転生魔王の正体は?ーー厄災の魔王は転生後、正体を隠して勇者の子どもや自称悪役令嬢を助けるようですーー

サトウミ

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第26話:短期留学

【126】短期留学(11)

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「まさかゼルくんが、厄災の魔王だったなんて。」
「厄災の魔王って言っても、身体だけだけどね。」

数日後。
授業終わりの、ゼルの部屋にて。

ゼルの話は、やっぱりあの事だった。
この前のカラーギャングとの戦闘で、タクトとアランに正体がバレてしまったらしい。
過去にも2回、正体がバレそうなことがあったが、今回は誤魔化せなかったみたいだな。

「じゃあ、ゼルくんって今でも不死身なの?」
「うん。クドージンさんのおかげで、簡単には死なない強い身体になれたよ。」

「シヴァ先生とは、どういう関係?」
「勇者パーティと戦ったあの日、シヴァさんが僕達にかけた魔術は、色々あって失敗したんだ。でもそのおかげで、僕の魂は無事に元の身体に戻れた。だけど僕は、ずっと放心状態で動けなかったんだ。そんな僕をひたすら介抱してくれたのがシヴァさんだった。僕を介抱する彼を見て、信用できる人だと思ったんだ。それで僕は意識が戻ってからは、シヴァさんにクドージンさんのことを話して、一緒に彼を探す関係になったんだ。」

ゼルの説明は間違っていない。
が、シヴァの過去には触れていない。
もうここまでカミングアウトしたんだから、シヴァの過去にも触れていいんじゃねえか?

「そういえばさ、魔物村に出た厄災の魔王そっくりな魔物って、ゼルだったのか?」
「うん。あの時は変な魔術のせいで、発狂して暴れてたんだ。迷惑かけてごめん。」

「舞踏会でいきなり変身したのは?」
「あれは、天井から何かが落ちてきた衝撃で、人間の姿に変えてくれるペンダントが壊れたんだ。そのせいで元の姿に戻っちゃってさ。あの時はかなりヒヤヒヤしたよ。演劇で誤魔化せたのは不幸中の幸いだったね。」

「クドージンさんは、ゼルくんの正体を知っているの?」
「うん。夏休みの終わりに打ち明けたよ。それからクドージンさんが『命の器』だってことも、聖ソラトリク教団がクドージンさんを狙っていることも説明したよ。」

「結局、命の器って何なのかしら?教団が宮藤くんを狙う理由は?」
「それは僕にもわからない。奴らの目的が何なのかすら、検討つかないし。」

今更だけど、教団について分からないことはまだまだ沢山あるな。
種命地やソラトリクの正体を知って、わかった気になっていたが、結局肝心な目的は未だにわかっていない。

アイツらは俺を利用して、何をしたいんだ?
そんなことを考えていると、外から男達の怒鳴り声が聞こえてきた。

「何だ、今の声?」
タクトが部屋の窓から、外を覗く。
すると外には青いスカーフを身につけた、いかつい男達が校門の前に集まっていた。

「アイツら、この前倒した奴らじゃねえか!」
「もう復活したのか。」
タクト達がこの前倒したって言っていたカラーギャングは、アイツらのことだったのか。
一回ボコボコにされたのに、懲りない奴らだ。
カラーギャングの奴らって、変なところで諦めが悪いから面倒くさい。

「おい厄災の魔王!出てこいやぁ!」
「ここに居んのは分かってんだよ!」
「さっさと出てこねぇと、ここぶっ壊すぞ!」
奴らの狙いは俺....いや、ゼルか。

「....僕、ちょっと行ってくる!」
「おい待てよゼル!」
部屋から出て行こうとするゼルを、タクトは手を掴んで止めた。
だがゼルは、その手を振り払う。

「アイツらの狙いは僕だ。それに僕には狙われる理由がある。この前一緒にいたタクトくんなら、アイツらが僕を狙う理由が分かるだろ?」
「そりゃ、まぁな。けど、だからって行く必要ねぇだろ。」
「これは僕の、厄災の魔王としてのケジメだ。僕は逃げも隠れもしない。」

「でも、ここで暴れたら学校に迷惑がかかるわ。それにゼルくんだって、最悪退学になるかもしれないわよ?」
「っ?!」

カタリーナの指摘に、ゼルはハッと驚いて固まった。
そして、口に手を当てて考え始める。
ゼルが考えている間も、外のうるさい声は止む事はなかった。

「おい聞いてんのか厄災の魔王!この女がどうなっても良いのか!」
窓からカラーギャング達の様子を見ると、女が人質になっていた。
よく見たらアレはミラだ。
...あんなクソ女、どうなってもいい。

「姉さん、あんなところで何してるの。」
ホリーは心配しているようにも、呆れているようにも見える。
あの女、捕まっているのに気にすることなく本を読んでやがる。
そんな奴だから、あっさり人質にされたんだろうな。

「アイツら、卑怯だぞ!」
「正直、彼女は嫌いだけど、ホリーくんのお姉さんだからな。やっぱり僕、助けに行くよ!」
「あっ!ゼルくん!」
ゼルは意を決して、勢いよく部屋から出ていった。

アイツ、大丈夫かよ。
窓からカラーギャングの様子を見つつ、ゼルが現れるのを待った。

...ん?
カラーギャングの様子がおかしい。
あの雰囲気からして、ミラと口論になっていそうだ。
するとカラーギャングの連中は突然、ミラを囲って蹴り始めた。

「あぁっ!姉さん!」
その光景に、ホリーは顔を青ざめる。

「ど、ど、ど、どうしよう?!あのままじゃ姉さん、死んじゃうよ!」
「ホリーくん、落ち着いて!」
「うん!でも急いで止めないと。...そうだ!とりあえず回復魔法の先生に連絡して、僕は向こうで姉さんの周りにバリアを張りに行くよ!」

ホリーはスマドを取り出して電話しながら、ゼルの後を追うように部屋から出て行った。

俺達は、窓からその後の様子を見守る。
ミラをリンチしていたカラーギャングの連中は、ゼルが来たのに気がつくと、あっという間に興味がゼルへと移った。
そしてカラーギャング達は、今度はゼルをリンチし始めた。
ゼルのやつ、なんで抵抗しないんだよ。

一方のリンチから解放されたミラは、その場でうずくまるように倒れていた。
よく見ると、ミラの周りに血の池ができている。
普通に、アレは死んでるんじゃねえか?

そこに、後から駆けつけたホリーがミラを抱き抱える。
ホリーの狼狽えぶりからして、ミラは相当、重症なようだ。

仕方ない。
あの女は嫌いだけど、ホリーのためにも一応、治してやるか。
俺は宮藤迅の分身をミラの傍に作り出すと、魔法でミラを蘇生してやった。

「姉さん、姉さん!.....って、あれ?」
一瞬で怪我が治ったことに驚いて、ホリーは周りを見渡す。そして宮藤迅おれと目が合うと、納得して、安堵した。

「クドージンさん。姉さんを助けてくれたんだね。ありがとう。」
「別に。俺としては、その女は死んだままで良かったんだけどな。それより...」

俺はカラーギャング達のもとへ向かう。
ゼルの様子を確認すると、案の定、姿を変えるペンダントが壊されて、元の姿に戻っていた。
それでもゼルは、頑なに殴り返そうとしない。
何やってんだか。

俺はゼルの代わりに、カラーギャング達を一掃してやった。
本当は殺してやっても良かったが、今はみんなが見ている。
いくらクズとはいえ、殺したらみんなから顰蹙ひんしゅくを買いそうだったから、気絶させる程度にとどめてやった。

「おいゼル。お前少しは抵抗しろよ。お前だったらコイツら瞬殺できるだろ。」
「...これが一番、無難な方法だと思ったんです。僕が抵抗せずに殴られれば、他の人にも危害が行かないし、僕も学校から処罰を受けることはないと思いまして。」

なるほど、ゼルはゼルなりに考えがあって、抵抗しなかったんだな。

「すみません、クドージンさんのお手を煩わせてしまって。」
「全くだ。仮にもお前は元々、厄災の魔王おれだったんだから醜態晒すんじゃねえよ。」
「ハハハ、手厳しいですね。クドージンさん、もし良ければこのペンダントを魔法で直してくださいませんか?」

ゼルは粉々になったペンダントを取り出す。
俺が魔法で修理してやると、いつもの人間の姿へと戻った。

「クドージンさん、ありがとうございます。」
「この前のタクトの時もそうだけど、お前正体隠すならもうちょっと慎重になれよ。」

「えっ、もうあの時の事を知ってるんですか?」
「.....当たり前だろ、魔法使って見てたからな。」
危ない。うっかりボロが出るところだった。
俺、人のこと言えねぇな。

そんな話をしていると、突然足元に魔法陣が浮かび上がった。
この魔法陣、見覚えがある。
シヴァや聖ソラトリク教団が使っていた、封印魔術だ!

「ゼル、避けろ!」
俺はそう言うと、魔法陣から出て魔術を回避した。
警告したお陰か、ゼルも魔術を避けれたみたいだ。
....ってか、宮藤迅こっちの俺は分身だから、避ける必要はなかったな。

すると、どこからか誰かの舌打ちが聞こえた。
聞こえた方角に顔を向けると、そこにはミラがいた。

「せっかくもう少しで、厄災の魔王の魂が手に入ったのに....。」
「姉さん!助けてもらったのに、なんてことをするんだ!」

ホリーが珍しく怒っている。
会話の内容からして、さっきの魔術を繰り出したのはミラか。
この女、マジでクソだな。
ホリーのためとか考えずに、そのまま見殺しにしておけば良かった。

「そうは言っても彼、滅多に会えないじゃないか。それに君の言う通り、本当に命属性の魔力が扱える。今回収しておかないと、次にいつ会えるか分からないじゃないか。」
「それは、そうだけどさ。他に穏便な方法はいくらでもあるでしょ。」
「例えば?」
「クドージンさんと話して、友達になる、とかさ...。」

「それは無理だな。」
ホリーの話を遮るように、俺は強く否定した。
誰が頭のイカれたカス女と友達になるかよ。
この女を殺すことはあり得ても、友達になることは絶対ない。

「俺はテメェが死ぬほど嫌いだから、仲良くする気は無ぇ。さっさと失せろ。」
「あっそう。でも、欲しいのは君の魂であって、君の心はどうでもいいから、別に構わないよ。」
コイツ、どこまでヒトを馬鹿にすれば気が済むんだ?

イラついてミラの顔面を殴ろうとしたその時、足に硬いものが当たった。
振り向くと、さっき倒したカラーギャングの連中の1人が、満身創痍ながらも腹ばいの状態で俺達を睨んでいた。

「テメェは....テメェらは.....俺がぶっ殺す!」
するとその男は、近くに落ちていた小石を、俺達に向かって投げてきた。
この程度の攻撃、避けるまでもない。

「ハッ!誰が誰をぶっ殺すって?そんなショボい攻撃しかできないのに?」
「うるせぇ!!...テメェには理解できないだろうな!親父や、お袋や、妹を失う気持ちが!家族がみんないなくなって、天涯孤独になる寂しさが!悲しみが!」

その悲痛な叫びに、男を嘲笑う気持ちが一気に失せた。
もし今、父さんや母さん、兄さんがいなくなったら。
それを想像しただけで、今まで味わったことのないような不快感が、心の中を支配する。
....今なら、コイツの気持ちも少しは理解できる気がする。

「あー....何となくわかるぜ?お前の気持ち。家族を失うのは、辛いよな。」

「.....プッ。アハハハハハッ!」
すると、ミラは急に腹を抱えて大笑いし出した。
その無神経さに、再び殺意を覚える。

「君、それ何のギャグ?厄災の魔王が同情ごっこをするなんて、滑稽にも程があるよ。」
「あぁ?!テメェ、殺されてぇのか!」
俺はミラの胸ぐらを掴んで、睨みつける。

「だってさぁ。君、今までずっと天涯孤独だったんだろ?いや、正確には虐待するような親がいたんだっけ?まぁ、どっちでもいいけどさ。そんな、天涯孤独の君が、家族を失う気持ちなんか理解できるわけないでしょ。」

ミラの言葉は、まるで身体を切り開いて中身をかき混ぜるかのように、俺の心をぐちゃぐちゃにした。

「....確かに、昔はそうだった。でも今は違う。俺にも家族がいる。....だから、分かる。」
胸糞悪い気持ちを押し殺して、俺はミラに言い返した。
あまりの不快感に、俺は言い返すので精一杯だった。

「君に今更家族?それこそ滑稽だね。今まで誰からも大切にされなかった君が、今更家族を持ったところで大切に思えるわけがないじゃないか。仮に君がまともな家族のもとに生まれたとしても、君自身がその家族と価値観が合わなくて、すれ違うに決まっている。」
ミラの言うことには心当たりがあった。

「....確かに、そうかもな。最初の頃は『この幸せそうな家庭をいつか滅茶苦茶にしてやる』って思っていた。だけど今は.....大切な、家族だ。」

「ふ~ん。ま、そこまで大切な家族なら、せいぜい価値観のすれ違いが起こらないように気をつけなよ。それにしても、君って意外と図々しいんだね。」

「はぁ?図々しい?」

「だってさ、君って龍脈を封印して、沢山の人から家族を奪ったわけだろ?

それなのに自分にはちゃっかり家族がいるんだ。世界中の人から家族と幸せを奪ったのに、自分はいけしゃあしゃあと、家族と幸せを手に入れちゃってるんだ。十分、図々しいでしょ。

普通、人の命を奪った奴は、幸せになる権利なんてないんだからさ。」

...そうか。

ようやく、気づいた。
ムカつくが、ミラの言葉でようやく気づくことができた。

俺の中から消えなかった不快感。
セージャ叔母さんの話を聞いた時からずっとあった、この感覚。

この不快感の正体は、俺の罪だ。

俺は龍脈を封印して、沢山の人を殺した時点で、幸せになる資格なんてなかったんだ。

俺に大切な家族を持つ資格なんて、最初から存在しなかった。
出会う前から、みんなと友達になる資格を失っていたんだ。

どうして俺は今まで気づかなかったんだ。
いや、気づこうとしなかったんだ?

その疑問は、少し考えただけで答えがわかった。

答えは、俺が馬鹿だからだ。
俺が馬鹿だから、自分がしでかした罪の重さを理解できていなかったんだ。
だから、それを俺に理解させるために、世界は俺にとって都合のいい環境を用意したんだ。

優しい家族も。
俺を理解してくれる友達も。
どんな困難でも解決できてしまう、便利な魔法も。

全部、俺にその罪を気づかせるためのお膳立てでしかなかったんだ。

転生してから都合のいいことしか起きなかったのは、『俺が世界中から奪ったものの尊さ』を、俺に理解させるためだったからなんだ。
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