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第27話:断罪劇
【131】断罪劇(5)
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上位貴族令息令嬢殺害事件。
第二審、法廷。
ショーン殿下が召喚した証人に、法廷にいた誰もが我が目を疑った。
証言台に立ったのは、この事件の被害者であるレオンだった。
そんな馬鹿な。
レオンは死んだんじゃなかったの?!
...あ、そっか。レオンは宮藤くんだったのよね、確か。
だから魔法を使って自力で生き返ったのよ、きっと。
でも、生き返るなら事件が大事になる前に生き返って欲しかったな。
「まさか、生きていたなんて...!」
「本当に、本物なの?」
「そういえばレオン卿はレックス殿下と似ているる。もしかしてあのお方はレックス殿下なのでは?」
傍聴席から、そんな声が聞こえた。
証言台に立っているのは、間違いなくレオンだ。
2人は確かに似ているけど、私からしたら後ろ姿だけでも2人は全然違う。
それにレックス殿下は国王陛下のすぐ側の傍聴席に座っている。
「しょ、証人。名前と職業をお願いします。」
裁判長は戸惑いながらも、裁判の形式通りにレオンに尋ねた。
「はい。名前はレオン・コーキナルです。王立ディシュメイン魔法学園の1年生で、本事件の被害者でもあります。」
「証人。証言の前に私から質問してもよろしいでしょうか?」
「はい。裁判長、何でしょうか。」
「貴方は本事件で死亡したと伺っています。生きていたのであれば、なぜ申告しなかったのでしょうか?」
「それは、ショーン殿下の指示があったからです。」
「弁護人・ショーン殿下。説明をお願いします。」
「はい。僕は彼の身を守るために、あえて生きていることは伏せ、誰にも気づかれない場所に彼を匿っていました。なぜなら、彼が生きていることが公になれば、真犯人にまた命を狙われる可能性があったからです。」
「なるほど。」
裁判長は眉間に皺を寄せていたが、それ以上は言及しなかった。
「それでは証人。証言をお願いします。」
「はい。事件当日の昼休み、私はとある理由により、薬草室へ向かいました。薬草室にカタリーナ・エセヴィラン嬢がいると聞いていた私は、急いで彼女を薬草室から連れ出そうとしました。
しかし、薬草室にいたのは、彼女の姿を模した女生徒でした。それでも、ひとまず彼女を連れて薬草室から出ようと扉に手をかけました。
ですが扉は外から何者かに塞がれていて、出られません。そうこうしているうちに、足元に魔術が浮かび上がってきました。その魔術が発動した時、私は意識を失いました。」
レオンの証言は、はっきりしないことが多くて、今一つピンとこない。
レオンが薬草室に行った理由とか、私が薬草室にいると思った根拠とか、聞きたいことが多すぎる。
とりあえず、レオンが気絶した理由はハンカクランじゃなくて魔術によるものだったってこと?
「証人。あなたが薬草室にいた時、室内はどんな匂いだったか覚えていますか?」
「はい。あの時は柑橘系の甘い匂いがうっすらと漂っていました。少なくとも、先程話に出てきたハンカクランのキツい匂いは感じませんでした。」
やった!
これで私が犯人じゃないって、証明できる。
陪審員は予想外の発言に驚いているようだけど、流石に被害者の証言を無視した判決は出さないわよね?
「裁判長。彼の証言から、彼が倒れた際にハンカクランが使用されていなかったことが証明されました。さらに弁護側は、彼の証言を裏付ける証拠がございます。」
さっきの証言に加えて証拠まであるなんて、鬼に金棒だわ。
ショーン殿下もじれったいわね。
そんな強力な証拠があるんだったら、最初から出してくれればいいじゃない。
ショーン殿下が証拠品として提出したのは、見慣れないスマドだった。
いや、あれはスマドじゃなくてドリームDXだったかしら?
まぁ、どっちでも同じよ。
「こちらの証拠品は、証人レオン・コーキナルが所有しているドリームDXです。このドリームDXには犯行当時の動画が撮影されています。」
ナイスよレオン!
これさえあれば、私の冤罪を証明するどころか、真犯人だって捕まえられるわ!
ショーン殿下が提出した証拠品に、さすがのコーキナル公爵も苦悶の表情を浮かべていた。
そしてレオンを鋭い目つきで睨みつけている。
ショーン殿下は魔術を使って、ドリームDXで撮った動画が陪審員や傍聴席にも見えるように、多方面に映し出した。
ドリームDXの動画が再生される。
すると、始めに映し出されたのは薬草室の扉だった。
それから画面が揺れて、布のような何かで画面が塞がれたかと思ったら、布に空いていた穴からまた薬草室の扉が映し出された。
その動きからして、レオンはドリームDXを内ポケットにしまった、ということかしら。それで、内ポケットの近くに空いていた穴が、たまたまカメラの位置にあったから、外の様子を撮ることができたみたいね。
動画の続きを見ると、レオンが薬草室の扉を開けて入るところが映し出されていた。
そして薬草室の中にいる、紫色の髪の女生徒が映し出されたところで、ショーン殿下は一旦動画を停止した。
「こちらの画面をご覧ください。画面左端に薬草室の窓が映っていますが、この映像を見る限り窓は空いています。つまり、この動画の撮影時は薬草室は換気されていたのです。では引き続き、動画をご覧ください。」
ショーン殿下は動画を再生した。
『おいブス女!こっちへ来い!逃げるぞ!』
『....え?』
『...はぁ?き、貴様は誰だ?』
薬草室にいた女生徒は、突然現れたレオンに困惑していた。
女生徒の顔は数秒しか映らず、はっきり確認できなかったが、紫色の髪に紫色の瞳だったのは辛うじて確認できた。
それに彼女の声、聞き覚えがある。
『貴方は一体...?』
『とにかく逃げるぞ!』
レオンはその女性の手を強引に掴むと、薬草室から出ようとした。
だけど扉を押しても、びくともしない。
扉のすりガラス越しに、誰かが立っているのが見えた。
その人物は、扉を開けられないようにガードしているように見えた。
『なっ...!そこにいるのは誰だっ!開けろ!』
レオンは扉に体当たりをしたが、びくともしない。
『何だ、これは...?』
すると画面の下の方が怪しく光り始めた。
と思ったら、急に画面が大きく揺れ『バタッ』という音と同時に真っ暗になった。
「ここからは暫く何も映りません。ですので少々割愛します。」
ショーン殿下は動画を早送りした。
「この辺りから動きがあります。」
動画が通常のスピードでの再生に戻ると、真っ暗な画面は変わらないものの、不審な物音が聞こえてきた。
『...ったく。扉の前で殺すなよ。邪魔じゃないか。』
この声、最近どこかで聞いた気がする。
『あれ?死体は女一人のはずじゃ?.....まぁいいか。』
すると、何かを引き摺るような音が数秒続いた後、真っ暗な画面に急に何かが映し出された。
これは、薬草室の天井?
映されていたのはそれだけではなかった。
誰かははっきりしないけど、人も映っている。
服装からして、ウチの学校の男子生徒かしら?
『えっ、このお方は!.....どうする?』
男子生徒はレオンの顔を確認すると、戸惑っていた。
レオンの顔を確認する際に、男子生徒の顔が映し出された。
この人、検察側の証人のルイズ・ローレンスさんだ!
検察側の席にいるルイズさんに、法廷にいる全員の視線が集まる。
彼は、まるで自白するかのように頭から汗を流して狼狽えていた。
『....死んでる。じゃあ女と同じでいいか。』
レオンの死を確認すると、彼はナイフを取り出して、カメラに、いやレオンに向かってナイフを突き立てた。
そして刺し終わると、彼はどこからか小さな香炉を用意して、どこかへと運んでいるようだった。
やがて彼の姿が全く映らなくなり、しばらくすると死体に驚く私の姿が映し出されていた。
これは決定的ね。
最早、この場で私が犯人だと思う人はいない。
むしろ犯人は....。
「検察側の証人、ルイズ・ローレンス氏にお聞きします。動画に映っている男性は、貴方自身で間違いありませんか?」
ショーン殿下に追い詰められて、ルイズさんはわなわなと震えている。
「こ、この動画は捏造です!私はこんな恐ろしいことは、していません!」
「でしたら証人に、事件当日の昼休みについてお聞きします。弟のレックスと合流するまで書庫で図書整理をしていたそうですが、そのアリバイを証明するものはありますか?」
「そ、それは.....。」
「裁判長、弁護人に異議を申し立ててもよろしいでしょうか?」
「構いません。検察官の発言を許可します。」
「先程弁護人が映した動画には、大きな矛盾があります。それは、もう1人の被害者であるアリーシャ・フォージー侯爵令嬢がいない点です。仮に先程の動画が真実であれば、どこかのタイミングで彼女が映っているはずです。しかし、彼女の存在が確認できない以上、この動画が真実ではない可能性は否定できません。」
「確かに検察官の言う通り、弁護人が再生した動画には幾つか疑問点があります。我々が事前に把握している情報と食い違う点に関して、弁護人に説明を求めます。」
「はい。まずは検察官が主張したアリーシャ嬢の存在に関して、実は彼女は動画に映っていたのです。」
ショーン殿下の発言に、法廷中がどよめいた。
アリーシャ様、どこに映ってたっけ?
もしかして殿下が早送りしていた場面、とか?
「この件に関して、弁護側は新たな証人を召喚します。」
ショーン殿下が用意した新たな証人は、またしてもあり得ない人物だった。
「あ、アリーシャ様?!生きてたの?!」
アリーシャ様の登場に、法廷は大混乱に陥った。
そっか。宮藤くんが生きているくらいだから、彼がアリーシャ様を蘇生しても、おかしくはないわよね。
というかアリーシャ様も生きているんだったら、今回の事件は殺人事件じゃなくて殺人未遂事件なのでは?
「静粛に、静粛に!....証人。名前と職業をお願いします。」
2度目だからか、裁判長は戸惑いながらも冷静に裁判を進行させた。
「はい。名前はアリーシャ・フォージーです。王立ディシュメイン魔法学園の3年生で、本事件の被害者の一人です。」
「彼女もレオン・コーキナル公爵令息と同様、真犯人から身を守るために、生きていることは伏せておりました。」
「なるほど。」
「それでは証人。事件当時の証言をお願いします。」
だけどアリーシャ様は、暗い顔をして俯いたまま一向に喋らない。
「どうしましたか、証人。」
「....申し訳ありません。黙秘します。」
そんな!
せっかくアリーシャ様の証言で真相が明らかになると思ったのに。
落胆する私とは反対に、ショーン殿下は焦ることなくアリーシャ様へ話しかけた。
「でしたら証人。こちらのイヤリングをつけてくださいませんか?」
ショーン殿下が取り出したイヤリングを見たアリーシャ様は、明らかに動揺していた。
「弁護人。そちらのイヤリングは本件と関係ありますか?」
「はい。実はこちらのイヤリングは、事件現場となった薬草室の扉付近に落ちていたものです。そして、先程の動画に出てきた紫色の髪の女性がつけていたものと同じ種類のイヤリングです。そして、このイヤリングはただのイヤリングではありません。」
そう言うとショーン殿下は、自分の耳にイヤリングをつけた。
するとショーン殿下の髪と瞳の色が、一瞬で紫色に変色した。
「このイヤリングは、予め目と髪の色を指定の色に変える魔術が施された、一種の魔道具でもあります。」
「なんと...!」
その光景に、裁判長も陪審員も関心した。
一方のコーキナル公爵は、眉に皺を寄せて悔しそうに歯を食いしばっている。
「つまり、このイヤリングを身につけていた女性は、魔術によって髪と目の色を変えていた可能性が非常に高いのです。
それでは改めて証人にお願いします。このイヤリングをつけていただけますか?」
「そ、それは......。」
この流れ、もしかして動画に映っていた女性って、まさか!
「装着が嫌であれば、代わりに装着した後の状態を魔術で再現します。」
「っ!.....わかりました。装着します。」
アリーシャ様は観念して、イヤリングをつけた。
するとアリーシャ様の髪と目の色は、一瞬で紫色に変わった。
そしてショーン殿下は、先程の動画を早戻しして、女性の姿がはっきりと映し出されている場面で一時停止した。
動画に映っていた女性は、今のアリーシャ様と瓜二つだ。
「今の彼女と、こちらの映像をご覧ください。皆様、もうお分かりいただけましたでしょうか?動画の女性こそが、アリーシャ嬢だったのです。」
ショーン殿下の主張に、陪審員も傍聴席も騒めいた。
「レオン卿の証言と動画から察するに、アリーシャ嬢もあの時、薬草室で発動した魔術によって、レオン卿と一緒に殺害されたのだと考えられます。
この時、倒れた拍子にイヤリングが外れ、元の髪と目の色に戻ったのでしょう。
そして後から来たルイズ氏によって、レオン卿同様、薬草室の奥まで運ばれ、胸にナイフを刺されたのです。」
「なるほど。それならば辻褄が合います。」
裁判長はショーン殿下の説明に納得していた。
よかった。これで私の冤罪を晴らすことができたわ。
「検察官、弁護人の主張に反論はありますか?」
「.....ありません。」
コーキナル公爵は、露骨に悔しそうな表情をしていた。
前回の裁判で散々悪く言われたからか、その表情を見てちょっとスカッとした。
「検察側はカタリーナ・エセヴィラン公爵令嬢への訴訟を取り下げ、ルイズ・ローレンス氏を上位貴族令息令嬢への殺人未遂の容疑で告訴致します。」
これで晴れて無罪放免ね!
アップスターオレンジのシナリオ修正力に打ち勝ったわ!
この後、断罪イベント回避成功祝いでもしようかしら?
「承知しました。陪審員、弁護側、双方異論はありませんか?」
いくら買収されているとはいえ、この流れで異議を唱える陪審員はいなかった。
これも全てショーン殿下のお陰ね。
私が結果に安心しきっていたところに、唐突に異議が上がった。
異議を申し立てたのは、なんとショーン殿下だった。
第二審、法廷。
ショーン殿下が召喚した証人に、法廷にいた誰もが我が目を疑った。
証言台に立ったのは、この事件の被害者であるレオンだった。
そんな馬鹿な。
レオンは死んだんじゃなかったの?!
...あ、そっか。レオンは宮藤くんだったのよね、確か。
だから魔法を使って自力で生き返ったのよ、きっと。
でも、生き返るなら事件が大事になる前に生き返って欲しかったな。
「まさか、生きていたなんて...!」
「本当に、本物なの?」
「そういえばレオン卿はレックス殿下と似ているる。もしかしてあのお方はレックス殿下なのでは?」
傍聴席から、そんな声が聞こえた。
証言台に立っているのは、間違いなくレオンだ。
2人は確かに似ているけど、私からしたら後ろ姿だけでも2人は全然違う。
それにレックス殿下は国王陛下のすぐ側の傍聴席に座っている。
「しょ、証人。名前と職業をお願いします。」
裁判長は戸惑いながらも、裁判の形式通りにレオンに尋ねた。
「はい。名前はレオン・コーキナルです。王立ディシュメイン魔法学園の1年生で、本事件の被害者でもあります。」
「証人。証言の前に私から質問してもよろしいでしょうか?」
「はい。裁判長、何でしょうか。」
「貴方は本事件で死亡したと伺っています。生きていたのであれば、なぜ申告しなかったのでしょうか?」
「それは、ショーン殿下の指示があったからです。」
「弁護人・ショーン殿下。説明をお願いします。」
「はい。僕は彼の身を守るために、あえて生きていることは伏せ、誰にも気づかれない場所に彼を匿っていました。なぜなら、彼が生きていることが公になれば、真犯人にまた命を狙われる可能性があったからです。」
「なるほど。」
裁判長は眉間に皺を寄せていたが、それ以上は言及しなかった。
「それでは証人。証言をお願いします。」
「はい。事件当日の昼休み、私はとある理由により、薬草室へ向かいました。薬草室にカタリーナ・エセヴィラン嬢がいると聞いていた私は、急いで彼女を薬草室から連れ出そうとしました。
しかし、薬草室にいたのは、彼女の姿を模した女生徒でした。それでも、ひとまず彼女を連れて薬草室から出ようと扉に手をかけました。
ですが扉は外から何者かに塞がれていて、出られません。そうこうしているうちに、足元に魔術が浮かび上がってきました。その魔術が発動した時、私は意識を失いました。」
レオンの証言は、はっきりしないことが多くて、今一つピンとこない。
レオンが薬草室に行った理由とか、私が薬草室にいると思った根拠とか、聞きたいことが多すぎる。
とりあえず、レオンが気絶した理由はハンカクランじゃなくて魔術によるものだったってこと?
「証人。あなたが薬草室にいた時、室内はどんな匂いだったか覚えていますか?」
「はい。あの時は柑橘系の甘い匂いがうっすらと漂っていました。少なくとも、先程話に出てきたハンカクランのキツい匂いは感じませんでした。」
やった!
これで私が犯人じゃないって、証明できる。
陪審員は予想外の発言に驚いているようだけど、流石に被害者の証言を無視した判決は出さないわよね?
「裁判長。彼の証言から、彼が倒れた際にハンカクランが使用されていなかったことが証明されました。さらに弁護側は、彼の証言を裏付ける証拠がございます。」
さっきの証言に加えて証拠まであるなんて、鬼に金棒だわ。
ショーン殿下もじれったいわね。
そんな強力な証拠があるんだったら、最初から出してくれればいいじゃない。
ショーン殿下が証拠品として提出したのは、見慣れないスマドだった。
いや、あれはスマドじゃなくてドリームDXだったかしら?
まぁ、どっちでも同じよ。
「こちらの証拠品は、証人レオン・コーキナルが所有しているドリームDXです。このドリームDXには犯行当時の動画が撮影されています。」
ナイスよレオン!
これさえあれば、私の冤罪を証明するどころか、真犯人だって捕まえられるわ!
ショーン殿下が提出した証拠品に、さすがのコーキナル公爵も苦悶の表情を浮かべていた。
そしてレオンを鋭い目つきで睨みつけている。
ショーン殿下は魔術を使って、ドリームDXで撮った動画が陪審員や傍聴席にも見えるように、多方面に映し出した。
ドリームDXの動画が再生される。
すると、始めに映し出されたのは薬草室の扉だった。
それから画面が揺れて、布のような何かで画面が塞がれたかと思ったら、布に空いていた穴からまた薬草室の扉が映し出された。
その動きからして、レオンはドリームDXを内ポケットにしまった、ということかしら。それで、内ポケットの近くに空いていた穴が、たまたまカメラの位置にあったから、外の様子を撮ることができたみたいね。
動画の続きを見ると、レオンが薬草室の扉を開けて入るところが映し出されていた。
そして薬草室の中にいる、紫色の髪の女生徒が映し出されたところで、ショーン殿下は一旦動画を停止した。
「こちらの画面をご覧ください。画面左端に薬草室の窓が映っていますが、この映像を見る限り窓は空いています。つまり、この動画の撮影時は薬草室は換気されていたのです。では引き続き、動画をご覧ください。」
ショーン殿下は動画を再生した。
『おいブス女!こっちへ来い!逃げるぞ!』
『....え?』
『...はぁ?き、貴様は誰だ?』
薬草室にいた女生徒は、突然現れたレオンに困惑していた。
女生徒の顔は数秒しか映らず、はっきり確認できなかったが、紫色の髪に紫色の瞳だったのは辛うじて確認できた。
それに彼女の声、聞き覚えがある。
『貴方は一体...?』
『とにかく逃げるぞ!』
レオンはその女性の手を強引に掴むと、薬草室から出ようとした。
だけど扉を押しても、びくともしない。
扉のすりガラス越しに、誰かが立っているのが見えた。
その人物は、扉を開けられないようにガードしているように見えた。
『なっ...!そこにいるのは誰だっ!開けろ!』
レオンは扉に体当たりをしたが、びくともしない。
『何だ、これは...?』
すると画面の下の方が怪しく光り始めた。
と思ったら、急に画面が大きく揺れ『バタッ』という音と同時に真っ暗になった。
「ここからは暫く何も映りません。ですので少々割愛します。」
ショーン殿下は動画を早送りした。
「この辺りから動きがあります。」
動画が通常のスピードでの再生に戻ると、真っ暗な画面は変わらないものの、不審な物音が聞こえてきた。
『...ったく。扉の前で殺すなよ。邪魔じゃないか。』
この声、最近どこかで聞いた気がする。
『あれ?死体は女一人のはずじゃ?.....まぁいいか。』
すると、何かを引き摺るような音が数秒続いた後、真っ暗な画面に急に何かが映し出された。
これは、薬草室の天井?
映されていたのはそれだけではなかった。
誰かははっきりしないけど、人も映っている。
服装からして、ウチの学校の男子生徒かしら?
『えっ、このお方は!.....どうする?』
男子生徒はレオンの顔を確認すると、戸惑っていた。
レオンの顔を確認する際に、男子生徒の顔が映し出された。
この人、検察側の証人のルイズ・ローレンスさんだ!
検察側の席にいるルイズさんに、法廷にいる全員の視線が集まる。
彼は、まるで自白するかのように頭から汗を流して狼狽えていた。
『....死んでる。じゃあ女と同じでいいか。』
レオンの死を確認すると、彼はナイフを取り出して、カメラに、いやレオンに向かってナイフを突き立てた。
そして刺し終わると、彼はどこからか小さな香炉を用意して、どこかへと運んでいるようだった。
やがて彼の姿が全く映らなくなり、しばらくすると死体に驚く私の姿が映し出されていた。
これは決定的ね。
最早、この場で私が犯人だと思う人はいない。
むしろ犯人は....。
「検察側の証人、ルイズ・ローレンス氏にお聞きします。動画に映っている男性は、貴方自身で間違いありませんか?」
ショーン殿下に追い詰められて、ルイズさんはわなわなと震えている。
「こ、この動画は捏造です!私はこんな恐ろしいことは、していません!」
「でしたら証人に、事件当日の昼休みについてお聞きします。弟のレックスと合流するまで書庫で図書整理をしていたそうですが、そのアリバイを証明するものはありますか?」
「そ、それは.....。」
「裁判長、弁護人に異議を申し立ててもよろしいでしょうか?」
「構いません。検察官の発言を許可します。」
「先程弁護人が映した動画には、大きな矛盾があります。それは、もう1人の被害者であるアリーシャ・フォージー侯爵令嬢がいない点です。仮に先程の動画が真実であれば、どこかのタイミングで彼女が映っているはずです。しかし、彼女の存在が確認できない以上、この動画が真実ではない可能性は否定できません。」
「確かに検察官の言う通り、弁護人が再生した動画には幾つか疑問点があります。我々が事前に把握している情報と食い違う点に関して、弁護人に説明を求めます。」
「はい。まずは検察官が主張したアリーシャ嬢の存在に関して、実は彼女は動画に映っていたのです。」
ショーン殿下の発言に、法廷中がどよめいた。
アリーシャ様、どこに映ってたっけ?
もしかして殿下が早送りしていた場面、とか?
「この件に関して、弁護側は新たな証人を召喚します。」
ショーン殿下が用意した新たな証人は、またしてもあり得ない人物だった。
「あ、アリーシャ様?!生きてたの?!」
アリーシャ様の登場に、法廷は大混乱に陥った。
そっか。宮藤くんが生きているくらいだから、彼がアリーシャ様を蘇生しても、おかしくはないわよね。
というかアリーシャ様も生きているんだったら、今回の事件は殺人事件じゃなくて殺人未遂事件なのでは?
「静粛に、静粛に!....証人。名前と職業をお願いします。」
2度目だからか、裁判長は戸惑いながらも冷静に裁判を進行させた。
「はい。名前はアリーシャ・フォージーです。王立ディシュメイン魔法学園の3年生で、本事件の被害者の一人です。」
「彼女もレオン・コーキナル公爵令息と同様、真犯人から身を守るために、生きていることは伏せておりました。」
「なるほど。」
「それでは証人。事件当時の証言をお願いします。」
だけどアリーシャ様は、暗い顔をして俯いたまま一向に喋らない。
「どうしましたか、証人。」
「....申し訳ありません。黙秘します。」
そんな!
せっかくアリーシャ様の証言で真相が明らかになると思ったのに。
落胆する私とは反対に、ショーン殿下は焦ることなくアリーシャ様へ話しかけた。
「でしたら証人。こちらのイヤリングをつけてくださいませんか?」
ショーン殿下が取り出したイヤリングを見たアリーシャ様は、明らかに動揺していた。
「弁護人。そちらのイヤリングは本件と関係ありますか?」
「はい。実はこちらのイヤリングは、事件現場となった薬草室の扉付近に落ちていたものです。そして、先程の動画に出てきた紫色の髪の女性がつけていたものと同じ種類のイヤリングです。そして、このイヤリングはただのイヤリングではありません。」
そう言うとショーン殿下は、自分の耳にイヤリングをつけた。
するとショーン殿下の髪と瞳の色が、一瞬で紫色に変色した。
「このイヤリングは、予め目と髪の色を指定の色に変える魔術が施された、一種の魔道具でもあります。」
「なんと...!」
その光景に、裁判長も陪審員も関心した。
一方のコーキナル公爵は、眉に皺を寄せて悔しそうに歯を食いしばっている。
「つまり、このイヤリングを身につけていた女性は、魔術によって髪と目の色を変えていた可能性が非常に高いのです。
それでは改めて証人にお願いします。このイヤリングをつけていただけますか?」
「そ、それは......。」
この流れ、もしかして動画に映っていた女性って、まさか!
「装着が嫌であれば、代わりに装着した後の状態を魔術で再現します。」
「っ!.....わかりました。装着します。」
アリーシャ様は観念して、イヤリングをつけた。
するとアリーシャ様の髪と目の色は、一瞬で紫色に変わった。
そしてショーン殿下は、先程の動画を早戻しして、女性の姿がはっきりと映し出されている場面で一時停止した。
動画に映っていた女性は、今のアリーシャ様と瓜二つだ。
「今の彼女と、こちらの映像をご覧ください。皆様、もうお分かりいただけましたでしょうか?動画の女性こそが、アリーシャ嬢だったのです。」
ショーン殿下の主張に、陪審員も傍聴席も騒めいた。
「レオン卿の証言と動画から察するに、アリーシャ嬢もあの時、薬草室で発動した魔術によって、レオン卿と一緒に殺害されたのだと考えられます。
この時、倒れた拍子にイヤリングが外れ、元の髪と目の色に戻ったのでしょう。
そして後から来たルイズ氏によって、レオン卿同様、薬草室の奥まで運ばれ、胸にナイフを刺されたのです。」
「なるほど。それならば辻褄が合います。」
裁判長はショーン殿下の説明に納得していた。
よかった。これで私の冤罪を晴らすことができたわ。
「検察官、弁護人の主張に反論はありますか?」
「.....ありません。」
コーキナル公爵は、露骨に悔しそうな表情をしていた。
前回の裁判で散々悪く言われたからか、その表情を見てちょっとスカッとした。
「検察側はカタリーナ・エセヴィラン公爵令嬢への訴訟を取り下げ、ルイズ・ローレンス氏を上位貴族令息令嬢への殺人未遂の容疑で告訴致します。」
これで晴れて無罪放免ね!
アップスターオレンジのシナリオ修正力に打ち勝ったわ!
この後、断罪イベント回避成功祝いでもしようかしら?
「承知しました。陪審員、弁護側、双方異論はありませんか?」
いくら買収されているとはいえ、この流れで異議を唱える陪審員はいなかった。
これも全てショーン殿下のお陰ね。
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異議を申し立てたのは、なんとショーン殿下だった。
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本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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※カクヨムとなろうにも投稿しています
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平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
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基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
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※小説家になろう様にも掲載しています。
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