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第26話:短期留学
【124】短期留学(9)
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ゲーミングビルの外へ出ると、2人は手がつけられないぐらいに争っていた。
「父上が受けた傷はこの程度じゃ済まない!貴様は何度でも殺してやる!」
「この程度の傷、彼がお前らから受けた仕打ちに比べれば何でもないね!」
「馬鹿にするな!お前に父上の何がわかる?父上がどれ程の思いで国を守ろうとしたか!勇者どもと戦ったのか!その思いを踏み躙るように殺した貴様を許さない!」
「お前だって、彼のことを知らないクセに!あの人がこの世界で受けた苦痛も、屈辱も、絶望も、何も理解しようとすらしなかったお前らが、復讐だとか偉そうに言うな!」
「そんなの知るか!貴様が亜人だったのなら、なぜ最初から言わなかった?途中で助けを求めなかった?貴様が勝手に不幸になっただけだろう!父上やキメイラ軍のせいにするな!」
「うるさい!うるさいうるさい!あの人を、僕らを、救えなかった奴らが偉そうなことを言うな!」
2人は互いに相手を罵倒しながら、全力で戦っている。
下手に近づいたら、俺もただでは済まない。
最早これは殺し合いだ。
このままじゃ、アランかゼルのどっちかが死ぬまで終わらない。
どうすれば2人を止められるか考えあぐねていると、突然聞き覚えのある声が聞こえた。
「はいは~い!お二人さん、そんなところでバトっちゃ、周りの人に迷惑だよ~!」
声が聞こえた方向を見ると、シヴァ先生がいた。
突然現れたし、シヴァ先生お得意の移動魔術を使って来たんだろうな。
シヴァ先生は魔術で複数の鎖を繰り出すと、2人はその鎖に縛られて身動きが取れなくなった。
頭に血が昇って手がつけられないあの2人でも、シヴァ先生の鎖を引きちぎることはできなかった。
さすが伝説の勇者パーティの1人だ。
「ゼルくん、その格好で暴れちゃ目立っちゃうでしょ~?ハイ、これ。」
シヴァ先生はベンダントを取り出してゼルの首にかけると、ゼルはみるみるうちに元の人間の姿へ戻った。
「ついでにコレも!」
シヴァ先生は同じ種類のブローチを、ゼルに何個もつける。
あのブローチ、どっかで見たことがある。
「それと、これは魔王サマにも必要だよね♪」
今度はアランに近づくと、ゼルにつけたのと同じブローチを何個もつけていた。
....あ、思い出した!
あのブローチは怒りん防止くんだ!
確かに頭に血が昇っている2人は、このブローチをつけて怒りを沈めるのが効果的だ。
怒りん防止くんをつけられた2人は、さっきまでの荒々しい勢いが徐々になくなって大人しくなった。
「さすがだぜ、先生!ってか、なんでこんなに怒りん防止くんを持ってんだ?」
「実は、ここに来る前まで本物のダイフク会長と会ってたんだ♪ボクがゼルくんのもとへ行こうとした直前に、ダイフク会長から『ゼルくんがゲーミングビルで大暴れしてる』って聞いたんだ~。で、ゼルくんを止めるために、このブローチを大量にもらったんだ♪結果的にアランくんもいたから、多めに持ってきて正解だったね。」
シヴァ先生とダイフク会長に接点があったなんて意外だ。
しかも『本物のダイフク会長』って、なんだか意味深だな。
「とにかく、ゼル!お前、どういうことか説明しろよ!厄災の魔王だけどクドージンじゃないって、どういう意味だ?」
俺はゼルに洗いざらい吐かせた。
ゼルが魔人だったこと。
聖ソラトリク教団の実験台になっていたこと。
クドージンの魂が『命の器』として封印されていたこと。
命の器を盗んで身体と同化したら、クドージンに身体を乗っ取られたこと。
その時、クドージンが教団から逃げたこと。
等々。
ひと通り説明を聞いて、ゼルの言っていた意味がようやく理解できた。
厄災の魔王はつまり、ゼルの身体に憑依した状態のクドージンだったってことか。
「でもよ、ゼルがクドージンのことを恩人って言ってた理由はなんだ?」
「当時の僕は教団の実験のせいで、長くは生きられない身体になっていた。でもクドージンさんの魔法のお陰で、今も生きていられるし、何なら不死身になれた。僕が今、平和に暮らせているのは彼のお陰なんだ。」
「だが貴様は身体を乗っ取られたのだぞ?そのせいで、奴隷にされて、結果的に悍ましい姿に変えられたのだろう?それなのに厄災を恨まないのか?」
「....確かに、身体を乗っ取られた時は驚いたよ。『お前は誰だ!僕の中から出て行け!』って。でも、彼は僕の身体をぞんざいに扱ったわけじゃない。僕の身体をこんな姿にしたのは、僕を買った人間だ。それに、.....恨めるわけないじゃないか。」
ゼルは俯きがちに、当時を振り返りながら語った。
「身体を乗っ取られた後、僕は彼がすることを、ずっと彼の意識越しに俯瞰的に見ていた。彼が受けた肉体的な痛みまでは共有できなかったけど、彼が感じた思いはダイレクトに伝わってきた。
だから教団から逃げる時に感じた恐怖や、奴隷にされた時の屈辱的な感情も伝わってきた。
何度も力ずくで逃げ出そうとして、その度に拘束魔道具で痛めつけられた。買われてからも主人の女に抵抗していたけど、その度に痛い目に遭わされて、次第に諦めて現状を受け入れるようになったんだ。
『どうせ自分の人生はクソだ』って。どれだけ酷い目に遭っても、逆らう気力すらなくなっていたよ。
でも、それですらまだマシだった。主人の女に捨てられる形で所有権が移ってからは、俯瞰的に見ていた僕ですら発狂しそうなくらいの恐怖と痛みの連続だった。最初はただひたすら、痛みに叫び続けていたけど、そのうち叫ばなくなった。代わりに『死にたい』と何度も願う彼の気持ちだけが伝わってきた。そしてとうとう、それすら伝わって来なくなった。ある時を堺に、彼の意識がプツンと途切れたんだ。」
その時の状況を説明するゼルの声は震えていた。
クドージンは、俺が想像していた以上に辛い思いをしていたんだな。
....アイツ、もっと俺達に弱音を吐いてくれりゃいいのに。
そしたら、ちょっとはアイツの痛みを理解してやれるのに。
「彼の意識が全く感じられないまま何ヶ月か続いた後、キメイラ軍が僕達を助けに来てくれたのが彼の視界越しに見えた。その時、僕は歓喜したよ。『やっと僕達は救われる』『彼らに保護されて、キメイラ帝国で平和に過ごせるんだ』って、信じて疑わなかった。
でもその期待は裏切られた。僕達の姿を見たキメイラ軍は、僕達が亜人か魔物か見分けられなかったんだ。僕は何度も彼に『起きて!』って言った。でも、彼の意識は戻らなかった。そしてキメイラ軍は、意思疎通が取れない彼の様子から『魔物』として処理したんだ。
あの時、期待が大きかった分、絶望も果てしなく大きかったよ。未だに思うんだ。あの時、もしキメイラ帝国が保護してくれていたらって。そしたらクドージンさんが罪を背負うこともなかったんじゃないかって。」
項垂れて話すゼルの足元には、目から流れ落ちた雫の跡がいくつもできていた。
「彼が龍脈を封印したことは、客観的に考えて悪い。それは頭では分かっているんだ。それでも、僕はあの人の意識が戻ってくれて嬉しかった。戦地で人間を惨たらしく殺して楽しんでいる彼を見て、どんな形であれ楽しそうにしている彼が微笑ましかった。どれだけ倫理的に問題のあることをしていても、彼が喜んでいるなら、それでいいって思ったんだ。」
人を殺して楽しむだなんて、どう考えても間違っている。
でも、もし『人を殺すのが楽しい』とすら感じなかったら、アイツは今でも意識を取り戻せないままだったのか?
魔物として戦地で戦わされている状況で意識を取り戻せたこと自体、奇跡的なことだったのかもしれないな。
「だけど、もしキメイラ軍が保護してくれていたら。そしたら彼は、もっと違う、良い形で幸せになれたんじゃないかって、ずっと思ってるんだ。僕はあの時、キメイラ軍に救って欲しかった。」
ゼルの思いの丈をずっと聴いていたアランは、バツが悪そうに顔を逸らした。
「貴様を魔物と判断して、保護しなかったのは.....すまなかった。」
あ、謝った、だと?!
アランのことだから、絶対厄災の魔王に謝らないと思っていた。
....もしかして、怒りん防止くんのお陰か?
「その件については我々に非があった。貴様を一方的に父上の仇と判断して、攻撃したのも悪かった。だがそれでも厄災を、クドージンを許せはしないだろう。」
「そう、か。」
ゼルは意外にも、怒ることなくあっさりアランの言葉を受け入れている。
やっぱり、怒りん防止くんのお陰だろうな。
「奴の身に起こった惨劇を聞いても尚、父上が殺されたことを受け入れられない。俺も、もっと父上と一緒に居たかったし、父上から国のことや武術のことなど、色んなことを学びたかった。父上があの日、殺されなかったら今頃どうなっていたのか、何度も考えた。でも父上はもういない。その現実を思い出す度に、父上を殺したクドージンへの憎しみが湧き上がってくるのだ。」
アランも項垂れながら、淡々と自分の思いを語る。
「アラン....ごめん。」
ゼルの謝罪が予想外だったのか、アランは驚いてゼルの顔を見た。
「肉親を....大切な人を殺される辛さはわかる。どんな理由があったとしても、クドージンさんも、僕も、憎まれて当然だ。もっと早くに謝りに行くべきだった。」
「貴様はクドージンに肉体を奪われていただけだろう?だったら、貴様のせいではない。貴様が謝るのはお門違いだ。」
「それでも、僕は彼の幸せを心から望んだ。彼が喜ぶのなら、魔王が死んでも良いと思った。だから同罪だ。」
「そうか。だったら俺は貴様を許さない。....だから貴様も、俺やキメイラ軍を許す必要はない。」
せっかく和解しそうな雰囲気だったのに、また振り出しに戻るのかよ!
と思ったが、2人の表情はどこか晴れやかだ。
さっきまでのギスギスした感じはない。
「もう2人とも、殴り合う必要はなさそうだね♪」
その雰囲気を察したシヴァ先生は、魔術の拘束を解いた。
「それじゃ、今日はもう遅いし、学校へ戻るよ♪」
ゼルもアランも、大人しくシヴァ先生に従った。
でも、なにか肝心なことを忘れているような気がするんだよなぁ。
「....あ!」
そうだ、フレイだ!
アイツ今、どこにいるんだ?
とりあえず今日はもう遅いし、フレイには「俺らは先に帰る」とだけメールをしておいて、寮へと戻った。
「父上が受けた傷はこの程度じゃ済まない!貴様は何度でも殺してやる!」
「この程度の傷、彼がお前らから受けた仕打ちに比べれば何でもないね!」
「馬鹿にするな!お前に父上の何がわかる?父上がどれ程の思いで国を守ろうとしたか!勇者どもと戦ったのか!その思いを踏み躙るように殺した貴様を許さない!」
「お前だって、彼のことを知らないクセに!あの人がこの世界で受けた苦痛も、屈辱も、絶望も、何も理解しようとすらしなかったお前らが、復讐だとか偉そうに言うな!」
「そんなの知るか!貴様が亜人だったのなら、なぜ最初から言わなかった?途中で助けを求めなかった?貴様が勝手に不幸になっただけだろう!父上やキメイラ軍のせいにするな!」
「うるさい!うるさいうるさい!あの人を、僕らを、救えなかった奴らが偉そうなことを言うな!」
2人は互いに相手を罵倒しながら、全力で戦っている。
下手に近づいたら、俺もただでは済まない。
最早これは殺し合いだ。
このままじゃ、アランかゼルのどっちかが死ぬまで終わらない。
どうすれば2人を止められるか考えあぐねていると、突然聞き覚えのある声が聞こえた。
「はいは~い!お二人さん、そんなところでバトっちゃ、周りの人に迷惑だよ~!」
声が聞こえた方向を見ると、シヴァ先生がいた。
突然現れたし、シヴァ先生お得意の移動魔術を使って来たんだろうな。
シヴァ先生は魔術で複数の鎖を繰り出すと、2人はその鎖に縛られて身動きが取れなくなった。
頭に血が昇って手がつけられないあの2人でも、シヴァ先生の鎖を引きちぎることはできなかった。
さすが伝説の勇者パーティの1人だ。
「ゼルくん、その格好で暴れちゃ目立っちゃうでしょ~?ハイ、これ。」
シヴァ先生はベンダントを取り出してゼルの首にかけると、ゼルはみるみるうちに元の人間の姿へ戻った。
「ついでにコレも!」
シヴァ先生は同じ種類のブローチを、ゼルに何個もつける。
あのブローチ、どっかで見たことがある。
「それと、これは魔王サマにも必要だよね♪」
今度はアランに近づくと、ゼルにつけたのと同じブローチを何個もつけていた。
....あ、思い出した!
あのブローチは怒りん防止くんだ!
確かに頭に血が昇っている2人は、このブローチをつけて怒りを沈めるのが効果的だ。
怒りん防止くんをつけられた2人は、さっきまでの荒々しい勢いが徐々になくなって大人しくなった。
「さすがだぜ、先生!ってか、なんでこんなに怒りん防止くんを持ってんだ?」
「実は、ここに来る前まで本物のダイフク会長と会ってたんだ♪ボクがゼルくんのもとへ行こうとした直前に、ダイフク会長から『ゼルくんがゲーミングビルで大暴れしてる』って聞いたんだ~。で、ゼルくんを止めるために、このブローチを大量にもらったんだ♪結果的にアランくんもいたから、多めに持ってきて正解だったね。」
シヴァ先生とダイフク会長に接点があったなんて意外だ。
しかも『本物のダイフク会長』って、なんだか意味深だな。
「とにかく、ゼル!お前、どういうことか説明しろよ!厄災の魔王だけどクドージンじゃないって、どういう意味だ?」
俺はゼルに洗いざらい吐かせた。
ゼルが魔人だったこと。
聖ソラトリク教団の実験台になっていたこと。
クドージンの魂が『命の器』として封印されていたこと。
命の器を盗んで身体と同化したら、クドージンに身体を乗っ取られたこと。
その時、クドージンが教団から逃げたこと。
等々。
ひと通り説明を聞いて、ゼルの言っていた意味がようやく理解できた。
厄災の魔王はつまり、ゼルの身体に憑依した状態のクドージンだったってことか。
「でもよ、ゼルがクドージンのことを恩人って言ってた理由はなんだ?」
「当時の僕は教団の実験のせいで、長くは生きられない身体になっていた。でもクドージンさんの魔法のお陰で、今も生きていられるし、何なら不死身になれた。僕が今、平和に暮らせているのは彼のお陰なんだ。」
「だが貴様は身体を乗っ取られたのだぞ?そのせいで、奴隷にされて、結果的に悍ましい姿に変えられたのだろう?それなのに厄災を恨まないのか?」
「....確かに、身体を乗っ取られた時は驚いたよ。『お前は誰だ!僕の中から出て行け!』って。でも、彼は僕の身体をぞんざいに扱ったわけじゃない。僕の身体をこんな姿にしたのは、僕を買った人間だ。それに、.....恨めるわけないじゃないか。」
ゼルは俯きがちに、当時を振り返りながら語った。
「身体を乗っ取られた後、僕は彼がすることを、ずっと彼の意識越しに俯瞰的に見ていた。彼が受けた肉体的な痛みまでは共有できなかったけど、彼が感じた思いはダイレクトに伝わってきた。
だから教団から逃げる時に感じた恐怖や、奴隷にされた時の屈辱的な感情も伝わってきた。
何度も力ずくで逃げ出そうとして、その度に拘束魔道具で痛めつけられた。買われてからも主人の女に抵抗していたけど、その度に痛い目に遭わされて、次第に諦めて現状を受け入れるようになったんだ。
『どうせ自分の人生はクソだ』って。どれだけ酷い目に遭っても、逆らう気力すらなくなっていたよ。
でも、それですらまだマシだった。主人の女に捨てられる形で所有権が移ってからは、俯瞰的に見ていた僕ですら発狂しそうなくらいの恐怖と痛みの連続だった。最初はただひたすら、痛みに叫び続けていたけど、そのうち叫ばなくなった。代わりに『死にたい』と何度も願う彼の気持ちだけが伝わってきた。そしてとうとう、それすら伝わって来なくなった。ある時を堺に、彼の意識がプツンと途切れたんだ。」
その時の状況を説明するゼルの声は震えていた。
クドージンは、俺が想像していた以上に辛い思いをしていたんだな。
....アイツ、もっと俺達に弱音を吐いてくれりゃいいのに。
そしたら、ちょっとはアイツの痛みを理解してやれるのに。
「彼の意識が全く感じられないまま何ヶ月か続いた後、キメイラ軍が僕達を助けに来てくれたのが彼の視界越しに見えた。その時、僕は歓喜したよ。『やっと僕達は救われる』『彼らに保護されて、キメイラ帝国で平和に過ごせるんだ』って、信じて疑わなかった。
でもその期待は裏切られた。僕達の姿を見たキメイラ軍は、僕達が亜人か魔物か見分けられなかったんだ。僕は何度も彼に『起きて!』って言った。でも、彼の意識は戻らなかった。そしてキメイラ軍は、意思疎通が取れない彼の様子から『魔物』として処理したんだ。
あの時、期待が大きかった分、絶望も果てしなく大きかったよ。未だに思うんだ。あの時、もしキメイラ帝国が保護してくれていたらって。そしたらクドージンさんが罪を背負うこともなかったんじゃないかって。」
項垂れて話すゼルの足元には、目から流れ落ちた雫の跡がいくつもできていた。
「彼が龍脈を封印したことは、客観的に考えて悪い。それは頭では分かっているんだ。それでも、僕はあの人の意識が戻ってくれて嬉しかった。戦地で人間を惨たらしく殺して楽しんでいる彼を見て、どんな形であれ楽しそうにしている彼が微笑ましかった。どれだけ倫理的に問題のあることをしていても、彼が喜んでいるなら、それでいいって思ったんだ。」
人を殺して楽しむだなんて、どう考えても間違っている。
でも、もし『人を殺すのが楽しい』とすら感じなかったら、アイツは今でも意識を取り戻せないままだったのか?
魔物として戦地で戦わされている状況で意識を取り戻せたこと自体、奇跡的なことだったのかもしれないな。
「だけど、もしキメイラ軍が保護してくれていたら。そしたら彼は、もっと違う、良い形で幸せになれたんじゃないかって、ずっと思ってるんだ。僕はあの時、キメイラ軍に救って欲しかった。」
ゼルの思いの丈をずっと聴いていたアランは、バツが悪そうに顔を逸らした。
「貴様を魔物と判断して、保護しなかったのは.....すまなかった。」
あ、謝った、だと?!
アランのことだから、絶対厄災の魔王に謝らないと思っていた。
....もしかして、怒りん防止くんのお陰か?
「その件については我々に非があった。貴様を一方的に父上の仇と判断して、攻撃したのも悪かった。だがそれでも厄災を、クドージンを許せはしないだろう。」
「そう、か。」
ゼルは意外にも、怒ることなくあっさりアランの言葉を受け入れている。
やっぱり、怒りん防止くんのお陰だろうな。
「奴の身に起こった惨劇を聞いても尚、父上が殺されたことを受け入れられない。俺も、もっと父上と一緒に居たかったし、父上から国のことや武術のことなど、色んなことを学びたかった。父上があの日、殺されなかったら今頃どうなっていたのか、何度も考えた。でも父上はもういない。その現実を思い出す度に、父上を殺したクドージンへの憎しみが湧き上がってくるのだ。」
アランも項垂れながら、淡々と自分の思いを語る。
「アラン....ごめん。」
ゼルの謝罪が予想外だったのか、アランは驚いてゼルの顔を見た。
「肉親を....大切な人を殺される辛さはわかる。どんな理由があったとしても、クドージンさんも、僕も、憎まれて当然だ。もっと早くに謝りに行くべきだった。」
「貴様はクドージンに肉体を奪われていただけだろう?だったら、貴様のせいではない。貴様が謝るのはお門違いだ。」
「それでも、僕は彼の幸せを心から望んだ。彼が喜ぶのなら、魔王が死んでも良いと思った。だから同罪だ。」
「そうか。だったら俺は貴様を許さない。....だから貴様も、俺やキメイラ軍を許す必要はない。」
せっかく和解しそうな雰囲気だったのに、また振り出しに戻るのかよ!
と思ったが、2人の表情はどこか晴れやかだ。
さっきまでのギスギスした感じはない。
「もう2人とも、殴り合う必要はなさそうだね♪」
その雰囲気を察したシヴァ先生は、魔術の拘束を解いた。
「それじゃ、今日はもう遅いし、学校へ戻るよ♪」
ゼルもアランも、大人しくシヴァ先生に従った。
でも、なにか肝心なことを忘れているような気がするんだよなぁ。
「....あ!」
そうだ、フレイだ!
アイツ今、どこにいるんだ?
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※小説家になろう様にも掲載しています。
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