、ゼルはその穴からアランと一緒にビルの外へと落ちてしまった。

アイツら、やりすぎだろ!
俺は慌ててテレポーターから1階へ移動して、2人を追いかけた。
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