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第27話:断罪劇
【130】断罪劇(4)
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コーキナル公爵の露骨な印象操作によって、私は窮地に立たされた。
「『嫌な予感』がして教室から出て、偶然薬草室へ入ったところ、たまたま死体があり、何となく死体の近くに落ちていた凶器を手にとってしまった。ということですか?」
「はい。その通りです。」
「果たして、本当にそれらは偶然なのでしょうか?陪審員の皆様はどう思われますか?」
この裁判は最早、コーキナル公爵の掌の上で転がされている。
「でも本当なんです!信じてください!」
弁明しようにも、反論材料がないため感情論で訴えるしかない。
私は命乞いをするように、必死に陪審員に訴えかけた。
「...黙れ!!」
すると、そんな私を窘めるように、誰かの怒鳴り声が法廷に響いた。
怒鳴り声が聞こえた方向を見ると、そこにはフォージー侯爵がいた。
フォージー侯爵は盲目にも関わらず、まるで見えているかのように私の方へ顔を向けて、怒りを剥き出しにしている。
そしてフォージー侯爵は、脇目も振らずに強引に私のところまで近づいてきた。
周囲の人も、そんな侯爵を止めようとしたけど、逆に殴り飛ばされていた。
「あなた、落ち着いて!今は法廷中よ!」
「これが、落ち着いていられるかぁ!!」
フォージー夫人の止める声を無視して、侯爵はとうとう私の近くまできた。
今にも私を殺す勢いで近づいてくるフォージー侯爵に、恐怖を感じた。
私の近くにいた衛兵は、止めに入る。
だけどフォージー侯爵の勢いは止まらない。
「どけ!カタリーナ・エセヴィランを....私の愛おしい娘を殺したその女を、殺してやる!!」
「ご、誤解です!私はアリーシャ様を殺してなんかいません!」
「今更言い訳するなぁぁ!!」
鬼気迫る侯爵を説得しようとしたけど、逆に火に油を注いでしまった。
このままだと衛兵を押し切って、私が殺される!
恐怖で身構えると、そこにショーン殿下が割って入った。
ショーン殿下は何かを侯爵の胸につけると、侯爵は一気に大人しくなり、そのまま衛兵に引きずられて退廷した。
「ショーン殿下、一体何を...?」
「隣国で売られている『怒りん防止くん』と呼ばれるブローチを、いくつか侯爵につけて静めました。」
あぁ!あったわね、そんな商品。
「『怒りん防止くん』は、身につけると怒りの感情を抑制する効果がある魔道具です。事前情報でフォージー侯爵の情緒が不安定なのは把握していました。そのため、万が一にでも乱闘してくる可能性を考慮して準備していたのです。」
そう説明するショーン殿下は、頼もしく感じる反面、なぜだか悲しそうにも見えた。
フォージー侯爵の騒ぎで、傍聴席も陪審員もざわめきたち、裁判どころではなくなった。
「静粛に!騒ぎを起こしたフォージー侯爵に関しては、後日法廷侮辱罪で起訴し、以降の法廷への出入りを原則禁じます。尚、本日の公判はこれまでとします。」
とりあえず判決が下るのは免れたみたいね。
あのままだったら、コーキナル公爵の優位は変わらずに有罪になっていたかもしれない。
その後、私は再び留置場に連れて行かれ、そこでショーン殿下と今後の裁判の方針について確認した。
「ショーン殿下、本日はありがとうございました。あの時フォージー侯爵を止めてくださらなければ、今頃私はどうなっていたことやら。」
「貴女の身を守るのは当然です。僕は貴女の弁護人であり、そして何より弟の婚約者ですから。」
「ですが、検察側が依然有利です。証拠も証言も、簡単に覆せそうにはありません。私達は本当に勝てるのでしょうか?」
「ご安心ください。すでに貴女の無罪を証明する証拠は出揃っています。それに強力な証人も手配しているので、いくら陪審員が買収されていようとも有罪判決を下すのは難しいでしょう。」
そこまで言い切るなんて、余程の自信ね。
フォージー侯爵を止めたことといい、ショーン殿下は頼りになるお方だ。
今日の公判中、コーキナル公爵に何も反論しなかったから、てっきり不利なのかと思っていたわ。
きっとショーン殿下は証拠を出すタイミングを見計らっていたのね。
「ちなみに、私の無罪を証明する証拠や証人というのは、まだ私に言えないのでしょうか?」
「そうですね。まだ伏せておきたい情報はありますが、これだけは言えます。犯行にハンカクランは使われていません。ハンカクランの香炉は犯行後に何者かの偽装によって置かれたものです。」
「えっ?!それは本当ですか!」
犯行時にハンカクランが使われなかったことが証明されれば、私の無罪はほぼ確実だわ。
だってハンカクラン無しであの二人を刺すなんて、物理的に不可能だもの。
でも『何者かの偽装』って、どういうこと?
それを聞いてもショーン殿下は答えてくれなかった。
結局、ショーン殿下はほとんど何も伝えてくれないまま、第二審が始まった。
◆◆◆
数日前。
某所。
「......っ...?」
ここはどこだ?
俺は目を覚ましたはずなのに、視界が真っ暗だ。
何が起こっているのだ?
俺は目が覚める前の記憶を思い出す。
あの日、カタリーナが薬草室で殺されることを知った俺は、昼休みに急いで薬草室へ駆け込んだ。
そしたら、カタリーナの姿を真似た女がなぜかいて、薬草室には他に人がいなかったから、ひとまずその女を連れて部屋から出ようとした。
が、外から誰かに扉を塞がれた。
扉を無理矢理こじ開けようとしている間に、足元に謎の魔法陣が浮かび上がって、そのまま倒れたのだった。
恐らくあの魔術が、カタリーナを殺すために用意されたものだったのだろう。
....ということは、俺は死んだのか?
だったらここは死後の世界か?
それにしては息苦しい。
まるで箱の中に閉じ込められているかのような圧迫感がある。
というか、本当に閉じ込められているのでは?
俺が上体を起こそうとすると、手前の壁らしきものにぶつかる。
その壁らしきものは、手で押すと簡単に動いた。
と同時に外の光が入ってきた。
どうやら俺は箱のようなものに閉じ込められていたらしい。
俺は壁らしきもの、もとい箱の蓋をどかして中から出ようとした。
「おっ。起きたか。」
すると、どこかで聞き覚えのある声が聞こえた。
声の主をみると、そいつは黒目黒髪で堀の浅い顔立ちの男だった。
カタリーナが言っていた『クドーくん』こと厄災の魔王だ。
「貴様、どうしてここに?!」
「一応、お前とアリーシャを起こしに来た。」
俺と『アリーシャ』?
アリーシャとは、アリーシャ・フォージー侯爵令嬢のことか?
「というか、ここはどこだ?」
「死体安置所。お前ら2人とも、薬草室で間抜けに死んでたんだよ。」
やっぱり俺は、薬草室で殺されたのか。
ということは、俺がさっきまで閉じ込められていた箱は棺桶?
いや、そんなことより厄災の魔王は俺を生き返らせたのか?
ありえない。
今更『3つの実現不可能な奇跡』を信じているわけではないが、仮に死者を蘇生できる力があっても、コイツが俺にそんな魔法を使うはずがない。
「無事に生き返ったんなら、もう用はねぇ。じゃあな。」
「待てっ!貴様、どういうつもりだ?」
「はぁ?」
「なぜ俺様を蘇生した?」
「テメェには関係ない、って言おうと思ったけど、やっぱりコレだけは言っておく。せっかく生き返らせてやったんだから、カタリーナの無罪を証明しろ。じゃなきゃ、もう一度死体に戻してやる。」
「カタリーナの無罪を証明、とはどういうことだ?俺様が死んでいる間に何が起こった?」
「お前が面倒なところで死んだせいで、カタリーナが殺人罪で捕まったんだよ。どうせ死ぬんだったら人の迷惑にならないところで死んどけよな。」
「カタリーナが殺人だと?!馬鹿な、何を根拠に。」
「それはアイツを捕まえた奴にでも聞け。じゃあな。」
厄災の魔王は急いで立ち去ろうとする。
「待て!半分平民!」
俺は奴を止めたくて、思わずその呼び名で引き止めた。
すると厄災の魔王こと半分平民は、顔を強張らせて振り向いた。
「お前....今、なんつった?」
「やっと聞く気になったか、半分平民。」
「え、な、お前、なんでそれを?」
「俺様が貴様の正体に気づかないと思ったのか?」
本当は入れ替わっていた時に偶然知ったのだが、その事は口が裂けても言わない。
「はぁ~?お前、俺の正体知ってたのかよ。ってか、それじゃあわざわざ変装する意味ねぇじゃん。馬鹿馬鹿しい。」
すると半分平民は元の姿....フレイ・ライトニングに戻った。
「お前、いつから気づいてた?」
「....さあな。ふとした拍子に気づいたらから、いつからだったのかは忘れた。それより、なぜ貴様は俺様を助けた?俺様を嫌っていただろう?」
「当たり前だろ。テメェなんざ今も大嫌いだ。勘違いすんな。」
「だったら何故だ?それに貴様のお仲間は、俺様を厄災の魔王だと勘違いしていただろう?それなのに蘇生したら、俺様が厄災の魔王ではないと気づかれるではないか。正体を隠しているのであれば、蘇生しない方が良いのではないか?」
すると半分平民は、戸惑って言葉を詰まらせた。
「....そりゃ、最初はお前なんか生き返らせるつもりはなかった。むしろ死んで清々してたさ。でも、お前が死んでカタリーナが捕まってから、周りがおかしくなった。」
校内で殺人事件が起きれば、学校中が混乱するのも無理はない。
「あれから、アイツらずーっと、カタリーナとお前がいなくなったことを嘆いているんだぜ?特にライラなんか、俺が死んだって勘違いして一日中ずっと泣き通してさ。俺は死んでねぇのに。勝手に勘違いして、勝手に泣いて、馬鹿だろ?アイツ。」
半分平民は苦笑いして、そう語る。
「お前が死んだせいで、そんな重い空気がずーっと続いてさ。いい加減居心地悪いんだよ。毎日あんなテンションじゃ、息が詰まりそうだ。だから、お前を生き返らせて、さっさと事件解決してもらおうと思ったワケ。」
悪態をつくような言い方だが、本当は悲しんでいる仲間の姿に心を痛めて、俺を助けたのだろう。
半分平民は素直じゃない奴だ。
....まぁ、人のことを言えた義理ではないが。
「だから、もしテメェがカタリーナを犯人に仕立て上げようとしたら、今度こそ永眠させてやる。わかったな?」
「貴様に言われるまでもない。俺様のような誇り高き貴族は、虚偽の証言で犯人を捏造するなんて愚行、死んでもしない。」
「だったらいいや。それじゃあな。」
半分平民はそう言って、魔法で忽然と姿を消した。
それと同時に、誰かが扉を開けて死体安置所に入ってきた。
「....え?」
「貴方様は...!」
入ってきたのは意外な人物だった。
「『嫌な予感』がして教室から出て、偶然薬草室へ入ったところ、たまたま死体があり、何となく死体の近くに落ちていた凶器を手にとってしまった。ということですか?」
「はい。その通りです。」
「果たして、本当にそれらは偶然なのでしょうか?陪審員の皆様はどう思われますか?」
この裁判は最早、コーキナル公爵の掌の上で転がされている。
「でも本当なんです!信じてください!」
弁明しようにも、反論材料がないため感情論で訴えるしかない。
私は命乞いをするように、必死に陪審員に訴えかけた。
「...黙れ!!」
すると、そんな私を窘めるように、誰かの怒鳴り声が法廷に響いた。
怒鳴り声が聞こえた方向を見ると、そこにはフォージー侯爵がいた。
フォージー侯爵は盲目にも関わらず、まるで見えているかのように私の方へ顔を向けて、怒りを剥き出しにしている。
そしてフォージー侯爵は、脇目も振らずに強引に私のところまで近づいてきた。
周囲の人も、そんな侯爵を止めようとしたけど、逆に殴り飛ばされていた。
「あなた、落ち着いて!今は法廷中よ!」
「これが、落ち着いていられるかぁ!!」
フォージー夫人の止める声を無視して、侯爵はとうとう私の近くまできた。
今にも私を殺す勢いで近づいてくるフォージー侯爵に、恐怖を感じた。
私の近くにいた衛兵は、止めに入る。
だけどフォージー侯爵の勢いは止まらない。
「どけ!カタリーナ・エセヴィランを....私の愛おしい娘を殺したその女を、殺してやる!!」
「ご、誤解です!私はアリーシャ様を殺してなんかいません!」
「今更言い訳するなぁぁ!!」
鬼気迫る侯爵を説得しようとしたけど、逆に火に油を注いでしまった。
このままだと衛兵を押し切って、私が殺される!
恐怖で身構えると、そこにショーン殿下が割って入った。
ショーン殿下は何かを侯爵の胸につけると、侯爵は一気に大人しくなり、そのまま衛兵に引きずられて退廷した。
「ショーン殿下、一体何を...?」
「隣国で売られている『怒りん防止くん』と呼ばれるブローチを、いくつか侯爵につけて静めました。」
あぁ!あったわね、そんな商品。
「『怒りん防止くん』は、身につけると怒りの感情を抑制する効果がある魔道具です。事前情報でフォージー侯爵の情緒が不安定なのは把握していました。そのため、万が一にでも乱闘してくる可能性を考慮して準備していたのです。」
そう説明するショーン殿下は、頼もしく感じる反面、なぜだか悲しそうにも見えた。
フォージー侯爵の騒ぎで、傍聴席も陪審員もざわめきたち、裁判どころではなくなった。
「静粛に!騒ぎを起こしたフォージー侯爵に関しては、後日法廷侮辱罪で起訴し、以降の法廷への出入りを原則禁じます。尚、本日の公判はこれまでとします。」
とりあえず判決が下るのは免れたみたいね。
あのままだったら、コーキナル公爵の優位は変わらずに有罪になっていたかもしれない。
その後、私は再び留置場に連れて行かれ、そこでショーン殿下と今後の裁判の方針について確認した。
「ショーン殿下、本日はありがとうございました。あの時フォージー侯爵を止めてくださらなければ、今頃私はどうなっていたことやら。」
「貴女の身を守るのは当然です。僕は貴女の弁護人であり、そして何より弟の婚約者ですから。」
「ですが、検察側が依然有利です。証拠も証言も、簡単に覆せそうにはありません。私達は本当に勝てるのでしょうか?」
「ご安心ください。すでに貴女の無罪を証明する証拠は出揃っています。それに強力な証人も手配しているので、いくら陪審員が買収されていようとも有罪判決を下すのは難しいでしょう。」
そこまで言い切るなんて、余程の自信ね。
フォージー侯爵を止めたことといい、ショーン殿下は頼りになるお方だ。
今日の公判中、コーキナル公爵に何も反論しなかったから、てっきり不利なのかと思っていたわ。
きっとショーン殿下は証拠を出すタイミングを見計らっていたのね。
「ちなみに、私の無罪を証明する証拠や証人というのは、まだ私に言えないのでしょうか?」
「そうですね。まだ伏せておきたい情報はありますが、これだけは言えます。犯行にハンカクランは使われていません。ハンカクランの香炉は犯行後に何者かの偽装によって置かれたものです。」
「えっ?!それは本当ですか!」
犯行時にハンカクランが使われなかったことが証明されれば、私の無罪はほぼ確実だわ。
だってハンカクラン無しであの二人を刺すなんて、物理的に不可能だもの。
でも『何者かの偽装』って、どういうこと?
それを聞いてもショーン殿下は答えてくれなかった。
結局、ショーン殿下はほとんど何も伝えてくれないまま、第二審が始まった。
◆◆◆
数日前。
某所。
「......っ...?」
ここはどこだ?
俺は目を覚ましたはずなのに、視界が真っ暗だ。
何が起こっているのだ?
俺は目が覚める前の記憶を思い出す。
あの日、カタリーナが薬草室で殺されることを知った俺は、昼休みに急いで薬草室へ駆け込んだ。
そしたら、カタリーナの姿を真似た女がなぜかいて、薬草室には他に人がいなかったから、ひとまずその女を連れて部屋から出ようとした。
が、外から誰かに扉を塞がれた。
扉を無理矢理こじ開けようとしている間に、足元に謎の魔法陣が浮かび上がって、そのまま倒れたのだった。
恐らくあの魔術が、カタリーナを殺すために用意されたものだったのだろう。
....ということは、俺は死んだのか?
だったらここは死後の世界か?
それにしては息苦しい。
まるで箱の中に閉じ込められているかのような圧迫感がある。
というか、本当に閉じ込められているのでは?
俺が上体を起こそうとすると、手前の壁らしきものにぶつかる。
その壁らしきものは、手で押すと簡単に動いた。
と同時に外の光が入ってきた。
どうやら俺は箱のようなものに閉じ込められていたらしい。
俺は壁らしきもの、もとい箱の蓋をどかして中から出ようとした。
「おっ。起きたか。」
すると、どこかで聞き覚えのある声が聞こえた。
声の主をみると、そいつは黒目黒髪で堀の浅い顔立ちの男だった。
カタリーナが言っていた『クドーくん』こと厄災の魔王だ。
「貴様、どうしてここに?!」
「一応、お前とアリーシャを起こしに来た。」
俺と『アリーシャ』?
アリーシャとは、アリーシャ・フォージー侯爵令嬢のことか?
「というか、ここはどこだ?」
「死体安置所。お前ら2人とも、薬草室で間抜けに死んでたんだよ。」
やっぱり俺は、薬草室で殺されたのか。
ということは、俺がさっきまで閉じ込められていた箱は棺桶?
いや、そんなことより厄災の魔王は俺を生き返らせたのか?
ありえない。
今更『3つの実現不可能な奇跡』を信じているわけではないが、仮に死者を蘇生できる力があっても、コイツが俺にそんな魔法を使うはずがない。
「無事に生き返ったんなら、もう用はねぇ。じゃあな。」
「待てっ!貴様、どういうつもりだ?」
「はぁ?」
「なぜ俺様を蘇生した?」
「テメェには関係ない、って言おうと思ったけど、やっぱりコレだけは言っておく。せっかく生き返らせてやったんだから、カタリーナの無罪を証明しろ。じゃなきゃ、もう一度死体に戻してやる。」
「カタリーナの無罪を証明、とはどういうことだ?俺様が死んでいる間に何が起こった?」
「お前が面倒なところで死んだせいで、カタリーナが殺人罪で捕まったんだよ。どうせ死ぬんだったら人の迷惑にならないところで死んどけよな。」
「カタリーナが殺人だと?!馬鹿な、何を根拠に。」
「それはアイツを捕まえた奴にでも聞け。じゃあな。」
厄災の魔王は急いで立ち去ろうとする。
「待て!半分平民!」
俺は奴を止めたくて、思わずその呼び名で引き止めた。
すると厄災の魔王こと半分平民は、顔を強張らせて振り向いた。
「お前....今、なんつった?」
「やっと聞く気になったか、半分平民。」
「え、な、お前、なんでそれを?」
「俺様が貴様の正体に気づかないと思ったのか?」
本当は入れ替わっていた時に偶然知ったのだが、その事は口が裂けても言わない。
「はぁ~?お前、俺の正体知ってたのかよ。ってか、それじゃあわざわざ変装する意味ねぇじゃん。馬鹿馬鹿しい。」
すると半分平民は元の姿....フレイ・ライトニングに戻った。
「お前、いつから気づいてた?」
「....さあな。ふとした拍子に気づいたらから、いつからだったのかは忘れた。それより、なぜ貴様は俺様を助けた?俺様を嫌っていただろう?」
「当たり前だろ。テメェなんざ今も大嫌いだ。勘違いすんな。」
「だったら何故だ?それに貴様のお仲間は、俺様を厄災の魔王だと勘違いしていただろう?それなのに蘇生したら、俺様が厄災の魔王ではないと気づかれるではないか。正体を隠しているのであれば、蘇生しない方が良いのではないか?」
すると半分平民は、戸惑って言葉を詰まらせた。
「....そりゃ、最初はお前なんか生き返らせるつもりはなかった。むしろ死んで清々してたさ。でも、お前が死んでカタリーナが捕まってから、周りがおかしくなった。」
校内で殺人事件が起きれば、学校中が混乱するのも無理はない。
「あれから、アイツらずーっと、カタリーナとお前がいなくなったことを嘆いているんだぜ?特にライラなんか、俺が死んだって勘違いして一日中ずっと泣き通してさ。俺は死んでねぇのに。勝手に勘違いして、勝手に泣いて、馬鹿だろ?アイツ。」
半分平民は苦笑いして、そう語る。
「お前が死んだせいで、そんな重い空気がずーっと続いてさ。いい加減居心地悪いんだよ。毎日あんなテンションじゃ、息が詰まりそうだ。だから、お前を生き返らせて、さっさと事件解決してもらおうと思ったワケ。」
悪態をつくような言い方だが、本当は悲しんでいる仲間の姿に心を痛めて、俺を助けたのだろう。
半分平民は素直じゃない奴だ。
....まぁ、人のことを言えた義理ではないが。
「だから、もしテメェがカタリーナを犯人に仕立て上げようとしたら、今度こそ永眠させてやる。わかったな?」
「貴様に言われるまでもない。俺様のような誇り高き貴族は、虚偽の証言で犯人を捏造するなんて愚行、死んでもしない。」
「だったらいいや。それじゃあな。」
半分平民はそう言って、魔法で忽然と姿を消した。
それと同時に、誰かが扉を開けて死体安置所に入ってきた。
「....え?」
「貴方様は...!」
入ってきたのは意外な人物だった。
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